24.VS死龍 群雄奮闘
毎度、遅れてすいません(´;ω;`)
前半はアースさん達、後半は他の人達の現状になっております。
久々に、あの人たちが登場!
帝都上空、黒い祭壇にて―――。
俺は堕ちてそれらに目を向ける。
『ギブル……?それに―――』
落ちてきたのは、ボロボロになったギブル。
そして―――首だけになったグウィブだった。
死んでる……のか?
精神が反転している影響なのか、こんなスプラッタな光景を見ても妙に落ち着いている。
『……………………あ、アース……か?』
突然頭の中に声が響いた。
えっ、ちょっと待て。今の声ってグウィブか!?
『グウィブ!?お前生きてるのか?』
控えめに言って死んでる見た目なのに。
『ギリギリ……な……。“頭”さえ……残っていれば私は死なん。……が、死に掛けである事は……否定せんがな……』
かすかだが、確かに魔力を感じる。
本人の言うとおり、本当にギリギリの状態なのだろう。
ひとまずよかった。とりあえず、治療魔法をと思ってエリベルの方を見る。
「アース、悪いけど、そっちを心配してる暇はなさそうよ」
『えっ』
何かが落ちてきた。
音を立てて、そいつらは着地する。
「ギギィィイィイイ」「ホーホーホーホー」「コロロロロロロロ……」「グルルルルル……」「カロロロロ」「こひゅーこひゅーこひゅー」「ギギャッガガガガガガガ!」
それは奇妙な黒い魔物達だった。
エリペディアの知識にもない奇妙な魔物。
『何だこいつら?』
「……少なくとも、友好的な連中ではないみたいね」
杖を構え、油断なく構える姿が実に頼もしい。
そしてその背後に回る俺すごくかっこ悪い。
「……ハァ…ハァ…あ、アース……」
『ギブル!?気が付いたのか?』
巨体となったその首をこちらに向けるギブル。
今更ながら、消えかけの状態でありながら、この重量を受け止めた黒い祭壇にささやかな称賛を送る。
もっとも祭壇の方は「ら、らめぇ、もう無理ッスよぉ……」とでも言う様に、どんどん足場を霧散させているけど。もうちょい頑張れ。ほら、魔力あげるから。
「逃げ……なさい。……そいつらと戦っては……いけません。そいつらは―――」
「ギッシャアアアアアアアアアアア!!」
ギブルが言い終えるよりも先に、黒い魔物の一体が襲い掛かってきた。
エリベルが横なぎに杖を振るう。
「“聖域干渉”」
「ギギャッ!?ギギ……ギ―――ゴボァッ!!」
襲い掛かってきた魔物も含め、目の前に居た魔物全てが魔力回路を暴走させられ自爆した。
“聖域干渉”による、魔力の“支配”と“干渉”だ。
どんな魔物であっても、魔力と魔力回路の支配権を奪われればひとたまりもない。
ホント、反則だよなこの術式。
『やったか?』
だが、エリベルは首を横に振る。
「……どういう事?」
エリベルは、信じられないといった声を上げる。
なんと黒い魔物達は、数秒の内に肉体を再生し、先程までと変わらない姿に戻ったのだ。
だが、それは本来ではありえない事。
「“聖域干渉”は完璧に発動したはずだけど……?」
じっと、エリベルは黒い魔物達を見据える。
もう一度、杖を横なぎに振るう。
聖域干渉が発動する。
だが結果は同じ。
魔物達は、肉体を爆散させるも、すぐに元通りに戻った。
「……魔術による回復?いいえ。私の“聖域干渉”が発動してる以上、こいつらは魔術そのものを使うことが出来ないはず……。肉体そのものの再生能力が優れているのかしら。なにか特別な術式が埋め込まれてる?それとも―――」
ブツブツと自分の考えを呟くエリベル。
すると上空から声がした。
「―――誰だい、君たちは?」
見上げると、そこには肉の塊が浮かんでいた。
ボコボコに膨れ上がった黒い肉の塊。
そうとしか表現のしようがない物体だった。
「さっきとは随分見た目が違うわね、死龍ウロヌス」
「そんな事、どうでもいいだろ。それよりも、僕の質問に答えなよ。君たちは誰なの?誰の許可を得て、倒れてる姉さんの隣に居座るなんて暴挙を犯しているのかな?」
「私達は―――」
「ああ、いや、そんな事はどうでもいいか。それよりも、僕の姉さんから早くはなれろよ。ていうか、消えろ、目障りだ、死ね」
