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地龍のダンジョン奮闘記!  作者: よっしゃあっ!
第九章 死龍~千年の祈り~

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8.宴の始まり

 ヴァレッドは帝都中心部より少し離れた郊外に居た。

 少し開けたところに在る丘の上だ。

 高い丘の上からは帝都の様子がよく見える。


 「……何か、帝都で事件でもあったのかねぇ?」


 手をかざして視ると、妙に帝都の中がざわついている気がする。

 これ程離れた丘の上からでも、その異変を感じ取れるほどに。


 (……特に帝城の方……この魔力は……師匠?いや、それにしては魔力に随分と濁りがある気がするねぇ。まあ、師匠の事だし無事だとは思うけど)


 ヴァレッドの魔力感知能力は大して高くない。

 感知に関して言えば、ベルディーの方が上な位だ。

 にも拘らず、ここまで感じ取れるという事はそれだけの何かが帝都であったという事だ。

 ちらりと、ヴァレッドは隣を歩く彼女に目を向ける。


 「さて、何があったのかは分かりませんが、こうして私達の行動が邪魔されないのは助かりますよ」


 そう言うのは、ヴァレッドと共に歩む秘書風の衣服を着た猫を思わせる瞳の女性、リアス・アウローラだ。

 なぜヴァレッドが彼女と一緒に居るのかと言うと、リアスからの依頼だからだ。


 傷を治した礼代わりに、今日一日自分を護衛してほしいと。


 本当ならば、すぐにでもベルディーやファーリーの下へ駆けつけたかったが、命の恩人を蔑ろには出来ないと、ヴァレッドはその依頼を引き受けたのだ。

 あわよくば、彼女からあの魔女の騎士や、レーナロイドについての情報も得られると踏んで。


 「まあねぇ。ところで、君……リアスって言ってたよねぇ。一体どんな魔術を使ってるんだい?ここまで、誰一人僕達に話しかけてこなかったみたいだけど?」

 「……認識阻害の魔術を使っています。余程魔力感知に優れた術師でなければ気づかれませんよ」


 どこか寂しげな感じでリアスは答える。

 ヴァレッドと話をしている最中たまに彼女はこういうリアクションをする。

 はてと、ヴァレッドは疑問に思う。

 この女性とはほぼ初対面の筈なのに、なぜか彼女は自分を知っている風なのだ。

 一体自分はこの女性とどこかで会ったのだろうか?

 思い出せない。記憶に靄がかかったように。


 「ふーん。でも、これ僕が護衛する意味あったのかねぇ?こんな便利な魔術があるなら、君一人でどこへだっていけるだろう?」

 「それほど便利な魔術でもありませんよ。それに私自身はとても非力な女ですから」

 「そうかい。まあ、そういう事にしておこうかねぇ。傷を治してもらった借りもあるしねぇ。今日一日くらいは付き合ってあげるよ」

 「ええ、助かります。もしかしたら、怖ーいアンデッドや地龍なんかが襲って来るかもしれませんから」

 「へぇ……それは逆に楽しみだねぇ……戦い甲斐がある」


 にやりと、ヴァレッドは笑みを深くする。

 地龍か。

 かつて自分はエルド荒野にて地龍と戦った。

 敗れはしたが、あれは楽しかった。

 いつかまたあのダンジョンに挑みたいとヴァレッドは思っていた。


 「ん……?」


 そこでヴァレッドはふと思う。

 はて……?そう言えば、自分は誰からエルド荒野に地龍が居るという情報を貰ったんだっけか?

 エクレウスから……?

 いや、それよりも前に自分は地龍の情報を誰かから知らされていた。

 それは……誰だ?

 思い出せない。

 首を振り、雑念を振り払うようにヴァレッドは質問する。

 

 「それで、何でこんな離れた場所までやってきたんだい?そろそろ理由を教えてくれてもいいんじゃないかねぇ?」

 

 そう言われてリアスは振り返る。


 「ええ、良いですよ。ヴァレッド、貴方はかつて聖剣レヴァーティンの所有者でしたね」

 「え?ああ、そうだけど?」


 突然脈絡のない話を振られ、ヴァレッドは少し首をかしげる。


 「では、聖剣に付与された機能『ダンジョン破壊』についても知ってますね?」

 「ああ、勿論。でも……どうして君がそれを知ってるんだい?」

 

