25.VS死龍 異形覚醒
大変お待たせしました(´;ω;`)
色々あって遅れました。
帝都上空、黒い祭壇にて―――。
『次、左!四十度!斬撃!』
『おう!』
俺は即座にななめ左に動き、豚型の異形の攻撃を回避、爪による斬撃を浴びせる。
『一秒後に魔術発動!風法王級!全方位展開!防御姿勢!』
『了解!』
瞬間、エリベルの聖王級風魔術“暴虐の災嵐皇”が発動。
先ほどと同じように、多数の異形が巻き込まれてゆく。
もちろん俺は、祭壇に爪を立てて、巻き込まれない様に踏ん張る。
黒い祭壇は「痛いッスよー!もう無理ぃぃ」と言わんばかりに柱の一部を霧散させるが知ったこっちゃない。ほら、魔力あげるから、もっと頑張れ。消滅すんな。
魔力を祭壇に分けて、俺は大きく息を吸う。
『ガアアアアアアア!!ガアアアアア!ガアアアアアアアアアアアアア!』
轟風の中で、敵がまとまった場所にブレスを連射。
この憑代状態だとブレスが連射できるんだよ。
本体よりも高性能な憑代ってどうなんだろうな。
まあ、いいか。
ともかく、異形共が消し炭になるまで、ブレスを浴びせる。
綺麗に炭になった。
「ギギャアアアアアア!」
と思ったら間髪入れずに横から昆虫型達が急接近。
ひい、ふう、みい……ああもう!数えるのも馬鹿らしいほど、数が多いし!
倒しても、倒しても、湧いてきやがる!
『次!斬撃!後ろ!横、私!』
『お、おう!』
後ろからも来てたのか!
こいつら気配が“薄い”から分かりずらい!すぐさま尾で攻撃する。
武装化した尾の一撃は凄まじく、背後から奇襲を仕掛けようとした異形二十体を一気に吹き飛ばす。
横から迫っていた奴らは、エリベルの魔術によって妨害されていた。
『水、聖王級!二秒後爪!前方三十度!あと、魔力頂戴!』
『おう!ほらよ、魔力!』
衝撃で足場が崩れるのを魔力を注いで固定。
爪で斬撃を飛ばしつつ、回廊を通じてエリベルに魔力を譲渡。
同時進行は一気に魔力持って行かれる。でも、まだまだ余裕あるから大丈夫か。
何で俺、こんなに魔力だけは多いんだろ?
「よし!―――“三頭水龍”!」
法王級水魔術“三頭水龍”。
エリベルの杖から発生した巨大な水の龍が異形たちを飲み込む。
さらに俺の爪でバラバラに引き裂く。
そこから、再び泥、錬金、圧縮の流れる様な連続コンボ。
俺とエリベルは、この数分の間に、最小限の単語のやり取りだけで、意志疎通が可能になっていた。
そのコンビネーションが織り成す怒涛の攻撃は、異形共を圧倒する。
異形たちは“意志”が薄いのか、同じような手に何度も、簡単にひっかっかった。
『ふぅー……』
『大丈夫か?』
回廊を通じて感じるエリベルの疲労。
体力と無縁だったアンデッドの頃とは違い、今の生身のエリベルはきちんと“疲労”を感じている。
まだ体が馴染んでいないせいもあって、感じる疲労は通常よりも酷い筈だ。
『問題ないわよ。それよりも―――』
エリベルは油断なく異形たちを見据える。
全く数の減らない異形たち。ウロヌスが血の雨を降らし、その数は増える一方だ。
だが、それだけでは、今の俺達を相手にするには役者不足。
全身武装化+成体状態の俺に、全盛期の力を取り戻したエリベルを相手に、数だけで圧倒出来る筈もない事は、相手だって重々承知のはずだ。
それに、何より気がかりなのは、今のこの戦況だ。
祭壇の隅に横たわるギブルを見る。
異形たちは俺とエリベルに狙いを定めているのか、傷ついたギブルやグウィブには目もくれない。
それはそれで、助かる。
『……』
仮にも神災龍王であるギブルをあそこまで傷つけた異形たちが、この程度の筈が無い。
仕掛けて来るとすれば、そろそろだと思うけど……ん?
