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底辺から始める、《与える》だけの無双伝 ~えぇ、与えていただけですよ?でも実は……知らないうちに守られていました!!♪!!?~  作者: わっぱるぅ
第一章

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第六十三話 ライナの選択

一 丘の上で

夜明け前。

全員が起きた。

アルクが屋敷の扉を出る前に、ヴィナが言った。


「——帰ってこい」

「帰る」

「約束だ」

「ああ」


ネッサが「気をつけてください!!絶対戻ってきてください!!」と言った。

「戻る。約束する」

ルミが、肩の上で言った。「あたしも一緒にいる。ずっと」

アルクが、東の丘に向かった。

夜明けの空が、少しずつ明るくなっていた。


丘の上に、青いマントの人物が立っていた。

ライナが、振り返った。

その目に——今まで見たことのない表情があった。

覚悟と、疲れと、そして——何かを手放そうとしているような顔。


「来たか」ライナは言った。

「来た」アルクは言った。「話を聞く」

ライナが、一度深く息を吸った。

「——俺は、帝国で生まれた」ライナは言った。「賦活師は世界の脅威だ、と、物心ついた頃から教えられた。でも」


「でも?」


「お前の戦い方を、三度見た」ライナは言った。

「お前は——仲間を守り、敵の兵士の傷まで治した。魔物を解放した。——それは、脅威の行動じゃない」

「それが、伝えたかったことか」

「違う」ライナは言った。「——本当に伝えたいことは、別にある」


ライナが、懐から何かを取り出した。

黒い石だった。

「……これは」アルクは言った。


「二つ目の封印石だ」ライナは言った。「俺が、ヴァルゴから預かっている。次の設置場所を探す任務を、俺が担当している」


全員が——遠くの茂みから——息を呑む気配がした。


「俺に、渡すのか」アルクは言った。

ライナは、答えなかった。でも——手が、前に出た。


 アルクは、それを見た。石から漏れる、微かな負の気配を感じた。ルミがアルクの肩で、翼を固くした。アルファが、いつもより静かにしていた。


「……渡す」ライナは言った。「でも——条件がある」

「聞く」

「俺のことを、仲間にしろ、とは言わない」ライナは言った。「俺は帝国の人間だ。そう簡単には動けない。でも——この石を、お前に渡す。設置はさせない」


「なぜだ」


「——聞いてほしい話がある」ライナは言った。

「それを聞いてから、判断しろ」

「聞く」アルクは言った。

 ライナが、石を慎重にアルクに手渡した。アルクは受け取った。石が、手のひらに乗った瞬間——ルミの光が、石を包んだ。侵食を防ぐように。


「ありがとう、ルミ」アルクは言った。


「ずっとそばにいるから」ルミは言った。

 ライナが、ルミを見た。「……守り手が、ずっと一緒にいるのか」

「そうだ」アルクは言った。「どこにいても」

「……そうか」ライナは言った。何かを確認したように。


二 ライナの話

「俺は帝国の孤児だ」ライナは言った。「物心ついた頃から、帝国の施設で育った。賦活師は脅威だ、与える者は世界を滅ぼすと教えられた。——それが俺の世界の全てだった」


「でも、疑問を持った」


「持った。ヴァルゴに仕えて、儀式の準備を手伝いながら——ずっと、何かがおかしいと思っていた」ライナは言った。「賦活師が世界を壊すなら、なぜ二百年間、賦活師がいない間に世界が悪くなり続けたのか。土地が荒れて、魔物が増えて、人々が苦しんでいるのは——なぜか」

「帝国は、それを説明しなかったのか」

「説明した。別の理由をつけて」ライナは言った。「でも——俺は、その説明を信じ切れなかった。調べれば調べるほど、帝国が嘘をついているとわかってきた。賦活師を消した後に世界が壊れたのは、賦活師がいなくなったからだ、と」


「だから、俺に近づいたのか」


「近づいたのではない」ライナは言った。「遠くから、見ていた。お前の戦い方を。お前が仲間を守る姿を。敵の兵士まで治す姿を。——それを見て、俺は確信した。帝国が教えていたことは、嘘だと」

