12.明かされる真実 その6
……お久しぶりです。七年ぶりの更新です
前回までのあらすじ
赤ちゃん殺されてギブルがキレる。
人間ぶっころ。大陸ぶっ壊す。
星脈の眷属達「やべーわ、このままじゃ、星壊れるわ」
必死になって食いとめる。でもその所為で、星脈の戦力低下。
アルト・パルト(苦労人)頭を抱える。「これどないすんねん……」
ジョーカー「おぎゃーッス」
ゼパル死んだ ←今ここ
ギブルはその知らせを聞くないなや走り出した。
最速、最短でダンジョンの最奥へと向かう。『最短』だ。壁も全てぶち抜いた。そんなのを気にしている余裕など、今の彼女には無かった。
『嘘だ、嘘だ、嘘だ……』
果たしてダンジョンの最奥――限られた者しか入ることが出来ない場所で、彼女はそれを目にした。
最愛の番い――ゼパルの亡骸を。
ゼパルの体はボロボロだった。理由は明確だ。
――星脈の修繕。
その作業は、ゼパルにとっても負担が大きすぎた。
そもそもゼパルは真龍によって生み出された唯一の眷属であるが、その力は『錬金』に特化しており、戦闘能力や魔力はそこまで規格外ではない。
しかも彼の『錬金』は眷属を生み出せば生み出す程に、自身の生命力を削るのである。なんのリスクもなく眷属を生み出せるのは、それこそ規格外の魔力量を持つアースくらいのものだ。
だがゼパルにはそこまでの魔力はなかった。
地龍や死龍、天龍、聖龍と様々な種族、眷属をつくり続けた結果、既に彼の生命力は枯渇寸前だったのだ。
弱っていたからこそ、星脈の修復という大業を成すには命を懸けるしかなかった。
それが彼の存在理由であり、そこに後悔などない。
だがそれは彼にとってであり、他の者には当てはまらない。
『――ぁぁ、ぁああぁぁ……アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!』
ギブルにとってその衝撃は凄まじかった。
どうしようもないほどの悲しみ、そして罪悪感と自己嫌悪。
そして深い深い、どうしようもない悲しみはギブルの記憶を蘇らせた。
いや、吐きださせたのだ。
暴食によって喰らい飲み込んだはずの記憶を。
『私の所為だ……わた、わ、わた……私の所為であの子が……それにゼパルまで……』
ズキンと、激しい頭痛と共に、ギブルは忘れていた――否、自ら蓋をしていた記憶を呼び覚ました。
――彼の子を死産した記憶を。
そう、あの日、ギブルが力を暴走させなければ。
あの人間に腹を攻撃され子を死産しなければ。
いや、そもそも自分が人間などに興味を持って外に出なければ。
いや、そもそも、そもそも、そもそも――。
延々と、ギブルは己の判断の全てを呪い続けた。
結果、彼女は全てを『思い出し』、壊れた。
元々、死産して危うい精神状態だったのを、自らの暴食によって記憶を喰らって、無理やり忘れていたのだ。
『ああ、そうか。そうだったのですね。全て……全て思い出しました。ああ、もうどうでもいい。何もかも、全てが……』
そして、ギブルは再び力を覚醒させようとした。
だがその瞬間、声が聞こえた。
「姉さん! なにやってんだよ! そんなことしちゃ駄目だ!」
死龍ウロヌスである。
彼はギブルと同じ、この星脈の最奥に入ることが出来る数少ない存在だ。ちなみに彼以外に入れるのはミュルスとアルト・パルトのみ。ゼパルの死をギブルに伝えたのは、アルト・パルトだ。
『もう全てがどうでもいいのです……。だってこんな無能な私になんの価値があるというのですか? ゼパルも……我が子も……私の所為で死んだのですよ。私が……私の所為で……ああああああああああああああああああああああああああああああああ』
「駄目だ! 姉さん! 駄目だよ! 抑えて! それ以上力を解放すれば、また星脈に異常がでるかもしれない! それこそゼパルさんのしたことが無意味に――」
『黙りなさい! もう壊れてしまえばいいのです! 星脈も! このダンジョンも! なにもかも全て!』
「違う! それじゃあ姉さんがもっと苦しむだけだ! そんなのゼパルさんも、姉さんの子だって望んでるわけない! 姉さんは彼らの分まで幸せにならなきゃいけないんだ!」
ウロヌスの言葉に、ギブルは少しだけ、解放していた魔力を抑える。
「ともかくここから出て! 早く!」
とにもかくにもウロヌスはギブルを星脈の最奥から引きずり出す。ギブルは抵抗しなかった。ただウロヌスに引っ張られるまま、第十階層まで連れてこられる。
「ふぅ……とりあえずここまでくればいいか。姉さん、落ち着いた?」
ウロヌスはギブルを見るが、彼女はブツブツと呟いたまま顔を上げない。
めちゃくちゃ心配していると、ようやく彼女は顔を上げた。
『幸せ……? 私の……? ウロヌス、私は、幸せになるべきなのですか?』
「そう、そうだよ! 姉さんは幸せになるべきなんだ!」
『……でもどうやって? なんのために?』
「えっと……」
ギブルが食いついたとで、ウロヌスは安堵すると同時に答えに窮する。
この傷付いた姉をどうやって幸せにすればいいのか? ゼパルの代わりに自分が番いになる?
