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地龍のダンジョン奮闘記!  作者: よっしゃあっ!
最終章 星脈の守護龍と地龍のダンジョン

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5.遭遇と来訪



 舞台は再びダンジョンへ戻る。


 ダンジョン深層にて、アースの眷属達は各々の居室で傷を癒していた。

 

『ふぅ……』


 壁にもたれ、アンは深々と息を吐く。

 ヘレブとの対話を終え、彼女も深層に戻って来ていた。

 戦いの緊張感が抜け、疲労が一気に押し寄せてくる。

 

『流石に、今回の戦いは疲れましたね……』


 勝つには勝ったが、相当な犠牲が出てしまった。

 死んだ子蟻達の数は数万匹にも及ぶだろう。

 アンは静かに彼らに祈りを捧げる。

 インペリアル・アントの戦いは数の戦い。

 それは言い変えれば、“犠牲が前提”の戦いなのだ。


(ありがとう……そして、ごめんなさい……)


 だからこそ、アンはせめて彼らの事を忘れない。

 ただの一兵、末端に至るまで。

 彼らの魂に祈りを捧げる。

 そしてゆっくりと気持ちを切り替える。

 子を悼む母から、女王の姿へと。


『―――サン、ナン被害状況の報告を。ランは負傷した子蟻達の誘導を。ヤンは怪我のない子蟻達を率いて中層ダンジョンへ向かいすぐさま修繕を行いなさい』


 次世代女王種達に矢継ぎ早に指示を飛ばし、状況の確認を行う。

 『もう少しは休まれては?』と女王種達の心配そうな思念通話が送られてくるが、それは二の次だ。

 勝利に喜ぶのは悪い事ではないが、そこで歩を止めてしまっては意味がないのだ。


『―――今のダンジョンは、かつてない程に防衛機能が低下しています。深層の結界も防衛機能も碌に作動していません』


 そう、今のダンジョンには、侵入者を迎い入れるための仕掛けがほとんど残っていないのだ。

 アジルとの戦い、ツムギの新術式『大侵攻』によって、防衛機能や貯蔵魔力の殆どを使い切ってしまったのだから。

 戦いが終わって間もないとはいえ、この業況は早急に立て直さなければいけない。

  

(進まなければいけませんからね。犠牲になった者達の為にも)


 魔石をかじりながら、アンは歩く。

 少しでも体力を回復する為だ。

 

(……それにしても……)


 アンは先程ヘレブから聞かされた、かつてエルド荒野に現れたインペリアル・アントの話を思い出す。


(少々気になる事が出来ましたね……)

 

 四百年前に出現したインペリアル・アント。

 名を、厄災の黒蟻ミュルス。

 幾つもの国を滅ぼし、人々に甚大な被害を与え、ここエルド荒野でようやく滅ぼされた災害級の魔物。


(その名を私は知っている)

 

 ジョーカー、ヤムゥ、そしてギブル。

 様々な者がその名を口にした。そして、自分に似ていると。


(……星脈の眷属。そう考えて間違いないのでしょう)


 星脈のダンジョン。

 ギブルの眷属。

 その内の一体が、自分と同じ種族。

 

(それだけじゃない。今回の戦いで、ツムギは夢霧へと進化しました……)


 夢霧―――神災の魔物ジョーカーと同じ種族。

 そして、ジョーカーはかつてギブルの、星脈の眷属だった。


(これは……果たして偶然なのでしょうか?)


 星脈のダンジョンも、アースのダンジョンも。

 どちらも地龍を頂点とし、同種の魔物が複数存在している。

 偶然というには、余りに出来過ぎている様な……。

 なにか、言いようのない不安がアンの脳裏をよぎる。


(それに……アース様の容態も気になります)


 戦いが終わり、アンやほかの眷属達はアースの状態について聞かされた。

 魂が二つある事、それが分離して成体のアース、地龍型ゴーレムに憑依したアースになったという事。

 にわかには信じられなかった。


(思えば、アジル達との戦いに向けた会議の時からアース様は様子がおかしかった……)


 あの時のアースは、それこそ人が変わったように意見を変え、精力的にアジルの迎撃に乗り出していた。

 最初は白い粉を使った反転にしても妙に不自然だとも思ったが、今考えれば合点がいく。

 そもそもアンの知ってるアースは、誰よりも怠惰と惰眠を愛し、時間を無駄に浪費するのが大好きな御方だ。あんな精力的に働くなんてあり得ない。


(そしてエリベルさんの反応を見るに、きっと彼女はずっと以前からこの事を知っていた可能性が高い……)


 彼女が……エリベルだけが、アースの秘密を知っていた。

 その事実がどうしようもない程にアンの胸を締め付ける。


(アース様……。どうして私には話して下さらなかったのですか……!)


