1.規則正しい生活?なにそれおいしいの?
第四章スタートです
人間達の軍が攻めてきてから、数日が経過した……らしい。
アンからそう聞いた。
と言うのも、俺にはここ数日の記憶が無い。
かろうじて覚えているのは、テンションハイになって、眷属の皆の前で『これからみんなで頑張って行こうぜ!』的な宣言していたところまでだ。
何アレ、すっげー恥ずかしいんだけど。
誰だよ、アレ?
はい、俺ですね。
そう思ってしまう程に、“地龍の背骨”の効果はすさまじかった。
もう完全に別人レベルだろ。
しかも、薬が効いていた時の記憶がはっきりと残っているのが嫌らしい。
怖ぇぇ……薬怖ぇえよ……。
ただその後の薬の効果が切れた後の事は全く覚えていない。
次の覚えているのは、何故か深層で目を覚まして、アンやトレスが俺の身の回りの世話をしていたところだ。
あれ、お前らなにやってんの?的な事を聞いたら、みんな口々に「正気に戻ったわ!」とか、「ああ、アース様良かった、本当に良かったです」とか、「もう介護しなくていいねー」とか「ぷーぷぅー」言っていた。
セリフだけでも、ぷるるはラブリーだ。
んで、何があったのか、アンに聞いたら、
『えーっと、そのぅ………アース様が可愛かったです』
とだけ、言っていた。
……………いったい何があったの?
寝ている間に寝ぼけて何かしていたんだろうか?
わからない。全く思い出せない。
エリベルに聞いたら、
「聞きたいの?え、マジで……!?あんた、アレは私以上の黒歴史よ……?マジで聞きたいの?」
と真顔で言ってきたので、怖くて聞けなかった。
ホント何があったの?
………ま、まあ、考えていても仕方ないか。
さて、エリベルはどこかな。
これからの事について話したいんだけど………。
辺りを見渡すがいない。
そういや中層に行ってるって、言ってたな。
エリベルの遺跡があるのは中層だ。
この間のブレスで、遺跡もかなりの被害が出たらしく、エリベルはその修復に尽力している。
新しいダンジョンを作るのは彼女の遺跡が完全復旧してからだ。
ぐぅぅぅうううと腹が鳴る。
腹減ったな。
俺は上を見る。
二つの太陽が丁度中央辺りまで昇っている。
今は昼くらいか。
ああ、太陽がまぶしい。
あのブレス以降、俺のダンジョンは中心部にぽっかりと巨大な穴が、そして、ダンジョンを横断するように巨大な亀裂が入っている。
その為、この深層に居ても太陽の光が差し込み、時間の感覚がはっきりとわかるようになった。
おかげで今の俺は非常に規則正しい生活を送らざるを得なくなっている。
太陽が昇ると共に起きて、日がくれれば眠る。
クソみたいな生活だ。ちくしょうめ。
あのクソ龍殺しめ……俺のマイホーム兼ダンジョンになんてことをしてくれたんだ。
ずっと引き籠っていた俺にとって、陽光とはもはや毒だ。
なんか、明るい下で生きるのって、気分がめいる。
うす汚れた心が浄化されるような気がして。
本当にひどい話だ。
さて、エリベルの所に行くかな。
そう思い体を動かそうとする。
次の瞬間だ。
ヒュガガガガガガガガッッ!!!
足を動かした瞬間、地面に亀裂が入った。
……………。
次に腕を軽く振ってみる。
スパンッッ!!
遠くにあった巨大な岩が裂けた。
真っ二つになって地面に落ちる。
これだ。
忘れてた。
そう、今の俺の両手両足は、あの時武装化した状態のままなのだ。
あのクソ龍殺しに対抗するため、俺はとっさの切り札として両手両足の武装化と言う離れ業を行った。
そのおかげで、あのクソに勝つことは出来たのだが、その後が問題だった。
………戻し方が分からないのだ。
土属性魔術“錬金”は基本的に一方通行だ。
土を鉱物に変える、鉱物を武器に変えるといった具合に。
でもその逆となると、途端に難しくなる。
例えば、武器を鉱物に、ワインをブドウに変えるのにはどうしたらいいのか?
