EX4.アンタがモテないのは、どう考えてもアンタが悪い
エリベルさんとベルクの過去のお話になります。
「だあああああああ!!!!ちくしょおおおおおおおおおおお!!!」
叫び声が木霊する。
次いで響く轟音。
バキバキと音を立てて木々が倒れる。
その倒壊に巻き込まれて、動物や魔獣たちも悲鳴を上げる。
山火事が起こり、土砂崩れが起き、まさにこの世の地獄の様な光景だ。
それを行っているのは一人の女性だ。
長い銀髪に紅い瞳、絶世の美女と言ってもいい程の容姿でありながら、その顔は見るに堪えない程に、酷い表情を浮かべていた。
「だああああああ!ふっざけんじゃないわよ!うがああああああ!!ひっく!わ・た・し・の……………何がいけないっていうのよおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
叫び声とともに王級魔術が炸裂する。
今度はどデカいクレーターが出来た。
「エ、エリベル様!?落ち着いてくだされ!それ以上はいけません!でないと、このイコールの森が荒野になってしまいます!」
暴れる彼女を必死になだめるのは、彼女の眷属ベルクだ。
六本の腕で必死にエリベルを羽交い絞めにする。
「止めんじゃないわよ、ベルク!こんな森も、王国も全部ぶっ壊してやるわ!ていうか死ね!みんなみんな死んじゃえばいいのよ!」
物騒な事を喚き散らしながら、エリベルは破壊行為をやめない。
「止めてくださいエリベル様!たかが、お見合いに失敗しただけではありませんか!大丈夫ですじゃ!きっとエリベル様には、良き殿方が見つかりまする!」
「あんたのそのセリフも、もう百回目だけどね!!」
そう。この日エリベルは記念すべき百回目のお見合いに失敗したのだ……。
エリベル・レーベンヘルツ。
ボルヘリック三大貴族の一角であり、レーベンヘルツ家での序列は第二位。
巷では賢者と呼ばれ、容姿端麗、頭脳明晰、天が二物も三物も与えたとされるボルヘリック王国始まって以来の傑物と言われている。
富も、名声も権力も思うがまま。
だが、唯一彼女が持っていないモノ。
それは男だ。
彼氏だ。
恋人だ。
そう、彼女は男性とお付き合いした経験が全くないのだ。
理由は彼女のその性格だった。
容姿端麗、頭脳明晰、家柄も確かで、王家との繋がりも強い。
だが、それを補って余りある程に彼女の性格は残念すぎた。
今回のお見合いもその彼女の天性の破天荒さが失敗を招いた。
と言うのも、彼女は普段から、その行動に問題がありすぎた。
例えば、たまに王都をふらふら歩いていると―――
『あっ、ベルク!幼女よ、幼女!可愛いわねぇ……。ヘーイ、彼女!私と一緒にお風呂入らなぁーい?うっへっへっへっへ……』
『びええええええええええええん!!ママーーーーーーーっっ!!!』
『ちっ、逃げられたか……。あら、警備隊がこっちに向かって来るわね?どうし…あ、ベルク!どうして私を羽交い絞めにするの!?』
と言う感じで、警備隊の御用になったり。
例えば、王都の公園でイチャついてるカップルを見つけたら――――
『死ねクソ共があああああああああああああああ!!』
と言いながら、王級の魔術をぶっ放して公園を破壊した挙句、その請求を全てレーベンヘルツ家に押し付けたり。
例えば、豪華絢爛な舞踏会で、男性よりも料理に夢中になってしまい―――
『え!?なんで料理の持ち帰りが出来ないのよ!?良いでしょ、ケチケチしなくても!え、駄目!?分かったわよ、じゃあここで食べれるだけ、食べていくわ!』
と言って、本当に料理を食べ尽くして、舞踏会を台無しにした挙句酔っぱらって法王級の魔術をぶっ放して、他国の城を半壊させ国際問題になりかけたりと。
例を挙げればきりがない程に、彼女は色々やらかしていた。
それでいて、全く懲りずに、またやらかすんだから性質が悪い。
まさしく、生まれついての性格破綻者。
世界最高峰の奇人であり、ド変態。幼女好き。
イレギュラーな事が大好きで、倫理観も完全無視。
天上天下唯我独尊を地でいく女。
それが、エリベルだ。
そして、そんな彼女が挑んだ百回目のお見合い。
途中までは順調だったのだ。
相手はとある国の田舎貴族。
中々に純朴な青年で、久しぶりにエリベルの様々な“事情”を知らない男性であり、うっはこれはついに私にも春が来たかしらと、上機嫌になってしまったのがいけなかった。
酒が入り、エリベルの話がどんどん明後日の方角に向かい出したころから、比例して相手の態度がおかしくなりつつあったが、決定的だったのはエリベルが言ったこの一言だ。
「ねぇ……今日は私にあなたを改造させてくれないかしらぁ?……ひっく」
色っぽい仕草と共に、男性に垂れかかるエリベル。
一瞬男はドキリとした。凄まじいまでに胸が高鳴った―――――――別の意味で。
そう、男はその瞬間、圧倒的な恐怖を感じたのだ。
エリベルのセリフはちょっと変わった誘い文句にもとれるが、それを実際に様々な魔道具を手に持った相手に言われたらどうだろうか?
