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地龍のダンジョン奮闘記!  作者: よっしゃあっ!
第八章 大陸会議と神災龍王

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7.大陸会議・前日 その2

 



 ハザン帝国帝城前にて―――。


 ドスは先ほどホールで見かけた人影に声を掛けた。

 二十代ほどの冒険者の男だ。

 彼の名はアルス。

 聖王国の冒険者であり、ドスの“外の世界”での同僚になる。

 ちなみに以前ドスがアースに話したウナをかけて他のイケメン冒険者(笑)とドスが決闘することになった事件がある。

 その時のイケメン冒険者(笑)が彼だ。

 ちなみに当時はドスが彼をボコボコにした挙句、全裸で簀巻きにして川に落としたのだが、その後もなんやかんやあってで付き合いが続いている。

 尤も、ドスにとっては打算的な意味合いしか無い付き合いではあるが。


 「………アルス、久しぶり」

 「お、ドスじゃないか。久しぶりだね」


 アルスと呼ばれた男性はドスの方を振りむく。


 「……ひと月前のクラーケン討伐、以来?」

 「だな。あの時は軽く死にかけたぜ、ホント」


 やれやれと言いながらアルスは頭を掻く。

 そんな彼にドスは質問した。


 「………護衛任務、さぼり?」

 「ちげーよ。単に息抜きがてら外の空気を吸いに来ただけだっつーの。それにちゃんと他の奴らは会場に残してる。数分位俺一人抜けても、問題ねーよ」

 「……でも、仕事は仕事。……手を抜いちゃ、駄目」

 「相変わらず頭かてーなお前……」


 ドスが先程彼の後を追ったのは、彼もまた聖王国の要人の護衛任務を任されていたからだ。

 聖王国の代表はドスの護衛するオリオンのほかにも二名いる。

 アルスを含め彼のパーティーは全員がAランクの実力者ぞろいなので、その大役を任されているのだ。

 ドスやウナとの付き合いはまだ半年程度だが、アルスは少なくともドスの事を認めている。

 実力や性格を含めてだ。

 姉の方はまあ……そこそこにだが。

 差しさわりの無い雑談をした後、二人は会場へ戻る事にした。

 しかしその帰り道、ドスが急に険しい顔をして城下町の方を見た。


 「…………っ」


 ドスは突然険しい顔で城下町の方を見る。


 「ん?どうしたんだよ、ドス?」

 「………誰か、戦ってる」

 

 町の方から視線を逸らさずにドスは言う。

 その発言にアルスは顔をしかめた。


 「戦ってる?おいおい、冗談言うなよ?この時期に城下町で戦闘なんて有る筈ねーだろ。そんなことしたら、直ぐに憲兵が来て最悪その場で切り捨てゴメンだぜ?」


 アルスの意見は最もだった。

 明日大陸会議を控えたこの日に町で騒ぎなんて起こせば、罰金や拘留程度では到底済まされない。町の警備も普段の数十倍に強化されているのだ。

 なにより―――月明かりに照らされた城下町には“戦闘音一つもしない静かな景色”が広がっている。

 ここまで聞こえてくるほどの戦闘音なら確実に何らかの異変が見て取れるはずである。

 アルスの眼にはそんなもの何処にも見えなかった。


 だが、ドスは視線を逸らすことは無かった。


 (………どっちも、強い。……それに、片方の魔力は、知ってる)


 どれだけ巧妙に隠しても、ドスの感知能力は常人の数百倍だ。

 この城下町程度であれば余裕で全域をカバーできる上、集中すれば局所ごとの詳細まで把握することが出来る。

 それこそ“魔術的”な隠蔽が働いていたとしても、だ。


 ただそれはあくまで感知に集中していた場合だ。

 任務の最中ではそこまで正確な探知は行えない。

 なのでドスは即座に数体の鳥型のゴーレム・ホムンクルスに思念通話を送る。


 (………戦闘予測地点を、送る。……そこを、監視して。……視界は、共有する)


 指示を受けた鳥たちは即座に飛び立った。

 これで良い。

 あとは彼らと視界を共有しながら指示を飛ばせばいい。


 「……ごめん、やっぱり、気のせいだった」

 

 即座に表情を取り繕い、ドスはアルスの方を向く。


 「そ、そうか?ならいいけどよ……」

 「……それよりも、会場に戻る。……依頼主を、待たせちゃ、駄目」

 「わ、わーったよ」


 そう言って強引に話題を切り替え、ドスはアルスと共に会場へ戻って行った。

 少しだけ奇妙な胸騒ぎを感じながら……。




 ハザン帝国城下町裏路地にて―――。


 人通りの少ないスラムの様な入り組んだ路地にて、ヴァレッドは壁に背を預けていた。

 負傷していた。

 額からは派手に血が出ていた。

 