一方的にそう言うと、ただでさえ膨れ上がったウロヌスの体が更に膨れ上がった。
ボコボコボコボコボコッッ!っと気持ち悪い音を立てて、肉体が膨張する。
更に全身から血が噴き出したのだ。
『なっ……!?』
祭壇に血の雨が降り注ぐ。
一瞬、肉体の膨張に耐え切れなくなって血が噴き出したのかと思ったが、違う。
その浅はかな考えは、次の光景で否定された。
なんと降り注いだ血から、先程と同じ様な魔物達が次々に生まれてきたのだ。
虫のような魔物。四足歩行の獣のような魔物。
大きさも種類も様々な魔物達の軍勢が俺達を取り囲むように生まれ続けた。
数秒の内にその数は百を超えた。
『何だこりゃ……?魔物を生み出す能力か?』
「そう判断するのは、ちょっと早計かもしれないわよ?なぁーんか、こいつら“生きてる”って感じがしないわ」
気味が悪いわね、とエリベルは露骨に顔を顰める。
それには俺も同意だ。
こいつらからは“魂”の波動の様なものが感じられない。
死者とも違う。
“奇妙”、としか言いようがない魔物達。
『でも、とりあえず何とかするしかないだろ。幸い、ウロヌスは浮かんだまま攻撃してくる様子は無いし』
「……そうね、んじゃ―――往くわよ!」
一瞬、何かを考える素振りをしてエリベルは頷く。
『こっから思念通話で指示を出すわ。戦闘中は私の指示に従って貰うわよ?いいわね』
『おっけー』
エリベルが俺の背中に乗っかる。
そう言えば、コイツと組んで戦うのって、これが初めてか。
背中を合わせて戦うってのとはちょっと違うけど、これはこれで嬉しいもんだな。
「ギッシャアアアアアアア!!」
っと、そんなこと考えてる余裕はないか。
さあ、戦闘開始だ!
◇◆◇◆◇
最初に俺達に襲いかかってきたのは、昆虫の様な節を持つ蛇のような魔物だった。
裂けんばかりに口を開き俺たちを飲み込もうとする。
『アース右に避けて!』
『了解!』
先ほどまで俺達がいた場所を蛇の魔物が通過する。
すれ違いに、エリベルが風魔術をたたき込む。
「シャアアアアアアアアッッ!?」
叫び声をあげて、蛇の魔物は吹き飛ばされていった。
それも束の間、次は左右から蟹の様な魔物と、蟷螂のような魔物が迫る。
『飛んで!』
『おう!』
上へジャンプして回避。
だが、そこには羽の生えた牛のような魔物や、昆虫を派手にしたような魔物が待ち構えていた。
その数二十体以上。
飛べる奴もいたのかよ!
『アース、ブレス!頭上を薙ぎ払う様に!』
『ちっ!―――ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!』
俺はブレスを発射し、これを殲滅する。
だが、結果はエリベルの時と同じ。
魔物達は数秒すれば元に戻ってしまった。
「キリが無いわね………」
ぽつりとそう呟き、エリベルは杖を水平に構える。
「―――“暴虐の災嵐皇”」
生み出されるのは全てを飲み込む竜巻。
法王級風魔術“暴虐の災嵐皇”。
瞬間最大風速百二十メートルを超える破壊の渦。
それは周囲に居た魔物達は次々に竜巻へと飲み込まれる。
更に、
「“三頭水龍”」
その竜巻に乗せて、もう一つの魔術を発動させる。
それは風へ混ざり、無数の水と風の刃を生み出し、魔物達を一体残らず切り裂いた。
でも、
『エリベル!これじゃあ―――』
また再生しちまうんじゃ―――そう言いかけたが、
『うるさい!黙って見てなさい!はあああああああ……ッッ!!』
エリベルが杖を掲げる。
すると、今度は彼女の周囲に、“土”が生まれだした。
その土は風と水に混ざり、泥を作り出す。
『固まれッ!』
エリベルは、魔物達の肉片と混ざり合った泥を一箇所へと集中。
不気味な肉団子が完成する。
『“錬金”!』
更にそれを錬金で金属へと加工。
巨大な鉄球が出来上がった。
「ぎ……ギギィイイ……」「おぉぉおおおおおお……」「ガァァァアアアア……」
魔物達のうめき声が漏れる。
成程、こうして拘束すれば、いくら再生しようが関係ないわな。
『まだよ―――“圧縮”!』
エリベルがぎゅっと手を握る。
すろと、透明な手の様なものが鉄球を覆う様に現れる。
ギュギュギュッ!と魔物達を封じ込めた鉄球が小さくなってゆく。
どれだけの圧力が込められているのだろうか?
