3.大体エリベルの所為……?
錬金で作った椅子やテーブルを用意してみんなそれに腰かける。
まあ、俺は地龍だし、普通に地面に座るけど。
アンも体の構造上、地面に座っている。
今この場にいるのは、俺、アン、ウナ、ドス、トレス、ぷるる、エリベル、ベルクの計八人だ。
ホントこの一年で俺のダンジョンも賑やかになったな。
全員が席に着いたところで話し合いを始めるか。
………て、あれ?
誰もしゃべらない。
なんで?
「……アース、アンタが仕切らないと話が進まないでしょうが」
『え、俺が進行するの?』
「当たり前でしょうが!アンタが主なのよ、一応!」
あー、うん、そうですよね。
一応俺主だもんなぁ。
面倒くさいな、丸投げじゃダメか?
『エリベルさん、いくらアース様が寛容とはいえ、主に向かってそのような言葉遣いは如何なものかと思いますが?』
アンがちょっと棘のある感じでエリベルを諌める。
「お堅いわねぇ、アンちゃんは……。でもね、イエスマンばかりじゃ組織は成り立たないのよ。多角的な視点から物事を見るためにも、私みたいなヤツも必要なのよ?まあ、私の場合は、単にコレに敬意を払うって言うのが、ちょっとアレだなーって言うのも多分にあるんだけどねー」
『………理解しかねます』
アンは憮然とした態度でエリベルの言葉を聞く。
まあ、アン、というか蟻って完全縦社会のコミュニティを築いているからな。
女王を頂点とした完全統制社会。
上からの命令には、絶対服従というのが彼女の考えだ。
実際、子蟻達はアンの命令ならば、死すらも躊躇う事となく実行するだろう。
そう本能にインプットされているんだから。
アンに限らず、ウナやドスなどゴーレム・ホムンクルス達もその傾向が強い。
彼女たちにしてみれば、平然と俺に意見するエリベルは、さぞ異質な存在に見えるだろう。
一方でエリベルの意見も間違ってない。
今のままでは間違いなく俺の平穏は危うい。
その為にも、彼女の様な、組織にとってイレギュラーともいえる人物も必要不可欠だ。
ていうか、コレ扱いですか?
俺一応主なんだけど、コレ扱いですか?
『……わかったよ、ちゃんとやるよ。んじゃ、始めるとするか』
もう面倒くさいから、さっさとはじめよう。
俺ピリピリした空気って苦手なんだよね。
トレスなんて、すでに飽きて欠伸してるし。
ホント自由だな。誰に似たんだか。
『さて、どういうダンジョンにするかだけど……皆、なんか意見ある?』
丸投げは基本。
まず、エリベルが意見を述べる。
「少なくとも転移系のダンジョンにするのは必須よ。皆分かってると思うけど、今回、このダンジョンがこんなことになったのは、聖剣レヴァーティンの“ダンジョン破壊”能力によるもの。それを防ぐためにも、転移系のダンジョンにするのは必須だわ」
ベルクがこれに頷く。
『転移系にすれば“ダンジョン破壊”の能力は防げるのか?』
「正確には、被害を最小限にとどめることが出来る、と言った方が正しいかしらね。転移系のダンジョンだった場合、フロアとフロアが全く別の場所にあるでしょう?“ダンジョン破壊”は転移先を含まず、破壊はその場限りに限られるのよ。つまり、ダンジョンの一部、ワンフロアだけが壊されることになるの」
破壊そのものを防ぐわけではないのか。
それでも、全体ではなく一部分だけなら、確かにダンジョンとしての機能は維持できる、か。
「私のダンジョンが転移系多重構造になってるのは、そのためよ。仮に全部ぶっ壊すには八十八回“ダンジョン破壊”を使わなきゃいけない。現実的には無理でしょ?」
『確かに……』
“ダンジョン破壊”は一度使うと百年間という膨大なクールタイムが必要になる。
ただし、俺の“暴食”の様に、他のものに能力が移った場合、それが一旦リセットされ、真っ新な状態で使うことが出来るという抜け道も存在するけど。
ただし、エリベル曰く、そんな抜け道が出来るのは俺位だと言っていた。
『あの、聖剣レヴァーティンはアース様がお食べになったんですよね?他にもあのような能力を持った神器があるのですか?』
訊ねたのはアンだ。
エリベルは頷く。
「ええ、そうよ。遺跡の記録にはダンジョン破壊については書かれてなかったわね。“ダンジョン破壊”が付与された武器は、私が知る限り、全部で六つ存在するわ」
『あんなのが他に五つもあるのかよ……』
この世界のパワーバランス、マジでどうなってんだ。
あんな反則的なものが六つもあるだなんて。
他の奴らがどよめく中、エリベルは続ける。
