29.後処理って大変
皆の力を合わせ、ついに俺達は悪の親玉死龍ウロヌスを倒した。
こうしてダンジョンに再び平和が戻ったのだった。
めでたし。めでたし。
―――で、終われる筈など、勿論ない。
実際には、膨大な事後処理やら後始末が残っている。
さしあたってはこの状況。
眼下に見えるは破壊しつくされた町並みに、我が物顔で闊歩する無数の魔物達(身内)。
民衆はこの世の終わりでも見るかのような表情で、その場に立ち尽くしている。
手を合わせ祈りを捧げる者や、全てを諦めたかのような者、最後に一矢報いようと魔物に剣を向ける者。
反応は様々だが、皆の思いは一つだろう。
異形どもが消えた今、この魔物達の矛先がどこへ向くのか?
それを危惧しているのだ。
一応、森の四長やアンのキラー・アントたちを始め、魔物達は全員その場で待機の姿勢だ。
アンの普段の教育が行き届いている。感心、感心。
人間は襲わない様に指示は出してるけど、向こうから手を出した場合は別だ。
魔物達は反撃し、緊張の糸は切れ、一気に血みどろの二次会へと突入するだろう。
森の四長を始め、今地上に居る魔物たちの中には将級、王級の魔物も何体もいる。
下手すれば、今日が帝都最後の日になる。
速く指示を出さねば、いつ開催されてもおかしくない。
……まあ、それは別にどうでもいいんだけど、それで仕返しにダンジョンに大勢で押し寄せられても困るからね。
別に人間がどれだけ殺されようがどうなろうが、俺にとってはどうでもいいしな。
……あれ?俺こんな物騒な思考だったっけ?
まあ、いいか。
とにかく現状だよ、現状。
もう、ホントどうしようか?
マジで面倒くさいんですけど。
「アース、とりあえず眷属達には指示を出しておいたわ。転移門が開き次第、順次撤退してもらうわ。あと、人間達にはなるべく手を出さない様にも伝えといたわよ。後々の事を考えれば、その方が良いでしょうしね」
と思ってたら、既にエリベルが指示を出していてくれた。
ホント、普段は変態だけど、優秀だよなぁ。
「次は情報操作ね。こっちはリアスが使ってた精神誘導の魔術を使えば何とかなるでしょう。ちょっとクソ婆、話があるんだけど―――」
そう言ってエリベルはレーナロイドと何らかのやり取りを行っている。
時折レーナロイドの方が妙に食い気味に頷いているが一体何を話しているのだろうか?
俺はやる事が無いので、のんびりとその光景を眺める。
あ、別に怠けてるわけじゃないよ?
きちんと周囲に異常がないか魔力感知で確認してるから。
ちゃんと仕事してるのよ?ほんとよ?
そうこうしている内に、転移門の準備が出来たようだ。
地上や、大気中のあちらこちらに転移門が展開されてゆく。
……ギジーの魔力大丈夫かな?
『では、アースよ、我等は先に戻る。荒野に戻ったら、アンと共に一度我の巣を尋ねに来い。いいな?』
そう言って、ヘレブとアクレト・クロウ、白飛龍の群れは転移門の光へと消えて行った。
あのーまだ何も返事してないんですけどー……。
まあ、いいか。
ちなみに、グウィブは白飛龍の若い雄に抱えられていた。
生首が抱えられた光景は中々にスプラッタだった。
体の方は、日光に当たる事で少しずつ元に戻るらしい。
植物かよ、と思ったが実際それに近い性質を白飛龍は持っているそうだ。
早く良くなってほしいものだ。
色々聞きたい事もあるし。
◇◆◇◆◇
数時間後、ようやく魔物たち全員が無事ダンジョンへと転送された。
その間、人間達との小競り合いは比較的少なくて済んだ。
正直もっと荒れるかと思ったが、どうやら人間達がかなり協力的に動いてくれたらしい。
それも、皇帝やベルディーと言った、発言力の強い人間達が魔物達へ攻撃を禁じる命令を出したからだ。
どういう意図があって、そんな発言をしたかは分からないが、おかげで魔物達の移動がスムーズに終わった。
アンやラセツが最後にベルディーや皇帝に何かやり取りをしてたのが気になるけど、それは後で聞いておこう。
精神誘導の魔術は、レーナロイドの魔力が回復し次第、発動する予定だ。
帝都丸ごとひとつ覆えるほどの大魔術だけあって、発動できるのが彼女しかいないそうだ。
レーナロイドは本来そっち系等―――精神操作系―――の魔術の方が得意らしい。
エリベルも使える事は使えるが、レーナロイド程の精度は無いそうだ。
「いい、エリちゃん。地上の方は私が全力で誤魔化してあげるから、エリちゃんもちゃんと約束守ってよね!」
そう言って鼻息荒くエリベルに詰め寄っている。
あんなに興奮するなんて、一体何を約束したんだ?
