第六十六話 浄化の旅へ、そして新たな敵
一 出発の朝
翌朝、全員が荷物をまとめた。
ネッサが、会計を確認した。「報酬の残りと、ルーエからの謝礼金で——七か所の旅、余裕があります!!」
「さすがだ」ガドルが言った。
「会計は完璧に!!」ネッサが胸を張った。
ゴウダが見送りに来た。
「気をつけて行け」ゴウダは言った。「こちらは、引き続き各地のギルドとの連絡を続ける」
「ありがとう、ゴウダさん」
「礼はいらない」ゴウダは言った。
「——アルク、一つだけ言っておく」
「なんだ」
「お前が始めた旅を、俺は応援している。でも
——無茶はするな。帰ってくる場所が、ここにある」
「わかっている」アルクは言った。「必ず帰る」
タークが、受付の奥から顔を出した。
「……気をつけて行け」タークは言った。それだけ言って、すぐ引っ込んだ。
「タークさん!!」ネッサが叫んだ。「一緒に見送ってくれるんですか!!」
「見送りではない!! たまたま通りかかっただけだ!!」
「でも、出てきてくれた!!」
「うるさい!! 行け!!」
全員が、笑いながら歩き出した。
二 屋敷の使い方、再確認
旅の初日の夜営。
「一つ確認したい」ヴィナが言った。「屋敷について」
「なんだ」
「旅の途中でも、屋敷に入れるのか。戦闘中でも、使えるのか」
「ルミ、説明してくれ」アルクは言った。
「屋敷の扉を開くには、アルクが意識的に、あたしの力と合わせて開く必要がある」ルミは言った。「それに——数十秒、集中する時間が必要だ。戦闘中のように、敵が目の前にいる状況では、開けられない」
「戦闘中は使えない、ということか」
「そう」ルミは言った。「それと——扉を開く場所は、最低限の安全が確保されている必要がある。完全な危険地帯では、あたしの力が乱れて、扉が開かない」
「では、逃げ込む場所としては使えない?」
「緊急の逃げ場所にはなれない」ルミは言った。「戦闘が終わって、一時的に安全を確保できた場所で、初めて開ける。あくまで——休息と回復のための場所だ」
「なるほど」リィナが手帳に書いた。「戦術的には、戦闘後の回復拠点として使う。戦闘中の切り札にはならない、ということだ」
「でも——戦闘後に、完全回復できる」バルガが言った。「それだけで、十分に強力だ」
「そうだ」アルクは言った。「屋敷があるから、連続した旅でも体力を保てる。長期戦で優位に立てる」
「帝国が連続攻撃を仕掛けてくるとしたら——攻撃の間隔が短ければ、屋敷に入る時間がない」ヴィナは言った。
「そうなる」アルクは言った。「だから——攻撃の間隔を、自分たちがコントロールする必要がある。受け身になるのではなく、動き続ける」
「浄化の旅で動き続ければ——帝国も追いかける方に回る。追いかける側は、攻撃のタイミングを選びにくい」カインが言った。
「そういうことだ」アルクは言った。
三 最初の浄化ポイント
二日かけて、最初の浄化ポイントに着いた。
ヴォルタから北東に向かった、小高い丘の上。草原の中に、古い石碑が立っていた。
「ここが——最初の場所か」アルクは言った。
「キラの地図と一致しています」カインは言った。
「この丘の下に、大きな魔力の澱みがある」
「感じるか」ヴィナが言った。
「感じる」アルクは言った。「なんか——空気が、重い。霧牙の森に入ったときと似た感じだ」
「魔力が滞っている証拠だ」ランスは言った。「では——やってみましょう」
アルクが、石碑の前に立った。
目を閉じた。
ルミの温もりを感じる。アルファの熱さを感じる。キラの、小さな手の感触を感じる。防御の守り手の、静かな脈動を感じる。
「与える」と思った。
ただ、それだけ。
光が、アルクの体から広がった。白い、柔らかい光。霧牙の森で何度も見た光と同じだが——今回は、ずっと広い。
光が、丘の下に染み込んでいく。地面を通って、澱みのある場所に届いていく。
数分が経った。
空気が、変わった。
「……軽くなった」ネッサが言った。「さっきまで重かった空気が、すっきりした!!」
「澱みが、薄くなっている」ランスが言った。「完全ではないが——確実に、減っている」
「一か所だけでは、完全には浄化できないか」アルクは言った。
「でも——確実に効いている」ランスは言った。「七か所を巡って、それぞれで浄化を続ければ——大陸全体の澱みが、大きく減る」
「そして、封印石の効果も弱まる」
「そうだ」
ルミが、アルクの肩でぱたぱたと翼を揺らした。
「——あたし、少し感じた」ルミは言った。
「何を」
「防御の守り手が——少し、楽になった気がした。本当に少しだけど」
「浄化が、封印石の侵食を弱めた?」
「まだわからない。でも——何かが変わった気がした」
「続ければ、もっとはっきりする」アルクは言った。「次の場所へ行こう」
四 道中、帝国の偵察と、ヴァルゴのメッセージ
二か所目を浄化し、次のポイントへ向かう道中。
ガドルが先頭で歩いていると、突然立ち止まった。
「誰かいる。前方の林」
全員が、警戒した。
林から、一人の男が出てきた。黒い服。帝国の工作員だ。でも、武器を持っていない。
「……伝言を届けに来た」男は言った。「ヴァルゴ様から、賦活師へ」
「言え」ヴィナが剣に手をかけながら言った。
「『偽物の石に、よく気づいた。だが——遅かった。二つ目は、すでに設置されている。お前たちの守り手は、今この瞬間も削られ続けている。浄化の旅をしているようだが——澱みを浄化する速度より、侵食が進む速度の方が早い。急げば急ぐほど、守り手が消耗する。急がなければ、儀式の準備が整う。どちらを選んでも、賦活師の終わりは近い』」
男が、伝言を読み終えた。そして——踵を返した。
「待て」アルクは言った。
男が止まった。
「ヴァルゴに、伝えてくれ」アルクは言った。「どちらを選んでも終わりだと言うが——俺にはまだ、選んでいない道がある」
「……それは?」
「諦めない、という道だ」アルクは言った。
男が、しばらくアルクを見た。それから、無言で林に消えた。
「……虚勢ではないだろうな」ガドルが言った。
「虚勢じゃない」アルクは言った。「でも——正直に言うと、焦っている」
「正直だな」バルガが言った。
「焦っているからこそ、言う」アルクは言った。
「焦りを隠して、余裕があるふりをしても意味がない。みんなに、現状を正確に知っていてほしい」
「状況は厳しい」ヴィナは言った。
「でも——俺たちはまだ、動ける。動ける間は、動く」
「あたしも!!」ネッサが言った。
「俺も」バルガが言った。
「私も」リィナが言った。
「俺も」ガドルが言った。
「俺も」カインが言った。
ルミが、アルクの肩でぱたぱたと翼を揺らした。「あたしも。ずっと一緒にいる」
『——うちも全力出すで!!』アルファが言った。
キラが、アルクの指をぎゅっと握った。
「——行こう」アルクは言った。