なんと、直径十メートル近くあった鉄球はソフトボールサイズまで圧縮されてしまった。
「ほら、返すわよ―――“錬金砲弾”!」
「―――っ!」
クイッとエリベルが杖をウロヌスに向ける。
それに合わせる様に、圧縮された鉄球は凄まじいスピードでウロヌスへと放たれた。
ズンッッ!!!と鈍い音を伴って、鉄球はウロヌスを貫通。
そのまま空の彼方へと飛んで行った。
すげぇ……。
もう、これ、俺要らないんじゃないかって言うくらいエリベルが活躍してる。
「へぇ……人間のくせに、中々やるね」
少しばかり興味が出たと、言う様なウロヌスの声。
それに対しエリベルははっと鼻で笑う。
「こんな雑魚共けしかける暇があんなら、さっさと降りてきたらどうなの?ふわふわ毛玉みたいに浮かんでないで、さっさとぶっ飛ばされに来なさい」
おいいいいいい!
何、お前、相手を挑発するような事言ってんの!?
「アハハハハハハハ!僕を相手にそこまで啖呵切れるんだ!人間のくせにさ!凄いね君。凄い調子に乗ってるね!ああ、本当にうざったい!うざったい、うざったい、うざったい、うざったい、うざったいぃぃぃいいいいいい!―――死ねッッッ!!」
叫びと共に新たな魔物達が生み出される。
「異形共!その調子に乗ってる人間と、その騎龍を殺せッ!ズタズタに引き裂いて、ぐちゃぐちゃに潰して殺し尽くせええええええええッッ!!」
「はっ!語彙が貧困だこと!……それよりもそいつ等、“異形”って言うのね。成程、言い得て妙ねっ」
迎え撃つエリベル……と、俺。
え、ていうか俺、騎龍扱い?
一応、俺の方が主なんだけど。
というか、そこに倒れてるアンタの姉の息子なんだけど……。
いや、まあ、言わないけどね。
「姉さんに、僕のこども産ませたい」的な発言するド変態のシスコンだし、言わない方が賢明だ。
『アース、右に避けて!』
『……ん、お、おうっ!』
いかん、いかん、気が逸れた。
戦いに集中しなきゃ。
それにしても……。
『……』
俺はちらりと、倒れているギブルの方を見る。
身体の至る所が食いちぎられ、ボロボロになったギブル。
この状況からも、ギブルもこの異形たちと戦ったのは間違いない。
そして―――ギブルは敗れた。
この世界の頂点。神災龍王のギブルが、だ。
つまり、それだけの“何か”を、この異形たちは持っているという事だ。
だが、その力とは一体何なのだろう?
『エリベル』
『分かってるわよ!今、記憶送信で、ギブルから戦いの記憶を送って貰ってるわ』
お、おう……流石だな。既に、手を打ってた。
『―――来たわ!』
あ、俺の方にも送られてきた。
ギブルの戦いの時の状況が――――って、何だこれ!?
これが本当だとしたら……っ。
『成程……そういう事ね。納得したわ』
動揺する俺とは対照的に、エリベルは随分と冷静だった。
『アース、確かめたいことがあるわ。悪いけど、私の指示通りに動いて頂戴』
『言われなくても、従ってやるよ。俺が独断で動くよりもよっぽど堅実的だ。ぶっちゃけいますぐ逃げ出したいけどな!』
『素直でよろしい。それじゃあ、これから、アンタにはひたすら動き回って貰うわ。ボロボロになるまで走り回って貰うわよ!』
『―――ッ!痛いのは嫌だけど、上等だ!やってやるよ!』
これが本当だとしたら、どのみち逃げ場なんてないしな。
それに感覚は共有してるとはいえ、この体は憑代だ。いくらだって傷ついてやるよ!