「ギッ……ギギィィ……」「オオォォォ……」「シューシュー……」
「がっ……ガガガガガガガ………ッッ」「ブルゥゥウウウ………」
異形共が急におかしな行動をとり始めた。
体を震わせ、手のある者は頭を抱え、何かに苦しむ様に悶えだしたのだ。
『これは……』
この現象には覚えがある。
先ほど見せて貰ったギブルの記憶の中でも、異形どもはこうして動きが鈍くなった。
そして、ギブルが敗北したのはその後だ。
『来たわね……』
『ああ』
―――異形たちの真の“能力”。
それが発動したという事だ。
「ギ………ギィ……」
異形共の震えが―――止まる。
「―――ギィィイイイイイイイイイイイイイイッッ!!」
次の瞬間―――ボコボコボコボコ!っと異形たちの体が膨張してゆく。
より大きく、より禍々しく、より凶悪なフォルムに。
更に黒かった体色は、それぞれ個体ごとにその色合いが豊かになっている。
クラゲの様な個体は白色に、カマキリ型の個体は緑がかった色合いにと言った具合に。
そして何より、先程までは感じられなかった“魔力”や“魂”の気配がハッキリと感じ取れるようになった。
「ギギィィィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!!ギギギッギギイイィイギギギッギギギギイッギイイイイイイイイイイイイイッッ!!」
カマキリ型の異形が奇声とも叫び声ともつかない声を上げる。
それに倣う様に他の異形どもも叫び声を上げる。
「“千群氷柱”!」
『ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!』
俺とエリベルは即座に攻撃を敢行。
億を超える氷柱の嵐と魔力の渦が、異形共に降り注ぐ。
ズドォォォオオオオオオオンッッ!!
ブレスが異形どもを飲み込む。エリベルの氷柱も全弾命中。
さて、どうなった?
煙が晴れる。
「ギッシッシッシッシッシ!!」「オオオ……オオオオオオオオオオオオッッッ!!」「シャー!シャシャシャシャシャシャシャッッ!!!!!」
―――異形共は“無傷”だった。
かすり傷一つ、負っちゃいない。
マジかよ……。
実際に目で見ると、こりゃ衝撃だわ。
「ギョアアアアアアアアアアッッ!!」
煙の中からサメに手足をくっつけたような大型の異形が俺達に突っ込んでくる。
―――速いっ!
回避が間に合わず、咄嗟に武装化した腕でガードする。
だが、
バキンッッ!!
なっ―――武装化した皮膚をかみ砕いた!?
おいおいおい!どんだけ力が、上がってんだよっ!?
