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地龍のダンジョン奮闘記!  作者: よっしゃあっ!
第十章 魔王と三人の転生者

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233/292

21.VS魔王軍 その二



 第二エリアフォード沙漠にて―――。


 アンとスプンタは、互いに一歩も引かず激戦を繰り広げていた。


「これ程の使い手と見えようとは!実に結構っ!!」


 二人の剣が交錯する度に、激しく砂塵が舞い、剣圧が周りの空気を震わせる。

 実力的には、スプンタの方が上だった。

 剣の威力も、速度も、経験も、スプンタは一部の隙もない程に完成された戦士だった。

 近接特化。

 大規模殲滅系の魔術を持たない代わりに、近接――特に剣術において、スプンタはアンよりも遥かに勝っていた。

 魔力によって切れ味を増したその剣は、アースの武装化した鎧すら切断する程の斬撃を誇る。


 だが、対するアンも負けてはいない。

 アンの武装は魔術を無効化する魔剣リディルと青鎧だ。

 これを部分的に展開することで、アンはスプンタの猛攻をしのいでいた。

 全身を武装化すれば、その分、精神力を大きく消耗する。対して、部分展開は全身に比べ燃費が遥かにいいのだ。それも要所要所で、瞬間的に展開すればその効率性は高まる。

 習得には苦労したが、ラセツとの戦闘訓練が役に立った。

 剣と剣が重なる瞬間、相手の剣が自分の体をかすめる瞬間、その一瞬、一瞬でアンは青鎧を展開する。今までの強敵との死闘、眷属達との戦いが、アンに予知の如き先見を可能にしたのだ。


「素晴らしい反応速度ですな……。私と剣でこれ程までに戦えるものが居るとは」


 その反応速度は、スプンタをもってしても驚嘆に値した。

 対するアンも、冷静に相手の戦力を分析する。

 

(近接特化の戦士……感じる魔力は災害級……いえ、おそらくは厄災級でしょうか……?厄介なっ……)


 流石は隊長格と言うべきか。

 凄まじい強さだ。

 自分がこうして抑えていなければ、コイツは蟻の群れを強引に突破して、単騎でこのエリアを突破していたかもしれない。

 ―――出し惜しみはすべきではない。


『―――出番です』


 アンがそう言うと、呼びかけに答える様に砂が脈動した。

 

「ぬ……?」


 スプンタの怪訝そうな声。

 砂の一部が盛り上がり、それはやがて巨大なゴーレムへと変化する。


「砂のゴーレムか……」


『誰も、一対一で戦うとは一言も言ってませんよ?』


 ここはダンジョンの外だが、今はその魔力が外へと漏れている。

 その魔力を使い、ギジーが遠隔操作で作り上げたのだ。

 十メートルを超える砂の巨人がスプンタ目掛け、腕を振りあげる。


「下らんな」


 対してスプンタは軽く剣を振るう。

 砂ゴーレムの腕が、簡単に切り裂かれ、ただの砂へと還った。

 それでも片腕を失っても、砂ゴーレムはお構いなしに、スプンタへ突撃する。

 元々が砂だ。文字通り痛くもかゆくもないのだろう。

 

「この程度のゴーレムが何だというのだ?話にならん」


 一閃。

 砂ゴーレムは斬り裂かれ、砂へと還った。

 先程までの見事な死闘を思い出し、落胆する。なんという、つまらない小細工か。


「時間稼ぎのつもりか?この程度のゴーレム、いくら作ろうとも―――っ!?」


 そう言って後ろを向いた瞬間、スプンタの顔色が変わる。

 そこには、何十、何百と言う砂ゴーレムが居た。

 いや、それだけならば、彼の顔色はなんら変わらなかっただろう。

 問題は別の所にあった。


「た、隊長おおおおおお!」「くそう!」「あがっ!がああああああああ!」

「す、砂が!?くそ!抜け出せ――」「身動きがとれな……」「ぐあああああああああ」


 砂ゴーレムの体に、彼の部下、そして黒蟻達の姿があったのだ。

 なんと砂ゴーレム達は周囲の魔物や蟻達を巻き込み、その体を形成しているではないか。


 無論、彼の部隊とて、砂ゴーレムに飲み込まれる程弱くはない。

 だが大量の黒蟻に群がられ、抵抗しようとしている内に、成す術なく彼の部下は次々と砂ゴーレムへと取り込まれていったのだ。逃げ出そうとするも、砂と黒蟻達が絡みつき、ずぶずぶとゴーレム中へと沈んでゆく。


 そして、完全に取り込まれたのを見計らって、砂の中から黒蟻達だけが悠々と抜け出してくる。ボタボタと、まるで体についた雫が落ちる様に黒蟻達は砂ゴーレムを抜け出す。味方なのだから当然だ。そして、黒蟻達は、再び魔王軍へと群がってゆく。


「攻撃の手を緩めるな!こいつら、犠牲を厭わず突っ込んできやがる!」

「くそっ!こいつら、仲間の死体を盾にして!?」

「何匹いるんだ……っ!殺しても、殺しても全然数が減らねぇ」


 群がる途中で、何十、何百と言う黒蟻達が犠牲になるが、彼らは構わず突撃する。

 なぜなら、彼らは“群れ”であり、“個”の犠牲など関係ない。厳格化された歯車の一部であり、代替可能な存在であり、そして群れとしての勝利こそが、彼らにとっての勝利だからだ。

 