「あくまで、二百年前の時点では、ていう話だけどね。当時、“ダンジョン破壊”が付与された武器は、聖剣レヴァーティン、魔剣グラム、魔剣ティルヴィング、宝剣フツノミタマ、宝具ヴァジラ、そして龍剣アスカロン…………この六つよ。というよりも、適性の関係から、この六つ以外には“ダンジョン破壊”を付与することが出来なかったのよ」
魔剣グラム、宝剣フツノミタマ、この二つはエリベルの遺跡にも載っていた武器だ。
どっちも壊れ性能だったけど、そのうえ“ダンジョン破壊”能力までついてるのか。
『随分詳しいな』
「そりゃそうよ。そもそも、“ダンジョン破壊”の基礎理論を考えたのは私だもの」
『…………え?』
さらっとエリベルが爆弾発言をする。
これにはアンを始め他の眷属達も動揺した。
唯一ベルクだけは頭を抱えて、なにやらため息をついている。
『はあっ!?マジでか!?』
「え、何よ気付いてなかったの?」
『いや、そりゃあそうだろ!?あれ、お前が造ったのか?』
そう言うとエリベルは渋い顔をした。
「正確に言えば違うわ。私は……理論を組み立てただけよ………」
そこでエリベルの声のトーンが変わる。
「それを実際に……“ダンジョン破壊”を聖剣や魔剣に付与したのは、別の人間よ。………あのクソバカ……っ!」
ダンッ!とエリベルはテーブルを叩く。
びくっとなる。
いきなりテーブル叩くなよ。びっくりするじゃんか……。
ほら、ぷるるも震えてるし。
でもぷるぷる震えてる姿もかわいい。
らぶりー。
「話がズレたわね。まあ……それは今は置いておきましょう。話せば長くなるし。とりあえず今はダンジョンの方よ」
『え、あ、ああ』
強引に話を戻される。
他の皆もざわついている。
そりゃ、こんな話聞かされれば無理ないよな。
そんな動揺を感じ取ったのか、エリベルは続ける。
「そんな顔しないでよ。ダンジョンが完成したらきちんと話すわ。二百年前に何があったのかも含めて、ね」
先ほどの怒気とは一転、軽い口調だ。
『………そうか、じゃそれでいいわ』
「ホントあんたは軽いわねー……。もっと突っ込んでくると思ったんだけど?」
『だよなぁ、俺もそう思う。けどまあ、後で話してくれるんなら、それでいいわ』
この辺りは薬の後遺症だろうか?
何と言うか、眷属たちに対して、以前よりもなんというか距離が近くなったというか、変に信頼を置いているというのか……。
よくわからんな。
まあ、いいか。
『んじゃ、話を戻そうか、ダンジョンについてだな』
「そう言えばお父様」
そこでウナが手を上げる。
『何だ?』
「新しいダンジョンを作るという事ですが、ここはどうするのですか?」
ここか。
場所は知られてるしな。
『やっぱ、廃棄……だろうな』
「そうですか……」
ウナは心持寂しそうに言う。
そりゃ、俺だってさびしいよ、
ここには大量の魔石があるんだからな。
引っ越し先にもここと同じように魔石が大量にあるとは限らないし。
「その事なんだけど」
ここで、再びエリベルが手を上げる。
「せっかくだし、ここも再利用しちゃわない?」
『え?』
エリベルは悪戯が思いついた悪ガキのような笑みを浮かべる。
「新しいダンジョンの入口をここに設置する……ていうのはどうかしら?」
『え?』
「言葉の通りの意味よ。ここにダンジョンの入口を作ったらって言ってるの」
『え、いや、でもここ壊れて』
「壊れていようが、場所が知られていようが、ここが大陸でも屈指の危険地帯であることには変わりないわ。その利点は生かさないと。ダンジョンの入口が王級魔物がひしめくエルド荒野。やっとで入口にたどり着いたら、転移ダンジョン。良いと思わない?私の遺跡も新しいダンジョンに移設するし問題ないと思うわよ?」
『確かに……』
ダンジョンとしては使えないけど、様々なトラップなどを仕掛けておけば、そもそもダンジョンに入る事すらできなくなる。
『良いと思いますよ。ただ破棄するよりも、ずっと効率がいいと思います』
「私もそれでいいかと」
「ぷー」
皆エリベルの案に賛成の様だ。
確かに愛着もあるしな。
形はどうあれ、残せるのならば残しておきたい。
『よし、それでいこう!』
こうして新しいダンジョンづくり(マイホーム作り)が始まった。
「じゃあ、まず始めに転移門の設置から始めましょうか」
『いや、エリベル、とりあえず最初にやることは決まってるぞ?』
「え、何よ?」
エリベルが首をかしげる。
最初にやる事など決まっている。
それは―――
『とりあえず、飯食おう。腹減ったわ』
食事、大事。