そして、更に
「ほぉら見て、私の技術……ひっく。一瞬であなたの腕を魔導戦略式大規模破壊穿孔機に改造することだってできるんですのよぉ……ひっく」
そう言った瞬間、男性の腕はドリルになってた。
キュイイイイイインという音を立てて、超高速回転するそれを壁に当てた瞬間、壁は砂に変わった。
男は泣いた。
相手方の最後のセリフは
『すいません無理です。あと腕直してください』
これを土下座と共に言われた。
あんまりと言えば、あんまりだ。
男性にとって。
記念すべき百回目の破談。
ちなみに男はこの後田舎へ帰り、幼馴染とめでたくゴールインした。
「はっ!流石に三ケタになってくると、感傷もひとしおね!いったい私の何がいけないのよ!」
だいたい全部じゃないじゃろうか、とベルクは思ったが、流石にこの場でそれを言うと自分は灰になる。比喩でもなんでもなくマジで。
本当に困った主人だ。
ふぅー、とため息を吐き、ようやく破壊行動をやめるエリベル。
自分の魔術によってできた崖から、眼下に見える王都を見下ろした。
どうやら、また地図を書き換える必要があるみたいだ。
「あー、見なさいよベルク、この丘から見える王都の眺めを……ひっく」
「はい、絶景ですな」
「あの明かりの下で、今もバカ共がその愛を育んでいるかと思うと、嫌になるわ。いっその事、霊王級の火属性魔術で全て焼き尽くしてしまおうかしら……ふふふ、燃え上がる程に熱く愛し合えばいいわぁ…ひっく………死ねよホントクソがひっく」
「止めてください!国どころか大陸が滅びます!」
「大丈夫よ!たとえ大陸全部を敵に回したところで、私が勝つわ!ひっく」
「そういう意味で言っているのではありませんぞ!」
実際それが嘘でも誇張でもなんでもないところが怖い。
そう、この世界に彼女に勝てるものなど殆どいない。
四大属性を霊王級まで極め、伝説上の存在とされる魔王と勇者に並ぶほどの実力を彼女は持っている。
更にその上、彼女は天才だ。
ありとあらゆる魔道具を開発し、その理論は今までの魔術の常識を一新した。
「全くそれほどお強いんでしたら、今すぐ魔族との戦争を止めてきて下さい。エリベル様なら出来るでしょう?戦争を止めた英雄になれば、男性の一人や二人―――」
だが、ベルクが全部言う前に、エリベルは答える。
「やーよ……面倒臭い……ひっく。戦争なんてくだらないバカのやる事だわ。天才でスペシャルでグレートな私のすべき事じゃないのよぅ…ひっく」
そう言って彼女はその場にごろんと横になる。
彼女は戦争が嫌いだ。
絶対的な力を持っている彼女でも、止める事の出来ない戦争が嫌いだ。
何より自分の作った魔道具や魔術を勝手に戦争の道具に使われているのが、何よりも嫌いだ。
そんな事のために作ったんじゃ、考えたんじゃないのに。
「うー……もうメンドクサイ。寝る……ベルク、おんぶ」
「……畏まりましたエリベル様」
ベルクの背中でエリベルは寝た。
全く持って仕方のないご主人様だ。
ベルクは呆れつつも、彼女が起きない様にゆっくりと王都へ戻って行った。
そして、次の日。
「うー……頭が痛いわ…ズキズキする」
「あれ程飲まれれば、二日酔いにもなりましょう。いっそ二日酔いを治す魔術を開発してみたらどうですかな?」
「あ、それ良いわね。そうと決まれば、さっそく研究所に戻るわよ!」
アイディアが閃いたのか、すぐに白衣を着て、宿屋を後にしようとする。
「あ、お待ちくだされ、エリベル様。研究もよろしいですが、今日は先にレーベンヘルツ家の方に行かなくてはなりませぬ」
彼女は三大貴族レーベンヘルツ家の次席。当主補佐の立場だ。
本来ならしなければならない、家の仕事と言うのが山の様にある。
だからこそ、エリベルのテンションはあからさまに下がる。
「えー……やだ」
子供か、とベルクは思ったが、懐から一通の便箋を取り出す。
「ですが、エリベル様、朗報ですぞ。なんとまた、縁談のお話が来ております」
「え、マジで!?」
「ええ本当です。それも当主様からの推薦ですから、かなりの良物件かと」
それを聞いてエリベルは目を輝かせる。
子供か、とベルクは思ったが、それは表情に出さない。
「おおー流石お姉ちゃん!愛してるー!そうと決まれば、善は急げよベルク!さっさとレーベンヘルツ家に戻るわ!お姉ちゃ……もとい当主様にきちんとお話をきかなくちゃね!」
「清々しいまでの掌返しですな、エリベル様。それでは向かいましょうか」
「うっはっはー!待ってろよ、私のまだ見ぬ恋人よーーー!!」
そう言って二人は宿屋を出る。
二日酔いで見る青空はどこまでも眩しかった。
それは今から二百年以上昔のお話。
この二人が前代未聞のダンジョンを作りあげる少し前のお話。
そして、彼女が不死化しようと決意する、ほんの数日前の出来事。
閑章 『小休止的なお話』 了
次章 『二度目のダンジョン』
ちょっと補足
レーベンヘルツ家はノアード家同様、男性女性関係なく、完全な実力主義です。
なので本来ならエリベルが当主になるのですが、彼女がそれを放棄したため、姉が代わりに当主となっております。
次章からは再びアースさん達のダンジョンのお話に戻ります。
あと、あの男性の腕はドリルからパイルバンカーに魔改造されました。