「なぜ、今まで行動しなかった」

 ライナが、少し目を細めた。「——帝国の施設で育った孤児が、帝国に逆らうということが何を意味するか、お前にはわかるか」


 アルクは黙った。


「俺には、帝国の外に何もない」ライナは言った。「でも——このまま儀式を進めれば、世界が壊れる。それが嫌だと、思った。それだけだ」

「家族は?」

「いない」

「友人は?」

「帝国の中に、数人。でも——俺が裏切れば、彼らが危うくなる可能性がある」

「それでも、石を渡したのか」

「それでも」ライナは言った。「世界が壊れることの方が、俺には耐えられなかった」


三 アルクの返答

 アルクは、しばらく黙っていた。

 ルミが、肩で静かに揺れていた。アルファも、静かだった。

「ライナ」アルクは言った。「一つだけ聞く」

「なんだ」

「お前は、今——怖いか」

 ライナが、少し目を見開いた。


「……怖い」ライナは言った。正直に。「帝国に戻れば、疑われる。石が消えたことが発覚すれば、追われる。お前の仲間になることもできない。どちらにも属せない場所に、俺はいる」


「俺たちが、守る」アルクは言った。

「……は?」

「お前が帝国に追われるなら——俺たちが守る」アルクは言った。「それが、俺の答えだ」

 ライナが、アルクを見た。長い沈黙があった。

「……俺を、守る?」ライナは言った。「俺は今まで、お前の敵だった。忠告こそしたが——帝国の側にいた」


「知っている」

「なぜ守る」


「困っている人がいれば、手を伸ばす」アルクは言った。「それだけだ」

「……」

「お前が帝国に残るか、こちらに来るかは、お前が決めることだ」アルクは言った。「でも——どちらを選んでも、お前が窮地に陥ったとき、俺たちは手を伸ばす。それは変わらない」


 ライナは、しばらくアルクを見ていた。


「……お前は」ライナは言った。「本当に、おかしな男だな」

「よく言われる」

「褒めていない」

「知っている」

 ライナが、少し——本当に少しだけ、口の端を動かした。笑った、と言えるかどうか微妙なくらい、わずかに。


「……今日は、ここで別れる」ライナは言った。「俺は、まだ帝国に戻る。石を失ったことを、うまく説明しなければならない。お前たちとの接触も、ばれないようにしなければならない」


「帝国に、戻るのか」


「まだやるべきことがある」ライナは言った。「帝国の内部から、できることがある。——今は、それをする」

「わかった」

「石の扱いは——その守り手に、任せるのが一番いいだろう。あの石の侵食を、止める力があるようだから」

「ルミが対処してくれる」

「そうか」ライナは言った。踵を返した。「——次に会うとき」

「次に会うとき?」

「次に会うとき、俺は——帝国の側にいないかもしれない」ライナは言った。振り返らずに。「その時のことを、考えておいてくれ」


 ライナが、丘を下りていった。

 青いマントが、朝の光の中に消えていった。


四 全員への報告

 茂みから、全員が出てきた。

「聞こえていたな」アルクは言った。

「全部」ヴィナは言った。「……思っていたより、複雑な事情がある男だ」

「帝国の孤児か」バルガが言った。静かに。「俺にも、似たような過去がある。帰る場所がないということが、どれほど孤独か——わかる気がする」


「バルガさん……」ネッサが言った。


「だから」バルガは言った。「あいつが窮地になったとき、俺が一番先に動く。アルクが言ったことを、俺も守る」

「ありがとう、バルガ」アルクは言った。

「ところで」ガドルが言った。「二つ目の封印石を、手に入れた。これはどう扱う?」


「ルミ」アルクは言った。


「亜空間には入れられない」ルミは言った。「でも——ずっと光で包んでおくことはできる。侵食を防ぎながら、持ち歩く形になる。消耗するけど、あたしには耐えられる」


「無理をするな」


「大丈夫」ルミは言った。「——それより。今日のライナとの話で、一つわかったことがある」

「なんだ」

「ライナが石を手放した。ヴァルゴが気づけば——動きが、急になる」ルミは言った。「儀式のスケジュールが、変わるかもしれない。焦ってくる可能性がある」

「帝国が、急ぎ始める」カインは言った。「二つ目が消えたことを知れば——残った三つ目の設置を、最優先にする」

「三つ目は海の底に設置済みだが、効果が三分の一だ」リィナは言った。「帝国は、それでは足りないと判断している。だから二つ目を使おうとしている」


「二つ目が失われたと知れたら——別の手を使う可能性がある」アルクは言った。

「どんな手だ」ヴィナが言った。

「わからない。でも——ヴァルゴは、二百年間儀式の準備をしてきた男だ。想定外の事態への対処も、準備しているはずだ」


「備えないといけない」


「ああ」アルクは言った。「でも——今日は、大きな一歩を踏み出した。ライナが、石を渡してくれた。それは確かだ」

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