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地龍のダンジョン奮闘記!  作者: よっしゃあっ!
第八章 大陸会議と神災龍王

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8.別にあの豚を出荷してしまっても構わんのだろう?



 一夜明けた翌日。

 ドスはエリベルに昨日の出来事を報告していた。

 夜に起きた城下町での戦闘についてだ。

 とはいっても報告できるようなことが殆どなかったのだが。


 『なるほどねー、それじゃあ結局城下町での戦闘の詳細は分からなかったのね?』

 「……ん、ごめんなさい」

 『良いのよ別に謝らなくても。アンタと鳥型じゃスペックがダンチなんだからしょうがないわ』

 「……ん」

 『むしろ問題は、龍殺しと戦ってたやつの方ね。大剣を持った仮面をつけた聖職者の様な服装をした男ね……うーん……』


 鳥型達と視界を共有して戦闘の詳細を調べようとしたドスだったが、戦闘予測地付近になると鳥型達の視界が急激に悪くなり、その詳細を調べることは出来なかったのだ。


 『認識を阻害する魔術か。精神干渉系か環境操作系ね……そう言えば、あのクソ婆がその手の魔術に詳しかったわね。分かったわ、こっちでも調べてみる』

 「……ん、出来るの?」

 『大丈夫よ。私を誰だと思ってんのよ?一応私にだってそれなりのパイプもあるし、そっちを中心に当たってみるわ。それじゃあ、今日も頑張りなさいよ』

 「……ん、頑張る」


 そう言ってドスはエリベルとの通信を切った。

 そのまま横を見る。

 

 「ぬへへへぇ……お父様ぁ……アンさーん…いい匂いですねー……すぴー……」

 

 ウナ(姉)が幸せそうに寝息を立てている。

 本当ならもう起きてオリオンを迎えに行かねばならない時間なのに。

 殴っていいだろうか。

 いや、駄目(堪える)。

 

 「………ウナ姉、起きる」

 「―――んん……?」


 ゆっくりとウナをゆする。

 ウナは目を覚ました。


 「……あぁ、ドスですか。おはようございます。むにゃ?コブ豚のステーキはどうしたんですか?お父様に出さなくては……ふぁぁ~……」


 寝ぼけているらしい。

 びきりとドスの額に青筋が浮かぶ。

 殴りたい気持ちを何とか抑える。


 「……ん、寝ぼけてる、はい、水」


 とりあえずコップに水を注ぎ飲ませる。

 ぷはぁとウナは一気に飲み干した。


 「ふぅ……目が覚めました。申し訳ありませんね。どうやら少しばかり寝過ごしてしまったようです」


 少しじゃねぇよっ!とドスは思ったが、それを表情や言葉に出すことはしない。

 彼は大人なのだ。

 こんなことで一々目くじらを立ててはいけない。

 そう思っていたら、ドアがノックされた。


 「お二人とも、おはようございます。朝食を食べに行きませんか?」


 オリオンだった。

 まあ、気配察知で最初から分かっていたけど。

 というか護衛を迎えに来る警護対象ってどうなんだろうか?

 本来なら自分たちが迎えに行かなくてはならないのに……。

 だいたいウナ姉の所為だ。


 「ぬっふっふぅ、お二人とも昨日はよぉく眠れましたかぁ?」


 オリオンの隣には昨日会った豚―――もといシュヴァイン卿も居た。

 今日もでっぷりとして顔の脂がテカテカ光っている。

 後ろには彼の護衛の騎士も控えている。


 「むにゃ……コブ豚……出荷しなくてはいけませんね……」

 「ぬひっ!?」


 ウナがシュヴァイン卿を見て何やら呟いている。

 どうやらまだ寝ぼけているようだ。そう思いたい。

 そしてシュヴァイン卿、びくっとしないで下さい。

 出荷なんてしませんから。


 「……ん、ごめん、オリオン、僕たちが迎えに行かなきゃいけないのに」

 「大丈夫ですよ。それにシュヴァイン卿の護衛が兼任してくれてましたから」


 うふふ、とオリオンは口に手を当てて笑う。

 それに合わせてシュヴァイン卿も醜悪に笑う。

 