 そして、魔王軍を生きたまま飲み込んだ砂ゴーレムは、スプンタ、残存部隊へと襲い掛かる。

 それでも、スプンタは正確に砂だけを切り裂き、同胞を救出できるが、他の者はそうはいかない。同胞の犠牲を覚悟で砂ゴーレムを破壊する者、迷い躊躇しそのまま砂ゴーレムに取り込まれる者、反応は様々だが、その数は確実に減っていった。


「き、貴様ら……っ!」

 

『まさか、卑怯とは言いませんよね?それを口にする資格があるとでも?』


 砂ゴーレムに気を取られているスプンタの背後からの奇襲。

 だが、


「甘いわッ!!」


 それでも、スプンタはこれに反応し、防御する。


「この程度の奇襲で―――」


『何が“この程度”で、終わるとでも?』


 更に砂の中から、何かが勢いよく飛び出す。

 それは次世代の女王種達だ。


『『『斬撃強度最大拡張!!』』』


 アンより生まれた次世代の女王種。

 そして、アースの鍛えた劣化版聖剣レヴァーティンと劣化版龍剣アスカロン、地龍のマント、地龍の鱗鎧(スケイルメイル)を装備している。

 一体一体の力は、王級上位に匹敵するだろう。

 それが、三体、スプンタを取り囲む様に砂から飛び出したのだ。


「女王種か!?それも、これ程の数がっ……!」


 四方からの同時攻撃。

 更に、アンの大剣と武装が自分に触れている。これでは魔術を使えない。

 絶体絶命。


「舐め―――るなああああああああああああああ!!!!」


 だが、スプンタは、アンの大剣を身体能力のみで強引に弾き返し、同時にすぐ横に迫っていた女王種の剣を腕で捌いた。勢いそのままに、カウンターで掌底を喰らわせ、反対方向から迫る女王種に回し蹴りを喰らわせる。

 そして、最後に迫っていた女王種を武装ごと斬り付ける。

 まさか、剣や鎧ごと斬られるとは予想していなかったのか、女王種は一瞬動揺するが、すぐさま後退し、なんとか致命傷は避けた。


『まさか、今のを防ぎきるなんて……』


 今のを防がれるのは予想外だったのか、アンも驚きの声を上げる。

 

「ハァ…ハァ……言った筈だ。この程度の奇襲で、仕留められると思うなと!」


 凄まじい気迫でもって、スプンタは四体のインペリアル・アントを睥睨する。

 他の女王種達は怯むが、アンは違った。


『そうですか……では、最後の一人として、存分に抗って下さい』


 一瞬、スプンタは何を言われたのか分からなかった。

 が、すぐに理解した。


 仲間の―――同胞の気配が、無い。


 周囲を見る。

 そこには、おびただしい程の黒蟻の死体、そして同胞の亡骸が転がっていた。

 

「なんだと……?」


 そう。既に、自分以外、すべての同胞が、死ぬか、砂ゴーレムに取り込まれていたのだ。

 信じられないような光景に、スプンタは愕然とする。

 一体、いつの間に―――。


『我々との勝負に気を取られ過ぎましたね。ですが、成程。流石、魔王軍の精鋭。その言葉に、嘘偽りはないのでしょう』


 二百五十人もいた魔王軍第一部隊は、いまや彼一人となっていた。

 その奮戦に敬意をもって、アンは告げる。


『―――二万二千十二匹』


「は?」


 一体、何の数字だ?


『子蟻達の死んだ数です。我々も、貴方達の力を見くびっていた。貴方達は強い。故に、これ程の犠牲を強いてしまった……』


 彼らは強かった。

 文字通り、百人力と言っていいだろう。

 彼ら二百人を仕留めるのに、アン達は百倍近い犠牲を払ったのだ。

 胸が痛まない訳などない。

 彼らは皆アンの子であり、眷属(かぞく)なのだから。


「それで?……私一人になれば、降伏するとでも思ったか?……する筈が無かろう。私はたとえ一人になっても戦い、貴様らを殲滅する」


 部隊の全滅という動揺も、スプンタにとっては一瞬でしかない。

 成程、確かに劣勢かもしれない。


 だが、勝機は十分にあるのだ。


 砂ゴーレムは健在だが、スプンタにとっては、デカい的でしかない。

 黒蟻達も、その数を減らし、その殆どが死に体。

 アンや女王種の動きやパターンすでに見切った。

 ならば―――。


『―――では、我々も最後まで手を抜かずにアナタの相手をしましょう』


 スプンタが攻撃に移そうとした瞬間、再び大穴から黒い濁流が噴き上げた。

 無論、それがなんであるか、彼はは直ぐに理解した。


 ―――が、その理解を、彼の脳は拒んだ。


 なぜなら、その黒い濁流は、一箇所だけではなかったのだ。

 二か所、三か所と、彼らが開けた大穴以外の場所からも次々に巻き起こる黒い濁流。

 それは瞬く間に彼の視界を覆い尽くして―――。


『残存兵力―――“三十八万”匹。その全てを持って、我々はアナタを叩き潰す』


「―――――」


 もはや、スプンタは言葉が出なかった。

 それでも、彼の心が折れる事は無かった。

 文字通り、命尽きるまで、彼は闘い抜いた。


 決着がついたのは、それから一時間後の事だった。



 第二エリア―――決着。


 魔王軍、スプンタ及び第一部隊全滅。

 自軍の被害。

 アン及び女王種、軽傷。


 黒蟻死亡数―――七万五千二百三十九匹。







 いつの世も、数とは暴力。

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