『アース!』
『くそっ!はな―――れろおおおおおおおおおおおっ!』
このままではまずいと判断した俺は、超至近距離でブレスを発射。
腕ごと巻き込む形で、サメ型に向けて放つ。
「ギギョアアアアアアアアアア!!」
それでもサメ型の異形は腕を喰らい付いて離さない。
『―――っ!ぐ……ァァアアアアアアアアッッ!!』
ついには武装した部分を無理やり剥がす事で、ようやく引き離すことに成功した
ベロンと武装化していない憑代の肉が露わになる。
くっそお……痛ぇ……。
憑代とはいえ、この体の感覚は本体と共有している。
感じる痛みは本物だ。痛覚を遮断すると、戦闘力が落ちるから仕方ないとはいえ、こういう時は辛いな。
「ギョルルルルル……」
ブレスによって吹き飛ばされたサメ型は、俺の鎧をぺっと吐き出し、再びこちらを睨み付ける。
その体は、先程と同じように無傷だった。
俺のブレスを超至近距離でまともに浴びたにも関わらず、だ。
『……なるほどね、改めて見ると、反則的ね、こいつらの力』
エリベルもその結果に呆れたように呟く。
『だな……正直、実際見てみるまで半信半疑だったけど……』
ギブルの記憶を除いてみた、異形たちの能力。
それは―――。
『こいつら―――俺達の力に対して“耐性”が付いてやがる』
そう、それこそが異形共の“能力”。
闘った相手の能力を学習し、“耐性”を作り上げ『天敵』となる事。
俺やギブルの『暴食』ですら、耐性を付けてしまう程の、驚異の成長速度、適応性。
そもそも無敵の『暴食』に対し、耐性なんて生み出せるのかとも思ったが、現実にそうなっている以上認めるしかないんだろう。
全く恐ろしいにも程がある。
生まれたての状態でも王級クラスの力を有しているのに、超速再生に、ウロヌスの不死性、更に時間が経つと、相手に特化した生命体へと進化を遂げる。
厄介に程がある。
うちのギジーのゴーレム作成と似たような能力だが、そのレベルは文字通り次元が違う。
正直に言えば、これをやられる前に、異形どもを何とかしたかったけど、進化してしまった今となっては後の祭りだ。
『エリベル』
『ええ―――“水癒”』
エリベルの治癒魔術によって傷ついた腕は即座に完治。
更に、武装化された肉体に再び魔力を滾らせる。
劇的に能力が向上するが、それによる身体的負荷が無いのが、憑代の最大のメリットだろう。
さあ、ここからが本番だ。
相手が自分達の力に対して、“耐性”をつけたならば、仕方ない。
アレを―――“切り札”を使う時が来たようだ。
意識を集中する。
―――と、そこで俺は気付いた。
『―――っ!?』
なっ、これって―――っ。
『エリベル!』
『―――ええ……っ』
エリベルもそのことに気付いたのだろう。
その表情は苦い顔をしていた。
異形たちの魂の気配が濃くなった今だからこそ、分かる。
いや、正確に言えば、戦いに集中していて気付かなかった。
ウロヌスの生み出した異形が―――地上にも居たという事に。
くそっ!なんでこんなことに気付かなかったんだ!
俺やエリベルだからこそ、対抗できてるが、異形は自力でも王級クラスの力を持ってる。
その上、耐性を付けられるほどに進化していたとしたら……。
『アン達が……危ない』
俺のその不安を具現化するかのように、地上で巨大な爆音が響き渡った。
あれはファーブニルの方角。
アンは……ウナ達は大丈夫なのか?
一度、思念通話で―――
『アースッ!』
不安に駆られる俺に、エリベルの叱咤が飛ぶ。
『情けない表情してんじゃないわよ。どのみち、やる事は変わんない。そうでしょ?』
『でも……』
情けない声を上げる俺に対し、エリベルがふっと笑う。
『信じなさいよ、アンタの眷属の強さを。私にそう教えてくれたのは、アンタでしょうが』
『――――っ!』
エリベルの言葉で目が覚める。
ああ、そうだったな。
アイツらは俺の眷属だ。
俺が信じてやらないでどうする?
『悪い、エリベル。情けない姿を見せた』
『いいわよ。というか、普段のアンタ以上に、情けない存在なんていないんだし。それよりも、ちゃんと指示通りに動いてよね。“頼りに”してるんだから』
『―――ああっ!』
つーか前半部分って褒めてないよな!?
