17.軋む歯車
遅れてごめんなさい……(´;ω;`)
さて、アンがなんか主人公っぽい感じでジョーカーとなんだかんだ一戦交えている中、本来の主人公である我らが駄龍アースは何をしていたかというと、引きこも龍のごとくダンジョンの奥深くに居た。
アースのダンジョン深層、その更に“奥”にて―――。
さて、地上への道はアンやエルジャ達に任せるとしてだ。
俺は俺で準備を進めるとしよう。
戦闘の準備を。
えっ?へこんでたんじゃないのかって?
復活したよ。
一応、俺だって怒ってるんだよ。
少なくとも、地龍に転生して初めて素でキレるくらいには。
それに、今の俺は精神が反転した状態だ。
立ち直るのだって早いんだよ……ぐすん。
べ、別に眷属からの評価なんて気にしてないんだかんね!
普段みんなが俺の事どう見てたのかとか、全然話を聞かずに勝手にヒャッハーしちゃったりとか、そんなの全然、全く、ホントに気にしてないんだから!……ぐすん。
「お父ーさん、はい魔石」
「ぷるぅ……」
ぼりぼりごっくん。
うん、しょっぱいね……。
ありがと、二人とも。
その優しさが傷に響くよ。
そんな訳で、俺達は寝室にやって来た。
無論、三人で昼寝する為じゃない。
寝床にしている土と木の枝のベッド。
それを動かすと、下に隠し通路があるのだ。
それを下りてゆくと、今度は開けた空間が現れる。
「お父ーさん、ココ何処ー?」
「ぷるぅー?」
一緒についてきたトレスとぷるるが質問する。
ホントは一人で来たかったんだけど、この二人離れようとしなかったからな。
トレスがぷるるを抱えながら、俺の鱗をちょこんと掴んでいる姿は非常に可愛い。
らぶりー。
癒されるわー。
でも、侵入者はぶっ殺す。
ここはエリベルやアンも知らない俺だけの隠し部屋だ。
部屋の中は暗い。
この部屋の光魔石は普段魔力が通ってないからな。
いちいち魔力を流して照らさなきゃいけない。
『ちょっと待っててくれ。今明かり付けるから』
俺は近くの光魔石に魔力を流し込む。
光魔石の明かりが空間を照らす。
そこにはあるモノが鎮座していた。
眷属達にばれぬよう細心の注意を払って作り上げたモノ。
俺にとって最後にして最大の“切り札”。
「えっ、これって……?」
「ぷぅ?」
二人とも驚いた様子だ。
まあ、そうだろうな。
これは俺にとっても最終手段みたいなもんだからな。
―――正直に言えば、これだけは使いたくなかった。
でも、もう限界だ。
過剰防衛だなんだ言われるかもしれないが、知った事か。
これを使って、侵入者と地上に居る奴らを一掃する。
そう考えるだけ、俺は頭に来てるんだ。
俺はゆっくりと近づき、“ソレ”に手を触れ魔力を込める。
うん……どうやら、問題なく動きそうだな。
更に同時に転移門の光が足元に現れる。
おっ、どうやら、ギジーの解析も終わったようだな。
いいタイミングだ。
さあ、反撃と行こうか―――。
そして帝都郊外にて―――。
アンの斬撃がジョーカーに打ち込まれた瞬間、結界が一瞬揺らいだ。
その一瞬を見逃さなかった者がいた。
エリベルだ。
「―――結界が弱まったわ!」
彼女は、霧の結界が発生してから、片時も見逃さず結界を観察していた。
だからこそ、直ぐにその異変に気付いた。
「……みたいだね。いけるかい、エリちゃん?」
「当たり前でしょ。誰にモノ言ってんのよ」
のんびり呟くレーナロイドに対し、エリベルは杖を構える。
結界の魔力に揺らぎが生じている。
これを逃せば、次に機があるかも分からない。
既に詠唱は済ませてある。
エリベルは即座に魔術を発動させた。
「“聖域干渉”」
相手の魔術に干渉し、支配する禁術。
大量の魔術陣がエリベルの周囲に浮かび上がり、黒い霧へ干渉を開始する。
最初は抵抗を見せていたが、やがて黒い霧の結界に穴が開いた。
「ひゅー流石、エリちゃん。神災の結界すら干渉できるなんて。そこにシビれる憧れるぅ」
レーナロイドが掛け値なしの称賛を送る。
魔術における演算速度と干渉力、そして解析能力。
それらにおいて、エリベルは、神災の魔物すら凌ぐという事だ。
しかも肉体的、魔力的には将級と言う遥か格下の階級という制限つきで。
レーナロイドは、それがどれ程凄まじい事か正しく理解していた。
尤も、結界が揺らぐ隙を見せなければ、流石に干渉は出来なかっただろうが。
だが、そんなたらればに意味はない。
結果として、道は開いた。
「よしっ!行くわよ!」
「はっ!」
「そうだね」
エリベルに続き、ベルク、レーナロイドも穴へ入り込む。
霧の結界を抜けた瞬間、破壊され、蹂躙された帝都の街並みが目に入った。
「へぇ……どうやら、リアスちゃん想像以上にやりたい放題してるみたいだね。いや、これは切羽詰まってるとみるべきかな。どう思う、エリちゃん?」
「どうでもいいわよ。ともかく、早くあの女の所に―――」
そう言いかけて気づいた。
―――ギブルとグウィブが居ない。
まだ入って来ていない?