 ぎりっとアンは拳を握りしめる。

 無論、頭では分かっている。自分達眷属に無用な混乱を招きたくなかったのだろう。

 あの方はそう言う御方だ。

 そう理解は出来ていても、心は納得できなかった。


(やはり、アース様は……私よりもエリベルさんの方を―――ッ!?)


 そこまで考えて、アンは我に返る。

 今、自分は何を考えていた?

 何を思ってしまった?


『……我ながら呆れるくらい醜い性根ですね……』


 眷属に平等に寵愛を注いでもらいたいと思いながらも、自分だけは特別で居たい思う矛盾。

 あの御方の一番でありたい。

 誰よりも傍に居たい。

 その寵愛で自分を満たしてもらいたい。

 そんなどうしようもないエイゴイズム。


『こんな想い、とうの昔に乗り越えたものだとばかり思っていましたが……』


 思い出すのは帝都での夢霧ジョーカーとの死闘。

 あの戦いの中で、アンはジョーカーの霧によって覚めない悪夢へと誘われ、精神が崩壊しかけた。

 あの時もジョーカーが作り出した幻の中でこんな感情を抱いて、殻に閉じこもって、その時に―――。


 ―――また悩んでいるのですか?


 そうそう、確かこんな感じの声が聞こえて何とか立ち直って―――って、え?


『ッ……誰です!?』


 アンは振り向くが、そこには誰もいない。

 見慣れたダンジョンの通路が続いているだけだ。


『幻聴……ですか?』


 ―――いいえ。


『ッ!?また……!?』


 頭の中に声が響く。

 澄んだ女性の声。


 ―――良かった。こうしてまた貴女と話が出来るなんて……。


『思念通話……?いえ、違う、これは……』

 

まるで体の内側から、話しかけられている様な―――。


 ―――そう警戒しないで下さい。私は貴女に危害を加えるつもりはありません。いえ、むしろ私は貴女を助けたいのです。ここまで私の声が聞こえる……それほどまでに、繋がりが強くなった貴女を……。


 その声を聴くたびに、頭がふらふらする。

 遂には立ってもいられなくなり、アンはその場に倒れてしまう。


『う、ぐっ……貴女は、一体―――……』


 そして、ゆっくりと、アンの意識は沈んでいった。



◇◆◇◆◇



 ―――ザザザ。


 乾いた風が吹き荒れるエルド荒野で一体の魔物が死にかけていた。

 

『アァ……ア……ガハッ……』


 それは女性の様なフォルムにアリの外殻を纏わせたような姿をしていた。

 周囲には無数のキラーアント達の死骸が築かれ、その屍の上にその魔物は立っていた。


『哀れだな、■■■■』


 死にかけのそれを見下ろすのは、一体の黒烏。

 その全身は紅蓮の炎に包まれ、太陽を背おうその姿はさながら神話の一ページの様だ。

 彼の後ろにはさらに何十羽もの黒烏が控えている。


『もう分かっているだろう、■■■ス。貴様のそれが無駄死にでしかない事を』


 黒烏がその魔物の名を言う。

 だが、おかしい……名前が聞き取れない。

 いや、それよりもこの光景は一体……?


『貴様がここで死のうとも、それは一時の時間稼ぎにしかならぬ。なぜ、それが理解出来ぬ?彼女の―――ギブルの意志を誰よりも理解していた貴様が……』


『アァ……ァァァァアアアアアアアアアアアアアアア!!』


『そうか……もう言葉も通じないのだな……なんと哀れな……』


 死にかけとは思えぬほどの魔力の奔流は、波となってエルド荒野へ波及する。

 大地が揺れ、岩が砕け、エルド荒野全域が震える。

 燃え盛る黒烏は僅かに目を細めた。

 そして意を決した様に叫ぶ。


『ヘレブよ!』


『ハッ、ここに!』


 一体の若い黒烏が前に出る。


『我はこれより、命を賭して彼奴に挑む。その目にしかと焼きつけよ。我が“炎翼”の生き様を。そして……あの“黒蟻”の生き様をその魂に刻み込め。今、この瞬間より、貴様が我らアクレト・クロウの族長だ』


『なっ、父上……?何を、仰って……?』


『さあ!逝こうぞ、■■ルス!我らが守護者の存在の哀れさ!高らかと謳い上げ様ではないか!!』


『―――ァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!』


 そして、二体の魔物は激突した。


 ―――ザザザザザザザザザザザ。




 その光景を、アンは額縁の外から見つめていた。


『……これは……?』


 奇妙な空間だった。

 真っ白な空間に、絵画が飾れるような額縁がいくつも空中に浮かんでいる。

 額縁の中に飾られているのは絵画ではなく、映像。

 いくつもの映像が額縁の中に映し出されていた。


『今のは……四百年前の出来事……?』


 ヘレブから聞いたインペリアル・アントの討伐。

 今の光景は、そのワンシーンではないのだろうか?


