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底辺から始める、《与える》だけの無双伝 ~えぇ、与えていただけですよ?でも実は……知らないうちに守られていました!!♪!!?~  作者: わっぱるぅ
第一章

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第八十二話 古龍の眠る谷

一 亜空間の、奥の扉

 王都を発って、ヴォルタへ戻る道中。

 その夜、屋敷で休んでいると、ルミが、急に、翼を広げた。


「アルク」ルミは言った。声が、少し、緊張していた。「亜空間の——奥の扉が、開きそう」


「奥の扉?」アルクは言った。「あの、まだ開かない、と言っていた——」

「ううん、違う」ルミは言った。「あの、この世界と同じ規模の世界に繋がる扉とは、別。——もっと手前に、新しい扉が、できてる。さっきの、五番目の子の声と、関係してるかもしれない」


「開けられるのか」


「開けてみる」ルミは、翼を大きく広げた。

 屋敷の壁に、淡い光の扉が、現れた。

 その向こうに——見たことのない、空間が広がっていた。

 広大な、岩山の谷。空は、夕暮れのような、不思議な茜色。時間が、止まっているような、静かな世界。


「これは……」アルクは、息を呑んだ。


 ここで過ごす時間は、外の世界とは、流れ方が違う。

「封印石が、完全に目覚めるまでの、時間を稼げる」アルクは言った。


「うん」ルミは言った。「でも——」


「でも?」

「この谷には、何か、いる」ルミは言った。「すごく、大きくて、古い気配が」


二 古龍ヴェルダ

 全員で、谷に入った。

 茜色の空の下、岩山の谷を進むと——その奥に、それは、いた。

 巨大な、龍だった。

 今まで戦ったどんな魔物よりも、大きい。山のような体躯。全身が、古い、深緑の鱗に覆われている。翼は、たたまれているが、広げれば、空を覆うだろう。


 だが——その龍は、眠っていた。


 静かに、目を閉じて。体の周りに、淡い、緑の光をまとって。

「……古龍」リィナが、呟いた。声が、震えていた。「エンシェントドラゴン。伝説の中の、伝説です。文献にしか、存在しないと言われていた——」


『——目を、覚ましたか』


 声が、響いた。

 龍が、ゆっくりと、目を開けた。金色の、深い、知性をたたえた目。

『久しいな、人の子よ』龍は言った。穏やかな、低い声。『私は、ヴェルダ。この谷を、守る、古き龍だ』


「ヴェルダ……」アルクは言った。


『お前から、賦活師の気配がする』ヴェルダは言った。『二百年ぶりだ。——ロス以来か』

「ロスを、知っているのか」アルクは言った。

『知っている』ヴェルダは言った。『ロスも、かつて、この谷を訪れた。——私は、彼に、力の使い方を、教えた』


「あなたが、ロスに……」


『そして今、お前が来た』ヴェルダは言った。『五番目の守り手が、お前を、ここへ導いたのだろう。——よかろう。私が、お前を、試す』


「試す?」


『お前が、本当に、賦活師の完成に、ふさわしいか』ヴェルダは言った。『力だけでは、足りぬ。心が、要る。——私と、戦え。お前の、全てを、見せてみろ』


三 古龍との対話の戦い

 ヴェルダが、立ち上がった。

 その巨体だけで、谷が、揺れた。

「全員で、戦うのか?」ガドルが、斧を構えた。

『いや』ヴェルダは言った。『これは、賦活師の、試練だ。仲間は、見ているがいい。

——だが、賦活師よ。お前が、一人で戦うのか、仲間と戦うのか。それも、お前の、答えの一部だ』


 アルクは、少し考えた。それから、リフレインを抜いた。


「俺は、一人じゃ、戦わない」アルクは言った。「俺の力は、守り手と、仲間と、共にある。——それが、俺の、答えだ」

『ほう』ヴェルダの目が、わずかに、細められた。『一人で戦うのが、強さだとは、思わぬのか』

「思わない」アルクは言った。「一人で背負うのは、強さじゃない。——ロスは、最後、一人で戦って、消えた。俺は、そうはならない」

『よかろう。ならば、仲間と共に、私に挑め。——本気で、来い』


