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地龍のダンジョン奮闘記!  作者: よっしゃあっ!
第九章 死龍~千年の祈り~

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28.VS死龍 死闘決着

遅れてすいません(´;ω;`)

ようやっと、決着です

 帝都上空にて―――。


 眷属達の魔力の波動を感じる。

 どうやら、皆指示通り、全力で異形たちと戦ってくれている様だ。

 異形たちが魔力を使えば使う程、ウロヌスの反動は大きくなる。


 そして―――そのリスクに、ウロヌス自身がまだ気付いていない。


 本人も気付かぬうちに、弱体化している。

 そこを、叩く。


 ―――というのが、エリベルの見解だけど、


『―――まあ、ぶっちゃけ、そこまでうまくいくとは思ってないわ』

『おい!』


 ぼりぼりとだらしなく頭を掻くエリベルに対し、俺は突っ込みを入れる。


『だってそうでしょう?相手は腐っても龍王種。それも、力を覚醒させた真の龍。弱体化させるくらいで、簡単に攻略できるなら、そもそも“あのギブル”が敗れる筈なんてないじゃない』

『まあ……そりゃそうだけど……』


 未だに俺だって、あのギブルが負けたことが信じられないし……。

 ちらりと、視線を黒い祭壇に向ける。

 そこにはいまだに傷付いて動けないギブルが倒れていた。

 ピンとエリベルは指を立てる。


『私の見立てでは、間違いなくウロヌスはアホよ。それも、それを補ってあまりある程の“力”を持ってるアホ。おまけに、無駄に魔力量が多い。つまり、アンタと同じタイプね』

『おい!』


 それはどういう意味だ!

 あんなのと一緒にされるなんて心外だぞ!

 憤慨する俺をよそに、エリベルは顎に手をやりながら続ける。


『とにかく、アイツを攻略するには、何かあと一つカードが欲しいわね……。私の“聖域踏破”も、アンタの“武装・特化形態”も、“消滅”の力を持つウロヌス相手じゃあ決め手に欠ける。なにか……あと一つ……』

『決め手か……』


 勝敗を決める程の、何か。

 ここまで戦力を投入して、更にそんなものあるだろうか?



『おっ困りの様だねーエリちゃーん!それなら、私に考えがあるよーん』



 突如、俺達の頭に、場違いな感じの声が響いた。

 

『……アース、知らない奴からの思念通話は着信拒否にしとけって言ってたでしょ』

『ひ、ひどいよ、エリちゃん!私だよー!みんな大好きレーナお姉さんだよー!さっき、デレて名前呼んでくれたばっかじゃんかー!うわああああああん!』


 無駄にテンションが高い。

 あと、うるさい。

 さっきエリベルに名前で呼ばれてテンションあがってんのか?


『うるさいわね、クソ婆。いいから、考えがあるならさっさと言いなさい。魔力の無駄だわ』

『……エリちゃんって、私にだけは凄く辛辣だよね!まあ、そこも好きだけどさ!』


 コホンと、レーナロイドは思念通話なのに咳払いする。

 そして先程までとは打って変わった冷静な声音になる。

 

『こんな作戦はどうかな?まず―――』


 ――――。


 ―――。


 レーナロイドから提案された作戦。

 それを聞かされた時、一番驚いたのは、エリベルだ。


『……アンタはそれでいいの?』

『私は別に構わないよん。エリちゃんの為だしね。だから―――私の事も、きちんと“頼って”よ、エリちゃん』


 何の躊躇もなく返答するレーナロイド。


『アース……ぶっちゃけアンタ頼みの部分が多いけど、大丈夫かしら?多分、アンタにほぼすべての魔力を肩代わりさせることになるけど』

『問題ねぇさ』


 ぶっちゃけ言うと、俺の魔力ももう三分の一も残ってない。

 それでも、俺は躊躇なく頷いた。


『……分かったわ。それでいきましょう』


 僅かな逡巡を見せた後、エリベルも頷いた。


『それじゃあ、往きましょう。死龍を―――討伐するわ』

『ああ』


 死龍討伐。

 その為の最後の作戦が始まった。



◇◆◇◆◇


 ウロヌスから一定距離を置きながら、飛行する。

 黒い杭が飛んでくる。

 うおっと。なんとか、ギリギリで回避する。

 速力に特化すれば、速さは俺の方が上だ。

 回避に集中すれば、黒い杭や羽の光線は何とか躱せる。

 ウロヌスの攻撃を躱しつつ、時間を稼ぐ。


「《『ちょこまかと……」』


 攻撃が当たらない事に苛立っているのか、ウロヌスの纏う魔力の量が上がった。

 今度は翼からの光線。

 先ほどよりも太く、効果範囲もデカい。


『ぐっ……おおおおおおおおお!』


 ちょっとかすった!

