12.休ませて下さいよ
アース視点のお話に戻ります
ダンジョン深層監視室にて―――
『………俺の、母親?』
グウィブに言われたことをオウム返しに呟く。
『そうだ。お前の母親だ。彼女はこのエルド荒野でお前を生み、私にその世話役を頼んだ』
『え?いや、その……えぇ?』
混乱した。
いや、うん。
そりゃあ、まあ、俺も卵から孵ったわけだし、誰かが生まないと卵なんて出来ないよな。
でも、母親……母親か。
俺を生んだ龍ってことは地龍だよな。
なんだよ、全然滅んでないじゃん地龍。
けど…………正直、今更感が凄い。
生まれた時は傍に誰もいなかったし、最初から一人で生きてきた。
今では、アンやエリベルにぷるる、それにツムギ。
ウナ達ゴーレム・ホムンクルスにファーブニル達だっている。
今更、母親とか言われても、正直どうすれば良いのか分からない、というのが本音だ。
あまり考えないようにしてきたし。
だが、何を勘違いしたのかグウィブはモニター越しにうんうんと頷いている。
『随分、混乱しているようだな。まあ、無理もないだろう。出来る事なら、今ここで全てを話してもよいが、それでは……彼女への義理を欠くことになる』
『え?』
グウィブは、のそりと起き上がり、その翼を広げた。
僅かばかりの太陽光の反射を受けた白い翼が輝き周囲を照らす。
悔しいけどカッコいいなぁ。
俺翼なんて生えないし。
地属性の龍は翼が生えないのだろう。ファーブニルも生えてなかったし。
まあ、翼なんてあっても、俺地下から出る気ないから生えても意味ないんだけどね。
『どのみち彼女の方から会いに来ると言ったのだ。それまで、ゆっくり待っていると良い。………まあ、龍の感覚での“近いうち”だ。何十年先になるかは、知らんがな』
『え?』
おい、今なんか最後にとんでもない事言わなかったか?
グウィブが翼を広げると、周囲の木々がざわめいた。
そして、そのまま飛び立とうとする。
帰る様だ。
て、おいおい、ちょっと待てよ!
『―――おい!グウィブ!エルジャはどうするんだよ!?置いていくつもりか!?』
ぷるるの分身体からの報告じゃ、彼女まだ研究所で寝てる様だ。
しばらく起きる様子もないという。
彼女をどうすれば良いというのだ?
あのエリベルの所に聖龍なんて置いておくなんて、危険すぎるぞ、色んな意味で。
だが、グウィブから出た言葉は、最悪の一言。
『お前には悪いが、しばらくの間彼女の事を頼む』
『はぁ!?』
ザ・丸投げ。
何だよそれ、ふざけんな。
アレ、明らかにトラブルの匂いしかしないぞ!?
『安心しろ。聖王国と彼女の父親には、私の方から話をつけておく。お前への害にならない事は確約しよう。それに彼女には、他の龍王種や外の世界を知る良い機会だし、お前にとっても彼女は“必要”に成る筈だ』
『はぁ?それってどういう事だよ?』
そもそも、此処に居られること自体が結構迷惑なんだけど。
だが、グウィブは俺の言い分など完全スルーの構えだ。
『ああ、そうだ。最後に一つだけ教えておいてやろう』
『………なんだよ?』
にやりとグウィブが笑った気がした。
『―――“ギブル”。それがお主の母の名前だ。後で、あの骨の賢者にでも聞いてみろ。きっと、色々と教えてくれる筈だ。―――それでは、また会おうぞ、アース。その時には、その巣穴から出てきて、きちんと素顔を見せてくれよ?』
そう言ってグウィブは凄まじい速度で大穴から飛び立っていった。
あっという間に見えなくなる。
ホントに言いたい事だけ言って帰ったって感じだ。
「いっちゃったねー」
「ぷぅー」
トレスとぷるるが呟く。
『はぁ……なんか、疲れた』
憑代の身だから、肉体的な疲れは無い。
ただ、精神的には疲労はある。
「ぷるー?」
ぷるるが「大丈夫?」みたいな感じで、体をこすり付けてくる。
らぶりー。
その仕草と、その極上の触感が俺の心を癒してくれる。
『有難うな、ぷるる』
「ぷー、ぷぷー」
「気にしないでー、だってさ」
『でも、聖龍か……それに、俺の母親……』
はぁ、と俺は深い溜息をつく。
ファーブニルとのダンジョン融合が落ち着いて来たかと思えば、もうコレだ。
何なんだよ。
俺はただ静かに生きたいだけなのに、何でこうトラブルや厄介事が向こうからやってくるんだ?