『ヌオオオオオオオオオオオオオッッ!!』
雄叫びと共に、俺達は駆けだす。
更に戦いは激しさを増してゆく。
―――そして、闘っていたのは、俺達だけではなかった。
眼下に広がる帝都にも、ウロヌスの牙は突き立てられていたのだ。
同時刻、帝城にて―――。
皇帝カグリアスは、苦痛に顔を歪めながら城内を歩いていた。
彼の傍には、鬼族の老人リンウを始め、数人の騎士たちが付き従っている。
「くそっ!民や代表たちの避難はどうなって―――ぐ……っ!」
「落ち着けカグリアス!そんなんでは、また傷口が開いてしまうわい」
駆け寄って来た若い騎士が現状を報告する。
「げ、現在各国の代表方は地下の結界内に避難しております。また、城下町に置かれましては我らが騎士団と冒険者ギルドが奮闘中との事です。お二人も早く結界内に避難を―――」
「黙れ!この国の一大事に、どうして余だけが安全な場所で、のうのうとしていられようか!それよりも避難が遅れてるところはどこだ!」
その余りの気迫に、ひぃっと悲鳴を上げてのけぞる若い騎士。
経験の浅い騎士には、カグリアスの覇気は強すぎた。
「余は皇帝だ。たとえ傷つこうとも、民に背を向ける事だけは出来ぬ……っ!」
皇帝は国の力の象徴。
力があるのにどうして、自分一人だけが、逃げることが出来ようか。
だからこそ、彼は王なのだ。
普段は仕事をさぼってダンジョンに潜っていても、成すべき事はきちんと成す。
だからこそ、彼は皇帝として君臨してきた。
未だに吞まれる若い騎士に変わり、別の騎士が現状を報告する。
「げ、現在中庭付近にて逃げ遅れた者たちが――ー」
だが、言葉は最後まで続かなかった。
その前に、彼の傍の窓ガラスを砕いて三体の異形が侵入してきたのだ。
「ギッシャアアアアアアッッ!!」「ゴアゴアゴアッ!!」「ブロロロロロロロ」
そう、ウロヌスの血の雨が降り注いだのは、黒い祭壇だけではなかった。
その血の雨は帝都の至る所に降り注いでいたのだ。
それは異形へ変わり、無差別に悪意を振りまく厄災となった。
「何だこの化け物どもは?一体どこから……?」
「へ、陛下!お下がりください!ここは我らが――ガハッ!?」
前に出ようとした若い騎士が殺される。
「ちっ!お前たちは下がれ!余か、リンウでなければ相手にならん!」
幾度となくファーブニルに挑み、戦い抜いてきた歴戦の皇帝は即座に目の前の脅威の力量を察知する。
その結果、敵は少なくとも、王級以上の力を有していると判断。
それが三体。護衛の騎士達では話にならない。
腰に下げた魔剣グラムを引き抜く。
「病み上がりだが、そうも言ってられんな。で、リンウよ。こいつらの正体については見当がつくか?」
「……すまんが、分からぬな。ただまあ―――」
そう言ってリンウは空を見上げる。
目に映るのは、黒い祭壇、そして巨大な黒い肉塊。
「アレが関係しているのは間違いないじゃろうて」
「だろうな……。まあ、いい。こいつらを殺して、それから調べればいい!」
「はっ、道理じゃ!」
にやりと、カグリアスとリンウは凶悪な笑みを浮かべる。
お互いに病み上がりの体を引きずりながら、カグリアスとリンウは異形たちへと斬りかかった。
また、帝城中庭付近では―――。
「ギッギッギッギッギィィイイ!!」
「ヒイイイイイイイイ!!なんなんですか!この魔物は!お、お前達!早く逃げますよぉ!ブッヒイイイイイイイ!!」
醜く喚く豚が、目の前の芋虫型の異形を相手に腰を抜かしていた。その股には若干のシミが出来ている。
彼の名はシュヴァイン卿。大陸会議に参加していた貴族の一人だ。
他の大陸会議参加者たちは逃げ終えているというのに、なぜ彼だけが未だに取り残されているのか?