 でも、セーフ。

 消滅の被害は少ない。


「【「くそ!避けるな!」」」

 

 避けるに決まってるだろ!

 馬鹿じゃないのか。


 そうこうしていると、帝城から数発の火球がウロヌスに向かって打ち上げられた。

 無論、それらは全てウロヌスの消滅範囲に入った瞬間、消滅する。

 

 ウロヌスに特に今の攻撃を気にした様子は無い。

 というよりも、そもそも攻撃とすら認識していないんだろう。

 まあ、実際今の魔術は攻撃の為のモノじゃない。

 レーナロイドからの、合図だ。


『準備が整ったようね、アース、頼むわよ』

『分かった』


 すぅーっと俺は息を吸い込み―――


『ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!』


 特大のブレスをウロヌスに向けて放った。


《ふん!『何だ【こ】んなモノ!』』》


 ウロヌスはその巨大な腕で、俺のブレスを横なぎに掃う。

 おいおい、全力のブレスを片手でかよ……。

 でも、腕が少しだけ焦げ付いてる。

 直ぐに再生したが、なるほど。さっきのブレスと違って、“全力”のブレスなら、ある程度消滅の壁を突破できるのか……。


『アース!“来た”わ』


 エリベルの右手には、“あるモノ”がしっかりと握られていた。

 今のブレスは目くらまし用だ。派手な攻撃でウロヌスの注意を引き為に。

 本命は、転送魔術によって送られてきたコイツだ。


『往くわよ、アース!ウロヌスに突っ込んで!』

『了解!』


 速力特化の状態で、俺はウロヌスへ突貫する。


「「「はっ、よう【『やく逃げるのを』止めた】」のか!」良いだろう!」受けて立ってやる!さっさと消えろおおおおおおお!」』


 真っ直ぐ突っ込んでくる俺達に対し、ウロヌスは翼を広げ、光線を放つ。

 消滅の光。

 絶対的な死をもたらす力が俺達に向かって放たれる。


 ―――今だ!


『エリベルッ!』

『ええっ!』


 エリベルは、手に持った“ソレ”に魔力が送られる。

 次の瞬間、黄金色の光が放たれた。


【『「……なんだ、「『そ』の光』は』 !」 ?】


 ウロヌスが怪訝そうな声を上げる。

 だが、もう遅い!

 エリベルの持つソレの効果が発動する。


『宝具“ヴァジュラ”―――発動ッッッ!!!!』


 輝かしいまでの金色の光が、視界を埋め尽くした。


 そして、次の瞬間―――ウロヌスの放った光線が“消えた”。



『≪「―――は?」」」】


 

 間抜けな声を上げるウロヌス。

 その隙だらけの体に、俺は思いっきり体当たりをブチかます!


『おらあああああああああ!!』


「『「ごっ……がっあああああああああああああああ」』」


 メキメキと音を立てて吹き飛ぶウロヌス。


「「……!?なっ、なにが……?」』」」


 訳が分からないのだろう。

 そりゃそうだ。

 突然、自分の攻撃が消えた。

 更に、“消滅の壁”までも消えて、自分に攻撃が当たった。

 ウロヌスの頭の中には疑問が渦巻いている事だろう。


 だが、手は緩めない。

 今の攻撃で、ヴァジュラがウロヌスの力に対しても有効だって事が証明された!

 なら―――。


『アース!回線は繋いだから、どんどん、攻めなさい!私も“こっち”に集中するから!』

『おう!』


 再びエリベルの手に持つそれが黄金色に輝く。


「なっ……『【「ちょっと、待っ―――」」』


 待つわけないだろ!

 ウロヌスに接近!