一体どうして?
ふと穴の方を見る。
ギブルが、何やら口元を押さえていた。
一体どうしたのだ?
そんな事を考え、先程開けた穴の方を見ようとした瞬間だった。
「あ、エリちゃん、危ないよ」
「えっ?」
トン、と隣に居たレーナロイドに体を押された。
次の瞬間、エリベルの居た場所を雷撃が通り抜けた。
ズドンッッ!
雷撃がエリベルの開けた穴に当たる。
結界が、再び閉じた。
「―――っ!?ちょっと、アンタッ!」
「……大丈夫、大したことないよ」
レーナロイドの右腕はズブズブのケロイド状になっていた。
だが、あまりに痛々しい右腕に対して、その表情は平然としていた。
「……ちっ、外したか……」
低い声が響いた。
声のした方を見る。
そこには、倭の国の民族衣装に身を包んだ男が居た。
雷の様に鋭い瞳をした青年だ。
「へぇ……“雷斬り”アオバ・キリシマか……。やっぱ、そっち側の人間だったようだね」
独り言のようにレーナロイドが呟く。
すると、アオバは憎らしげにレーナロイドを睨み付ける。
「レイノルズの魔女か……。お前には、俺の仲間がやられた借りがある」
「ん?」
はて、何の事だろうか?とレーナロイドは首をかしげた。
そして少し考えて、ああ、ルギオスの事かと思いだした。
彼にはリアスの協力者と思しき連中の皆殺しを指示してたんだった。
とりあえず疑わしきは殺しとけ的な感じで。
どうやら、その中に何人か“当たり”が居た様だ。
まあ、エリベルと一緒にいた嬉しさで、すっかりその事を失念していたのだけれど。
「“氷炎”と“音断ち”の敵、今ここで討たせてもらうぞ」
そんなん知らんがな。
つーか誰だよそれ。
心底どうでもいい。
彼女は基本、エリベルや親しい者たち以外の事には関心が無いのだから。
「ふむ、エリちゃん。一応、コイツは私が押さえといてあげるから、君は先に進みたまえ」
「……いいの?」
「勿論、構わないよ。というか、こういうセリフって一度言ってみたかったしね。……それに、私もコイツには色々聞きたいことがあるんだよ」
「……人見知りのアンタに尋問なんて出来るの?」
「ぎゃふん!?」
レーナロイドはダメージを受けた!
きゅうしょにあたった!
こうかはばつぐんだ!
「だ、大丈夫さ。その辺りは後でルギオスに任せるから……。さ、さあ、ここは私にまかせ―――
「じゃあ先往くわね。後は頼んだわよ!」
「武運を祈りますぞ、レーナロイド殿!」
レーナロイドが言うよりも先に、エリベルはベルクと共に移動を開始する。
「あっ!ちょっと!せめて最後までセリフ言わせてくれないかな!?ちょっとーっ!?」
虚しい叫び声が響く中、アオバが口を開いた。
「……茶番はいいか?」
どうやら向こうは待っていてくれたようだ。
アオバは鞘から刀を抜き放ち、構える。
「………っ」
それを見て、レーナロイドはごくりと唾を飲んだ。
対面して感じる凄まじいプレッシャー。
ああ、やはりきつい。
まるで心臓を握りつぶされるようだ。
―――他人と話をするのは。
すぅーっと深呼吸。
焼け焦げて消炭になった右腕なんて気にしない。
そんな激痛、他人との会話の苦しみに比べれば、蚊に刺された程度だ。
会話に集中しろ、私。
やれば出来る。やれば出来る。
「……往かせても良かったのかな?」
よし、言えた。
噛まずにいえたぞ!
レーナロイド内心ガッツポーズ!