まあ、エリベルの言うとおりだ。
いくら相手が強かろうと、やる事は決まってる。
地上に手を回してる余裕などないのだ。アン達を信じるしかない。
俺は再び、意識を目の前の戦いに集中させた。
―――ドクン。
◇◆◇◆◇
そして、アースの予想通り、地上でも激闘が繰り広げられていた。
帝城廊下にて―――。
「ヒャッハー!皆殺しだあああああ!」
黒ハイエナのリーダであるモヒカンのサブ(本名サブリゲス・セイヴェルン)は、世紀末な叫び声を上げながら、一匹しかいない芋虫型の異形へと斬りかかる。
風属性の魔術を付与させた将級の威力を誇る攻撃。
それは、芋虫型の皮膚を易々と切り裂く―――筈だった。
だが、
―――ガキィィイイイン!と、芋虫型の皮膚はサブの剣を弾いた。
傷一つつかず、反動で手がしびれる。
「なっ、どういう事だぁ!?なんで、攻撃が効かねぇ!?」
怪訝そうな顔をするモヒカン(既婚)に対し、芋虫型は「え?なに?今、攻撃したの?気付かなかったわー」と言わんばかりに涼しげな表情を浮かべる。
多脚を使い器用に、体をポリポリ掻いている余裕だ。
「ギッギッギッギッギー!」
多分笑っているのだろう。
煽る煽る。
「くそがああああああああッ!」
再び攻撃を仕掛ける。
だが、
「ギッギ―――ギッッ!!」
芋虫型は、ヒュッと体を捻り、高速移動。
堅いだけでない。
速さも、先程までとはけた違いに上がっている。
「兄貴ィ、あの野郎、なんかさっきよりも素早くなってますぜぇ……っ!?」
「どうなってんだよ、さっきまで戦ってたやつとは別人みてぇだ」
「ぐぬぬ……」
突然の異形の変化に戸惑う黒ハイエナの牙。
その隙を芋虫型は見逃さず、突撃を仕掛ける。
「ギッギッギッギッギィィイイ!!」
狙いはモヒカン。
躱せない!
「あっ、リーダー!危ないんだなあ~!」
!?
モヒカンを突き飛ばし、刺青デブが芋虫型の突撃をもろに受ける。
「ごふっ……!?」
内臓が潰れ、血を吐きながらその場にうずくまる刺青デブ。
いや、耐性を付けた異形の突撃をまともに受けて、原形をとどめているだけでも称賛に値すると言うべきか。
デブゆえの素晴らしい肉体だ。きっと脂肪がクッションになったに違いない。
「デ、デブーダ!しっかりしやがれ!くそっ!傷が深けぇ!」
「さ、最後に……お腹いっぱいご飯を食べ……させたかったんだな―――妹に……ガク」
そう言って、刺青デブ(本名デブーダ・ピザコォールア22歳)は気絶した。
「くそがああああああ!デブーダーアアアアアアア!」
「デブーダの敵討ちでヤンス!」
「やっちまえええええー!」
仲間の無念を晴らす為(死んでない)、他のメンバーが一斉に攻撃を仕掛ける。
だが、芋虫型は「お前らいい加減キャラも言動も濃すぎてウザったいんじゃあああ!」とばかりに、体を回転させ、黒ハイエナたちを弾き飛ばす。
見た目はデカい芋虫だが、その力は王級。更に、黒ハイエナたちへの“耐性”も獲得済み。
彼らに勝ち目など無かった。
いや、そもそもたった五人で王級魔物を相手にここまで奮闘したことを称賛すべきか。
「ぐっ……がはっ……」
あっという間に傷だらけになり、その場に倒れ込む黒ハイエナのメンバー。
傍でその様子を見ていたシュヴァイン卿の表情にも絶望が宿る。
「ぬ……ぬっひぃぃぃ……」
「ば、馬鹿野郎……何やってんですかいダンナァ……アンタだけでも早く逃げてくだせぇ……っ!」
「わ、わわわ私に下々の者を見捨てて逃げろと言うのですかぁっ!?わ、わわ私は高貴なる貴族なのですよぉ!我先に逃げる様な誇り無き行いなど、で、出来る筈が無いでしょうがぁ!」
涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃに濡らし、ついでにズボンにもシミが出来ているが、それでも豚に逃げるという、選択肢はなかった。