 「ぬっふっふぅ、私の騎士はとぉっても優秀ですからねぇ。護衛対象が一人や二人増えたところで全く問題ありませんよぉ」

 「あらあら、それはそれは心強いですね」


 笑いあう二人。

 美女と野獣……いや聖女と豚か……。

 凄い画ヅラだなぁとドスは思った。


 「それでぇは朝食に行きましょうか。きっと、とぉっても美味しいモノが出るんでしょうねぇ……実に楽しみですなぁ…」


 シュヴァイン卿が先導する形でドス達はホールへと向かった。


 「……豚……出荷……」


 まだ寝ぼけるウナ姉を何とか誘導しながらドス達は朝食へ向かった。

 朝食は美味しかった。


 ちなみにシュヴァイン卿はハムをおかわりしていた。

 豚肉が好物らしい。

 共食いである。


 さて、朝食を食べ終えたらいよいよ会議場へ移動だ。

 自分達はダンジョンの“目”だ。

 しっかりと中継しなくてはいけない。



 暗転。



 大陸会議の会場はかなり広かった。

 数百人を収容できるであろう広さを誇る大広間は、議長の檀上を中心に扇状 に広がっており、豪華な装飾が施された椅子と長テーブルが置かれていた。


 既に席についている代表も何人かいる。

 各国の席は決められているようで、護衛の者達はその席の後ろに立つ形になる。

 ドスは会場内部を軽く観察する。

 

 (………ん、座らなくていいのは、好都合。……その方が、会場全体を、見やすい)


 一応窓もつけられているがステンドグラスの様に色彩が施されている為外から中の様子を見ることは出来ない。

 

 (……ん、魔術的な結界も、張られてる。……レイス達に、侵入させるのは、無理か)


 会場には内と外にも大量の警備が張られており、対魔術用の結界も張られている。

 

 (……神経を張り巡らさないと、ダンジョンとの中継も、困難)


 その結界の僅かな綻びを縫ってドスは自分の視覚とダンジョンのモニターを繋いでいるのだ。

 感知能力、魔力操作に長けたドスだからこそ可能な事だ。

 無論、ギジーとエリベルのサポートもある。

 パパの為にも頑張らなくてはいけない。


 「にしても……。やはり、各国の護衛役は中々に名の通った方が多いみたいですね」


 ウナが会場を見回しながら言う。


 「……ん、確かに」


 パッと見ただけでも、ドスと同じSランク級の冒険者が数人。

 さらにそれに匹敵する騎士も数人確認できる。


 「それだけ今回の会議は力が入っているのでしょう。聖王国も三人も参加者を出す事など、今までありませんでしたからね」

 

 席に着いたオリオンが会話に混ざる。


 「そうなのですか?」

 「ええ。参加者の人数は大抵各国一人だけです。人口が多い国ならば複数人参加する国も居ますが………この気配から察するに、少なくとも半数以上の国は二人以上参加していると思いますがどうですか?」

 「……ん、合ってる」

 

 ドスは肯定する。

 オリオンは目が見えないため、こうして音や気配から周囲の状況を察することが出来るのだ。


 「……護衛の人達も、一杯いる」


 でも、とドスは思う。


 (……“龍殺し”クラスの力量を、持つ奴は殆ど居ない)


 パッと見渡しただけではわからないが、あのクラス以上の人間などそうそう居ないのだろう。

 見た感じでは、“龍殺し”以上の力量を持つのは既に席についているハザン帝国の皇帝―――そして、その後ろに控えている鬼族の老人くらいか。

 あとは自分たちの護衛対象であるオリオンもか。

 温和そうではあるが、間違いなく彼女も高い戦闘力を持っているとドスは予想していた。

 何せ彼女は聖王国に八人しかいない最高位の聖女で『聖櫃』の二つ名を持っているのだから。


 (……ん、彼女の感知能力なら、正体がとっくにバレてる可能性も、高い。……注意しないと)


 もし気付いたうえで、“あえて”そうしているのならばたいした肝の坐り様だ。

 そう思いながらドスは会場の観察を続けた。


 「……ん?」


 ふと、視線を感じた。

 視線のした方を見ると、誰かが手を振っていた。

 眼鏡をかけた物凄く地味な女性だ。

 あの席は確かボルヘリック王国の席だった筈だ。

 だとすればあの地味な女性がその代表なのだろうか?

 代表だというのに護衛も付けていない。

 一人だ。

 とりあえずドスは曖昧な会釈だけして直ぐに視線を逸らした。


 「?どうかしたのですか、ドス?」


 ドスの態度が気になったのか、ウナが話しかけてくる。


 「……ん、なんでもない」

 「そうですか?それならいいんですけど」

 

 もう一度見ると、すでに女性はこちらから視線を逸らし、顎肘をついて欠伸をしていた。


 「………気のせい?」


 首をかしげるが、感じた魔力も全く大した事が無かったため、ドスは直ぐにその女性を意識の外にはずした。

 それからしばらくして、参加する全ての国の代表が集まった。


 いよいよドスはダンジョンとの中継に専念すべく神経を張り巡らせた。


 大陸会議が始まった。


 

 

 最初は皇帝が大陸会議開催の挨拶を行った。

 次に各国の挨拶と近況報告らしい。


 『では最初にハルシャルード聖王国より今年の収穫量と特産についての報告を』


 そう言われてオリオンとは別の聖王国の代表が報告書を読み上げる。

 五十代ほどの白髪の混じった男性だ。

 聖王国の神官の一人らしい。

 