それは他の代表者や、闘えない者たちを優先して結界内へ避難させるのを手伝っていたためだ。
その所為で、自分達が逃げ遅れてしまったのである。
ここに居るのも、傷ついたメイド達を避難させるための殿を務めていたためだ。
彼は優しい豚さんなのだ。
「お下がりくださいシュヴァイン卿!ここは我等が食い止めます!貴方に拾われたこの命、今ここで報いさせていただきます!」
「そうです!貴方に何かあっては、奥方や孤児院の子供たちに何を言われるか分かりませんからな!ここは私達に任せて、先に逃げて下さい!なぁに、直ぐに追いつきます!」
そんな感じで、死亡フラグを連発する彼の騎士二人。
「な、なぁにを言っているのですか、貴方達はあああ!貴方達は、私の下僕なんですよぉ!勝手に死ぬなんて、許すわけがないでしょう!生きるのですよぉ!ワタクシと共に意地汚く生きて、あの子供たちの笑顔をもう一度見るんですぅ!これは命令です!ぬっふううう!」
死ぬのなんて許さない。
自分と共に生き延びるのだ!
豚は騎士たちにそう命じた。
「「―――っ!はっ!シュヴァイン卿の身心のままに!」」
感極まったように、涙を拭う騎士二人。
見た目以外は実に美しい主従関係だ。
「ギッギッギッギッギィィィィイイイイイイッッ!!」
だが、目の前の巨大な芋虫型の異形は、そんなの関係ねぇ!つーかうぜぇ!と言わんばかりに、三人に襲い掛かる。
力関係は明白。
三人は仲良く挽肉になる筈だった……。
だが、三人へ激突するその寸前に、芋虫型の異形は、背後から現れた数人の男達に殴りつけられた。
!?
吹き飛び、壁に激突する。
一体誰が?
振り向いた先に居たのは―――。
「ヒャッハアアアアアアアア!クリィィイイン、ヒットオオオオ!」
「さっすが兄貴っすねぇ!オラアア!死にやがれ芋虫があああ!」
「ヒャッハッハ!こっちにも生存者がいたぜぇ!さあ、避難させよぉかぁ……!?」
「ヒヒヒ……コイツを使いなぁ、傷薬だ。楽になるぜぇ……!?」
そこに居たのは、モヒカン、刺青デブ、出っ歯のちび、眼帯の角刈り、渋いグラサンの五人で構成された見た目完全世紀末な冒険者パーティー。
魔術都市エンデュミオンのギルド長の護衛役として、城に呼ばれながら、見た目がNGという事で、大陸会議中ずっと控室でウノをしていた可哀そうな冒険者達。
彼らの名は―――“黒ハイエナの牙”。
魔術都市エンデュミオン所属のAランク冒険者パーティー。
日々のボランティアや実績が認められついに彼らはAランクとなったのだ。
彼らがここに居る理由は豚と同じ。
他の者たちの避難を率先して手伝っていたからだ。
そして聞こえた豚の悲鳴。彼らは直ぐに駆けつけた。
「ふ。ふひゅーふひゅー……あ、貴方たちは一体……?」
「俺達は“黒ハイエナの牙”。しがない冒険者パーティーさぁ……」
にやりと、凶悪な顔で更に凶悪な笑みを浮かべるモヒカン(既婚)。
「手ェ貸すぜぇ……シュヴァイン卿。アンタの噂は、魔術都市にも響いてるからよぉ……」
「そうだぜ!アンタみてぇな人間は、まだここで死んじゃいけねぇ!」
そう言って、シュヴァイン卿を庇うように、前に出るモヒカン(既婚)とグラサン(彼女持ち)。
「……すみませんねぇ、恩に着ますよ」
「構わねぇよぉ……困った時はお互い様さぁ……」
頭の上に「!?」を浮かべながら、彼らは武器を構える。
その姿はどう見ても悪役。だが、彼らはヒーロー。
弱きを守り、悪を挫く。
それこそが、彼ら冒険者の誇りなのだから。
だからこそ、モヒカン(既婚)は叫ぶ!
