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地龍のダンジョン奮闘記!  作者: よっしゃあっ!
第六章 道外しの少女とファーブニルの迷宮

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18.器と死にたがり

 注意:現在アースさんはお薬の影響で精神が反転しています。

    その事を、念頭に置いてお読みください

 ファーブニル最終層『黄金の間』にて―――


 俺は眷属である白い少女―――道外しの言葉を反芻するように呟いた。


 『ファーブニルを………殺す?』


 「うん」


 彼女は頷いて、黄金の龍、ファーブニルを見る。

 ファーブニルもこくりと頷く。


 「ファーブニルはさ………もう限界なんだって」

 

 『限界?』


 「うん、寿命」


 かき上げていた前髪を再び戻し、道外しは俺の方を見る。

 キャラメル色の瞳は、再び前髪に隠れて見えなくなる。


 「ファルはさ、もうすぐ死んじゃうんだって。だから…………その前に殺してほしいんだって」


 最後の部分は、かすれる様な声だった。

 というか、意味が分からなかった。

 もうすぐ寿命で死ぬから、その前に殺す?

 どういう事だ?


 「はぁ……道外しよ、それでは説明が足らん」


 呆れの混じったような声で、ファーブニルが口を開いた。


 「道外しの主よ。ここからは、私が引き継ごう」


 ぎょろりと、宝石のような目でファーブニルが俺を見る。

 すごい迫力だな。魔力の波動もビンビン感じる。

 これが、八代迷宮の迷宮主か……。

 薬が効いてなければ、超ビビッてたに違いない。

 ていうか、絶対逃げてた。

 

 「私が、お前をここに呼んだ理由。それは、先にその少女が言った通り、私の寿命が尽きかけているからだ」


 『寿命……?』


 「そうだ。私の寿命はもうすぐ尽きる。いや、正確に言えば、私と言う人格が、迷宮核に喰われてしまう、と言った方が正しいか……」


 『どういう事だ?』


 要領を得ないファーブニルの説明に、俺は尚更混乱してしまう。


 「………そう言えば、まだ名前を聞いていなかった、道外しの主よ。お前の名は何という?」


 『………アースだ』


 「そうか、ではアースよ。お前には、ダンジョンにはいくつかの種類がある事を知っているか?住んでいる魔物の質や、様式の事ではなく根本的な部分での違いだ」


 いきなり全く別の所に話が飛んだ。

 なんでダンジョンの話になるんだとも思ったが、まあいいか。

 ダンジョンの違い、それも出現する魔物や様式的な特徴ではなく、根本的な部分での違い……。

 そう言われて俺は思い出した。

 前にエリベルが、そんな事を言っていた。

 

 『アレか?魔物が住みついた結果誕生したダンジョンや、迷宮核が自己防衛の為に創造したダンジョンとか、そう言う違いの事か?』


 俺の回答に、ファーブニルはこくりと頷く。

 どうやら、正解だったらしい。


 「そうだ、魔物が作り上げたダンジョン―――特に洞窟の様なダンジョンは、その魔物の寿命が尽きても崩壊することは無い。そして、迷宮核の存在するダンジョンは、迷宮核が破壊されない限り、つまり魔力が尽きない限りダンジョンは存在し続けることが出来るが、迷宮核が壊された場合、そのダンジョンは崩壊する」


 そして、とファーブニルは言う。


 「その分類には、正確にはもう一つあるのだ。迷宮核と魔物が融合し、誕生したダンジョンだ」


 『魔物と迷宮核が融合……?』


 「そうだ。その場合、ダンジョンの寿命は、その迷宮主の寿命に依存する。そして、器となる迷宮主が死んだ場合、中に取り込まれていた迷宮核も同時に消滅する」


 そう言って、ファーブニルは立ち上がり、自分の体に爪を突きつける。


 『なっ!?』


 いきなり何やってるんだ!?

