第七十九話 届いた報せ、集う縁
一 拠点の再編
ヴォルタに戻って、三日。
アルクたちは、これからの戦いに備えて、態勢を立て直していた。
その朝、ランスが、荷物をまとめていた。
「ランスさん、どこかへ?」ネッサが聞いた。
「ヴォルタの、ゴウダの拠点に移る」ランスは言った。「私は、研究者だ。前線で戦うより、後方で、封印石の解析をする方が、役に立てる。——万象の泉では、私がいたせいで、危険を増やした。あの黒い脈動の中、私のような者が、現場にいるべきではなかった」
「そんなことは——」ネッサが言いかけた。
「いや」ランスは、首を振った。「アルクが、私を庇いながら戦っていたのを、私は見ていた。——足手まといには、なりたくない。私は私の戦い方をする。封印石の弱点を、研究室で、見つけ出す」
「ランスさんの言う通りだ」アルクは言った。「無理に前線にいる必要はない。ランスさんの解析が、俺たちの一番の武器になる。——魔力通信符で、いつでも繋がれる」
「ああ」ランスは言った。「リィナ君、君のデータが、頼りだ。戦いのたびに、封印石の魔力の変化を、記録して送ってくれ」
「わかりました」リィナは頷いた。「ランスさん、必ず、弱点を見つけてください」
「全力を尽くす」ランスは、荷物を背負った。
「——アルク。一つだけ。封印石は、清浄な魔力を吸って強くなる。だが、逆に言えば——『清浄な魔力』に、依存しているということだ。その依存に、必ず、隙がある。私が、見つける」
ランスが、ゴウダの拠点へ、向かった。
戦う者と、支える者。それぞれの、戦い方があった。
二 イリアからの使者
その日の午後。
ヴォルタのギルドに、王都クロシアからの使者が来た。
使者が差し出した書状には、王家の紋章。そして
——イリア王女の、直筆。
「イリア殿下から……!」ネッサが、目を輝かせた。「お久しぶりですね!」
カインが、書状を読み上げた。
「『賦活師アルク、ならびに仲間たちへ。——大陸全土の異変について、王家も把握しています。各地で魔物の異常出没が収まったという報告、土地が清まったという報告——それが、あなたたちの旅の成果であることを、知っています』」
「殿下、知ってくれてるんですね」ネッサが言った。
「『そして——帝国の動きが、活発化しています。父セレナ王の容態は、あなたの回復のおかげで、安定しています。父は、次にあなたと会うとき、伝えたいことがあると、言い続けています』」
「セレナ王の、伝えたいこと……」アルクは言った。まだ、聞けていない。
「『近く、王都で、会談の場を設けたい。ルーエのセラン王にも、声をかけています。——小さな国々が、手を取り合う必要があります。帝国に、対抗するために』」
「ルーエのセラン王も……!」ネッサが言った。「みんな、集まるんですね!」
「小国連合、ということか」ヴィナが言った。「帝国は大国だ。一つの小国では、太刀打ちできない。でも——複数が、手を結べば」
「縁が、繋がる」アルクは言った。
その言葉に、ルミが、アルクの肩で、ぴくりと反応した。
「アルク」ルミは、小声で言った。「五番目の子が——今の言葉に、少し、反応した。『縁』という言葉に」
「縁を繋ぐほど、あの子が目覚めに近づく」アルクは言った。「なら——王都の会談は、ただの政治じゃない。あの子の、覚醒にも、繋がる」
三 わちゃわちゃの準備
王都行きが決まり、屋敷で準備が始まった。
「久しぶりの王都ですね!」ネッサが、わくわくしていた。「イリア殿下に、また会えます!」
「殿下に、失礼のないようにしろよ」ヴィナが言った。
「わかってます!」ネッサは言った。それから、はっとした。「あ、でも、あたし、王都に着ていく服が……!」
「冒険者の服でいい」ヴィナは言った。
「でも、王女様に会うんですよ!? もうちょっと、ちゃんとした——」
「ネッサ」アルクは言った。「亜空間から、何か出せるか、試してみるか」
「服も出せるんですか!?」
「やってみないとわからない。ルミ、頼む」
ルミが、亜空間を探った。
しばらくして——出てきたのは、服ではなかった。
小さな、髪飾りだった。青い石のついた、品のいい髪飾り。
「これは……」ネッサが、手に取った。
「服は出なかったが、これが出てきた」アルクは言った。「亜空間が、ネッサに似合うものを、選んだのかもしれない」
「かわいい……!」ネッサが、髪飾りをつけた。青い石が、ネッサの髪に映えた。「どう、ですか?」
「似合っている」ヴィナが言った。
「ヴィナさんに褒められた!」ネッサが、嬉しそうに飛び跳ねた。
「ヴィナにも、何か出してみるか」アルクは言った。
「あたしは、いい」ヴィナは言った。
「まあ、そう言うな」アルクが、探ると——今度は、銀の腕輪が出てきた。シンプルだが、品のある細工。
「……」ヴィナが、それを見た。
「つけてみろ」アルクは言った。
ヴィナが、渋々、腕輪をつけた。カトレアを持つ手に、銀の腕輪が、よく似合った。
「きれいです、ヴィナさん!」ネッサが言った。
「……そうか」ヴィナは言った。耳が、少し赤かった。
キラが、ふわりと飛んで、ヴィナの腕輪を、小さな手で、ぽんぽんと撫でた。「似合うね」と言うように。
「キラも、褒めてくれるのか」ヴィナは言った。少し、笑った。
アルファが、くるくる回った。
『——うちにも!! うちにも何か出して!!』
「お前に、何が必要なんだ」アルクは言った。
『なんでもええ!! みんなもらってるから、うちも!!』
アルクが探ると——小さな、橙色のリボンが出てきた。
『——なんやこれ!!』アルファが、リボンに飛びついた。『かわいいやんけ!! うち、これ気に入った!!』
アルファが、橙色の光の体に、リボンを巻きつけた。少し、ずり落ちそうだったが、本人は満足げだった。
「似合ってる」アルクは言った。
『せやろ!! うち、おしゃれや!!』
ルミが、小声で「……アルファ、リボン似合ってる」と言った。
『先輩に褒められた!! 今日はええ日や!!』
屋敷に、笑い声が、戻ってきた。
ライナの席は、まだ空いていた。でも——いつか、戻ってくる。全員が、そう信じていた。




