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底辺から始める、《与える》だけの無双伝 ~えぇ、与えていただけですよ?でも実は……知らないうちに守られていました!!♪!!?~  作者: わっぱるぅ
第一章

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第五十五話 世界の楔と、帝国の真の目的

一 ランスの告白

 ランスとリィナの研究が、一つの成果を出した。

「できました」リィナは言った。「理論上、アルクさんの付与でわたしの魔法の周波数を精密にコントロールすれば、魔核を外から無効化できます」


「実戦で試すには——」


「操られた魔物が必要です」リィナは言った。「そして、失敗した場合、魔物が暴走するリスクがある」

「試す機会は、必ず来る」アルクは言った。


そのとき、カインに父からの通信が届いた。

カインが読んで——今日は顔色が変わらなかった。でも、声が低くなった。


「父が、確認しました」カインは言った。「帝国が ——奪った三つ目の封印石容器を、設置しました」


全員が、息を呑んだ。

「設置場所は——大陸の中央、《交叉の海》の底だそうです。誰も近づけない場所に」


「海の底に……」


「海の底に設置されれば、俺たちには壊しに行けない」リィナは言った。

「でも」カインは言った。「父の手紙には、こう続いています。『ただし、三つ目は——設置されたとはいえ、海の底の特殊な水圧と魔力環境で、侵食効果が陸上の三分の一程度しか発揮されていない。つまり、今の侵食速度は、一つ目フルと三つ目の三分の一。合計で、約四割の侵食になる』」


「四割……」ヴィナが言った。「あの子は——」


「頑張っている」ルミは言った。静かに。「でも、前より、確実に負担が増えた」

「だから」アルクは言った。「急ぐ必要がある。でも——」


アルクは全員を見た。


「今日の研究で、新しい道が見えた。魔核を外から壊す技術。魔物を解放する力。帝国への対抗手段は、一つじゃない」

「ヴァルゴと、その先のクライマックスに向けて

——俺たちは、全員で強くなる。それだけだ」

キラが、アルクの手のひらの上で、小さな手をぎゅっと握った。

まるで「うん」と言っているように。


 翌朝、魔核の研究を続けながら、ランスが重要なことを話した。

 全員が食堂に集まっている。ランスは、年老いた手で手帳を開いた。

「一つ、伝えておかなければならないことがある」ランスは言った。「これは——王都の研究院にいた頃から、ずっと調べていたことだ」

「なんだ」アルクは言った。

「賦活師とは何か、という根本的な話だ」ランスは言った。「多くの人は——賦活師を、強い力を持つ個人だと思っている。消えれば、その個人の力がなくなるだけだ、と。でも——それは違う」


「違う?」


「賦活師は、世界の魔力バランスを保つ『くさび』だ」ランスは言った。「この世界の各地に、《魔力の澱み(よどみ)》と呼ばれる場所がある。魔力が滞って、腐っていく場所だ。放置すると——魔物が異常発生する。土地が枯れる。そして、最終的には生きているものが住めない土地になる」


「それと、賦活師が関係しているのか」カインが言った。


「賦活師は——存在するだけで、周囲の魔力の澱みを少しずつ浄化する」ランスは言った。「『与え続ける』という性質が、滞った魔力を流す。水が流れれば腐らないように——賦活師がいれば、世界の魔力が淀まずに済む」

 食堂が静まった。


「つまり——俺がいなくなると」アルクは言った。


「世界の魔力が、また澱み始める」ランスは言った。「二百年前、ロスが消えた後に何が起きたか、調べてみた。答えは——各地での魔物の異常発生の激増。土地の荒廃。原因不明の疫病の流行。当時の人々は、関係に気づかなかった。でも、数字を見ると——賦活師が消えてから五十年間で、世界の人口が一割減っている」


「一割……!!」ネッサが言った。


「そして百年後には、ようやく世界が新しい均衡を見つけた。でも——それは、かつての豊かさより、一段階落ちた均衡だ」ランスは言った。「今の魔物の異常出没は——賦活師が二百年ぶりに現れて、世界が『本来の均衡』を取り戻しかけているプロセスだという見方もできる。現れただけで、世界が少しずつ動き始めた」


「帝国は——それを知っているのか」ヴィナが言った。


「知っている」ランスは言った。「だから——帝国が消そうとしている理由は、複合的だ。賦活師が完成形になると消せなくなるから、という恐怖。そして——賦活師を消すことで世界が少し壊れることを、帝国は『受け入れられるコスト』だと判断している」