 「ふぅー……強いねぇ……」

 

 ヴァレッドは額から流れた血を拭う。


 「上手くベルディー達と別れたのは良いけど、まさかこれだけ強いとは予想外だったねぇ……全く、ゾクゾクするねぇ」


 血を流すその顔には焦りや焦燥などみじんもなく、ただ笑みだけが浮かんでいる。

 先ほどの宿屋にて、ヴァレッドは相手の力量を瞬時に見抜いていた。

 そして、相手に言葉を信じるなら狙いは自分やベルディーであり、ファーリーは関係ない筈だ。

 なので、彼女を引き離すと同時に、狙いを自分に向けさせた。

 積極的に攻撃し、自分へ注意が向くように。

 その狙いは的中し、仮面の男は自分を追ってきた。


 「……どうした?もう逃げないのか?」


 声がした。

 前方からだ。

 月明かりの中、暗がり路地から仮面をつけた神官風の男が現れる。

 ヴァレッドとベルディーを襲撃してきた男だ。

 ここへ来るまでの攻防から、ヴァレッドは彼以外には襲撃者はいないと結論付けている。

 多分ベルディーやファーリーは無事だろう。


 「まあねぇ。ここまでくれば、邪魔も入らないだろうしねぇ」

 「……ふむ、確かにかなり郊外まで来てしまったな。やれやれ、あの宿屋でケリを着ける予定だったのだがな。見誤ったか…」

 「それは此方のセリフなんだけどねぇ………」


 会話をしながらも、ヴァレッドは奇妙な違和感を感じていた。

 

 (しかし、妙と言えば妙だねぇ。これだけの騒ぎを起こしていながら、町の住民が誰一人騒いでいない……)


 そう。

 宿屋から逃げる際も、こうして逃亡中も何度も戦闘を繰り返していながらも、誰一人として自分たちに関心を寄せる者が居なかったのだ。

 まるで、その“異常”が“平凡な日常の一部”であるかのように。


 (でも、もしこれが相手の能力なら……)


 これだけの精神干渉系の魔術を使える人物にヴァレッドは一人しか心当たりがなかった。

 頭に浮かぶのはメガネをかけた顔すら思い出せない程の平凡な女性。

 半ば確信に近い気持ちでヴァレッドは質問する。


 「―――『レイノルズの魔女』……君はその部下かな?」


 ぴくりと仮面の男が反応する。

 その反応だけで十分だった。

 くっくっくと、ヴァレッドは笑う。


 「やっぱり彼女の差し金か……。ま、動機なら山ほど思いつくけど、彼女の手の者が相手なら、こっちも遠慮する必要もないねぇ……っ!!」


 ゴウッ!!とヴァレッドの全身から強烈な魔力の波動が発せられる。

 更にその姿が異形の者へと変化してゆく。


 「――――“龍人形態”」


 魔力の波が収まり、その中心にはヴァレッドが居た。

だが、その姿は先程までとはまるで違う。

 背中からは翼が生え、額からは角を出し、むき出しの上半身はザラザラとした鱗で覆われている。


 人と龍が融合したような姿―――龍人形態。


 魔術における異能、ボルヘリック王国三大貴族の一角ノアード家のみが使うことが出来る固有魔術『龍殺し』。

 その能力は殺した龍の魔力と魂を自分の体に封じ込め自在に扱うことが出来るというモノ。

 そして、龍人形態はいわばその真骨頂。

 自身の体に封印した龍の魂と魔力の武装化だ。


 本来なら人間に使うものではないが、レイノルズの魔女の手先ならば話は別。

 自分やベルディーを国際指名手配にした事や、エクレウスの事を考えれば、遠慮などする必要はない。

 全力で叩き潰すだけだ。

 

 「この姿になるのは久しぶりだねぇ……。さあ、続きを、戦いをしようか」


 びりびりとヴァレッドが喋るたびに凄まじい魔力の波動が周囲を威圧する。

 実際周囲の建物には亀裂が生じている。

だが、目の前の男は表情一つ変える事無く口を開いた。


 「“龍魂消費”……。ノアード家が持つ忌むべき力か……」


 すっと男は右手に持った大剣を水平に掲げる。

 月明かりに照らされた大剣が光り輝く。


 「――――だが、それは貴様らの専売特許ではない」

 「なんだって…?」


 ヴァレッドは訝しげな表情を浮かべつつ男を見た。

 ゴウッ!!!と。

 仮面の男―――ルギオスを中心に凄まじい魔力の奔流が起こった。

 メキメキと何かが組み変わるような不気味な音。


 そして、ヴァレッドは信じられないものを見た。


 「……っ!?な、なんだい、その姿は―――っ!?」

 

