第六十七話 霧の城塞へ
一 方針決定
その夜の野営。
カインが符で父と通信した後、珍しく硬い表情をしていた。
「どうした」アルクは言った。
「父から——重要な情報が来ました」カインは言った。「二つ目の封印石の設置場所が、わかった。父の情報網が、ついに掴んだ」
「どこだ」
「大陸の北——《霧の城塞》と呼ばれる、帝国の古い要塞の地下だそうです」カインは言った。「要塞は、帝国の精鋭が守っている。近づくだけで、帝国の軍勢と激突する」
「行く必要があるか?」バルガが言った。
「澱みの浄化で封印石を弱めるルートと——直接設置場所に乗り込んで、何とかするルートと」リィナが言った。「二択になる」
「でも」カインは言った。「父の手紙には、もう一つ情報があります」
「なんだ」
「《霧の城塞》に——ライナがいる、と」
全員が、静まった。
「ライナが、城塞に?」ヴィナが言った。
「おそらく——ヴァルゴに、石の紛失の責任を問われている可能性があります。監視下に置かれているのかもしれない」
アルクは、夜空を見た。
ルミが、肩で言った。「……ライナが、危ない」
「行くのか?」ヴィナが言った。
「浄化の旅と、ライナの救出——同時にはできない」カインが言った。
アルクは、少し考えた。
「七か所の浄化は——いくつかは、後回しにできる。優先度の高い場所から先に回る」アルクは言った。
「ライナを——見捨てない」
「ライナは、まだ帝国の側の人間だ」ヴィナは言った。
「でも——騙されて、石を渡させられた。そしてその責任を問われている」アルクは言った。「困っている人がいれば、手を伸ばす。それが俺の答えだ」
ヴィナが、少し黙った。
「……わかった」ヴィナは言った。「一緒に行く」
「あたしも!!」ネッサが言った。
キラが、小さな手を上げた。
翌朝、全員で方針を確認した。
「浄化の旅と、ライナの救出——どう両立させるか」カインが地図を広げた。「七か所の浄化ポイントのうち、二か所はすでに巡った。残り五か所。霧の城塞は——ちょうど、次の浄化ポイントの近くにある」
「近くに?」アルクは言った。
「三か所目の浄化ポイントと、霧の城塞は——同じ方角だ。途中で浄化をしながら、城塞に向かうことができる」
「キラが地図を出したのは、こういう理由もあったのかもしれない」ルミは言った。「浄化の旅が、自然と重要な場所に近づくようになっている」
キラが、アルクの手のひらでゆっくりと体を揺らした。
「同時にできる」アルクは言った。「では——行こう」
「ライナを救出した後、城塞を脱出する想定で動く」ヴィナが言った。「ライナが今、どういう状態にあるかによって、作戦が変わる」
「カイン、父上からの情報で、もう少し詳しいことはわかるか」
「通信してみます」カインは符を取り出した。少し集中した。しばらくして、返信が来た。
「父が言うには——ライナは、城塞の中の一室に軟禁されているようです。直接危害を加えられてはいないが、動きを制限されている。ヴァルゴが直接尋問する予定が、近々あるという話も出ている」
「尋問の前に、動く必要がある」ヴィナが言った。
「急ごう」アルクは言った。
二 三か所目の浄化
二日かけて、三か所目の浄化ポイントに着いた。
古い湖のほとりだった。湖の水が、わずかに濁っている。本来は清廉な湖らしいが、澱みで水質が変わっていた。
アルクが湖のほとりに立った。
ルミとアルファとキラの力を感じながら、「与える」と思った。
光が、湖に広がった。
数分後——湖の水が、少しずつ透き通り始めた。
「……水が、きれいになっている!!」ネッサが言った。
「魔力の澱みが、水質にまで影響していたんですね」ランスが言った。「浄化されれば、こうなる」
「ここに住んでいた魚も、戻ってくるかもしれない」カインが言った。
「小さな変化だが——確実に、世界が良くなっている」バルガが言った。静かに。
「これが、賦活師の本来の役割だ」アルクは言った。「戦うことじゃない。与えること。そして、世界を整えること」
ルミが、肩でぱたぱたと翼を揺らした。「——防御の守り手、また少し楽になった気がする」ルミは言った。「浄化が積み重なってきている」
「続ければ、もっとよくなる」アルクは言った。
三 城塞への接近
霧の城塞は、山の上にあった。
古い石造りの要塞で、高い壁が四方を囲んでいる。帝国の旗が翻っている。入口に、重装備の兵士が複数。周囲に、斥候らしき人影が見える。
「正面突破は無理だ」ガドルが言った。
「裏手に、古い排水路がある」カインは言った。
「父の情報によると、そこから内部に入れる可能性がある。ただし——狭い。バルガは、通れないかもしれない」
「俺は正面で囮になる」バルガは言った。即座に。「《鉄壁の号令》で兵士を引きつける。その間に、お前たちが排水路から入れ」
「バルガ一人では危険だ」ヴィナが言った。
「ガドルが一緒にいる」バルガは言った。「二人で引きつける。《豪風斬》と《鉄壁の号令》の組み合わせなら、数十人は相手にできる」
「俺も了承した」ガドルは言った。「行け」
「……わかった」アルクは言った。「バルガ、ガドル——無理はするな。撤退の判断は、自分たちでしてくれ」
「わかっている」バルガは言った。ミニチュアの大盾——キラが作ったもの——を、鎧のポケットからちらりと見た。それから、本物の大盾を構えた。
「——行ってこい」
四 城塞内部
排水路から内部に入った。
アルク、ヴィナ、ネッサ、リィナ、カインの五人。
城塞の内部は、薄暗かった。石の廊下が続いている。カインが、父から得た簡単な見取り図を確認しながら進む。
「ライナがいるのは、東翼の二階だ」カインは言った。
静かに移動した。
途中で衛兵に出くわした。ヴィナが素早く無力化した。《閃光斬》を半分の力で使い、気絶させる。
「殺さないのか」リィナが言った。
「必要がなければ殺さない」ヴィナは言った。
「——アルクの影響ですね」リィナは言った。
「うるさい」ヴィナは言った。でも否定しなかった。
東翼の二階に着いた。一つの扉の前に、衛兵が二人。
「ルミ」アルクは言った。
「わかった」ルミが、光を二人の衛兵に向けた。操られた魔物を散らすときと同じ——意識を一時的に乱す回復の光を、今度は人間に向けた。
「人間にも使えるのですね!」ネッサが言った。
「傷つけない。ただ——少し、ぼんやりさせるだけ」ルミは言った。「回復の光は、癒すものだから。混乱させるのとは違う」
衛兵が、ふらついた。その隙に、全員が扉の前を通り過ぎた。
扉を開けた。
中に、ライナがいた。
椅子に座って、目を閉じていた。アルクたちが入った気配で、目を開けた。
驚いた顔をした。それから——複雑な表情になった。
「……来たのか」ライナは言った。
「来た」アルクは言った。「行けるか」
「——なぜ、来た」
「困っている人がいれば、手を伸ばす」アルクは言った。「前にも言った」
ライナは、しばらくアルクを見ていた。
「……俺のせいで、石が——」
「偽物だった」アルクは言った。「ライナも、騙されていた。ヴァルゴが、お前を道具として使った」
「……そうか」ライナは言った。目が、少し揺れた。「俺は——ヴァルゴに、利用されていただけだったか」
「今は、そのことを考える時間じゃない」ヴィナが言った。「動けるか?」
「動ける」ライナは立ち上がった。
「——行こう」