論外だ。
いくらシスコンとは言え、ウロヌスにも節度もあれば常識もある。実の姉と番いになるなどいいはずがない。それに今はまだそういう関係ではないが、いずれ自分はリアスとそういう関係になると思っているからだ。なにせ彼女はウロヌスの『特別』なのだから。
「姉さん……」
自分がもしギブルの立場だったらどうするだろうか?
ウロヌスはしばし考え――。
「えっと、その、外に……外の世界を見てみない?」
『は……?』
ギブルは一瞬、ウロヌスが何を言っているのか理解出来なかった。
「今の姉さんはきっと穴が空いてるんだ。ゼパルさんっていう大きな穴が。僕や皆がその代わりになれるなんて思わない。だってゼパルさんの代わりは誰にも務まらないから」
『……』
「分かってる。姉さんがそうなったのも地上の馬鹿どもの所為だ。それは間違いないよ。でもさ、外にはそれ以上に色んな楽しいものがたくさんあるんだ。このダンジョンにはない美しい景色や、美味しい食べ物とか。といっても僕もリアスやアジルの話でしか殆ど知らないんだけどさ」
ウロヌスは言葉を続ける。
「外にはもう僕達にたてつく馬鹿な人族も居ないし、アジルが支配していた場所なら絶対に安全だ。みんなで護衛するし、ザハークやアンリに美味しいご飯用意して貰ってさ。それに地上にはきっと新しい出会いだってあると思うんだ。僕がリアスに会えたみたいに。だから姉さんにもきっと――」
『……なさい』
「え、なんだって、姉さん?」
『黙りなさい、ウロヌス』
「ねえ、さん……?」
ウロヌスは背筋がざわめくのを感じた。
彼の姉の瞳は一切の光を宿していなかった。
ああ、これは――駄目だ。
『ウロヌス……アナタはいつから私にそんな口を利くようになったのですか?生意気ですね。あれだけ姉を愛してると言ったのにそれは嘘だったのですか?ああ、そうか。代わりが出来ましたからね。リアスがいれば、もう私は要らないってことですか?』
「ちが……そうじゃない!誤解だ、姉さん!僕はただゼパルさんが――」
届いていなかった。
全くもって響いていなかったのだ。
ウロヌスの言葉は、ギブルの心に微塵も。
『お前がああああああああああああああああ!ゼパルのことを語るなああああああああああ!ゼパルは私の夫だ!あの子とゼパルは私の全てだったんだ!それを!それを失って私は……!私がどれだけ……どれだけえええええええええええええええ!』
ゴゥ! と凄まじい魔力が星脈のダンジョンに吹き荒れる。
当然、その余波はダンジョンだけでは済まない。
星脈のダンジョンはこの星の中枢。その影響はあまねく全ての大陸へと波及する。
「ッ……姉さん……。あぁ、そんな……」
その力を感じて他の眷属も駆け付ける。
「何事だ!」「おいおい、こりゃあどういうこった?」
「まさかまたギブル様が暴走状態に……」「うっひゃぁ……これ、僕達どうなるんっすか?」
ハルシャが、ヤムゥが、フィールが、ジョーカーはギブルの状態に恐れ戦く。
「……ギブル様」「やはりこうなりましたか……」
ミュルスと、アルパはどうしようもない程の悲しみを抱く。
もうどうにもならないと感じ、ウロヌスは覚悟を決めた。
「ッ……! もうこうなったらしょうがない。ヤムゥ、ハルシャ! 力を解放するんだ! アジルも本来の姿に――皇獣に戻るんだ! ジョーカーは霧の結界を作って姉さんの力が外に漏れるのを防げ! 僕達で……姉さんを――ギブルを封印する!」
その言葉に、眷属の誰もが驚いた。ヤムゥはひゅぅと口笛を吹く。
「おいおい、いいのかよ? テメェの大好きな姉だぜ?」
「……こうなったら仕方がないよ。このままじゃ星脈も、ダンジョンも、地上も、姉さんはきっと全てを破壊す尽くすまで止まらない。それじゃあゼパルさんは何の為に死んだんだ? 無駄死にになんてさせない! 僕らで姉さんを止めるんだ。絶対に!」
「……うむ、致し方あるまい」
「……そうっすね。念の為、リアス先輩は地上に避難させておくっすよ」