 ヴァレッドが驚いた表情を浮かべた瞬間―――。


 「言った筈だ。“それ”は貴様らの専売特許ではないとな」


 ヒュンッ、という風を切る音。


 「なっ―――!?」

 

 気付けばルギオスの大剣が彼の体を貫いていた。

 月夜の空にヴァレッドの鮮血が舞った。

 



 ハザン帝国食事ホールにて―――。


 「あら、ドスお帰りなさい」


 更にこんもりと料理を盛ったウナがドスに気付く。

 ………まだ食べていたのか。

 少しは警戒心というモノを持って貰いたいとドスは思った。


 「……ん、ただいま。……異常は、無し?」

 「ええ。問題ありませんよ。ここには私が居ますもの」


 それに、とウナは続ける。

 

 「ドスが鳥型やレイス達に周囲を警戒するよう頼んでおいてくれたおかげで、私はオリオンの護衛のみに集中出来ましたからね。ずいぶん楽でしたよ」


 ウナのそのセリフに、ドスは思わずぽかんと口を開けてしまった。


 「……ウナ姉、もう一回、言って」

 「えっ?むぐ……ですからドスが鳥型やレイス達に周囲を警戒するよう頼んでおいてくれたおかげで、私はオリオンの護衛のみに集中できたので随分楽だったと……」


 聞き間違いじゃなかった。

 どういう事だろう。


 「………ウナ姉、気付いてたの?」

 「むぐっ……?当たり前でしょう?むぐむぐ……ごくん」


 口いっぱいにリスの様に料理を頬張りながらウナは頷く。

 何という事だろうか。


 姉がきちんと仕事をしていた。


 あのウナ姉が、料理にお菓子、美味しいものにつられて何度任務を放棄しかけたか分からない“あのウナ姉”が思念通話を通じて、巧妙に気配を消して配置させておいた鳥型やレイス達に気付いていた。

 あまつさえ、それを自分が配置したことにすら。


 そんな馬鹿な………。


 「ねえ、なんとなくなんですが随分私の事をバカにされてるような気配がするのですが、気のせいかしら?」

 「……………………………気のせい」

 「随分間が長いですね。まあ、いいわ」


 食べカスを口に周りにつけながら何とも緊張感の無い感じで話しているが、一応はウナ姉にも気付かれない様に配置したつもりだったのに……。

 

 その優秀さをもう少し普段の態度に出してくれればいいのに……。

 そうすれば威厳たっぷりの見た目通りのクールビューティーなウナ姉に成れるのに……。

 そんな風に思うドスであった。


 ちなみにウナはホールの食事終了時間になるまで、食べ続けていた。

 ドスは付き合ってくれたオリオンに謝罪した。

 オリオンは笑って許してくれた。

 ウナ姉ェ……。



 

 ハザン帝国帝城客室にて―――。


 「あ、ルギオスお帰りー」

 

 眼鏡をかけた平凡な見た目の女性―――レーナロイドはワインを片手にルギオスに手を振る。

 酒が入っている所為か、その頬はほんのり紅かった。


 「んー……服がぼろぼろだね。もしかして、久々に“アレ”使ったの?」

 「はい」


 頷きながらルギオスは頭を下げた。


 「レーナ様、申し訳ありません。龍殺しと穿界に逃げられました」

 「ふーん、そう」


 さして興味もなさそうにレーナロイドはグラスを傾け、ワインを呷った。

 ぷはぁと酒臭い息を吐く。


 「……しかしながら、龍殺しの方には相当な深手を負わせました。あれならば龍魂消費を使ったとしてもしばらくは―――少なくとも大陸会議中は戦線に復帰することは出来ないでしょう」


 ルギオスのその発言に、レーナロイドは頷く


 「なるほど、なるほど。んで……誰が邪魔に入ったわけ?」


 酔っぱらった表情のままレーナロイド問う。

 その声音には期待が入り混じっていた。

 彼女はルギオスの実力も、ヴァレッドやベルディーの実力もきちんと知っている。

 その上で、ルギオスの戦闘に介入出来、かつ負傷したヴァレッドを抱えて逃げおおせるものなど限られている。

 ルギオスは頭を下げたままその質問に答える。

 