否、正確には彼らを見捨てるという、選択肢が、だ。
危険を冒してまで、自分を助けに来た誇り高き冒険者達。
どうしてそんな彼らを見捨てられようか。
騎士達と共に、必死に体を動かし、彼らを引きずりながら逃げようとする。
だが、彼らの足掻きをあざ笑うかのように、芋虫型はシュヴァイン卿へと接近した。
ぼたぼたと、芋虫型の口から涎が滴り落ちる。
「あ……あぁあ……ああ……」
「ギッギィィ……」
ゆっくりと、芋虫型が口を開く。
―――死。
その言葉が、シュヴァイン卿の脳裏をよぎる。
そして―――ぐちゃりと、鈍い音が、響き、渡った。
◇◆◇◆◇
帝城中庭にて―――
ウナとドスは息も絶え絶えに状況を確認する。
傷だらけの自分。
息も絶え絶えな姉。
無傷でこちらを見つめる八体の異形たち。
状況は、はっきり言って最悪だ。
「ハァ…ハァ…ドス、無事ですか?」
「……ん、なんとか」
最初は順調だった。
力こそ王級の魔物達だったが、その攻撃は単調で読みやすく、経験を積んだウナやドスの相手ではなかった。
だが、彼らが姿を変化させた途端、状況は一変した。
攻撃はこちらの防御を易々貫くほどに鋭さを増し、速度は目で追うのが困難な程上昇し、防御は自分達の攻撃は一切通用しなくなる程に堅くなったのだ。
悪夢以外の何物でもない現状にドスは辟易した。
「……んっ」
肩で息をしながら、ドスは考える。この状況を打開する術を。
どうすればいい……?
ベルクを担いで逃げるか?
いや、あの巨体を背負って逃げるのは困難だ。
ダンジョンに援軍は?
思念通話が通じない状況で、どうやって自分達の危機を伝える?
焦りばかりが広がる。
普段の冷静な思考を奪われる程に、ドスは追い詰められていた。
何か、何か方法はないか―――。
「―――ス!ドス!しっかりなさい!」
「―――っ!?」
「ビギャアアアアアアッッ!!」
一瞬の油断。僅かな思考の乱れ。
その隙を突き、土蟲型の異形が、ドスに急接近していたのだ。
くそっ。何という間抜けさだ。
「ドス!くっ……」
ウナは距離が離れて過ぎている。
魔術によるサポートも間に合わないだろう。
拙い、躱、せ、な―――。
「―――ぬううううううううんっ!」
だが、意識の外。
背後から現れた拳によって、土蟲型の異形は吹き飛ばされた。
それを行ったのは、
「…ん、ベルク!?」
「他の誰に見えるのじゃ……?」
そう、ドスに窮地を救ったのは、傷ついて倒れていた筈のベルクだった。
とっさにウナも近づく。
「ベルク、大丈夫なのですか?」
「ふぅー……あまり大丈夫とは言えんがのぅ……。じゃが、魔石を備えていて正解じゃった。なんとか動ける程度には、回復したわい」
空になった魔石袋を揺らしながら、ベルクは説明する。
それだけ深い傷だったわけだが、その理由がアースによる貰い事故と言うのは少々―――いやかなり悲惨なところだ。
だが、ベルクが動ける様になったのは、ウナ達にとって僥倖だった。
ベルクが自主的に動けるようになったのならば、選択の幅は大きく広がる。
守るだけではなく、三人でこの場を切り抜け離脱する事も可能になったという事だ。
希望が見えてきた。
「……ん、ウナ姉、ベルク。僕の奥の手で道を開く」
「アレをやるのですね……?分かりました、では、私が補助を―――」
直ぐにドスはこの場を切り抜けるための作戦を考え付く。
傷だらけとはいえ、両手が使え、魔力もまだ余裕がある今ならば、成功率は高い筈だ。
―――そう考えた矢先だった。
―――パリィィイイイン!とガラスが砕けるような音がした。
「……ん、今の音は……?」
ドスだけでなく、ウナやベルクも訝しげな表情を浮かべる。
すると今度はガラスのような欠片が、ドスの目の前に降ってきた。
……これは何だ?
無数のガラス片は、地上に落ちる前に空気に溶け込んで消えてしまう。
何らかの魔術……?異形たちの仕業か?