私だって、やれば出来るんだよ。
「別に構わん。帝城にはラウもいるし、リアスの儀式も、もうすぐ終わる。死龍は復活する。間に合わん」
「さて、それはどうかなぁ?」
余裕ぶって、返すレーナロイド。
―――凄い!凄いぞ、自分!
こんなに平然と他人と話せるだなんて。
もうボッチ歴の長い地味系喪女だなんて言わせない!
「ほう、何か“策”があるというのか?ふっ、やはりお前をここに足止めしたのは正解だったか?」
「………ふふふ」
不敵に笑いながら、レーナロイドは内心昂ぶっていた。
昂ぶりながら、背中から滝の様な汗が出ていた。
それでも、興奮しているレーナロイドは背中のじっとり加減に気が付かない。
基本的に、レーナロイドもエリベルと同じ『頭のいい馬鹿』の部類の人間なのだ。
調子こいた馬鹿は自分から口を開く。
「一つ、闘う前に聞かせてもらえないかな?」
「……なんだ?」
ゆっくり溜めてから、レーナロイドは質問する。
「“雷斬り”アオバ・キリシマ。いや―――“斬嶋青葉”くん。君の“同郷”のヒトは見つかったきゃい?」
噛んだ!
ドヤ顔で噛んだ!
やっぱ無理だった!
事前にきちんと精神統一してないと、やっぱ他人と話すの無理だった!
ヤバい、背中から変な汗が出てきてる。
「……貴様っ。なぜ、それを知っている?」
対して、アオバは少しばかり目を見開いて、レーナロイドを見つめている。
レーナロイドが噛んだことは気にして無い様だ。
いや、そんなのを気にする場面でもないのが。
「さ、さぁーて、なぜだろうね?」
平静を装いつつ、レーナロイドははぐらかす。
(くそぅ!こんな事なら、無言でさっさとバトれば良かったああああーッッ!)
心の中で叫ぶレーナロイド。
もうこれ以上の会話は辛い。主に精神的な意味で。
脇汗が凄い。
レーナロイドは構えた(勿論、見た目はシリアスに、かっこよく)。
「……成程、答えを聞きたければ、闘って勝てという事か?」
勝手に勘違いした、アオバの身体から魔力が溢れ出す。
ピリピリとその圧倒的な魔力に大気が震える。
「ふふ……」
対するレーナロイドは不敵に笑う。
余裕を崩さない。
だが、内心は―――。
(ぐおおー、なんであんな場面で噛むんだよ、私!シリアスな雰囲気が台無しじゃないか!うわーん、エリちゃーんたすけてー!もう私は色々と限界だよー!)
だいたいこんな感じだ。
残念すぎる。
それなのに全盛期のエリベルに匹敵する戦闘力を持ってんだから始末に負えない。
「―――往くぞッ!」
レイノルズの魔女と、伝説と謳われる冒険者“雷斬り”。
歴史に名を残すであろう最強同士の戦いが始まった。
………両者の激しい温度差を伴って。
そして、ファーブニル天蓋跡地にて―――。
「ハァッ……ハァッ……」
砕かれた仮面の下からジョーカーの素顔が露わになる。
その素顔は意外にも幼い少年の様な見た目だった。
だが、その顔にはびっしりと脂汗が浮かび、目の下のクマから悲壮感が漂っている。
「………」
ジョーカーは無意識に傷口に手をやる。
傷は深い。
出血が止まらない。
意識が持っていかれそうになる。
魔術無効の特性を持つ魔剣リディルの斬撃は、霧の魔物であるジョーカーであっても、きちんと“傷”をつける事が出来る。
相性としては最悪だ。
ジョーカーは心の中で手をあげる。
参った。所詮偽物と侮っていたが、コイツは本当に強い。
少なくとも、ジョーカーの作り出した悪夢を乗り越えられるほどに。
それにどういう事だろうか?
あの偽物、なにかおかしな魔力を感じる。
それも、ジョーカーも身に覚えのあるような、酷く懐かしい感じの。
『それほどの傷を負って、なお立っていられるのですか。敵ながら、見事な気概ですね』
目の前の黒蟻が称賛を述べる。
「はっ……別に、お前に褒められても何も嬉しくなんてないッスよ……」
そう。
彼が喜びを感じるのはただ一つ。
彼女の―――リアスの役に立った時だけだ。
『そうですか。ならば……これで終わりです!』
ジョーカーに止めを刺そうと、目の前の黒蟻は止めを刺そうとする。
それだけではない。
背後からは、“穿界”も仕掛けてきている。
挟撃。
今のジョーカーでは躱せない。
――――死。
その一文字が、ジョーカーの頭に浮かぶ。
負ける……?
