3.釣りの時には一度はあのセリフを言ってみたいよね
さて、龍王種である地龍のことを説明するには、地龍が抱えるいくつもの矛盾点を説明していかなければならないね。
矛盾点。
そう、地龍はその存在自体が歴史上つじつまの合わない部分が数多く存在するんだ。
まず一つ目。
地龍は数百年前に滅びた龍種である。
これ自体は別に何も問題は無い。
問題はそこじゃなあない。
歴史の記述にはこう書かれている。
“数百年前、地龍はその力の脅威と、その肉体がもたらす資源的有用性の高さから、人族によって幼体から成体に至るまで次々と狩られ、そして滅びてしまった”、と。
多くの歴史書にはこう書かれている。
これはよく考えるとおかしくないだろうか?
先ほど私は、龍とは力の象徴だと明言した。
では、なぜ龍王種筆頭であるにもかかわらず、たかが人族如きに滅ぼされることになったのか?
まだ、幼体だったから?
数の暴力によって成体でも敵わなかったから?
そもそも、一種類の魔物を滅ぼすというのは相当な手間のかかる作業なんだよ。
あの群の魔物と評される『インペリアル・アント』ですら、人族は滅ぼすまでにどれだけの年数と犠牲を払ったと思っているんだい?
ましてや、龍族を滅ぼすなんて真似果たして人族に出来ると思うかい?
そう、一つ目の矛盾とは最強の龍種と謳われていながら、人族なんかに悉く狩られてしまったという点だ。
二つ目の矛盾点。
魔物には階級と呼ばれるものが存在する。
最下級から始まり、最上級が神災級とされている。
では、地龍はこの階級のどこに当てられているのか?
そう、災害指定種だ。
神災、厄災、その下に位置する災害指定種。
これもおかしいだろう?
なぜ、龍王種筆頭とされる地龍の魔物としての“格”が災害指定種如きで収まっているのか?
災害級の一つ下、王級の魔物と称される種族でいえば、アクレト・クロウ、白飛龍、ジャイアント・リザードなんかが有名どころだけど、これらの種族は個体によっては災害指定種まで成長することがある。
言葉通りに受け取るならば、この三種の最大個体は、龍王種筆頭である地龍と同格の存在という事になる。
龍王種とはそれほどまでに安っぽい存在なのだろうか?
ましてや、その筆頭格が。
魔物の中には災害級の更に上、厄災級、神災級に該当する“夢霧”や“皇獣”といった龍種でない魔物も存在するんだ。
にもかかわらず、地龍が災害級の枠に収まっているのはなぜだろうか?
これが二つ目の矛盾。
地龍は魔物としての格があまりに低い。
いや、災害級も十分に強大なんだけどね。
それでも、地龍という魔物を測るにしては物差しとして足りないんだよ。
そして、三つ目。
一つ目の矛盾点の時にも言ったけど、地龍は数百年も前に滅びた種族とされている。
では、なぜ数百年以上前に絶滅したと言われているのに、未だに地龍が龍王種筆頭の地位に納まっているのか?
そもそも、もう滅んでしまったのならば、龍王種は四種ではなく、三種に減らしてしまっても良いのではないだろうか。
未だにその席が用意されているのはなぜなのか?
これが三つ目の矛盾だ。
この他にも、地龍は、その存在自体が数多くの矛盾を孕んでいる。
いや、他の龍王種に比べてその存在の輪郭がぼやけていると言っても良い。
でもね。
実は、これらの疑問は全て一つの線で繋がっているんだ。
これらの矛盾は起こるべくして起きた。
言うなれば、地龍と言う存在が語られていくうえで、歴史上彼らが活動していくうえで、必然的にこれらの矛盾は作り出されていったとでも言うべきか。
その全ての始まりは、遥かな過去。
一匹の龍がこの世に生まれた事に起因する。
すべての始まりとなる一匹の龍。
そして、かの龍が造りし巨大なダンジョン。
地龍とは何か?
龍王種とは何か?
その全ては、最初から一つの線で繋がっているんだ。
では、語ろう。
地龍の――龍王種の―――その在り方を―――。
ボウルへリック王国大図書回廊保管
『龍王種についての記述』第一章より抜粋―――。
エルド荒野地下深層の森にて―――
俺はエルド荒野地下の森に来ていた。
なぜか?