 ヴェルダが、口を開いた。


 ブレスが、来る。

 だが——アルクは、それを、見て、わかった。このブレスは、攻撃ではない。試練だ。

「みんな!」アルクは言った。「これは、力比べじゃない! ヴェルダは、俺たちの、絆を、試している!」


「絆?」ヴィナが言った。


「全員で、力を、一つにする!」アルクは言った。

「俺が、全員に付与をかける! ヴィナ、リィナ、ガドル、バルガ、ネッサ——みんなの力を、一つの的に、集中させる!」

『——おもしろい!!』アルファが、叫んだ。『全員の力を、うちが束ねたるわ!!』

 アルクが、全員に、付与をかけた。アルファが、それを、一つに、束ねた。


 ヴィナのカトレア。リィナのトニトルス。ガドルの斧。バルガの盾。ネッサのコレン。


 全員の力が、アルクのリフレインに、集まった。

 一つの、巨大な光の刃となって。

「いくぞ!」アルクは言った。

 全員の力を宿したリフレインが、ヴェルダのブレスと、ぶつかった。


 光と光が、拮抗した。


 そして——アルクたちの光が、ブレスを、押し返した。

 ヴェルダが、ブレスを、止めた。

『……見事だ』ヴェルダは言った。『一人の力ではない。仲間の力を、一つに束ねる。——これが、お前の、強さか』

「俺の強さは、みんなの強さだ」アルクは言った。


四 古龍の祝福

 ヴェルダが、ゆっくりと、頭を下げた。

『お前は、試練を、越えた』ヴェルダは言った。

『力ではなく、絆で。——ロスは、最後まで、一人で背負おうとした。だが、お前は、違う。お前は、ロスが辿り着けなかった、答えに、すでに、辿り着いている』


「ロスが、辿り着けなかった答え?」


『一人では、世界は、救えぬ』ヴェルダは言った。

『賦活師の力は、与える力。だが、与えるだけでは、足りぬ。——与え、そして、受け取る。仲間から、世界から、力を、受け取る。その循環が、賦活師の、本当の完成形だ』


「与え、受け取る——《還元》」アルクは言った。


『そうだ』ヴェルダは言った。『お前は、すでに、その入り口に立っている。——私が、その先を、教えよう』


 ヴェルダが、アルクに、緑の光を、注いだ。


 その光が、アルクの中に、染み込んでいく。古龍の、二千年の、知恵と力が。

「これは……」アルクは、自分の中の、力が、深まるのを感じた。

『古龍の祝福だ』ヴェルダは言った。『お前の《還元》の力を、一段、引き上げた。これで——封印石が吸った、清浄な魔力を、お前は、奪い返せる。——ただし』


「ただし?」


『力には、代償がある』ヴェルダは言った。『《還元》を、限界まで使えば、お前の体も、削れる。使いどころを、見極めよ。——そして、いざというときは、仲間を、信じよ。お前一人で、背負うな』


「ああ」アルクは言った。「ありがとう、ヴェルダ」


『礼はいらぬ』ヴェルダは言った。『——ただ、一つ。ロスにできなかったことを、お前は、成し遂げてくれ。世界を、救い、そして——お前自身も、生き残れ。それが、私の、願いだ』


五 修行の日々と、深まる絆

 ヴェルダの谷で、アルクたちは、修行を重ねた。

 茜色の空の下、時間を気にせず、ひたすら、強くなった。


 アルクは、《還元》を磨いた。リフレインに、全員の力を束ね、放つ技。ヴェルダから学んだ、力を「受け取る」感覚。


 ヴィナは、カトレアの加護を、さらに引き出した。状態異常を退けるだけでなく、仲間にも、加護を分け与えられるようになった。


 リィナは、トニトルスで、《嵐の瞬獄雷・極》の精度を、上げた。


 ネッサは、コレンと共に、《焔狐顕現》を、より長く維持できるようになった。


 ガドルとバルガは、連携を、磨いた。攻めと守りの、息を合わせた。


 そして——ある日。


 修行の合間、ネッサが、アルクに言った。

「アルクさん」ネッサは言った。「あの——ライナさんのこと、ずっと、考えてて」

「ああ」

「あたし、ライナさんに、もう一度、おでん、食べさせたいんです」ネッサは言った。「敵に、なっちゃったけど。でも——あの人、おでん食べたとき、本当に、嬉しそうだったから」