 殴る。

 殴る。

 ひたすら殴る、

 爪で切り裂く。

 拳で砕く。

 足で蹴り飛ばす。

 尻尾で叩き潰す。


 ひたすらに、ウロヌスを攻撃し続ける。


 面白いように攻撃が当たる。

 ある程度弱体化してるおかげもあるだろうが、それ以上にウロヌスは混乱している部分が大きいだろう。

 

「「なん……で僕の」消『滅「の力が……効いてない……っ!?」』


『さあ?なんでだろうな?自分で考えろ!―――“武装化・攻撃特化形態”!』


 腕に武装化の力を集中!

 爪の部分が腕全体を覆い、一本の巨大な突撃槍の様に変化する。


『オラァッ!!』


 ウロヌスの腹を貫くことは出来なかったが、その反動でウロヌスは黒い祭壇まで吹き飛ばされる。

 ズドォォォオオン!!と凄まじい音が響く。


『凄い効果ね……ぶっちゃけ私が持ってた頃よりも、更に改造されてるみたいだけど、嬉しい誤算だったわ』


 そう言って、エリベルは手に持ったそれを見る。


 黄金色に輝く五鈷杵―――『宝具ヴァジュラ』を。


 先程、転移魔術でレーナロイドから渡された神器。

 そして、かつて、エリベルが『ダンジョン破壊』を付与した六つの神器のうちの一つ。


 その能力は固有術式の“強奪”。


 コイツを使い、エリベルはウロヌスの攻撃、そして消失の壁を一時的に無効化したのだ。


『でも、ホント成功してよかったよ……。失敗したら、俺もエリベルも消滅してたんだし』


『ええ。でも、楽観視はできないわ。いかに宝具と言えど、覚醒した龍王種の力を奪いきることは出来なかったみたいだし、どこまでいけるか……』

 

 そうだな。

 正確には、力を奪ったというよりも、力の一部を削り取ったという方が正しい。

 更に、使ってる最中は他の術式も使えなくなる。

 流石のエリベルでさえ、“聖域踏破”と“宝具”の並列は不可能なのだ。


『―――っ!?』


 ぞわりと、悪寒が走った

 黒い祭壇を見る。

 そこには凄まじい形相のウロヌスがいた。

 凄まじい魔力、そして殺気が俺達に向かって放たれる。


「……どうやら向こうも“本気”になったようね」

『ああ、さっきまでとは纏う魔力の圧が桁違いだ』


 今の攻撃で、完全に俺達を“敵”と認識したのだろう。

 だが、やる事は変わらない。


「さあ、往くわよ、アース!」

『おうよ!』


 速力特化形態。

 速度を増した状態で、ウロヌスへ接近する。


「調子に「「」のるなああああああ!」」


 ずりゅり!とウロヌスの背中から、翼が生える。

 百メートル以上ある巨大な禍々しい波紋が刻まれた黒い皮翼。

 何十枚と言う翼、その全てから消滅の光が放たれた。

 それはもはや光線と言うよりも、光の渦だ。


『――――ッッ!?』


 マズイ、避けられな―――。


『―――っ!アース!そのまま進みなさい!』


 だが、エリベルは真逆の指示を出す。

 瞬時に、俺もその意図を理解する。

 防御特化形態へ。

 光の中へと突入する。

 

「ハハハハ!バカだね!「そのまま突っ込むだなんて!!」」でも、これで終わりだ」」」消えろ!!」」


 消滅の光が、俺とエリベルを包み込んだ。


 先ず、翼が消えた。

 次に左腕。

 更に尾。

 徐々に徐々に、体が消滅してゆく。

 

 でも、エリベルの持つ宝具ヴァジュラが、消滅の力を弱めてくれているのだから進むことが出来る。

 だがその分魔力も凄まじい勢いで減少してゆく。

 

『エ、エリベル……まだか?』

『まだよ……もう少しっ』


 ヴァジュラが、一際大きな光を放った。

 一瞬、目の消滅の光が弱まる。

 魔力も残り少ない。


『うお―――おおおおおおおおおおおおおおおおお!!』



 俺は一気に駆け抜け―――そして、ついに俺達は消滅の光を抜けた。

 それを見たウロヌスの表情が驚愕に染まる。


「「―――なっ!?馬鹿」なっ!?」」ど、どうして―――ガハッ!?」


 動揺するウロヌスを、勢いのまま殴りつける。

 ウロヌスが吹き飛ぶが、その反動で無事だった右腕が取れた。

 畜生……痛ぇ……。


「がっ「……」このぉ……【雑魚『どもがぁ』……ッ】』」

 