そう思って彼らを見るが、異形たちも訝しげに周囲を警戒するばかり。
彼らの仕業じゃない?
では一体―――?
見上げれば、そこには一人の女性が宙に浮かんでいた。
更にその周囲には奇妙な形をした棺が彼女を囲む様に浮かんでいる。
あれは―――。
「……ん、オリオン……っ!?」
「なっ、どうして彼女がここに―――っ!?」
そこに居たのは、ウナとドスの護衛対象。
盲目の聖女、『聖櫃』オリオン・カーラー。
彼女がなぜ、空に浮かんでいるのか?
いや、そもそも今の今まで、彼女は一体どこで何をしていたというのか?
疑問に思うより先に、体が動いた。
彼女の周囲に浮かんでいた棺が消えると同時に、彼女は重力に従い落下したのだ。
「……ん!」
異形共の妨害を躱しながら、何とかドスはオリオンをキャッチする。
オリオンはびっしりと脂汗を掻き、その顔色はとても良いとは言えない。
「……ん、オリオン、大丈夫?」
「はぁ……はぁ……すい……ません……」
何に対して謝っているのか?
疑問を抱くドスに、オリオンは言う。
「……“聖櫃”の…維持が……もう……げん……かい……で―――」
そう言って、オリオンは気を失った。
オリオンは何を言いたかったのだろうか?
そもそもなぜ突然消え、そしてまたこの場に突然現れたのか?
疑問は尽きない。
だが、一つだけはっきりと分かることがある。
お荷物が増えた、という事だ。
「……ん」
状況を考えるのなら、さっさと捨てて逃げるのが、一番いい選択肢だろう。
帝都がこのような状況下であれば、大陸会議や今後を考えても、オリオン一人を見捨てたところで、大した影響があるとは思えない。
……だが、なぜかその荷物を捨てることが、ドスには出来なかった。
「……ん、本当に、変な、感覚……」
自分達を見つめる八体の異形。
嘲笑のような声を上げながら、異形どもはゆっくりとドス達に襲い掛かった。
鮮血が―――舞った。
そして、帝城の屋上にて―――。
「あー、これはマズいなぁ……」
ぽつりと、そう呟いたのは、地味な見た目の女性レーナロイド・レイノルズだ。
「何がマズいのですか!―――というか、レーナ様!私、そろそろ限界なのですが!このままだと、私が死んでしまうのですが!?少しくらい手伝ってくれても―――ぐああああああっ!」
叫びも虚しく、魔女の騎士は異形の群れに吞み込まれてゆく。
多分死んではいないだろう。
曲がりなりにも、レーナロイドの認めた騎士だ。
そう簡単には、死にはしない。
腕が変な方向に曲がってるし、顔の半分が潰れかけてるし、ちょっと内臓が飛び出てるが、多分大丈夫だろう。問題ない。
それよりも、だ。
自らの騎士が異形たちにフルボッコされる光景を見ながらも、彼女の関心は別のところにあった。
それは先ほど感じた、魂の気配。
すなわち―――
「オリオンちゃんの……“聖櫃”の加護が解けちゃったかー……」
マズイなぁ、ともう一度、彼女は呟く。
聖女の、“聖櫃”の加護が、消えた。
その意味を、彼女は正しく理解していた。
オリオンの“聖櫃”とはいわば『蓋』だ。
あらゆる悪意や災厄を封じ込める結界。
彼女の力があったからこそ、被害はこの程度で済んでいた。
それが今、砕けた。
「……はやく決着をつけなよ、エリちゃん。じゃないと……後始末が大変になるから」
すこしばかり冷や汗を浮かべ、眼鏡のズレを直した。
◇◆◇◆◇
そして、再び帝都上空黒い祭壇にて―――。
『アース……』
『分かってる』
そろそろ、良いだろう。
俺は、今まで温存していた“あの力”を解放する。
というか、出し惜しみしてられる状況じゃないしな。
エリベルも了承してくれたし、問題はない。
「あはははは!いまさら何をするつもりだよ?お前らの攻撃は、僕の異形には一切通用しないんだよ?無駄な抵抗なんてしないで、さっさと異形たちに殺されてくれないかな?僕と姉さんの逢瀬の邪魔をしたんだ。なるべく苦しんで苦しんで、絶望の中で死ねよ」
先ほどから聞こえてくるウロヌスの煽りが最高にウザい。
エリベルも同意見なのだろう。
先ほどからこめかみがひくついている。
だが気にしない。
いくぞ―――ッ!