もちろん釣りをするためだ。
竿は以前に作っておいたし、糸はチュランに出してもらった。
森の中で、果物をもちゃもちゃ食べていたので、頼んだら「いいよー」と言って、普通に糸を出してくれた。
張力も強度も申し分ない。
釣りに使うには十分だ。
後で、ご褒美に魔石をあげよう。
餌は、冷凍保存しておいたジャイアント・リザードの肉を解凍して作った肉団子。
それに、中層で取れた魔石の粉末をブレンドした特別性だ。
それを糸の先の釣り針に括り付けて、と。
『よーし、完成。あとはこれを垂らすだけだ』
ぽちゃんと音を立てて餌は湖へと沈んでゆく。
後は獲物が掛かるのを待つだけだ。
しかし、こっちの釣りはお手軽に出来ていいよなー。
前世だと、釣りってのめりこんだら金がどんどん溶けていく趣味だったからな。
無趣味でよかった。
…………いや、良かったのか?
思い出したくもない枯れてた前世の自分。
まあ、いいか。
『さーて、何が掛かるかなー』
垂らした釣糸を眺めながら、近くの木の根に体を預ける。
……静かだ。
水の流れる音と、かすかな木々のせせらぎ。
そして―――。
「ぷうー」
『ああ、ゆっくり獲物が掛かるのを待とうな、ぷるる』
俺はその流線的な体を一撫でする。
すると、ぷるるは嬉しそうに体を震わせた。
らぶりー。
いやされるわー。
そう、今、俺の膝の上にはぷるるが乗っかっている。
といっても、本体ではなく分身体だ。
ぷるるの本体は、現在ファーブニルのダンジョンで、リュングと言うヒュージ・メタル・スライムと一緒に居る。
まあ、分身体と本体の間にはパスが繋がってるから、ある意味どっちも本体と言えるんだけどな。
以前、一緒に外に出た際に指摘された魔力供給の問題も、ある程度は改善できてるみたいだ。
改良を重ね、どちらも分身体で、どちらも本体と言っていいレベルになっているらしい。
まあ、スライムって分裂で数を増やす魔物だしな。
さもありなんってところか。
「ぷぅ?」
ぷるるが「どうしたのー?」と言った表情で、こちらを見て来る。
あぁ、止めてくれ。
その上目使いを止めてくれ。
癒され過ぎて、溶けて死んでしまう。
主に俺の心が。
『なんでもないよ、ぷるる。今日は二人でのんびり釣りを楽しもうなー』
「――!ぷるー!」
きゃいきゃいと俺の膝の上で、ぷるぷる震えるぷるる。
らぶりー。
癒されるわー。
戦いで傷ついた心が癒えていくわー。
さて、獲物が掛かるまではエリベルに貰った研究資料でも見ておくかな。
俺は腰にぶら下げた袋から極彩色の球体を取り出す。
今の俺は蜥蜴人の姿だからな。
こうやって荷物袋下げないと荷物を運べないんだよ。
普段は鱗の隙間に挟んで持ち運んでたのに、ホントこの体って不便だわ。
早く元の地龍の体に戻りたい……。
『どれどれ……?』
極彩色の球体を操作し、中のデータを取り出す。
最初に小さな立体映像に映し出されたのは、ダンジョン融合に関するデータだ。
『俺達のダンジョンと、ファーブニルのダンジョン、それにエリベルのダンジョンの融合状況ね』
とりあえず、それをぷるると共に一通り眺める。
うげぇ、結構量多いな。
「ぷぅぅぅー………??」
あ、早くもぷるるが頭から湯気を出してる。
目もぐるぐるしてるし。
うん。知恵熱出してるぷるるもかわいいよ。
でも、実際量が多いな。
記憶送信にしてくれよ……。
今の憑代ゴーレム状態の俺じゃあ、“暴食”で直接知識を取り込むことが出来ないんだからさ。
まあ、文句を言っても始まらないか。
とりあえず、読もう。
俺は映し出された映像を読み取ってゆく。
えーっと、現在のダンジョン融合の状況について、これからの融合推移の予測数値、三つのダンジョンが抱える魔力の総量、予想される魔石の産出量、消費される魔素の予測値。
おっと、こっちはツムギの“ダンジョン改変能力”の既存数値とこれからの成長予測数値か。
それに生息する魔物の数と種類、それに共生可能限界数。
ファーブニルの主要眷属に、各員の戦闘能力や特殊能力。
各階層の特色に、出現から三百年間の侵入者の踏破記録に、要注意人物。
うっへー、地上のハザン帝国に関する資料まで載ってらー。
カグリアス侵入の際の注意事項?
なに、これ?
誰だよ?カグリアスって?
うわぁー俺でも、これ全部読むには数十分はかかるぞ?
