11.明かされる真実 その5
忘れた人の為の前回のあらすじ
赤ちゃん殺されてギブルがキレる。
人間ぶっころ。大陸ぶっ壊す。
星脈の眷属達「やべーわ、このままじゃ、星壊れるわ」
必死になって食いとめる。でもその所為で、星脈の戦力低下。
アルト・パルト(苦労人)頭を抱える。「これどないすんねん……」
ジョーカー「おぎゃーッス」←今、ここ
ギブルが目を覚ましたのは、大陸崩壊から一週間ほどが経ってからだった。
『……私は……ここは……ッ』
ズキン、と。
頭が痛む。
『目が覚めた?姉さん』
隣を見ると、そこにはウロヌスが居た。
ウロヌスだけではない。
ミュルスも、アルト・パルトも、皆が自分が目を覚ますのを待っていたようだ。
『良かった。ずっと眠ってたから、心配したんだよ、姉さん』
ギブルの手を握り締め、心の底から安堵するウロヌス。
涙を流しながら、尻尾を自分にこすり付けてくる弟の姿にギブルは苦笑する。
『……心配をかけましたね』
そう言って眷属の皆に視線を移す。
すると、眷属中からミュルスが一歩前に出る。
『全くです。ギブル様が為さった無茶の所為で、我々がどれだけ振り回されたと思っているのですか。それに、何時までも目を覚まさないで……本当に心配したんですよ』
そう言われ、ギブルは思い出す。
そうだ。
自分は確か、『力』を解放して地上に降り立った。
自分から大切なものを奪った人間達に報いを受けさせるために。
『……?』
報い……?何の?
奪われた……?何が?
『―――ッ』
ズキン、と。
再び頭痛が起きる。
なぜだろう。思い出せない。
どうして自分は、地上に出たのだ?
星脈を守護する使命を放棄してまで。
何か……何か『大切な事』を忘れている気がする。
『姉さん、どうしたの?まだどこか痛む?』
ウロヌスが心配そうな顔を向ける。
『いえ……大丈夫……です』
そう言って、眷属達の前に立つ。
『みな、心配をかけました。そして、迷惑をかけてしまってごめんなさい』
ギブルは頭を下げる。
「ハッ、本当にいい迷惑だぜ!テメェの後始末で、俺様がどんだけ―――おごふっ!」
「少し黙れ、ヤムゥ。我らが主に向けて何たる口のきき方だ!」
「ハルシャッ……!テメェ、何しやがるんだ、このクソ聖龍!」
「躾けのなっていない馬鹿な天龍へ仕置きをしただけだ。もっとも、効き目は薄い様だがな」
不敵に笑うハルシャに対し、ヤムゥは頬をひくつかせる。
「いいぜ、そのケンカ、言い値で買ってやろうじゃねぇかっ……!」
「構わんよ。お主と儂の格の違いを思い知るが―――」
『お止めなさい、お二人とも』
ヤムゥが『万天』を、ハルシャが『浄火』を発動させようとした瞬間、ミュルスが間に入る。
『ギブル様の前で、喧嘩は禁止ですよ』
「で、でもミュルスさん!このバカ聖龍が―――」
『い い で す ね ?』ゴゴゴゴゴゴゴ
「「……はい」」
その圧力に、ヤムゥもハルシャも何も言えなくなってしまった。
誰にでも頭の上がらない者は居ると言う事だ。
「ふぅー、とりあえず、現状の報告と言う事でよろしいですかね?」
静かになったのを見計らって口を開いたのは、アルト・パルトだ。
「えー、ギブル様。とりあえず、星脈の現状から報告させて頂きますね」
そう言って、アルト・パルトはギブルに説明する。
自分の暴走によって、星脈のダンジョンがいかに被害を被ったか。
いかに多くの眷属(主にミュルスの子蟻達)を失ったか。
そして、現在星脈のダンジョンの機能がどれ程低下しているのか。
報告を聞くにつれ、ギブルに自己嫌悪の念が巻き起こる。
ああ、なんてバカな事をしてしまったのかと。
一時の気の迷いとはいえ、そんな大それたことになってしまったのかと。
「それで、ギブル様。恐れながら申し上げますが、星脈に新たな眷属を招きたいと考えています」
アルト・パルトのその進言に眷属達がざわめく。
『新たな眷属を?それは、ゼパルが新しい眷属を造ってくれると言う事ですか?』
「いいえ。ゼパル様は現在、星脈の最奥にて修復作業に勤しんでおります。私が進言するのは『地上の魔物』の星脈へ勧誘です」
「なっ、馬鹿な!そんな愚かな事、出来る筈が無かろう!我らの住まう星脈の地に、地上の雑種を招き入れると言うのか!?」
アルト・パルトの物言いに、真っ先に反論したのは聖龍ハルシャだった。
怒りからあふれ出る魔力が、ビリビリと周囲を威圧する。
だが、その圧を受けてもアルト・パルトは平然と受け流した。
「なぜです?ギブル様の暴走によって、我々の戦力は著しく低下しています。ミュルスの子蟻達はその大部分を失い、ゼパル様も最奥からしばらくは出てこられないでしょう。
我々主だった眷属達も少なからず消耗しています。
