⭐️第九十六話⭐️ 黄金と白銀
一 皇帝の、本気
だが——皇帝の戸惑いは、すぐに、消えた。
「……面白い」皇帝は言った。「だが——それでも、私の結論は、変わらぬ。縁は、強い。だが、世界を、滅びから、救うには——足りぬ」
皇帝が、両手を、掲げた。
戦場中の澱みが——いや、大地の、もっと深くから——膨大な澱みが、皇帝に、収束し始めた。今までの、比では、なかった。
「見せよう」皇帝は言った。「私が、蓄えた、澱みの、全てを。——これが、世界を、守るための、力だ」
皇帝の体が、巨大な、黒い光の柱に、包まれた。空が、暗くなる。大地が、震える。帝国軍の兵すら、その力に、慄き、後退した。
「……なんて、力だ」リィナが、呻いた。「あれは——もう、人の、領域じゃ、ない」
「ヴィナの結界も——」カインが、言った。「あの結界は、もう、効果が、切れている。ヴィナの命と引き換えの、一度きりだった……!」
「アルク——!」ヴィナが、立ち上がった。「もう一度、あたしが——!」
「だめだ!」アルクが、叫んだ。「もう、首飾りは、ない! 二度目は——お前が、本当に、死ぬ!」
「でも——!!」
「ヴィナ」アルクは言った。「キラが、命がけで、お前を、救ったんだ。——その命を、無駄には、させない。お前は、生きろ」
「アルク……」
アルクが、前に、出た。リフレインを、構えて。たった一人で、皇帝の、澱みの柱に、向き合う。
「全員で——アルクを、援護する!」ガドルが、叫んだ。
「ああ!」
二 ネッサの、新たな縁
その時。
眠るキラを見て——ネッサの、喚魂環が、強く、光った。
「喚魂環が——!?」ネッサが、言った。
『ネッサ』エニの声が、響いた。『お前の、縁が
——新しい力を、呼んでいる。キラの、献身を見て。仲間を想う、お前の心が——極限まで、高まっている』
「あたしの、縁が——」ネッサは言った。
『呼べ』エニが言った。『お前の中に、もう一つの、縁が、目覚めている。——コレンとは、違う、新しい絆を』
ネッサが、喚魂環を、掲げた。
「あたしは——みんなを、守りたい!」ネッサは、叫んだ。「キラが、ヴィナさんを、守ったように! あたしも——!!」
喚魂環から、今までにない、光が、溢れた。
その光の中から——現れたのは。
巨大な、青い、水の竜だった。鱗が、水晶のように、透き通り、体の周りを、清らかな水が、流れている。コレンの、灼熱とは、対極の——静謐な、癒しと、守りの存在。
「《水霊竜・アクオス》」ネッサの口から、自然に、名が、出た。「来て、くれたんだね……!」
『……ネッサ』水霊竜アクオスが、静かに、言った。穏やかな、女性の声。『お前の、清らかな心が、私を、呼んだ。——共に、皆を、守ろう』
「コレンが、炎の、攻めなら」ネッサは言った。「アクオスは——水の、守り! 二人で——みんなを、守れる!」
白銀のコレンと、青い水竜アクオス。二体の召喚獣が、ネッサの、左右に、並んだ。
三 合体覚醒
だが——皇帝の澱みの柱は、なお、膨れ上がっていた。
コレンとアクオス、二体をもってしても——届かない。
「……まだ、足りない」ネッサは、唇を、噛んだ。
「皇帝の力が——強すぎる」
その時。
ルミが、アルクの肩から、飛び立った。アルファも。
「ネッサ!」ルミが、言った。「あたしたちと——力を、合わせよう!」
「ルミさん?」
『守り手と、召喚獣が——一つに、なるんや!』アルファが、叫んだ。『縁で、繋がってるからこそ、できる——合体や!!』
『私が、繋ぐ』エニが言った。『守り手と、召喚獣の、魂を。——縁の糸で。今、二つの力が、一つに、なる!』
エニの縁の糸が、ルミと、アクオスを——アルファと、コレンを、繋いだ。
光が、二対、弾けた。
ルミの、回復と、空間の力が——アクオスの、水の力と、融合した。
「《守水竜・ルミナクオス》!」