この僕が?
死ぬ……?
神災に名を連ねる自分が?
「ふざけんじゃ……ねぇッス」
ジョーカーの眼は死んでいなかった。
諦めていなかった。
負けるわけにはいかない。
死ぬわけにはいかない。
刹那―――彼の脳裏には、一人の女性が浮かび上がった。
『いつもいつも、辛気臭い顔してるわね』
初めて言葉を交わした時にそう言われたのを覚えている。
その魔物は弱かった。
彼の住まうダンジョンの中で最も弱かった。
故に彼の居場所は無かった。
名前も、無かった。
一人ぼっちだった。
さびしかった……。
『―――安心していいよ。例えアンタが一人ぼっちになったとしても、私がきちんとみてるから』
そう言って、手を差し伸べられた。
彼女は、自分に名前をくれた。
『―――ジョーカーなんてどうだろう?』
どういう意味かと、彼は訊ねた。
『人族の間じゃ“切り札”って意味の言葉なんだけど、どうかな?』
正直、似合わないと思った。
弱く、臆病な自分にはふさわしくないと思った。
でも、彼女は笑って言った。
『じゃあ、似合う様に努力すればいいじゃん』
その笑顔が、眩しかった。
『頑張って、頑張って、その名前に見合う様な魔物になりなよ。胸張って、自分の名前を誇れるようにさ。だから、これからよろしくね、“ジョーカー”―――』
霧の中に差し込む一筋の光の様に。
その笑顔に、彼は救われたような気がした。
彼女は、だれも見向きをしなかった自分に、存在する意味を、“本物”をくれた。
こんな自分を、必要としてくれた。
だから―――。
ガシッ!と、ジョーカーはたたき込まれた大剣を掴む。
『なっ!?』
「……思い…出したッス」
苦痛に顔を歪めながら、にやりと、ジョーカーは無理やり笑みを作る。
「僕の名は“ジョーカー(切り札)”!リアス先輩の切り札なんだ!負けるわけには……いかないんだ!絶対にッッ!!」
『―――ッ!?』
砕けた仮面。露わになった素顔。
その瞳の奥には強い光が宿っていた。
アンが気圧される程の圧倒的な気迫、いや執念と言っても良い。
ズズズズズズズズズズズズズズズズッッッ!!!!
凄まじい勢いでジョーカーのもう片方の手に黒霧が集約する。
それはもはや小型のブラックホールの様だ。
「“破滅の黒霧”!」
超至近距離で、ジョーカーの放った魔術がアンに叩き込まれようとする。
ジョーカーの最大攻撃術“破滅の黒霧”(フェータル・ミスト)。
霧の魔物であるジョーカーの本質、“迷い、惑わし、邪魔をする”事を極限まで詰め込んだ黒球。
この霧に触れた者は、生物であろうと無機物であろうと、その“存在そのもの”を惑わせることになる。
その結果引き起こされるのは―――。
「ちっ!避けろ、黒蟻!」
咄嗟にベルディーがグングニルでアンを貫く。
穿たれたアンは槍と共にジョーカーの黒球の軌道を外れる。
直後、アンの居た場所を黒い霧が覆い尽くした。
ゾゾゾゾゾゾゾッ!!!と鈍い音が響く。
『なっ……!?』
見れば、先程までアンが居た場所は、凄まじい破壊が引き起こされ、その場には何もなかったかのようにすべてのモノが消滅した。
正確には、そうなる様に“惑わせた”のだ。
触れた者全てを自己崩壊に誘導させる、究極の破壊術式。
それがジョーカーの放った黒球の正体だ。
その威力をベルディーは理解した。
だが、同時に疑問もわき上がる。
「馬鹿な……一体、どうやってあれだけの魔力を?」
今のベルディーの眼は、あらゆるものを視覚化することが出来る。
それ故に、彼女には、ジョーカーの肉体には殆ど魔力が無いという事が“視えて”いた。
にも拘らず、一体どうやってこれ程の魔術を発動させたというのか?