「野郎どもおおおおお!やっちまえええええ!」
「「「ひゃっはああああああ!」」」
「ギッギッギッギィィィイイイイイイイイ!!」
世紀末冒険者達は武器を持って異形へ挑む。
芋虫型の異形も上等だコラァ!やってやんよ!と言わんばかりに迎え撃つ!
まあ、見た目には、醜い豚と世紀末な人々がデカい芋虫を苛めてるようにしか見えないのだが……。
また、帝城中庭にて、ある姉弟は―――。
「……ん、姉さん」
「ええ、分かってます」
目の前に立ち塞がるは、八体の異形たち。
異形たちは笑い舌なめずりしながら、ゆっくりとドス達に近づく。
それを前にしても、人ならざる姉弟の気迫は微塵も衰えない。
「……ん、ベルク、守り通す」
後ろにはドスとウナの魔術で視えなくしたベルクがいる。
彼は未だに気を失ったままだ。
ダンジョンとの連絡が取れない以上、この場に彼を留めて置くにはこれが一番の安全措置だ。
「オロロロロロロロォォオオオオオオ!!」
「……ん!遅い!」
拳に風を乗せて、ドスは近づいて来た異形を殴りつける。
「はあああああ!」
更にウナの作り出す水の鞭が、異形共を拘束する。
流石に完全に動きを封じることは出来なくとも、サポートとしてはそれで十分だ。
「ドス!」
「……ん、ウナ姉、ナイス」
絶妙のコンビネーションを発揮し、二人は異形相手に奮闘する。
ベルクを守る。それは父から頼まれた、至上の命令。
だが、闘いながらも、ドスは心の中でこうも思っていた。
「(……ん、そう言えば、オリオン、無事かな……?)」
それは今までの彼であれば、あり得ない思考だったが、ドスはすぐさま目の前の戦闘に集中する。
更に数を増した異形が、彼らの元に群がった。
また、ファーブニル天蓋跡地にて、ある隻眼の女冒険者と黒蟻の女王は―――。
アンとベルディーは背中合わせに立ち尽くす。
「……ハァ…ハァ…ッ。まだ、体は動くか、黒蟻?」
『誰に言っているのですか。それよりも、貴女の方が随分とフラフラに視えますよ?』
「抜かせ。ともかく、お互いこんな奴ら相手に死ぬ事等まっぴらごめんだろ?」
『……確かに、それは同意です』
目の前に居るのは二十体以上の異形の大軍。
だが、異形たちもアンやベルディーの力を本能で警戒しているのか、直ぐには仕掛けてこない。
ちっ、とベルディーは舌打ちする。
「……後ろは貴様が狩れ。前は私が狩る」
守れ、とは言わない。
それは仲間に対して使う言葉だ。
アンも頷く。
『良いでしょう。では、往きますよ』
「ああ!」
共通の敵を前に、隻眼の冒険者と黒蟻の女王は共闘する。
見る者が視れば、その光景はさぞかし異常に見えただろう。
そして、ある魔女とその騎士は―――。
目の前には数えるのも馬鹿らしくなる程の異形の群れがいた。
それを前にしても、魔女の表情は微塵も揺らがない。
「そんじゃールギオスー頑張ってね~」
のんびりと胡坐をかいて手を振る。
その姿に若干イラッとしながらも、彼女の騎士は剣を抜く。
「はぁ……分かりました。ですが、この数が相手です。私でも守り切れるかは分かりませんよ?」
「何言ってんのさ。君は、この私が選んだ騎士だよ。その自覚を持ちたまえよきみぃ」
「ああ、もう!全くこういう時だけ都合の良い事を!分かりましたよ!やってみますよっ!」
帝都全域の至る所で、異形共が溢れかえる。
霧が晴れても、悪夢はまだ続くのだと言わんばかりに。
だが、それでも人々は抗い続ける。
最後の一瞬、その時まで―――。
決着の時は近づいていた。
久々に登場。シュヴァイン卿と黒ハイエナの牙。
やっと出すことが出来た……。