 「“雷斬り”アオバ・キリシマと―――」


 一呼吸置き、ルギオスはその人物の名を言う。


 「―――リアス・アウローラです」


 その発言に、レーナロイドはにんまりと笑みを浮かべた。


 「そっか、そっか、そっか。ようやく網にかかってくれたか、リアスちゃん。んー…やっぱ“雷斬り”は彼女の側の人間だったか。てことは、“銀鬼”や“夜叉”辺りも怪しいかな」


 レーナロイドはぶつぶつと独り言のように自分の考えを呟く。


 「それに今更ヴァレッド君を助けに入ったって事は、やっぱり彼女の計画には“龍殺し”が不可欠か……いや、もしかしたら保険かな?でも、うん。なるほどねー、だいぶ本筋が見えてきたよ」


 うんうんと頷く彼女にルギオスは質問する。


 「いかがなさいますか?ご命令くだされば、すぐにでも討伐へ向かいますが?」


 先ほどヴァレッド達を取り逃がした失態もある。

 顔を上げ、ルギオスは自分の主の顔を窺った。


 だが、レーナロイドはワインを飲みながら首を振った。


 「いんや、良いよ。別に何もしなくても。放っとく」


 ぷはぁ、と再び酒臭い息を吐く。


 「どうせ彼女も明日以降の本番までは何もできやしないんだ。多分、一日目、いや行動を起こすとすれば二日目か三日目辺りだろうね……。ルギオスもその時までは、ゆっくり休んでいいよ」


 レーナロイドはひらひらと手を振るが、ルギオスは神妙な顔をして答えた。


 「いいえ。ターゲットを始末し損ねた責任がありますので、私はこのままリストに書かれた彼ら以外の者たちの始末へ向かいます」

 「あ、そう?真面目だなぁ。それじゃあ、そっちをお願い」


 そして一呼吸おいてから言葉を続けた。


 「あーでもベルディーちゃんはもういいや。放っておいて」

 「……なぜですか?」

 「彼女程度じゃ神殺槍の本来の力は引き出せないからだよ。他の厄介な奴に渡って力を引き出されるよりも、使えない彼女が持っていた方がなにかと都合がいい。それに彼女は多分、リアス側の人間じゃないって分かったし、消す必要はないよ、リストからも削除ね」

 「畏まりました」

 「ん。何はともかく明日以降が本番だ。頑張っていこー」

 「はい」


 表情を崩さず答えるルギオスにレーナロイドは苦笑した。

 もう少しノッてくれても良いじゃないかと。


 「よし、そうと決まれば今日は早めに就寝しよう!明日の会議中に居眠りしない様にね」

 「いや……会議中は普通に起きていて下さい、レーナ様……」


 そこだけは感情をこめてルギオスは嘆願した。




 そしてハザン帝国郊外の民家にて―――。


 ヴァレットの意識はゆっくりと覚醒した。

 ずきずきと体が痛む。

 自分はどうしてこんなところに居る?

 感触から自分がベットか何かに寝かされているのは分かった。

 直前までの行動を思い出す。

 確か自分はあの魔女の配下の男と戦闘をしていた筈だ。

 だが、あの男が“あの姿”になってからは殆ど一方的な展開になって……。


 「うぐっ……」


 無理やり体を動かそうとするが上手くいかない。

 どういう事だ?

 体内の龍魂も上手く作動していない。

 というか、ココはどこだ?


 「―――気が付いたようですね」


 横から声がした。

 その声でようやくヴァレッドは自分の横に誰かが居たことに気付いた。

 横を見る。

 木製の椅子に女性が腰かけていた。

 秘書の様なぴっちりとした礼装を着こなした、二十代前半ほどの見た目の女性だ。

 更にその後ろには東国の着物を着た若い男が壁に寄りかかりながら此方を見ていた。


 「久しぶりね、ヴァレッド。……いや初めましてと言うべきですね」

 「……誰だい?」


 目の前の女性は自分の事を知っているようだが、ヴァレッドには心当たりがない。

 目の前の女性は猫を思わするような笑みを浮かべる。

 だが、その笑みはどことなく寂しそうに見えた。


 「私はリアス。リアス・アウローラ。かつてボルヘリック王国でエクレウス様の秘書をしていた者です」

 「リアス……」

 

 初めて聞く名だった。

 だが、なぜだろう?

 自分はこの女性を知っている気がする。

 かつてどこかで会っていたのだろうか?


 「とりあえずは傷の手当てをしましょうか。話はその後で―――」


 ゆっくりとリアスはヴァレッドの体に治癒魔術を施してゆく。



 こうして夜は更けてゆく。


 そして翌日、大陸会議が開催される。





 あと二話くらいしたらアースさんの視点に戻ります

 もうちょいこんな感じになります。

 ご了承ください。


 あとウナはポンコツだけど優秀だよ



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