まあ、獲物の方もまだかからないし、ゆっくり読むか。
「………ぷぅー……」
『あらら、寝ちゃったか……』
どうやらぷるるには退屈だったようだ。
まあ、興味ない事ってどうしても退屈だしな。
俺はぷるるの体を撫でつつ資料を読み進めていった。
……………しかし、ぷるるってホント柔らかくていいよね。
触ってて飽きない。
これは極上の触感だ。これは良いものだ。
『んー………魔力の循環経路が随分多いな。ファーブニルのダンジョンの階層のうち、七割以上に俺のダンジョン、それにエリベルのダンジョンの魔力回路が繋がれている。ああ、ファーブニルの負担軽減も兼ねてるのか。……にしたって、これじゃああんま意味なくないか。それに自動生成される魔物の種類も偏りが生じてるし……』
俺のダンジョンは基本的に作られるのはゴーレムか、ゴーレム・ホムンクルスの二種類だけだ。
だが、エリベルのダンジョン、ファーブニルのダンジョンは少なくとも百種類以上の魔物がダンジョンから自動生成されている。
エリベルのダンジョンではそれがランダムに、ファーブニルのダンジョンでは任意的にそれらが生み出されている。
でも、
『それでも、このままじゃ融合っていうよりも、本当にただダンジョンとダンジョンを繋げただけって感じだな』
例えるなら、隣の家の壁を取り払って行き来できる通路を作った程度でしかない。
自由に行き来できるようにはなっても、互いに独立しているようなもんだ。
これじゃあ、ダンジョンの融合とは言えないんじゃないかな?
まあ、エリベルは俺の体の方に掛かりきりになってるし、ギジーとツムギ任せじゃある程度の妥協は仕方ないか……。
『………いや、まてよ?じゃあ、いっそのこと……アレをこうして、こうすれば……』
ふと、アイディアが閃く。
うまくいけば、もうチョイいい感じのダンジョンに仕上がるんじゃないかな?
俺は自分の考えをまとめて、それを極彩色の球体に入力していく。
確かこの球体にデータを打ち込めば、それがエリベルの研究所にある本体――つまりギジーの元にフィードバックされる仕組みになっている。
参考程度になればと、俺は自分のアイディアを極彩色の球体に打ち込んだ。
さて、次は俺の体に関してか。
どれどれ―――。
俺が、データを見ようとしたその時だった。
「ぷるー!ぷるー!」
ぷるるが声を上げる。
うぉ、起きてたのか。
『ん、どうしたぷるる?……って、おお!』
見れば、竿が反応している!
当たりだ!
この引き、かなりの大物だな。
ぴくん、と浮きが反応する。
『お、きたきた。ヒット!』
獲物が掛かったのを察したのか、茂みからチュランが現れた。
「えものーとれたー?ごはんーまだー?」と言った感じで、こちらを眺めている。
『チュラン、悪いけど引き上げるの手伝ってくれないか?もし、手伝ってくれたら、釣り上げた魚食べてもいいからさ』
俺がそう言うと、チュランは八つある眼をぱぁっと輝かせて、俺の持つ竿に糸を絡める。
どうやら手伝ってくれるらしい。
キシーキシーと鳴いているが、多分「ごはんー♪ごはんー♪」と言っているのだろう。
糸の端を釣り竿に絡め、自身は木を支柱にして張り付いている。
みしみしと竿が悲鳴を上げる。
でも、折れないさ。
この竿は森で取れた樹木を加工し、その上に樹脂を数百回にわたってコーティングした特別性なんだ。
そう簡単には折れない。
『ぐおお……すげー引きだ。こりゃデカいぞ。ぷるるも手伝ってくれ!』
「ぷるー!」
その後、俺達は三十分近くかけて、ついに四百キロ近い超大物を釣り上げることが出来た。
『獲ったどー!』
「ぷるー!」←やったねダーリン、と言っている。
「キシー!」←ごはんーごはんー、と言っている。
さて、釣り上げたこの魚、見た目は前世で見た本マグロにそっくりだな。
淡水魚だよなこれ?
あぁ、でも美味そうだなー……。
この体じゃ、食えないけのが惜しいけど。
とりあえず、捌いてチュランとぷるるにあげるか。
チュランなんて、もう口から涎垂らしてるし。
て、あれ?包丁どこだっけな?
俺がごそごそと袋を漁っていると、背後にあった転移門が光り輝いた。
『ん?誰だ?』
そちらの方を見ると、転移門を潜って一組の男女が姿を現す。
「お父様!お久しぶりです!ただ今ハルシャルード聖王国より、帰還いたしました!」
「………ただいま、パパ」
トレスの姉と兄。
俺にとってのゴーレム・ホムンクルス一号、二号。
ウナとドスがハルシャルード聖王国から帰ってきたようだ。
しばらく、ダンジョンを離れてたけど、元気そうで何よりだ。
アオザイ風の衣装を身に纏った二人は俺の前に跪き、頭を下げる。
そんな畏まらなくても良いのになぁ。
まあ、いいか
『お帰り、二人とも。元気そうだな』
せっかくだし、二人が聖王国で何をしてたのか聞かせてもらおう。
魚でも喰いながら。
あーすは すごいつりざおを つかった。
まぐろっぽい さかなを てにいれた!