「ギッシャアアアアアア!」
突っ込んでくるカマキリ型に対し、俺はそれを発動する。
喰らいやがれ異形共、そしてウロヌス!
これが俺の切り札だ!
『力借りるぜ“ヤムゥ”!―――――“天爪”ッッッッ!!!!』
次の瞬間、俺の胸に埋め込まれた青い宝玉が光り輝く。
同時に現れるは、光り輝く巨大な鉤爪。
かつて、天龍の長ヤムゥが俺のダンジョンで披露した天龍の能力。
『オラアアアアアアッッ!!!』
直径百メートルを超える光の爪を俺は力任せに振り回す。
ザシュッ!ザシュッ!ザシュッ!と目の前に居た異形共をいとも簡単に切り裂く。
やっぱり、俺やエリベルの力に対して耐性は出来ていても、こっちは別の様だな。
これは、俺の力じゃない以上、せっかく作り上げた耐性も意味がない。
その光景に、ウロヌスが驚愕する。
「なっ―――馬鹿なっ!なんで!?下っ端だろうが、お前も、姉さんと同じ地龍だろう!なのに、どうして、ヤムゥの力が……天龍の力が使えるんだよ!」
うん、良い反応だな。まあ、そうでなくっちゃ、こっちも隠してた意味がない。
というか、下っ端って何だよ?
一応、俺、そのギブルの息子なんだけど?
あ、もしかして千年封印されてたから、その間に地龍が滅んだことに気付いてないのか。
まあ、それはどうでもいいか。
ともかく、これが俺の切り札その一。
“天龍の力”だ。
以前、ヤムゥが俺のダンジョンを破壊していった際、迷惑料代わりに置いていった力の結晶。
それを、出撃の際、この地龍型憑代ゴーレムに仕込んでおいたのだ。
更に結晶に魔力を込める。
『―――“天翼”ッ!』
更に、背中から生えるは二対四枚の青白く光り輝く美しい翼。
ばさりと、翼をはためかせて俺は空を飛ぶ。
おー、これが空を飛ぶって感覚か。
ふわふわして、不思議な感覚だな。
ぶっちゃけ、ダンジョンに籠ってる俺には不要な力だけど、今回は助かった。
「地龍が空を飛ぶ……だと……っ!ふざけるな!ふざけるなあああああああ!なんだそれは!お前と言う存在は、地龍を、姉さんを侮辱している!殺す!ぜったいに殺してやる!」
俺への怨嗟を叫びながら、体を震わせるウロヌス。
別にいいじゃねーかよ、地龍が飛んだって。
価値観の狭い野郎だ。
世の中には剣術を使う蟻や、龍よりも強いスライムや、万年発情してる変態アンデッドだっているんだぞ?
だったら、空飛ぶ地龍だっていても良いだろうが。
ま、翼も爪も、借り物だけどな。
回数制限だってある。油断は出来ない状況には変わりない。
ちなみに、その内の一人は俺の背中に跨って、もう一つの切り札を発動させるための詠唱中だ。
『ウオオオオオオオ!!』
黒い祭壇を眼下に、そのまま異形どもとの空中戦に突入する。
地龍の力、天龍の力、そして賢者の力。
それが全て合わされば、どれ程の力が生まれるのか見せてやるよ、死龍ウロヌス。
借り物の力に、偽物の身体、ハリボテの精神。
なのに、このドヤ顔。
皆さん、これが本作の主人公でございます。
あ、それと明日か明後日には続きを投稿します。