 大したダメージではなかったのだろう。

 直ぐにウロヌスは起き上がった。


 ぎょろりと、ウロヌスの視線が、エリベルを捉えた。

 いや、正確には、その手に持った宝具を。


『「はは……はは「「は!そうか、そう」いう事」か!僕の力を奪っていたのは、その宝具の力だったのか!」』」


 得心が言ったと言う様に笑うウロヌス。

 おいおい、もうバレたのかよ。

 

「だったら、【『騎龍よりも先に、お前の方を【『始末して―――いや、【『もうその必要も』ないかなぁ?」


 くつくつと笑いながら、ウロヌスは俺の姿を見る。

 いくらヴァジュラの力で軽減したとはいえ、消滅の光を浴びた俺の体はもうボロボロだった。

 翼も両腕も失い、更に魔力も殆ど残っていないガス欠状態。

 そして、肝心のエリベルは―――、


「……ハァッ……ハァッ……がはっ……」


 反動がたたったのか、遂に膝を折った。

 力なく、俺の背中に崩れ落ちる。


『はは……ハハハハハ!なんだ【『よ!お前ら、もうボロボロじゃ』ないか!まあ、でも】この僕を』ここ「まで追い詰め」たんだ!誇っていい成績なんじゃないの!?ハハハハハハ!!!』


 ゴパァ!!!とウロヌスから殺気と魔力が溢れかえる。

 瀕死でなおこの肌を焼くようなプレッシャー。

 さらに俺が殴りつけた部分も、回復している。

 やはり、覚醒した真の龍王種。

 弱体化して尚その力は別格という事か。

 でも、


『……良いのか?』

「あぁ?何がだよ?」


 俺の言葉に怪訝そうな声を上げるウロヌス。

 いや、だってさ―――。


『―――“後ろ”、気を付けた方が良いぞ』


「――――えっ」


 ズンッ!!と。

 次の瞬間、ウロヌスの胸が貫かれた。

 貫いた手は、武装化した地龍の手。

 それは誰か?

 決まってる。


「油断……しましたね、ウロヌス」


 ―――神災龍王ギブル。

 その姿は、数分前のボロボロの姿ではない。

 体の傷は完全に癒えていた。


「姉……さん?ど、どうして……?」


 どうして動ける?

 口にこそ出さないが、ウロヌスはそう言っているようだった。


「……ハァ……ハァ……私よ……」


 ウロヌスの疑問に答えたのは、エリベルだ。


「私の……“聖域踏破”でギブルの肉体を戻したのよ。げほっげほっ……アンタと戦う前の状態までね……。まあ、流石に全快とまではいかなかったけど、十分でしょ?」


「ええ、助かりました、賢者エリベル。貴女の働きに感謝しましょう」


「馬鹿な……馬鹿な馬鹿【「な馬鹿な!姉さんの」肉体を戻した!?お前が!?で、出来るわ】『け』ない!だって、お前宝具ヴァジュラ』を使ってた」じゃないか!アレを使いながら、姉さんの傷を癒すだなんて、そんなの僕にだって出不可能だ!たかが、人間如きがそんな事出来る筈が無い!」」』」


「ええ、そうね。認めるのは癪だけど、確かに不可能ね」


 ウロヌスの言葉を、エリベルも肯定する。


「だったら―――」


 そう、だからこそ、


「―――“宝具ヴァジュラ”を使ってたのは、私だよん、死龍ウロヌス」


 声がした。

 ギブルの後ろ。

 そこからひょっこり顔を出したのは、特徴の無い平凡な女性。

 魔女レーナロイド・レイノルズだ。


「そっちの宝具を操作してたのは私だよ、地上から、タイミングを合わせて、ね」


 レーナロイドは、エリベルと同じように青白く、立つのもフラフラの状態だ。

 同じくボロボロの大柄の男に支えられて何とか立っている。

 おそらく彼がルギオスなのだろう。


「君は気付いてなかったかもしれないけど、最初に打ち上げた火球。アレは、合図の為だけじゃなくて、地上との距離感を図るためのモノでもあったんだ。エリちゃんや、そこの地龍君とも息を合わせるためには、距離が離れすぎていたからね」