「頼む。階層守護者以外は全員、外に避難させるんだ。無駄な犠牲は出したくない」
「了解っす」
そして彼らはギブルを止める為に、力を解放した。
全員で掛かれば、きっと止められる。そう信じていた。
しかしそれは余りにも浅はかな幻想にすぎなかった。
力を解放したギブルはあまりにも圧倒的だった。
三日三晩の死闘の末、立っていたのはギブルただ一匹だけであった。
『ハァ……ハァ……、私は……私はまた……ァァアアアアアア! アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!』
しかし力の限り暴れたことで、ギブルも冷静さを取り戻していた。
『嫌だ。嫌、嫌、嫌……。またこんな愚かな事を。もう嫌だ。もう……死にたい』
限界だった。
冷静さを取り戻したことで、ギブルは己の愚行を恥じ、激しく後悔した。
そしてギブルは己自身に牙を突き立てた。
『死ね……死ね……死ね! 死になさいこの役立たずのクソ龍が! 死ね! 死んでよ!お願いだから!死んで!生きたくない!死なせてよおおおおお!』
ぐちゅ。ぐちゅ、ぐちゅ。
腕を、足を、心臓を、ギブルは躊躇なく傷つける。
最強の『暴食』を持つギブルを殺せる者が居るとしたら、それはギブル自身を置いて他に居ない。
ギブルは自分自身を喰らい尽くそうとしたのだ。
『あぐっ……あっ……おえええええええええええええ……』
だが出来なかった。
食った先から吐きだし、それは再びギブルの体へと還元させる。
今までのように記憶を喰らおうにも、それすら耐性が付いて忘れることも出来ない。
壊れることも、自死すらも、ギブルには許されなかったのだ。
『あぁ……あぁ……なんで……死にたいのに。もう終わりにしたいのに……なんで死ねないのですか……どうしてゼパルの、あの子の元へ逝かせてくれないのですか……』
「ぐっ……姉さん……」
『あぁ……ウロヌス。ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。愚かな姉を許して……。もしアナタに出来るなら、私を殺して。お願い。もう生きていたくない……』
ギブルは懇願する。
己の死を。
「駄目だよ、姉さん……」
ウロヌスはギブルの苦しみを誰よりも理解していた。死ねないのであれば、せめてこれ以上の苦しみだけは……、そんな風に考えたのだろう。
「姉さんは死なせない。だから――せめて、僕の『滅尽』で姉さんの記憶を……」
『ウロヌス……何を……?』
ウロヌスは最後の力を振り絞って、己の牙をギブルの頭――脳へと突き立てた。
かつてギブルが自らの記憶を『暴食』で喰らったように、今度はウロヌスが『滅尽』を使い、ギブルの記憶を消そうとしたのだ。
『あぁ……ああ、ああああああああああああああああああああああ!?』
だが、ウロヌスの『滅尽』はギブルの『暴食』ほど完璧ではなかった。
記憶はバラバラに砕け、虫食いのように失われたのだ。
「姉さん……これで、またみんなと一緒に……」
全ての力を使い尽くしたウロヌスは気を失い、そこには記憶を穴だらけにされたギブルだけが残された。
――そして、全ての記憶を失い、否、不完全な記憶だけを残されたギブルは目覚めた。
『――これは? 私はいったいなにを? そういえばウロヌスに外に出ようといわれて……! ウロヌス、この私に外に出ようだなんて、よく言えましたね!』
何故だか理解出来ないが、外に出るという行為に、ギブルは途轍もない嫌悪感を示した。
ギブルはボロボロになったウロヌスを掴むと、どうしようかと考え込む。
すると、そこにリアスが現れた。
ジョーカーの張った結界が消えたことで、外に居た眷属達が戻って来たのだ。
「これは……? ギブル様! 一体何をしているのですか? 何故、ウロヌスがそんな傷だらけに? それに他の皆も……」
余りにも急を要する事態だったため、リアスたちには何があったのかは伝えられていなかった。