 聖剣のダンジョン破壊機能について知ってるのはヴァレッドとその師匠のリンウ、あとはベルディーと今は亡きエクレウスだけだ。

 おそらく『ダンジョン破壊』機能そのものとて知っている者は少ないだろう。


 だが、リアスの答えはヴァレッドの想像を超えていた。


 「知ってるに決まってますよ。だって―――聖剣を改造したのは私なんですから」


 「――――え?」


 「聖剣レヴァーティンだけではありません。貴方は知らないでしょうが、『ダンジョン破壊』が付与された武器は他にもあるんですよ。そのうちの一振りはハザン帝国の皇帝が持つ魔剣グラム、もう一振りが貴方を襲った魔女の騎士ルギオスが持つ龍剣アスカロン。他にもありますが、全部で六つだった筈です」

 「なっ……え……?」


 一瞬ヴァレッドは呆けてしまう。

 だが、リアスは気にせず続けた。


 「まあ、理論そのものは私ではなく、かつての私の弟子であり主でもあった“彼女”が作り上げたモノですがね。……苦労しましたよ。彼女を煽てて、理論を組み立てさせて、適合する武器を探して、共に神器を改造して……ああ、思えばあの頃の私はとても充実していました……あの子に振り回されて、彼女と二人で魔術の探求をするのはとても楽しかった」


 どこか懐かしむようにリアスは語る。

 そこで、ふと、リアスは思い出したかの様にヴァレッドの方を見る。


 「ああ、そうだ。帝都から離れた理由でしたね。簡単ですよ。“アレ”に巻き込まれて、貴方に死なれては困るのです」

 「どういう意味だい?」

 「簡単な事ですよ」


 にっこりとリアスは笑う。

 その笑顔に、ヴァレッドの背中に寒気が走った。

 しかしてその直感は正しかった。


 信じられない事を彼女は言ったのだ。


 「今から『ファーブニル』に対し、『ダンジョン破壊』を行います。必然的に、帝都も巻き込まれる形になるでしょう。だから、ここまで避難したんですよ」


 「なっ……!?」


 とてもシンプルな理由でしょうと彼女は言った。




 ―――八大迷宮と言うものがある。


 それはこの世界に存在する八つの強大なダンジョンの事だ。


 現れてから数百年以上経つが、未だ八つのダンジョンは攻略されたことは無い。


 では、そのダンジョンに対し、『ダンジョン破壊』は有効なのか?


 この問いに対し、エリベルはこう答えた。


 ―――八大ダンジョンはその全てが、ダンジョン破壊が使えないダンジョンである、と。


 一つ目の理由はエリベルの造ったダンジョンの様に転移系統のダンジョンの場合、その破壊の効果範囲が一部に限定されてしまう為。


 そして二つ目が、ダンジョンを破壊することで、人族が何らかの被害を被るためだ。


 その最たる例がハザン帝国の有する黄金の迷宮『ファーブニル』だろう。


 かの帝国はファーブニルより産出される莫大な富で成り上がったともいえる。


 仮にファーブニルに対し、ダンジョン破壊を行えばその上に成り立ってる帝都も必然的に巻き込まれる形になる。


 そうなれば未曾有の大災害となるだろう。


 もしそんなダンジョンにダンジョン破壊を使うのは余程の馬鹿か狂人位のものだ。


 だが、逆を言えば。


 人間が被る被害を考慮に入れなければ。


 破壊することで、ハザン帝国がどうなるかを考慮に入れなければ。


 ファーブニルはダンジョン破壊が通用するという事である。


 そう、リアスの標的はアースのダンジョンではなかった。


 転換期を迎え、より強力になったファーブニルの方だったのだ。


 「苦労しましたよ……。あの魔女は並大抵の事では直ぐに気づかれてしまいますからね。情報をかく乱して、狙いを誤魔化して……でも、ようやくそれも終わる。彼女も含め、この大陸の主だった実力者に有力者達の殆どがこの帝都に集中している。これで全て予定通りです……。これから始まるんですよ、私の宿願が……っ」


 大陸会議で大陸中の有力者が集まる今日この時を狙って彼女は仕掛けた。


 すべての邪魔者を一掃するために。


 常軌を逸する程の底知れぬ悪意を持って彼女の悲願を成就するために。


 呆然とするヴァレッドに尚もリアスは微笑みかける。

 狂喜に彩られた笑みだった。


 「さあ、ヴァレッドさん。共に見ましょう、世界が変わるその瞬間を」


 両手を広げ、リアスは高らかに宣言した。

 

 「宴の―――始まりです」





 そして、ファーブニルのダンジョン第一層にて―――。


 