「まさか―――ッ!?」
再び目の前の男を見る。
苦しげな表情を浮かべ、胸を押さえている。
ジョーカーの体から、魔力ではなく、“別のモノ”が減少していた。
「まさか……己の魂そのモノを代償に、魔術を行使しているのか!?馬鹿な!そんな無茶をすれば―――」
魂を削って魔力を生み出す。
理屈は単純だが、それは寿命を削るどころの話ではない。
最悪、その存在が消滅してしまう程の荒業だ。
それは人であっても、魔物であっても変わりはしない。
だが、
「フフフ……」
凄まじい程の激痛と疲労感に襲われて、それでもジョーカーは笑っていた。
「それが……どうしたって言うんだよ?」
なんてことの無い様に、彼は言う。
「命を捨てる程度の覚悟なんて、僕はとっくに持ってる。あの日……僕に名前をくれたあの日から、僕の全ては、あの人の……リアスの為にある!彼女の役に立てるのならば、たとえこの身や魂が滅びようと構いやしない!」
ゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾッッッ!!!!!
再び黒い球体がジョーカーの手元の出現する。
先程の数倍の大きさだ。
感じる魔力の密度も先ほどとは段違いだ。
「さあ。消え去るがいい、偽物共ッ!僕たちの―――リアスの悲願は絶対に邪魔させない!」
決死の形相。
次の一撃に全てを賭けるのだろう。
今度は、おそらく躱すことは出来ない。
ならば、その前にヤツを倒すしかない!
「……黒蟻、体はまだ動くか?」
『誰に向かって言っているのです?』
不敵に笑いながらアンは剣を構える。
それが答えだと言わんばかりに。
「心底癪だが、仕方が無い。私の鑓で、アイツを穿つための軌道を造り出す。そこにお前の大剣をたたき込め、出来るな?」
『当たり前です。しかし……成程。どうやら、あの時よりも随分とマシな顔つきになったようですね』
「抜かせ。貴様は、いずれ必ず殺す。それを忘れるな」
会話はそれで終わりだとばかりに、ベルディーは鑓を構える。
紅く、濃密な魔力が放たれる。
それに呼応するように、ベルディーの黄金の左目も輝いた。
視える、鑓を穿つための軌道が、魔力の流れが。
そして、アンも魔剣リディルを水平に構える。
更に、アンの身に着けていた青鎧が剥がれ、魔剣リディルの周囲に集まってゆく。
それは剣でありながら、突撃槍の様な形状になる。
『―――青鎧・特攻形態』
今のアンに出来る最大の攻撃手段。
レイギンから教わった、彼の切り札。
これを持って、真の決着とする。
そして、賽は投げられた。
「さあ、これで終わりだ!」
ジョーカーの手から極大の球体が放たれた。
「―――往くぞ!」
『ええっ!』
アンとベルディーが地面を蹴る。
互いの全てを賭けた一撃。
それが交錯しようとした瞬間―――。
―――両者のちょうど中間に青白い光が発生した。
「え?」
「なにっ!?」
『こ、これは!?』
他の二人が動揺する中、アンだけは冷静に目の前の現象を理解した。
何故ならアンはこの光を知っているからだ。
これは、この光は―――。
『―――転移魔術……?』
そして。
―――ぐしゃり、と。
転移門より伸びた一本の腕が、ジョーカーの放った最大魔術をあっさりと握りつぶした。
「……………は?」
思わずジョーカーは間抜けな声を上げる。
アンも、ベルディーすら目の前の光景に呆然としてしまった。
転移門の光が強まる。
腕の主の全身が露わになる。
『そんな……』
不意に漏れる、アンの声。
隣に居るベルディーは言葉を失っていた。
それは全身を無機質な鎧で覆った巨体。
発せられる膨大な魔力。
見る者全てを平伏させるほどの圧倒的な存在感。
それは―――威風堂々とした龍の姿。
“それ”はゆっくりと口を開いた。
『ふう……どうやら無事に結界の中に入れたようだな』
現れた“それ”はキョロキョロと、周囲を見渡す。
アンと目が合った。
アンは絶句していた。
信じられないと言った表情だ。
そして次に、目の前のピエロの様な格好をした男に視線をやる。
「―――っ!?」
ジョーカーの全身が警報を発した。
何だアレは?
ヤバい、ヤバい、ヤバい、ヤバい、ヤバい。
とんでもなくヤバい。
アレは駄目だ。
危険だ。
恐怖が、彼の体を支配した。
『うーん、状況は分からないけど……どうやら、アレが“敵”みたいだな……』
“それ”はゆっくりと頷き、そして―――。
『とりあえず―――ぶっ飛ばすか』
―――運命の歯車は狂い出す。
たった一匹の魔物の出現で。
その魔物は最強の龍王種、地龍。
それは神災龍王の血を引く者。
その魔物の名は、アース。
全てを巻き込み、混乱させる本物のジョーカーがついに戦場に降り立った。
次回はアースさん(仮)無双……予定