これが出来ない。
俺も必死に体を元に戻すようにイメージしながら、“錬金”を発動させるが、その度に逆に体の武装化はどんどん進んでしまった。
今なんてちょっと動いただけで、周りに被害が出る様になってしまっている。
俺の両手両足は、もはや完全に歩く凶器だ。
触れるもの皆傷つける。
この間なんて、軽く走っただけで俺を中心に巨大なクレーターが出来てしまい、危うく俺自身の手でダンジョンに止めを刺すところだった。
エリベルからは『勝手に動くんじゃないわよ、この馬鹿地龍!今のアンタは動く戦略兵器みたいなものなんだからね!』と言われる始末だ。
どないせいちゅうねん。
これでは食事も満足に取れない。
ああ、魔石が食いたい。
腕や足を動かさない様に細心の注意を払いながら、首だけを伸ばして、近くにある土や岩を食べる。
ぺろぺろぺろ………ごくん。
うん、不味くは無い。決して不味くは無いんだ。
でも、あの魔石の味を知ってしまうと、もうただの土や岩程度では俺の舌は満足できない。
近くにあるのは分かってるんだ。
俺の胴体部分の直ぐ真下。
ここを掘ればすぐに、超高純度の魔石が出てくる。
でも掘ろうと手を動かした瞬間、俺の爪撃は地面ごと魔石を粉砕してしまうだろう。
軽く泣ける。
喰いたいのに食えないこのもどかしさ。
直ぐ近くにあるのに、代用品で済ませなければならないこのもどかしさ。
一時のテンションに身を任せるからこうなるんだ。
そう、全てはあの白い粉によって、性格が反転してしまったせいだ。
あと、あのクソ龍殺し。あいつホント死ねばいいと思う。俺の居ないところで。
決めた。
もう俺は絶対にあの白い粉は舐めない。
アレの所為でえらい目にあったんだし。
絶対に舐めないからな。絶対だ。
『おーい、エリベルー、どこだー』
体が動かせないので、思念通話を飛ばす。
しばらくして、返信。
『はいはい、何よー。こっちは忙しいんだけど?』
『俺の腕戻す方法見つかった?』
『んー…、もうちょっとってところかしらね。あんたの爪の一部を解析にかけてるけど、なにせ、私の遺跡もあのブレスに三割くらいはやられちゃったからね。魔導具の修復も並行して行ってるから、もう少し時間がかかるわ』
『どの位だよ?』
『そうねぇ……少なくとも、あと三日ってところかしらね』
『三日もかよ!』
長すぎる。
俺が餓死してしまうぞ。
『何言ってんのよ?この天才でグレートな私だから、わずか三日で結果を出せるのよ?多分、普通の魔術師とかなら、数十年は掛かる研究テーマなんだからね、“錬金還元術”ってのは』
『でも、エリベル、俺腹減ったよ……。魔石食いたいねん……』
くぅぅぅぅとなる俺のお腹。
エリベルちゃん、ウチお腹空いたぁ………。
魔石食いたいねん。
『空腹のあまり口調が変わってるわね……。それなら、トレスちゃんか、ぷるるんに頼んで食べさせてもらいなさいよ?』
『えー……だってそれだと俺、老人介護のおじいちゃんみたいじゃんか』
なんか、嫌だ。
俺生まれてまだ一年ちょっとなんだぞ。
それなのに介護って……。
『みたいじゃなくて、完全に介護龍でしょうが。下手にアンタが動けば、ダンジョンが破壊されるんだから、あと三日は我慢しなさいよ』
へーい、分かったよ、ちくしょう。
あー、退屈だ。
寝るのは好きだけど、ただ動くなって言うのはホント退屈だな。
『はぁ~……仕方ないわね。それじゃあ、これでも見てなさいな』
そう言ってエリベルから記憶送信で何やら画像が送られてきた。
『ん、これって………?』
送られてきたのは、洞窟や遺跡、それに森や荒野の映像だった。
すごいな、何か世界遺産に登録できそうな風景ばっかだ。
『今、アンちゃん達に調べてもらってる、新しいダンジョン建設予定地の映像よ』
『おお、これがそうなのか』
エリベルは以前自分の転移ダンジョンを作る際に、世界各地を回り“転移門”を設置し、八十八層からなる転移ダンジョンを作り上げた。
その際に、候補にはしたものの、結局使わずに残った場所がいくつかあったらしい。
更に、彼女は遺跡の転移門を改良し、八十八層だけでなく、全フロアに転移出来る様にしたという。
彼女のダンジョンのいくつかは、そのまま外と通じているらしく、そこから新しい候補地もピックアップしているようだ。
ちなみに、アン達がばれない様に、カモフラージュなどの対策はばっちりらしい。
うん、素晴らしい仕事っぷりだ。
おかげで俺は本当にやることが無い。
だから、退屈で仕方ないのよー。
魔石食わせてよー、ゴーレム造らせてよー。
『あんたやる事がないんなら、この中から候補を選んで、どんなダンジョンにするか、妄想でもしてなさいな。とりあえず、それで三日持たせなさい。あ、ダンジョンで意見やアイディアあったら、直ぐに私に連絡してね。そう言うのなら、大歓迎だから』
『うー……、わかったよ』
でも実際いい暇つぶしが出来た。
新しいダンジョンかー。
エリベルから送られてくる映像を眺めながら、俺は新たなダンジョンの構想を考えていくのだった。
ぐぅぅぅううううううう。
あー、腹減った。
まったりアースさん再び。
規則正しい生活ってホント大変ですよね。
第四章は再びダンジョン製作するお話です。
あと、アースさんのリハビリ(両手両足の)。
眷属たちは働いてますが、基本的に戦闘は無いと思います
あと前回エリベルの魔術が神王級になっていましたが、正しくは霊王級でした。ご指摘を受け、訂正しました。