「受け入れられるコスト」バルガが言った。声に、怒りが滲んだ。「世界が壊れることを、コストと言うのか」

「帝国にとっては、権力を守ることの方が重要なのだろう」ランスは言った。「悲しいことだが——そういう判断をする者たちが、今の帝国を動かしている」


「俺がいなくなることが——世界の問題になる」アルクは言った。静かに。「俺個人の問題じゃなく」

「そうだ」ランスは言った。「だから——私は、あなたを守りたいと思っている。個人的な理由ではなく、世界的な理由として」


二 各地の人々が知っていること

 その話をした後、灰爪亭に集まっている人々に話が広まった。

 バーグが言った。「……そういうことだったのか。俺の娘が魔物に殺されたのは、世界の魔力が澱んでいたせいでもあるのか」

「直接の原因かはわからない」アルクは言った。「でも——賦活師が消されたことで、世界が少し壊れた。その影響の一つが、魔物の異常発生だった可能性はある」

「帝国は——それを知りながら、消そうとしている」バーグは言った。「俺の娘の命を、コストと思っているのか」


「帝国がそう思っているとしたら」アルクは言った。「俺は、その判断に反対する。人の命は、コストじゃない」


 バーグが、少し目を赤くした。「……お前に付いていく。俺にできることはわからないが、お前が守ろうとするものを、俺も守りたい」

「ありがとう」アルクは言った。「でも——危険な戦いになる。それでもいいか」

「俺の娘が死んだ日、俺は逃げた」バーグは言った。「今度は、逃げたくない」

「わかった」アルクは言った。「一緒に戦おう」

 弓使いのセナも、頷いた。「あたしも。故郷の人たちのために」


三 ゴウダの決意と、新たな繋がり

 ゴウダが、アルクを別に呼んだ。

「一つ、相談がある」ゴウダは言った。「帝国と本格的に戦うなら——ヴォルタのギルドとして、動ける体制を作りたい。俺が中心になって、ヴォルタの冒険者たちをまとめる。いざというとき、お前たちを支援できるように」


「ゴウダさんが、そこまで」アルクは言った。


「俺は、Aランクの剣士だ。でも——お前が霧牙の森に来てくれた夜から、ずっと考えていた。俺は何をすべきか」ゴウダは言った。「前に出て戦うだけが、力の使い方じゃない。後ろで支える力も、必要だ。

——お前がそれをしてくれているように」


「ゴウダさんが、支援を」


「ああ。各地のギルドにも声をかける。帝国の魔物の被害を受けた冒険者は、多い。やる気のある者は集められる」ゴウダは言った。「大きな戦いになったとき——お前たちだけじゃなく、各地のギルドが動ける状態を作っておく」


「それは——心強い」アルクは言った。


「俺たちも、賦活師に守ってもらった」ゴウダは言った。「今度は、俺たちが支える番だ」


四 夜のグルメ——みんなで囲む鍋

 その夜、屋敷に全員を招いた。

 バーグ、セナ、ランスも一緒だ。初めて屋敷に入る三人が、目を丸くした。

「亜空間の中に、こんなものが……」ランスが言った。

「研究対象になりますよね」リィナが言った。

「今日は研究しないでください!!」ネッサが言った。


 アルクが風呂敷を広げた。今夜は——大人数で囲む料理にしようと思った。

 現れたのは、特大の火鍋だった。

 二つに仕切られた鍋——片方は真っ赤な辛い出汁、もう片方は白い豆乳の出汁。野菜、肉、魚介類、豆腐が山盛りで並んでいる。


「なんですかこれ!!」ネッサが言った。「一つの鍋で二種類!!」


「火鍋だ。辛い方と、まろやかな方を、好みで選べる」アルクは言った。

「辛い方が食べたい!!」ネッサが言った。

「お前は辛い物が平気なのか」ヴィナが言った。

「大丈夫です!!たぶん!!」

「たぶん、か」

 ヴィナが辛い方を一口食べた。「……辛い。でも、深い旨味がある。なぜ辛いのに、うまいんだ」


「花山椒という香辛料が入っている。痺れる辛さと、旨味が同時に来る」アルクは言った。

「痺れる辛さ……!!」ネッサが一口食べた。「口が痺れてる!!でもうまい!!やばい!!」

「やばい、とは?」ヴィナが言った。


「前の世界の言葉らしいです!! すごい、という意味です!!」


「伝わりにくい」ヴィナは言った。

 バーグが豆乳の方を食べた。「……こっちは、優しい。辛いのが苦手な人間には、こっちだな」

「両方いけます!!」ネッサが言った。

 コレンが、テーブルの端に座って、肉を食べていた。


 キラが、アルクの手のひらの上で、鍋の湯気を不思議そうに見ていた。

「キラ、食べるか?」アルクは言った。

 キラが、小さな手を伸ばした。アルクが豆乳の方の出汁を少し小皿に出した。

 キラが、ちょっとだけ飲んだ。

 小さな体が、ぽっと温かくなったように見えた。

「……喜んでる」ルミは言った。「あたし、わかる。キラが、嬉しいって思ってる」

「ルミが、キラの気持ちを読めるのか」

「同じ守り手だから」ルミは言った。「言葉は伝わらないけど——感覚は、わかる」


 アルファが、辛い方の鍋に飛び込もうとして、アルクに止められた。


『——なんで!! うちも食べたい!!』


「辛い方は、お前には無理かもしれない」

『うちは強いで!! 大丈夫や!!』

「ルミ先輩に聞いてみろ」

 アルファがルミを見た。ルミが、静かに首を振った。

『……先輩がそう言うなら』アルファは言った。しゅんとした。

「豆乳の方を分けてやる」アルクは言った。

『それでええわ!! うちは柔軟性があるから!!』

「さっきまで辛い方に飛び込もうとしていたが」リィナが言った。

『それはそれ!!』

 ランスが、その光景を見て、笑っていた。「……守り手というのは、こういう存在なのか」

「こういう存在だ」アルクは言った。

「素晴らしい」ランスは言った。本当に嬉しそうに。「二百年間——このことを、誰も見ていなかった。記録に残っていなかった。お前たちが、初めて見せてくれている」

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