 (……ん、各国の状況も知る、良い機会)


 と、ドスは思っていたのだが、


 「……すぅー……すぅー……はっ。ド、ドス?豚はどこですか?出荷は?」

 「…………」


 うん、もう何も言うまい。

 集中しよう。

 姉は放っておくに限る。

 多分こう見えてもきちんと仕事はしている筈だから………多分、きっと。

 

 各国の代表が報告書を読み上げてゆく。

 ドスは各国の経済状況を鑑みながら、ダンジョンにとって有益となりえる国や、障害になりそうな国をピックアップする。

 その情報は順次魔力回線を通じてダンジョンに居るギジーとエリベルにフィードバックされる。

 会議は順調に進んだ。


 『……あの豚貴族が治めてるランラーン地方は豚の養殖が盛んなのですね。串焼きはあるのでしょうか?お父様やアンさんに食べさせてあげたいですね』

 『……ウナ姉、思念通話、思考だだ漏れ』

 『はっ!?す、すいません。つい……』

 『……あと、この会話も、ギジーに送られてるから』

 『はぅ……っ』


 そんな感じで、各国の紹介は続いてゆく。



 ―――それから二時間程が経過した。

 既に各国の挨拶と報告は殆ど終わっている。

 このまま何事もなく進みそうだとドスは思ったのだが、


 「―――では、最後にボルヘリック王国代表お願いします」

 

 議長がそう言った瞬間、異変が起こった。


 ブツンっ―――と。


 唐突にドスとダンジョンを繋ぐ魔術回路が切断されたのだ。


 「―――っ」

 「……っ!?」


 その異変に二人は直ぐに気が付いた。


 (……どういう事?……どうして、ダンジョンとの接続が、切れた?)


 横に居るウナを見る。

 彼女もドスの方を見る。

 こくりと頷いた。

 ダンジョンとの魔術回路が切断されたことに気付いたのだろう。


 『―――ドス、私達とダンジョンとの接続が……』

 『……ん、切れてる。……何らかの不測の事態が、ダンジョンに起きた……と思う』


 思念通話を通じてウナとやり取りをする。


 『……ん、多分、だけど、何らかの強大な力でダンジョンとの接続が、無理やり引き剥がされた………んだと思う』

 『何かがダンジョンに現れたという事ですか……。どうします、憑代を使って抜け出しますか?』

 『……ん、少し待つ』

 

 ドスはすぐさま外で待機している鳥型とレイス達に指令を出す。


 『……鳥型とレイス達は、指定された位置に居る眷属達に伝達。……さらにその眷属達を通じで、ダンジョンへメッセージを伝えて』

 

 ドスが行ったのは外で待機している眷属達を使ったネットワークを介しての情報伝達だ。

 魔道具を介さない純粋な眷属同士での思念通話。

 それぞれの思念通話が交信可能な限界範囲で鳥型やレイス、キラーアントを配置し、それを経由してダンジョンへとバケツリレーの様にメッセージを伝わらせる。

 通信魔石よりもアナログで時間もかかるがそう言っても居られない。

 ダンジョンで何が起こったのかは気がかりだが、この会議に最中に下手に動くのは不味い。

 自分たちが怪しまれては元も子もない。

 ともかく少しでも早くダンジョンで何があったのかを把握しなくては。


 「―――では次に、議題に移りたいと思います」


 そんな中、各国の挨拶も終わり、どうやら本格的に議題に映るようだ。

 議長は、羊皮紙に書いてある内容を読み上げる。


 「最初の議題は、各国に現れた『転移ダンジョン』についてです」


 最悪のタイミングで、自分たちのダンジョンの事が議題に上がった。

 どうしよう?

 そう思っていたらいずこから声が上がった。


 「議長さんー。挨拶だけで結構な時間が掛かったし、この辺りで休憩にしてほしいんだけどなー」


 どこから上がったのか分からないが、それは平凡な女性の声だった。


 「むっ……?確かに、当初の予定よりもだいぶ時間が過ぎてますね」


 議長の男はハザン帝国の皇帝の方を見た。

 皇帝も頷く。


 「ではこの辺りで一旦休憩としましょう。昼時ですし、会議は午後から再開とします」


 議長のその言葉で一旦会議はお開きとなった。

 助かった。

 チャンスだ。

 

 「……オリオン、昼食にいこう」

 「そうですね。お腹もすきましたし、そうしましょう」

 

 オリオンを連れてウナとドスは足早に会場の外へ出る。

 結界が張られている会場の外に出れば、やれることの幅は大幅に広がる。

 

 ドスとウナは無言で頷き合い、会場を出ると即座にダンジョンへのコンタクトを再開した。


 だが二人は気付いていなかった。


 じっと二人に気付かれる事無く彼らを見続けていた者がいたことに。


 その視線の主はゆっくりと彼らの後を付いていった。





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