それに、いつまたあの様な力を持った人間が現れるやもしれぬ現状。使えるものは何でも使った方が良いに決まっています。ましてや、向こうが我々に興味を持っているのなら、尚の事」
『興味……?どういう事です?』
「ギブル様が地上で大暴れをした際、それを眺めていたスライムが居りましてね。
いや、アレをスライムと言っていいかは甚だ疑問ですが……。
ミュルスさんの子蟻たちに調べてもらったところ、ギブル様に大変興味を持たれている様子なのですよ。戦力としても申し分ないですし、ギブル様さえ宜しければ、彼と彼の勢力を我々の傘下に収めたいと考えています」
「あ、それ面白そーだね!僕は賛成だなー!」
真っ先に賛同を示したのは、ウロヌスだ。
彼は星脈の眷属でも、特に地上への関心が高い。
ウキウキした様子で手を挙げた。
「儂は反対だ。地上の下賤な魔物等、星脈の品位を下げるだけではないか」
逆に反対の意を示したのは、聖龍のハルシャ。
星脈の魔物こそ至上と考える彼としては当然の事だった。
「ハッ、なら俺様は賛成するぜ」
「貴様ッ……!」
あてつけるかのように賛同の意を示すヤムゥにハルシャは苦い顔をする。
結局、賛成が大多数となり、ギブルが了承した事が決め手となった。
ギブルとしても、自身の不始末が起こした原因で、星脈に危機を招くのは本意ではなかったのだ。
ハルシャも渋々だが、折れる形になった。
「では賛成多数と言う事で、我々は皇獣アジル、及び彼らの一派を星脈へと招き入れる事にします。ウロヌス、勧誘は貴方に任せますが、くれぐれも穏便に済ませて下さいよ?」
「任せてよ、アルト!それじゃあ、行こう、リアス、ジョーカー!」
「あっ、ちょっとウロヌス、そんな、急に引っ張らないで下さい!」
「あ、二人とも~待ってほしいッスよ~」
嬉々として出かけるウロヌス。
それを見て苦笑するギブルや星脈の眷属達。
もしかしたら―――誰もが心の中では、望んでいたのかもしれない。
星脈の変化を。あまりにも長く続いた彼らだけの時間。
それを変える何かを求めていたのかもしれない。
皮肉な事に、ギブルの暴走はその後押しをする形となったのだ。
そして、皇獣アジルは星脈へと招かれた。
聖龍ハルシャは一部のもの以外は歓迎ムードの中、アジルが放ったのは驚きの一言だった。
「―――星脈の眷属になるのはやぶさかじゃない。でも、一つ条件がある」
『何でしょうか、地上の魔物よ?』
「神災龍王ギブルよ、僕は貴女との一騎打ちを所望する」
『一騎打ち……ですか?』
ざわめく星脈の眷属達。
「何と不敬な!地上の魔物の分際で!」「そうだ、身の程をわきまえよ!」「アハハハ、やるなぁ、アジルは」「ちょ、ウロヌス様!?笑いながら、僕をひっふぁるのはやめふぇ―――」「あらあら、中々威勢がいいですね……」
当然、星脈の守護者たちは反発した。
身の程をわきまえぬ愚か者と、彼を罵った。
『―――いいですよ?』
だが、ギブルは二つ返事でこれを了承した。
驚く星脈の守護者たちを制し、ギブルは彼との戦いに応じた。
『では、始めましょう、地上の魔物よ―――』
『覚醒』の消耗によって万全ではない身ではあったが、それでもギブルの力は圧倒的だった。
僅か二秒で、アジルは敗北したのだ。
「つ……づぎば……まげふぁい……」
もはや呂律のまわらぬその言葉に、ギブルは苦笑し、その成長に少しだけ期待を寄せた。
面白い子だ。ウロヌスと同じくらいの潜在能力がある。
きっと、この子はもっと強くなると。確信にも似た思いがあった。
でも、なぜだろうか?
僅か二秒の戦いの中、彼女の頭には、酷くノイズが響いたのだ。
それは特に腹を攻撃されそうになった時にひどくなった。
一体なぜだろうか?
お腹……?どうして、守らなきゃいけなかった?
だってまた無くしてしまう。……何を?
思い出せない。
自分は……何を忘れた?
『何』を―――食べた?
その疑問に答える者は、誰も居なかった。
アジルを眷属として招き入れた事は、星脈にとっても良い変化をもたらしていた。
地上の魔物達がもたらす見聞は、ギブル達にとっても新鮮なモノだったし、彼らと共に競い合い、己を高めていく事は、この上なく楽しく、充実した時間だった。
全てが順調だったと言える。
だが―――だからこそ、誰も気付かなかった。
その幸せな日々が、ギリギリのバランスの上で成り立っている事を。
何か一つ、何か一押しがあれば、崩れてしまう事を。
そして、『それ』はある日、唐突に訪れた。
「―――ゼパル様が亡くなられました」
アルト・パルトより告げられた突然の訃報。
星脈の最奥に籠り、修繕に取り組んでいた一匹の龍。
最古にして最初の地龍、全ての眷属の生みの親―――ギブルの最愛の番い。
ゼパルが死んだと、そう告げられた。
それはこの後に起こる星脈の最悪の悲劇の引き金となったのだ。