『リアス……彼は私に外に出ろと言ったのですよ? 信じられますか? この私に外に出ろと言ったのですよ? 許せるわけがないでしょう?』
「え……? いや、たったそれだけのことで……?」
『それだけのことなのですよ、私にとっては。そうですね、ウロヌスは封印します。彼には少しキツイお灸をすえねばならないでしょう』
「なっ……」
リアスにとっては信じられなかった。あまりにも冷たい声音だった。本当にこれは、自分が知っているあのギブルなのかと疑う程に。
「ま、待って下さい! そもそもこれは……どういう事なんですか!なんで……なんで彼が……ウロヌスが封印されなければいけないんですか!!お願いです、ギブル様!どうか考え直して下さい!」
『黙りなさい、リアス」
「がはっ……」
カッとギブルの目が光る。ほんの僅かな魔力の解放。それだけでリアスは吹き飛ばされ、地面を転がった。
「り、リアス先輩大丈夫っすか? なんか頭が凄いズキズキするっすね……」
「じょ、ジョーカー……すいません……」
いち早く目覚めたジョーカーはリアスの肩を抱く。
その時、アジルも眼をさました。ぼんやりとした視界にはボロボロになったリアスが映り込んでいた。
『考え直す? 何を馬鹿な事を。これは当たり前でしょう? 彼は星脈に反旗を翻した。本来ならば、殺されてしかるべきところを封印するだけに留めると言っているのです。それの何が不満なのですか?』
「違います!ウロヌスはアナタに反旗を翻してなんていない!だた、貴女と一緒に外に出たいと願っただけではないですか!なのに……なのにどうして……っ!?」
するとウロヌスが目を覚ました。
「……リア……ス……?」
「ウロヌス、よかった。待っていて下さい!今助けて―――ガハッ」
しかしギブルが軽く手を振るだけで、リアスは吹き飛ばされた。
『黙っていなさい、リアス。別に私は、貴女にまで危害を―――いえ、そうですね。ウロヌスに手を貸した貴女も同罪。罰を与えておきましょうか。アナタをこの星脈のダンジョンから追放します』
「姉さん、何を……?記憶は、ちゃんと……いやこれは失敗したのか?ごめん……ごめんよ、姉さん……。僕のしたことは余計なことでしかなかったのか……」
ギブルはウロヌスの耳元で呟く。
『――ウロヌス、アナタからリアスの記憶を奪います。きっと彼女はアナタを封印から解くために奔走するでしょう。そしてその封印が解かれた時、アナタは彼女の事をなにも覚えていないのです。これなら罰として丁度いいでしょう』
それを聞いた瞬間、ウロヌスの顔色が変わった。
『なっ……や、止めてくれ、姉さん!それは!それだけはやめてくれ!全部、僕が悪いんだ!僕が勝手にゼパルさんの為に――……。だから、リアスを……彼女との思い出を奪うのだけは―――』
なにが丁度いい罰なのか? それは地獄すら生ぬるい鬼畜の所業だ。
だが記憶を失ったギブルは己の行動を疑わない。
ウロヌスが悪いと、本気で思い込んでいるのだ。
(あぁ、僕は……僕はなにを間違えたのか……?)
ちらりと、ウロヌスは最後にリアスを見た。
絶対に彼女の事を忘れまいと。
その姿を、想いを、魂に刻み付けようとした。
しかし――。
『―――では、さようなら、ウロヌス』
バクン、と。
何かが食われる音がした。
こうして記憶を奪われたウロヌスは封印され、リアスとジョーカーは星脈を追放された。
ギブルと星脈の眷属達は滅尽によって記憶を穴だらけにされ様々な事を忘れてた。
それはあまりにも残酷な結末だった。
ゼパルは命を懸けて己の使命を全うしなければならなかった。
ギブルはそんなゼパルを死なせた自分が許せなかった。
ウロヌスはただ悲しみに暮れる姉を救いたかった。
星脈の眷属も、リアスも、誰一人として悪意を持って行動していた訳ではない。
誰もが、誰かを助け、誰かを救いたいが為に必死に抗い続けただけ。
だがその先に待っていたのは救いではなかった。
誰一人として救われない、あまりにも滑稽で、あまりにも残酷な悲劇であった。
そして――そこで記憶の映像は途切れた。