「「『なんの……こ、と……を?』」」


「ああ、ここへ来たのは、ついさっきだよ。私が宝具の演算をしている間、エリちゃんがギブルを“聖域踏破”で治す。そして、それを君に諭させない様、アース君に派手に暴れて注目を引いてもらう……それが、私達の作戦だったんだよ」


 ウロヌスは俺達では倒せない。

 なら、それが出来るギブルを戦線に復帰させればいい。

 ただ、それだけの事。


 種を聞けば、なんとも単純なだまし討ち。

 宝具ヴァジュラでウロヌスの注意を引き、その隙に聖域踏破でギブルを癒す、ただそれだけ。


 だが、実際にそれを行うのは物凄い大変だったけどな。

 憑代を経由した宝具の遠隔操作や、タイミングのむずかしさ、発動の僅かなブレ。

 コンマ数秒の精密な魔力操作が無ければ不可能だ。

 ウロヌスの注意を引きつけるのにも苦労した。

 万が一にも、宝具を使っているのがレーナロイドだとばれない様に苦心したし、エリベルにも聖域踏破を並行して行って貰わなければならなかった。

 勿論、その全ての魔力は俺が代用した。

 おかげで、完全にガス欠だ。

 ……本体に戻った時の反動が怖いな。

 今回、俺死ぬんじゃないかな……。

 

 ぷるぷるとした足取りで、レーナロイドはエリベルに近づくけど、その度にエリベルは後ずさる。

 一向に距離は縮まらない。

 それどころか、

 

「ちっ、生きてたのね……」

「……エリちゃーん、私結構頑張ったんだから、もう少し報われても良いと思うんだけどなぁー……」


 ちょっと涙目になってる地味ロイド。

 表面上そっけない態度をとっているエリベルだけど、、内心は彼女の事をきちんと認めているのだろう。

 そうでなければ、こんな作戦、エリベルが採用するはずない。

 ちらりと、エリベルの方を見る。


「………なによ、言いたい事でもあるの?」

『別にぃー』


 にやにやしながらそう言うと、ぷいっと顔を逸らされた。

 ホントに変わったんだな、お前。

 ちょっとだけ、俺はそのエリベルの変心が嬉しかった。

 彼女が俺を、他人を頼ってくれることが。


「くそ……くそ……くそおっ!!」


 悔しげにウロヌスが叫ぶ。

 だが、これで終わりだ。

 弱体化し、魔力も殆ど使い果たした状態でギブルの相手をするのは、流石に不可能だろう。

 ココからの逆転の目は無い筈だ。

 なのになんだ、この悪寒は……?

 

「あーもう!あーもう!本当に最悪だよ!まさか、姉さん以外の奴らに此処まで追い詰められるとは思わなかった。ああ、本当に、屈辱だよ……」


 ごぽりと、黒い血を吐き出しながら、それでもウロヌスは笑うのを止めない。


「だけど―――忘れたの、姉さん?僕にはまだ、手が残ってる事を!」


 嘘だろ?

 まだこの状況で、手が残ってるっていうのか!?

 でも、ギブルの余裕は崩れない。


「“滅尽”の能力『反滅』ですか?無駄ですよ。今ならば、私の“暴食”で防いで―――」


 そこでウロヌスは笑みを深くした。

 凄絶な、悪意に満ちた笑みを。


「……違うよ、姉さん」

「えっ」

「僕が『反滅』を使うのは、姉さんじゃない!そこの地龍だ!」

「なっ」


 次の瞬間、ウロヌスの体から、黒い何かが放出された。

 “ソレ”は一瞬の内に、俺の体を侵食してゆく。


「アース!?」

「な、まさか『反滅』の対象範囲の拡張を―――」


「ハハハハハハ!アーッハッハッハッハッハ!!もう遅い!これで僕の勝ちだ!!」


 エリベルやギブルが何やら喋っているが、聞こえない。

 耳障りなウロヌスの笑い声もだんだんと遠のいてゆく。



 意識が―――消えた。


 