俺は思念通話でエリベルに質問すると、
『………今度遊びに行っても良い?って聞かれて、オッケー出しただけよ』
だそうだ。
……魔女チョロすぎだろ。
何というか、微妙に悲しくなった。
小学校や中学校の時に、何かと条件付けないと遊びに招待されない田中君を思い出した。
僕レアカード持ってるから、一緒に行っても良いでしょー!とか言ってたなぁ……。
結局混ぜて貰えなかったけど。
あ、思いだしたら、ちょっと涙出てきた。
頑張れ、田中君。きっと職場でもいじられキャラだろうけど、頑張れ。
まあ、ともかく、これで地上の方は何とかなるだろう。
あとはこっちだ。
今回の元凶、ウロヌスの封印についてだ。
◇◆◇◆◇
で、その元凶ともいえる最悪の龍。
死龍ウロヌスは俺の足元で倒れたまま微動だにしない。
未だにハイライトを失った瞳で、その場に倒れたままだ。
『………』
ためしに突っついてみたが完全に無反応。
ギブルが話しかけた時ですら、ちょっと体を揺らす程度。
今までの苦労は何だったんだと思える程の廃人っぷりだ。
「で、コイツどうする訳?」
エリベルはウロヌスを指差しつつ、ギブルの方を見る。
「……私のダンジョンへと連れ帰り、封印を施します。もう二度と、復活できぬように……」
そう言ったギブルの声はどこか寂しそうだった。
まあ、一応は身内だしな。思うところがあるんだろう。
「でも、どうやって連れて行くわけ?見た感じ、アンタももう魔力殆どないでしょ?」
確かに。
エリベルの指摘通り、ギブルにはもう殆ど魔力が残っていない。
先ほど、戦闘の最後、ウロヌスの胸を貫いた時にすべての魔力を込めたのだ。
今はすっからかんだ。
見た目も、先程の巨体ではない。
手乗りサイズに戻っている。
「ああ、それは―――」
ギブルが言い終える前に、突如転移門の光が現れた。
一瞬、ギジーがこちらへ増援寄越したのかと思ったが、違う。
この転移門からはギジーの魔力を感じない。
一体誰が?
「アース……」
『ああ』
エリベルも、そしてレーナロイドたちも一瞬で警戒態勢に入る。
感じるのだ。
只者ではない気配を。
そして、転移門から二人の女性が姿を現す。
一人は角を生やした青い肌の女性。
もう一人は、長い白い前髪で顔を覆った長身の女性だ。
「……誰かしら?」
俺達に緊張が走る。
ピリピリと肌を焼くような濃密な魔力の気配。
まるでギブルやウロヌスに相対した時のような凄まじい威圧感。
……一体この二人は何者だ?
転移の光が収まる。
同時に、二人の女性は、ギブルの前に跪いた。
え?
「ギブル様、お迎えに上がりました」
角を生やした青い肌の女性が口を開く。
「グルファン、それにクシャスラ、ご苦労様です」
ギブルが二人にねぎらいの言葉をかける。
知り合い、なのか?
「……ギブル様……無事で、よかった……」
今度は長身の女性が口を開く。
聞こえるかどうかの小さい声だ。
「アース、それに他の皆も警戒は無用です。彼女らは私の眷属です。―――二人とも、自己紹介を。そこに居る地龍が、以前話した私の息子、アースです」
「「―――っ!?」」
二人は凄まじい勢いで振り返り、俺の方を見た。
そして、お互いに顔を見合わせてから口を開く。
「……星脈第五階層守護者、『海帝』グルファン……です」
「星脈第七階層守護者、『嚇牛』クシャスラと申します。アース様、以後、お見知りおきを」
そう言って、俺に深々と頭を下げた。
角の生えた青い肌の女性がクシャスラ。
白い長い髪の長身の女性がグルファンと言うらしい。
初めて出会う、ギブルの眷属。
星脈の守護者。
気になる単語が色々ありすぎるんだけど。
あと二話ほどで、第九章も終了予定です。……多分。
次回は人間サイドのお話もあります
あとマッグガーデンノベルズ様より、書籍版第一巻絶賛発売中なのです