 びちゃびちゃと、血が滴り、血のにおいが充満する。

 そして、その肉の合間から小さな黄金色の球体が見え隠れしている。

 それはまるで心臓の様に表面が脈打っている。

 生きているかのようだ。

 感じる濃密な魔力の波動。

 あの黄金の球体は凄まじい魔力を有しているのだろう。

 

 「これが、このダンジョンの迷宮核だ。かつて、私は四百年前、この迷宮核を喰らい、このダンジョンを造った。そして、それ以降、私はこの迷宮核の器として、このダンジョンを維持してきた」


 傷は数秒の内に収まり、きれいな黄金色の皮膚が甦る。


 「だが………それももう限界に近い。私の、龍としての、生き物としての寿命がもうすぐ尽きようとしている。鉱龍はもともと短命な種族だ。今はそれを、迷宮核の魔力で無理やり補っているといった状態だな」

 

 ふぅ、とファーブニルは溜息をつく。

 それはどこか疲れ果てた、くたびれた老人の様な仕草だった。

 つーか四百年でも短命なのか龍って………。

 まあ、俺も成体になるまででも百年掛かるゆったり種族だしな。


 ん、ちょっと待てよ?


 『迷宮核の魔力で、無理やり延命してるんだろ?なんで、それで殺してくれって話になるんだ?』

 

 「そう、そこなのだ」

 

 ファーブニルは、よくぞ気付いたといったような口調だ。

 なんか、腹立つな。


 「私が一人で死ぬ分には、些かも問題は無い。問題は―――私の眷属とダンジョンの方だ」


 『眷属とダンジョン?』


 「迷宮核を取り込んだ私が、寿命で死んだ場合、眷属も―――そしてダンジョンも道連れになるのだ」


 『――――は?』


 「先ほども言ったろう。迷宮核が壊れた場合、ダンジョンも崩壊すると。私という“器”を失った迷宮核は、そのまま機能を失い、ダンジョンと共に崩壊してしまう。迷宮核によって生み出され、制御されている魔物も同様だ。支柱を失えば、後は連鎖的に崩壊が始まる。だから、迷宮核は私を生かそうと必死なのだ。こうして傷を治し、常に魔力を供給する程にな」


 だが、とファーブニルは言う。

 

 「それを回避する手段が一つだけある」


 そう言ってファーブニルは再び俺を見る。

 

 「その為に、私はお前をここに呼んだのだ、道外しの少女の主、アースよ。お前に、全てを託すためにな」


 成程な。

 そういう事か。

 つまり、コイツの目的は――――。


 「私を殺してくれ、アース。そして、お前がファーブニルの全てを手に入れるのだ」

 



 ファーブニル第九十層『死皇の間』にて―――


 「―――“器”の譲渡。つまり、ファーブニルの迷宮核を、まだ生きている間に別の魔物に移植すことで、ダンジョンの崩壊は免れる。そういう事なんでしょう?」


 エリベルは断言する。

 現在の状況と、今までの知識を照らし合わせた結果、彼女はそう言う結論に達した。

 正直、一番当たっていてほしくない予想だったが、世の中というのは存外嫌な予想ほど当たるものである。

 それに対し、ファーブニルの眷属ロブンはゆっくりと頷いた。

 

 「そうだ……ファルの死期は近い。その前に……ハァ…ハァ……迷宮核の器を入れ替える事で、ダンジョンは、我々は崩壊を免れる」


 それをエリベルは冷ややかな視線で見つめた。


 「………外部から呼び寄せたって事は、アンタら眷属では“器”にはなりえないって事なのね?冒険者でも駄目。あのバカを呼び寄せたって事は、ファーブニルと同種、もしくはそれに近しい存在だから、って事かしら?」


「そうだ………はぁ……はぁ……だます様な真似をしたことは謝る……だが、僕たちとしても、これしか方法が―――」


 「うっさいわ、ボケ!」


 「ガハッ!!」


 ロブンが言い終える前に、エリベルは再び杖をフルスイングし、ロブンをぶん殴り、再び地面を転がる。


 「―――ったく。つまりは、壮大な自殺ってことじゃないの。本当に迷惑な話ね。私達を分断させ、階層主と戦わせたのも、そうすることで、円滑に“他のダンジョンの魔力”をファーブニルに循環させ、代替わりをしやすくするのが目的だったんでしょう?その為に、命張るだなんて、アンタらも随分な道化っぷりね」