青と白の、光をまとった、水の竜。その鱗は、回復の光を、放ち、触れる味方を、癒しながら、守る。
アルファの、付与と、増幅の力が——コレンの、炎の力と、融合した。
「《焔皇狐・アルコレン》!」
橙と金の、炎をまとった、巨大な狐。その炎は、付与の力で、増幅され、触れる味方を、強化しながら、敵を、焼く。
「これが——守り手と、召喚獣の、合体……!」ネッサは、息を呑んだ。
『お前の、縁が、繋いだ力だ』エニが言った。『コレンと、アルファ。アクオスと、ルミ。——別々の存在が、縁で結ばれ、一つに、なった。これが——お前たちの、絆の、極致だ』
四 届かせる
「いくよ、みんな!」ネッサが、叫んだ。
守水竜ルミナクオスが、清らかな水の奔流を
——皇帝の澱みの柱に、ぶつけた。澱みが、浄化され、押し戻されていく。
焔皇狐アルコレンが、増幅された黄金の炎を
——澱みの柱を、焼いた。
二体の、合体召喚獣の力が——皇帝の澱みを、初めて、押し返した。
「馬鹿な……!」皇帝が、呻いた。「私の澱みを
——押し返す、だと……!?」
「今です!アルクさん!!」ネッサが、叫んだ。
「あたしたちが、道を、開く! ——皇帝に、届かせて!」
「ああ!」アルクが、駆けた。
ネッサの、合体召喚獣が、開いた道を。仲間たちの援護を、受けて。エニの縁の糸で、世界中の力を、借りて。
アルクが、皇帝へ、肉薄した。
「《還元・刃》——全開!!」アルクが、リフレインに、全ての力を、込めた。
澱みの柱の、中心へ。皇帝の、本体へ。
アルクの刃が——届いた。
五 しかし
だが。
皇帝は——その刃を、片手で、掴んだ。
素手で。リフレインの刃を、握りしめて。
「……惜しい」皇帝は言った。「あと、一歩だった。だが——お前は、まだ、完成していない。完成した賦活師なら——私の、澱みを、貫けただろう。だが、今のお前では——届かぬ」
皇帝が、握ったリフレインを通じて——澱みを、アルクに、流し込んだ。
「——っ!!」アルクが、苦悶した。
「お前の、力は、認めよう」皇帝は言った。「縁の力も。仲間も。——だが、今は、まだ、足りぬ。——ならば、ここで、一度、死ぬがいい」
皇帝の澱みが、アルクの、全身を、貫いた。
「アルク!!」全員が、叫んだ。
アルクの体が——黒い澱みに、包まれ。
その光が——消えた。
アルクの姿が——澱みの中に、掻き消えた。
「——アルク?」ヴィナが、呆然と、呟いた。
澱みが、晴れた。
そこには——誰も、いなかった。
アルクが、立っていた場所には——リフレインだけが、地に、落ちていた。
「……アルクさん?」ネッサが、言った。声が、震えていた。「アルクさん……? どこ……?」
誰も、答えなかった。
アルクが——消えた。
「アルク——!!」ヴィナが、絶叫した。「アルクうううっ!!」
「そんな——」リィナが、膝を、ついた。「アルクさんが——消えた……?」
ガドルが、バルガが、カインが——立ち尽くした。
ルミが、アルファが、エニが——アルクの、消えた場所を、見つめた。
「アルク……」ルミが、震える声で、言った。「うそ……アルク……?」
戦場が——静まり返った。
帝国軍も。縁の軍勢も。
誰もが——賦活師の、消滅を、目撃した。
「……終わった」皇帝が、静かに言った。「賦活師は、消えた。完成には、至らなかった。
——残念だ。だが、これが、結果だ」
絶望が、戦場を、覆った。
第九十七話予告
アルクが、消えた。戦場は静まり返り、ヴィナは地に落ちたリフレインを握りしめる。ネッサも、ガドルも、リィナも、守り手たちさえも、立ち尽くすしかない。「みんなで帰る」と、約束したはずだったのに――。
絶望が戦場を覆う、その時……
響いたのは、必死な叫び……
二百年揺らがなかった皇帝も、思わず本気で後ずさり。果たして戦場の運命やいかに――
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