『―――その通りです』


『ッ……!?』


 背後から声が聞こえた。

 振り返ると、そこには一体の魔物が居た。


『なっ……!?』


 その姿にアンは言葉を失う。

 現れたのは、黒蟻の魔物だった。

 女性的な肉体をアリの外殻が覆ったフォルム。

 インペリアル・アントと呼ばれる魔物。

 それだけなら、アンはこれほどまでに驚かなかっただろう。

 アンが驚いた理由。

 それは、現れた魔物が、生き写しと言って言い程に“自分とそっくりの姿”をしていたからだ。


『こうして会うのは初めてですね』


 驚愕の表情を浮かべるアンに対し、“彼女”は静かにほほ笑む。


『私の名はミュルス。貴女と同じインペリアル・アント。そして元星脈第九階層守護者 黒蟻のミュルスです』


『っ……!?』


 ドクン、と。

 アンは自分の心臓が高鳴るのを感じた。


『ようやく会えましたね、この時代に生まれし我が娘よ』



◇◆◇◆◇



 一方その頃。

 深層訓練場では、もう一人のアースが欠伸をしていた。


『ふぁぁぁ……暇だな……』


 その表情には緊張感の欠片も無かった。


『相棒は上手くエリベル止められたのかなぁ……?まあ、思念通話が送られてこないところを見ると、何とかなったんだろうけど……』


 ショタに狂ったエリベルの暴走を止めるため、自身の残り少ない魔力を送った結果、体も碌に動かせなくなってしまった。

 まあ、ダンジョンからある程度の魔力は吸収出来るので、ここで大人しくしている分には問題ない。


『碌に動けないし、待つ身は辛いなぁー……』


 そもそもこの状態自体、どれだけ持つか分からないのだ。

 次の瞬間には、何らかの異変が起きて、彼自身の魂が崩壊してしまってもおかしくはない。

 

『……ま、でも相棒やエリベルたちなら、なんとかしてくれるだろ』


 だがもう一人のアースには、心配や恐怖と言った感情は微塵も無かった。

 相棒や眷属(かぞく)を心の底から信じているからだ。

 何もできない歯がゆさはあるものの、かといって慌てふためく事もしない。

 ある意味では開き直りと言えるかもしれないが、それでも自分が消滅するかもしれないという恐怖を抱えているとは思えない程の堂々とした佇まいだ。


『とりあえず寝るかな……』


 思えば、表に出てきて以来働きっぱなしだ。

 一山越えた事だし、ここらで少し休んでもバチは当たらないだろう。

 なんというか、先程から凄まじい睡魔が襲ってきているのだ。

 眠い。とにかく眠い。


『ふぁぁぁ……』


 ああ、そうだ。元の体に戻れたら、眷属の皆にこの事を説明しないといけないな。

 色々あって話せていなかったけど、そろそろ皆にも話すべき頃だろう。

 自分の事も、転生者である相棒の事も。色々、全部話しておこう。

 だから、ちょっとだけ。

 ちょっとだけ、休ませてもらおう。


『……おやすみ……相棒……』


 そして少しずつ、もう一人のアースの意識は闇に沈んでいった。







『―――あら?もう寝てしまうのですか、可愛いアース?』



 沈む間際、うっすらと……そんな声が、聞こえた…気が―――……って、え?


『ッ!?』


 ガバッと反射的にアースは起き上がる。

 一気に眠気が醒め、視界が広がる。

 視線の先。

 そこに、居てはいけない存在が居た。


 訓練場の中心。

 そこに、目を凝らさないと見えない程に小さな地龍が居た。

 周囲の景色と同化し、小石か何かと見間違えてしましそうな程に小さなその地龍からは、果たしてどこに居ようとも一目で分かる程の圧倒的な存在感を放っていた。


 なんで……?

 なんで、アンタがここに居る?


『久しぶりですね、可愛いアース』


 神災龍王ギブルが、そこに居た。





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