 「…………」


 ロブンは答えない。

 ただ、その眼窩の炎は葛藤と覚悟が見え隠れしていた。

 この骸骨にも色々と思うところがあったのだろう。

 その上で、彼は眷属として、ファーブニルの自殺を手伝った。

 主や犠牲その他もろもろ、様々なものを天秤にかけて、


 でも、そんなもの、エリベルにとっては犬のクソ以下だ。

 無駄で、無価値で、無意味なただのクソだ。


 「私ね、自殺志願者って嫌いなのよね。自分から死にたがるヤツの気持ちって、いまいち理解できないわ。楽しくない、わくわくしない、面白くない。生きて何ぼの人生でしょうが。死んでも生き延びるのが、幸福ってもんでしょう」


 「死人である貴方が、それを言うのか?」


 笑えない冗談だ、とロブンは言う。


 「馬鹿じゃないの?死んでも生きたいから、死人になったんでしょうが」


 ふざけんじゃないわよ、と呟きエリベルは杖に魔力を込める。

 そして、足元に紅い複雑な魔術陣が展開された。


 「――――見せてやるわよ、アンタらに」

 

 懐から魔石を取り出し、それをかみ砕く。

 魔力を補充し、再び陣に魔力を注ぐ。


 「アンタのそのバカみたいな考えに、そしてこのダンジョンに、風穴を開けてあげるわ。きっと、あのバカもそうするでしょうからね」


 魔術陣が光り輝き、エリベルを無数の光が覆う。

 見たことが無い術式だった。

 魔道を極めたロブンにすら、理解不能な複雑な術式。

 だが、ロブンは素直に思った。


 ―――美しいと。


 魔術を極めたと思っていた彼ですら見入ってしまう程の術式。

 一瞬、その光の中に美しい女性の姿が見えた気がした。

 まるで神話に出て来るかのような、銀髪の美しい女神の様な女性が。


 ロブンは、眷属としての使命も忘れ、その光景に魅入ってしまった。


 「それに言ったでしょう、この私がいつまでも後手に回ると思わないでくれるかしら?」




 ファーブニル最終層『黄金の間』にて―――


 『断る』


 俺はファーブニルの提案をにべもなく断った。


 「………何だと?」


 ひどく驚いた様子で、ファーブニルはこちらを見る。


 『断ると言ったんだ。俺はアンタの代わりに、“器”になんかならない。アンタを殺すのもまっぴらごめんだ』


 ―――ドクン。


 「なぜだ?お前も龍ならば、魔物ならば、この迷宮核の価値が理解できるだろう?破格の性能と魔力、強力なダンジョン、強大な力、その全てがお前のモノになる。なのに、なぜそれを拒む?考える時間がほしいのか、ならば―――」


 『いや、要らない。考えるまでもないし』


 「………なんだと?―――ぐっ……」


 ――ドクン。


 『俺には、俺のダンジョンがある。それに、俺はそんな力なんて、別に欲しくない。お前の力なんて、施しなんていらない』


 明確な拒絶。

 精神が反転していようがしていまいが、どっちにしても俺は断っただろう。


 俺には、このダンジョンがどうなろうが知ったことじゃない。

 それに、それ以上に俺は怒りを感じていた。


 ちらりと、道外しの少女に目を向ける。


 相変わらず、長い髪に隠れてその表情は読み取れない。

 でも、今ならわかる。

 眷属として、はっきりと認識した今なら、彼女が何を考えているのか、何を感じているのか。

 その記憶や、思いが俺の中に流れ込んでくるのだから。

 だから、わかるんだ。


 ――――どれだけ、彼女が苦しんでいるのか、が。


 再び俺はファーブニルの方を見る。

 

 ドクン。


 「………………」


 ファーブニルは俯いたままだ。

 だが、なにやら先ほどとは雰囲気が違う。

 一体どうしたんだ?


 「あっ!」


 道外しの少女が声を上げる。

 

 「ダメだよ!ファル!吞まれたら駄目!戻ってきて!」


 その声はひどく慌てたような声だった。

 飲まれる?