「ネッサ……」


「だから、あたし、強くなります」ネッサは言った。「ライナさんを、止められるくらい。——でも、傷つけるためじゃなくて。連れ戻すために」

 アルクは、ネッサを見た。

「ネッサ」アルクは言った。「お前は——優しいな」

「えへへ」ネッサは言った。少し、照れて。「アルクさんの、影響です」


 その時。


 ヴィナが、近づいてきた。

「……二人で、何を話している」ヴィナは言った。少し、不機嫌そうに。

「ライナさんを、連れ戻す話です!」ネッサが言った。

「……そうか」ヴィナは言った。それから、ぽつりと。「あたしも、同じことを、考えていた」


「ヴィナさんも!?」


「ああ」ヴィナは言った。「あいつは——悪いやつじゃない。連れ戻したい。——おでんも、まだ、一緒に食べ足りないしな」

「ヴィナさん!」ネッサが、嬉しそうに、ヴィナに抱きついた。

「……離れろ」ヴィナは言った。でも、振りほどかなかった。

 アルクは、その光景を見て、笑った。

 ライナを想う心が、二人を、繋いでいた。

 その時——アルクの奥で、五番目の守り手の気配が、また、強くなった。

 縁が、深まっている。ライナを想う、この心も——縁だ。

 いつか、この縁が、ライナを、連れ戻す。


六 谷を出る

 修行を終えて、谷を出る日。

 ヴェルダが、見送りに来た。

『行くのか、人の子よ』ヴェルダは言った。

「ああ」アルクは言った。「強くなった。みんなで」

『うむ』ヴェルダは言った。『——一つ、覚えておけ。お前の敵、ヴァルゴも、かつては、ロスの友だった。憎しみで、戦うな。——いつか、わかり合える日が、来るかもしれぬ』


「あなたも、そう思うか」アルクは言った。


『ロスは、最後まで、ヴァルゴを、恨まなかった』ヴェルダは言った。『消される、その瞬間まで。

——ヴァルゴは、それを、知らぬ。知れば、あの男も、変わるかもしれぬ』

「ロスは、ヴァルゴを、恨まなかった……」アルクは、その言葉を、胸に刻んだ。

『お前なら、できるかもしれぬ』ヴェルダは言った。『ロスにできなかった、和解を。——帝国と、わかり合うことを。期待しているぞ、賦活師』

 ヴェルダが、翼を広げた。茜色の空に、その巨体が、舞い上がった。

『また、来るがいい』ヴェルダは言った。『いつでも、この谷は、お前を、迎える』


 アルクたちは、谷を出た。


 亜空間の扉が、静かに、閉じた。

 外の世界では——ほんの、一晩しか、経っていなかった。

「……戻ってきた」ネッサが言った。

「ああ」アルクは言った。「強くなって、戻ってきた」

 ルミが、アルクの肩で、言った。

「アルク——五番目の子が、すごく、近い」ルミは言った。「縁が、深まったから。あの子、もうすぐ、目覚めるかもしれない」

「そうか」アルクは言った。

「うん」ルミは言った。「そして——」

「そして?」

「防御の守り手も」ルミは言った。「なんか、最近、よく、動く。可愛い気配が、漏れる回数が、増えてる。——あの子も、目覚めに、近づいてる気がする」


 アルクは、自分の奥を、意識した。


 ずっと、健気に守り続けてきた、防御の守り手。

 縁を繋ぐ、五番目の守り手。

 二つの、まだ見ぬ守り手が——目覚めの時を、待っていた。

 そして、その先に——封印石との、決戦が。ライナとの、再会が。ヴァルゴとの、対話が。


 全ての縁が、いつか、一つに、繋がる。


 その日を信じて——アルクは、前を、向いた。

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