静かに生きれない呪いでも掛かってるんじゃないだろうか?
とりあえず、ぷるるを撫でて精神安定。
あぁ、柔らかい。
「あ、お父ーさんばっかりズルい!私もさわりたーい」
「ぷるぅっ!?」
横からトレスにぷるるを強奪される。
癒しが……。
「うーん。やっぱり、ぷるる柔らかーい。気持ちいー」
「ぷぅー、ぷぷー」
トレスはぷにぷにとぷるるを抱きかかえて、頬擦りしている。
…………うん。
これはこれで中々に癒される。
らぶりーな光景だ。
そう思っていると、不意に監視室のドアがノックされた。
「失礼します、お父様」
「………ん」
入ってきたのはウナとドスだ。
「お父様、中層ダンジョンの警戒態勢解除。ユグル大森林の魔物達及び動物型ゴーレム・ホムンクルス達はそれぞれの持ち場へ戻りました。アンさんが現場で指揮を執っている為、私達が代理でお父様の元へ窺った次第です」
『お、そうか。ご苦労様』
アンからも思念通話で一通りは聞いてるけどね。
モニターには今も魔物達に指揮を執っているアンの姿が映し出されている。
「それと、お父様。もう一つご報告があるのです」
『ん?もう一つ?』
「実は………数日後には、再び聖王国へ向かわなければならなくなったのです」
『聖王国に?』
こくりと、ウナとドスは頷く。
「はい。聖龍が一体聖地から居なくなったのですから、少なからず聖王国では騒ぎになっていると思われます」
「…………うん。向こうがどうなってるのか調べる」
成程。
確かに、それはあり得る。
今回の件はあのエルジャって子の独断っぽいしな。
だからこそ、グウィブも向こうを説得しに行くとか言ってたし。
「それに、今回の件とは別に、ドスにはギルドから招集がかかっているのです」
『招集?』
ドスの方を見るとこくりと頷いた。
「………ん。Sランクの冒険者が対象の強制招集」
『ああ、そう言えばドスはSランクになったって言ってたよな。でも、何の招集だ?』
「………“大陸会議”。そこに出席する人達の護衛任務」
………大陸会議?
何だそりゃ?
「んー?ドス兄ぃ、大陸会議って何だっけ?」
「ぷー?」
俺が首をかしげていると、トレスが疑問を口にする。
ぷるるも分から無い様だ。
よかった。知らないの俺だけじゃなかった。
答えたのはウナだ。
「“大陸会議”は、文字通りこのファーウド大陸に属するあらゆる国家が参加する大規模な集会の事ですよ。数年に一度、各国の代表が集い、それぞれの近況報告や情報を得るための場、と言っていました」
「へぇーそうなんだー」
「ぷぅー……」
トレスとぷるるがへぇーと言った表情で頷く。
妹に説明が出来て、ウナはドヤ顔だ。
ウナがまともな事を言っているのって、なんか久々なような気がするな。
でも、聞く限り誰かの受け売りっぽいけど。
「………ん、ギルドの受付嬢に聞いた」
それとなくドスが俺に耳打ちした。
なんとなく何を考えていたか読まれたのだろう。
ギジーと言い、ドスと言いなんでみんな俺の考えがすぐに読めるわけ?
「………今回はハザン帝国でその会議が開かれる。Sランク冒険者は自分が所属する国の護衛。うまくいけば、ほかのSランクとのコネが出来る。参加した方がお得」
ウナの説明をドスが補足してくれた。
成るほどね。
『そっか。分かった、十分に気を付けてな』
「…………うん。パパも早く体治して」
『ああ、ありがとな』
そう言って俺はドスの頭を撫でる。
ドスはくすぐったそうに目を細めるが、嫌そうではなかった。
その横でウナが物凄い目を見開いていたが、怖いので見なかったことにした。
その後、俺達は監視室を後にした。
ホント、慌ただしい一日だったなぁ。
でも、本当に慌ただしくなるのは、これからだった。
翌日。
エルジャが目を覚ました。