◇◆◇◆◇



 深い深い暗闇の中、ウロヌスは意識のみとなって、その場所を彷徨っていた。


 どこまでも続く様な深い闇の空間。

 ここはアースの魂の領域だ。


 ウロヌスは意識のみの存在となって、その世界に足を踏み入れた。

 アースの魂、それを喰らい、再び復活する為に。


 “滅尽”の真の恐ろしさは、破壊や消滅の力ではない。

 むしろその先にこそある。

 破壊し尽くすだけでは終わらない。

 

 相手の魂を喰らう、『反滅』こそが、ウロヌスの力の真髄。


 殺した相手の魂を喰らい、再びこの世に生を得る最悪の力。

 ギブルも油断していたのだろう。

 確かに、千年前までは、『反滅』は、己に止めを刺した対象にしか使えなかった。

 

 だが、能力は進化する。

 

 千年の封印の間に、“異形”を生み出す力を身に着けたように、『反滅』もその精度を増していた。

 今やその対象は、トドメを刺した者だけでなく、自分に傷をつけた者全てが対象となる。

 つまり、今回の場合で言えば、ギブルの他にももう一体、あの地龍も『反滅』の効果対象に入っていたのだ。

 

 どこの馬の骨、いや龍の骨とも知れない奴の魂を喰らうのは癪だが、仕方ない。

 愛する姉の魂を喰らうよりかはマシだ。

 

 姉には生きて貰わなければならないのだから。

 自分と共に、生を謳歌し、いずれ彼の子を、二人の愛の結晶を育むために。


 その為にも、この地龍には犠牲になって貰う。

 尊い犠牲だ。名誉な事だ。

 自分勝手な称賛をアースに送りながら、ウロヌスは彼の魂を探した。

 そして、


 ―――ミツケタ。


 深い暗闇の中に、輝く魂がそこに在った。

 かなり純度の高い魂だ。

 下っ端とはいえ、自分の愛する姉と同種の存在だけのことはある。


 アレを喰らい、自分は復活する。

 そうすれば、次はあのクソ人間共だ。

 その次はグウィブ、白飛龍、アクレト・クロウ、地上に居る人間共。

 何もかもを皆殺しにしてやる。


 自分と、姉の時間を邪魔した罪を償わせてやる。


 殺したと思った自分が復活したら、あの人間共は、一体どんな顔をするだろうか?

 その復活に、自分の騎龍の魂が使われたと知ったら、どう思うだろうか?


 ああ、笑いが止まらない。

 

 さあ、復活だ。

 ここは精神世界。

 現実では、一秒だって経ってない僅かな刹那。

 ゆっくりと、ウロヌスは、その魂を喰らおうとして―――







《触るなッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!》







 ――――っ!?


 バチンッ!とウロヌスは、魂から弾かれた。

 何だ!?何が起きた!?

 ここはアースの意識の深層。

 魂の世界。

 介入できるのは自分だけ。

 自分以外には、誰もいない筈だ。


《―――――ろ》


 再び、何者かの声が聞こえる。

 誰だ?お前は一体誰だ?

 魂は一人一つ。

 例外は無い。なのに……。



 ―――なぜ、コイツには“別の魂”が存在する!?



 なぜ、自分に介入することが出来る!?


 何かがウロヌスに迫る。

 手のようなイメージだ。

 それは、意識だけのウロヌスをがっしりと掴み、からめ捕る。


《――――えろ》


 ――めろ……。


《―――きえろ》


 やめろ。


《消えろ!!!!!!!!!!》


 やめろおおおおおおお!!!!


 喰らうべき魂が!僕に消費されるべき存在が!僕に抗うな!僕に逆らうな!


 そして、無数の手は、ウロヌスの意識を完全に弾き飛ばした。


 暗転。


 ◇◆◇◆◇



 ―――意識が覚醒する。


『――-っ!?ハァ…ハァ…ハァ』


 なんだ?今のイメージは……?


「アース!大丈夫?何ともない!?」

『あ、ああ何ともないけど……』


 エリベルが慌てて俺の体を調べるが、一体何がどうなったんだ?

 今のは……、俺に何が起こった?


「ぐっ……ああああああああああああああ!どういう事だあああああああ!?」


 ウロヌスの叫び声が聞こえた。

 その声は、普通の声に戻っていた。

 姿も、最初に見た少年の姿に戻っている。


 もう、力も殆どないという事だろう。

 穴の開いた胸を押さえながら、足取りでこちらに近づいてくる。


「何なんだよお前!?その魂は!?その中身は、一体どういう事だ!?」


 は?