 ダンジョンの中を歩くのは二人の冒険者。


 ラウとスイレン。


 倭の国の民族衣装である着物に身を包んだ二人はダンジョンの中を黙々と進んでいた。


 悠然と歩く二人は何の警戒心も抱いていない。

 何せここはまだ第一層だ。

 余程のイレギュラーでもない限り、奥へ進むのは容易い。

 時折現れるダンジョンの魔物も難なく撃退する。


 ほどなくして彼らは目的の場所にたどり着く。

 そこは丁度第一層の中間ほどの場所だった。

 

 「この辺りが丁度いいか……」


 そう言ってラウは懐から剣を抜く。

 刃渡りは約一メートル程。

 熊のように巨大な彼が持てば、脇差に見えてしまいそうな程その剣は小さく見えてしまう。


 それは煌びやかな装飾が施された儀式剣だ。


 その剣の名は―――宝剣『フツノミタマ』。


 『ダンジョン破壊』機能を付与させた七振りの内の一つ。

 乱雑に剣を抜き放つラウを見て、スイレンがキッと睨み付ける。


 「あ、ちょっとラウ、あんま雑に扱わないでよ。それ、アオバ君のなんだから」


 「わーってるよ、それじゃあ、始めるか―――」


 ラウは大きく振りかぶった。

 同時に宝剣に込められたその機能を解放する。

 ダンジョンに対する禁忌の術式を―――。


 「さぁ―――“砕け”フツノミタマ!」


 ラウは力任せに剣を振り下ろす。

 その顔は愉悦に歪んでいた。


 宴の始まりだ。

 ファーブニルを破壊する。

 巻き起こる未曾有の大災害。

 全てを飲み込む圧倒的な破壊。

 その地獄絵図の中死んでゆく帝都の人々を想像する。


 そして、その全てを飲み込んで、死龍ウロヌスは復活する。


 宝剣フツノミタマの切先が地面に突き刺さる。


 宝剣に内蔵された『ダンジョン破壊』が発動する。


 凄まじい光がダンジョン内に満ちた。


 凄まじい魔力。

 凄まじい振動。


 その直後、ファーブニルには―――。





 圧倒的な破壊が。






 ―――起きなかった。



 激しい光が収まり、しんと静まり返るダンジョン。


 「……………………は?」

 

 呆然とするラウ。


 「えっ?」

 

 隣で成り行きを見守っていたスイレンも呆気に取られたような表情を浮かべる。


 「なっ、おい、どういう事だ!?どうして『ダンジョン破壊』が作動しねぇんだ!?」


 疑問を叫ぶラウ。

 もう一度剣を振るう。


 「“砕け”フツノミタマ!……くそっ、どうなってやがる!?まさか、アオバのヤツもう既に『ダンジョン破壊』を使ってたんじゃねぇだろうな!?」


 ダンジョン破壊が発動しない可能性。

 それはすなわち、既に一度使われているかもしれないという事だ。

 『ダンジョン破壊』機能は一度使えば、百年のインターバルが必要になる。

 その間はただの武器に戻るのだ。

 ラウがその可能性を疑うのは当然だろう。


 だが、一方で少し離れたところに居る少女―――スイレンは冷静に状況を見極めていた。


 「発動してないわけじゃ……なさそうに見えるけど……どういう事?まるで何らかの力でダンジョン破壊が阻害……いえ、“相殺”されたような……」


 ブツブツと纏まりのない考えがそのまま独り言となって呟かれる。

 そして、


 「――――うわぁ、凄い。本当にエリベルさんの予想通りになったなぁ」


 声がした。


 「あぁ?誰だ?」

 「ラウ……?どうしたの?魔物でも出た?」


 ラウは声のした方を見る。

 対して、スイレンは彼の行動が理解出来なかったらしい。


 「ふぅん……そっちの男の人は、私の声が“聞こえる”んだね……」


 少しだけ興味を持ったような声音。

 警戒心を高めつつラウは声のした方を見た。


 そこに居たのは十歳ほどの一人の少女。


 服も、髪も、肌も何もかもが真っ白な美少女だ。

 だが、金のヘアピンによって露出している瞳の色だけが唯一キャラメル色をしている。

 それが尚更彼女の異彩さを際立たせていた。


 「何もんだ……テメェは……」


 ラウは問う。

 その声には警戒の色がありありと浮かんでいた。

 このタイミングでわざわざ声を掛けてきたのだ。

 警戒しない方がおかしい。


 だが、少女は無警戒に口を開いた。



 「ダメだよ、ファルの家を壊そうとしちゃ」



 そう言って道外しの少女ツムギはにっこりと笑った。





 そう何度も壊されてたまるか


 次回ツムギ(幼女)無双……予定

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