 何のことだ―――ッ!!?


 ぞわりと、背筋が凍った。


 その悪寒の正体は目の前。

 ファーブニルから発せられた巨大な殺気だった。


 「………アースと言ったな。すまない」


 『何がだ………?』


 ―――ドクン。


 「………もう、限界の様だ」


 次の瞬間だった。

 ファーブニルの瞳の色が変わった。

 深いサファイヤの様な澄んだ青色から、ルビーを思わせる赤色に。


 「グオ………オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!」


 そして、咆哮。

 ダンジョン全体を揺らすの如き咆哮がフロアに響き渡った。


 『なんっ……だ!?こりゃ』


 その発せられる莫大な魔力が、俺の皮膚をびりびり刺激する。


 「………ファルが……ファルが飲まれちゃった」


 ぽつりと、道外しの少女が呟く。

 

 『飲まれた?』


 疑問の回答は目の前から発せられた声で分かった。


 「我ヲ受ケ入ヌ………新タナル器……侵入者……器ニナラヌ愚カ者………消セ、消セ、消セ!ダンジョンノ侵入者ヲ排除スル」


 ぶつぶつと呟いてファーブニルは俺に向かってくる。

 どことなくその機械的な音声は、俺のダンジョンの迷宮核ギジーを思わせる。

 ああ、成程、そういう事か。


 『これは、ファーブニルの中にある“迷宮核”の意志か………』


 道外しの少女を見ると、こくりと頷いた。

ファーブニルは言っていた。

 自分の命は迷宮核の魔力によって、無理やり延命している状態だと。


 そして、エリベルの記録にはこう書かれていた。

 迷宮核はそれ自体が、“意志”の様なものを持っていると。


 ファーブニルの中にある迷宮核、そのダンジョンとしての防衛本能。

 俺がファーブニルの器として、あいつを拒絶したことで、あいつの中の迷宮核は俺を明確な“敵”と認識したんだろう。

 

 ファーブニルのダンジョンとしての防衛本能。

 それが、理性を上書きしたのだ。

 殺気立った瞳は俺から視線を話さない。


 『ハァ………』


 俺は溜息をつく。

 本当に、迷惑な話だ。


 自殺したきゃ、勝手に死んでろ。


 正直言って、俺はかなり不愉快だった。


 確かに、ファーブニルは苦しんでいたのだろう。

 自分が死ぬことで、何百匹と居るダンジョンの魔物が死ぬという事に、更にダンジョンが崩壊することによって、その上に築かれたハザン帝国の人達すら未曾有の大災害に巻き込んでしまうという事に。


 でも、それが何だ?

 

 俺には関係ない。

 それで、俺や、俺の眷属(かぞく)を巻き込んでいい理由がどこにある。

 確かに俺だって悪い。

 道外しが生まれた事にも気づかず、あまつさえコイツが仕掛けたトラップに簡単に引っかかって、のこのこ人様のダンジョンに来てしまった俺も十分に悪い。


 でもさ、ファーブニル。


 お前、気付いてるのか?

 お前のその行為が、道外しに―――俺の眷属にどれだけ重荷を背負わせたか。


 やっとの思いで出来た自分の友達に、自分を殺してくれと頼むことの重さが。


 お前、ちゃんと分かってるのか?


 その行為は、お前に心を許した道外しの信頼を裏切る最低な行為なんだぞ?


 「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」

 

 もやは、俺の声も道外しの声も聞こえていないのだろう。

 ダンジョンとしての防衛本能が、完全に理性を上書きしてしまっている。


 ああ、分かったよ、ファーブニル。


 望み通り、お前を殺してやるよ。


 でも、お前の望みは叶わない。

 叶えてやらない、絶対に。


 『――――“武装化”』


 錬金を発動。

 メキメキベキベキ、と俺の体が組み替えられてゆく。

 自分の手足を無機質な武装へと変化させる。


 『ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!』


 ――――さあ、往くぞ。


 俺や、俺の眷属(かぞく)を利用したんだ。


 その責任は取って貰う。


 最後の戦いを始めよう。


 死を望む龍――――その望みを、絶つための戦いを。





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