 一体何の事だ?

 

「ふざけるな!ふざけるな!ふざけるなああああああ!僕は死龍だぞ!この世界でただ一体、姉さんと同格である事を許された唯一の存在だ!なのになのになのにいいいい!なんで、お前如きが、僕を拒絶するんだよおおおおおおおお!」


 地団駄を踏みながら、ウロヌスは射殺さんばかりの視線を俺に向ける。

 何の事だか、さっぱり分からない。

 だが、状況から察するに、ウロヌスは俺に対し何らかの術式を発動したのだろう。


 だが、それは失敗した。

 理由は分かんないけど、とりあえずざまぁ。

 嘲笑を込めた視線をウロヌスに送ると、悔しげな表情を浮かべる。


「くそ!くそ!だったら、もういい……お前じゃなく、そっちの人間を―――」


 そう言いかけたところで、カクンと、ウロヌスは膝から崩れ落ちた。


「え……?あれ……?な、なんで、体が……っ」


 倒れながら、ガクガクとウロヌスの体は震えている。


「……どうやら、弱体化の影響が本格的に出てきたようね。魔力の過剰消費。その所為で、碌に体を動かすことが出来なくなってるのよ」


 冷静にエリベルが、ウロヌスの現状を述べる。


「じゃ、弱体化……だって……?ど、どういう―――」


 訳が分からないと言った表情を浮かべるウロヌス。

 ああ、成程な。

 おそらくこいつは今まで魔力が尽きるという感覚を味わった事が無いんだろう。

 そうなる事が無い程に、ウロヌスの力は強大過ぎたのだ。

 ウロヌスにとっては全く味わった事がない未知の感覚、知ら無いモノへの恐怖。

 ウロヌスの顔にはそれがありありと浮かんでる様だった。 

 だから、


『まあ、アレだ』


 はっきりと告げてやろう。


『お前、負けたんだよ』


「~~~~~っっっ!!!!!」


 それを聞いたウロヌスの表情のすごい事。

 様々な感情がぐちゃぐちゃに混ざり合ったどうしようもない表情を浮かべた。

 ギリギリと歯を食いしばり、眉間にしわを寄せて、顔を真っ赤にして、これ以上ない程の屈辱を味わっているのだろう。


「何だよ……っ!なんなんだよ、お前は!どうしてここまで僕の邪魔をするんだよ!ただの地龍の分際で、この僕に逆らうなんて―――」

「ただの地龍ではありませんよウロヌス」


 ウロヌスの言葉を遮ったのはギブルだった。


「あぁ!?なんだよ、なんで姉さんがそこの地龍を庇うんだ!僕は姉さんの弟なんだよ!なのになんでその地龍の方を優先なんてするんだ!!!」


 苛立つウロヌスに対し、ギブルは言う。

 決定的な一言を。


「当然ですよ。だって、その地龍、アースは――――私の愛しい愛しい我が子なのですから」

「………は?」


 ぽかんと、全てが抜け落ちた表情を浮かべるウロヌス。

 何の事だとばかりに首を傾げ、


「えっ………?ちょ、え、な、何を言ってるの……姉さん?こ、こここここここ子供?だ、誰が?誰の?え、え?」


 徐々にその顔に感情が宿る。

 恐怖が、怯えが、焦りが湧き上がってくる。

 それは彼にとって、致命的な事実で、


「ですから、そこに居るアースがです。彼は私の子供です。つまり、アナタの甥にあたると言う訳ですね」

 

 バッとウロヌスは俺とエリベルを何度も見比べる。

 愛する姉。それと似通った魂、魔力を持つ地龍。


「あ……あぁあ……ああ……」


 そして、姉の言葉が事実だと気付いたのだろう。

 どんどん顔が青白くなってゆく。

 ぶるぶると寒くもないのに体が震えてゆく。


「子供?姉さんの子供?子供ねえさんのぼくのじゃなくねえさんがボクいがいのこどものうんでボクジャナクテチガウオスノネエサンガコドモウンデウンデウンデウソダウソダウソダウソダウソダウソダウソダウソダ―――」


 すぅーっとウロヌスの瞳から光が消えてゆく。


「――――……………………………………………………………………………………………………………………………………ぁ」


 一言そう呟き、そして、ぽてっと倒れた。

 身動き一つしない。

 ………え?

 ゆっくりと、ギブルが近づき、つんつんと突っつく。


「……完全に、気絶してるみたいですね」


 そう言った。


「は?」

「え?」

「なんと……」


 その場に居た全員が呆然とする。


『マジ……?』


「……どうやら、今の言葉が決め手になったみたいね……。肉体的に追い詰めた後に、精神的に追い詰めるってのは常套手段だけど、これは正直どうかと思うわ……シスコンって凄いわね……」


 エリベルも呆れ気味につぶやく。

 どんだけシスコンなんだよコイツ……。


 これ、もしかして最初からこれ話してればここまで戦う必要なかったんじゃなーの?


 そう思うくらいにひどいオチだった。

 いや、まあ、俺達らしいって言えばそれまでだけど……。


 とりあえず、決着がついた。


 正直、今までで一番酷い決着の着き方だった……。



 ◇◆◇◆◇



 ウロヌスが気絶した後、アンやほかの眷属から、“異形”の消滅が報告された。

 やはり生み出した存在であるウロヌスがやられれば、異形も消えるというエリベルの推測は正しかったようだ。

 つまり、戦いは終わったという事だ。


『ふぅー……』


 どさりと、その場に腰を下ろす。


『………それにしても』


 ふと、先程の感覚を思い出す。

 アレは一体何だったんだろうか?


 俺には視えていた。


 ウロヌスが俺の中に入ってくる感覚が。

 魂を食われそうになる感覚が。

 全てきちんと“視えて”いた。


 あの声と手……。


 無意識に、俺は自分の胸に手を当てていた。


 もしかして―――あれはこの体の……“地龍”本来の魂だったのだろうか……?


 分からない。

 でも、まあ、今はいいか。

 とりあえず決着はついたんだし。

 あとで、ギブルかエリベルに聞けばいいだろう。


 はぁー疲れた。

 さっさとダンジョンに戻って魔石食いたいわ。


「お疲れさん」


 そう思っていると、俺の横腹に寄り添うようにエリベルが腰を下ろした。


「……なんだか、疲れたわね……」

『ああ、そうだな』


 ほんの数時間の出来事なのに、もう何か月も戦ってたような気がする。

 それぐらい濃密な時間だった。


『正直、このあとが大変だよなー……』


 めっちゃ事後処理大変そうだもん。


「そうね。ダンジョンにも、眷属にも、地上にも相当な被害が出たもの。山のような事後処理が待ってるわよ」

『うへぇ。聞くだけで気がめいるわ』

「頑張んなさいよ、アンタ主でしょうが」

『そうだけど、めんどいものはめんどいしなぁ』

「ははっ、アンタらしいわね」


 そんな感じで、なんとなくエリベルを会話を続けた。

 そして、不意にエリベルは俺の方をじっと見つめた。


「………」

『……なんだよ』

「ねえ、アース……その私ってさ、意外と素直じゃないし、結構我儘じゃない?」

『まあ、否定はしないよ。お前くらい面倒臭い奴もそういないだろうな』


 常に欲望全快で、いつ通報されてもおかしくない。

 エリベルは一瞬、ビキリと青筋を浮かべたが、ふっと表情を緩めた。


「そうね。ホント、その通り。だから、一回しか言わないわよ?」

『何が?』


 そして、真っ直ぐ、視線を逸らさず、


 眩しい位の笑顔で言った。



「ありがとね」



『……っ』


 完全に不意打ちだった。

 ……なんだよ、そんな表情も出来るのかよ。

 正直、反則かというくらいに、その笑顔は綺麗だった。

 くそう、残念賢者の分際で生意気な……。


 でも、まあ、アレだ。


 ちょっとくらいは、頑張った甲斐はあったかもしれないな。




考えてみれば、天龍がアースのダンジョンに来てから二日しか経ってないんですよね。

んで、その時の投稿はまだ三月。今十月。

半年以上も戦い続けてれば、そりゃあアースさんも疲れるよねぇ……


次回からは事後処理とエピローグです

すんげー長かった第九章もあと数話で終わりです

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