第五十話 コレンの新しい力と、進む脅威
一 遺跡の文字
セラフは、兵士とともに撤退した。封印石は回収できた。
アルクたちは遺跡に残って、壁の文字を確認した。
「賦活師が、ここに何かを残している」カインは言った。「読んでみます」
壁の文字を解読すると、そのなかの一文にこう書かれていた。
「『四番目の守り手が目覚めるとき、複製の力を授ける。この力は、一つのものを二つにする。武器を、道具を、力そのものを、複製する。だが——最初は形を保てない。長い時間をかけて、少しずつ定まっていく』」
「複製の力……」アルクは言った。
「麒麟に似た、手のある伝説の生き物」ルミは言った。「複製の力を持つ。——そういう子だと、あたしは感じてる」
「まだ、はっきりは見えないが?」
「うん」ルミは言った。「でも——今日の亜空間から出てきたとき、一瞬だけ、はっきり見えた気がした。小さな手が二本、箱を押し出してた」
「複製ができるなら——武器の複製は?」ガドルが言った。
「いつかは」ルミは言った。「でも、今はまだ。あの子の力は、最初は「形を保てない複製」しかできない。使い物にならないサイズや素材になったり、すぐ消えたり。——時間がかかる」
「でも、確実に育っている」アルクは言った。
二 ネッサとコレンの変化
遺跡から出た後の野営で、ネッサがコレンを膝に乗せてぼんやりしていた。
「どうした」アルクは言った。
「コレンの気持ちが、ずっと伝わってくるんです」ネッサは言った。「喚魂環を着けてから、ずっと。コレンが何を感じているか、何を考えているか——直接わかる」
「それは、いいことでは」
「いいことなんですけど」ネッサは言った。「なんか、コレンが今——すごく喜んでいるんです。嬉しくて、でもちょっと恥ずかしいみたいで」
「なぜ」
「コレンが言ってます。ずっとネッサとちゃんと話したかった、って。でも、言葉が通じなかったから——嬉しい、って」
ネッサが、目を潤ませた。
「コレン、ずっとそう思ってたんだ……!!」ネッサはコレンを抱きしめた。「あたしも、コレンのこと、もっと知りたかったよ!!」
コレンが、ぴょん、と跳ねた。
ルミが、その様子を見て、翼をぱたぱたさせた。「よかった」ルミは言った。「コレンも、ずっと伝えたかったんだと思う」
「召喚獣って——こんなに、ちゃんと気持ちがあるんですね」ネッサは言った。
「当たり前だ」ガドルが言った。「生き物は、みんな気持ちがある」
「でも、わかってなかった……!!」ネッサが言った。「コレンに、ちゃんと向き合えてなかった。ごめんね、コレン!!」
コレンが、尻尾を揺らした。許してる、という感じだった。
「これから、もっと強くなれますね」アルクは言った。
「はい!!」ネッサは頷いた。「コレンと一緒に、もっと!!」
三 二つ目の容器、王都へ
回収した二つ目の封印石は、三つ目と同じように王都へ送ることにした。
イリアへの通信を、カインが送った。
「二つ、王都に保管することになるか」バルガが言った。「王都の守りが、より重要になるな」
「イリア殿下も、わかっているはずだ」アルクは言った。「ただ——二つとも王都に集めるのは、逆に一か所を狙われるリスクがある」
「別々の場所に保管した方がいいか?」ヴィナが言った。
「殿下と相談する」アルクは言った。
ルミが、アルクの肩で言った。「アルク。一つ、言っておかないといけないことがある」
「なんだ」
「二つの封印石を回収できた。でも——一つ目は、すでに設置されている。壊せない。今も侵食は続いている」ルミは言った。「封印石を全部回収しても、設置済みの一つ目だけは、どうにもならない。——帝国が新しい封印石を作る技術を持っているなら、いつかまた作られる可能性もある」
「根本的には——帝国を止めなければ、終わらない」アルクは言った。
「うん」ルミは言った。「設置された石は壊せない。でも、設置できない状況を続けることはできる。そして——アルクが完成形になれば、石の効果も相対的に小さくなる。守り手が全員目覚めれば、一つの石程度の侵食は、押し返せるかもしれない」
「じゃあ——やはり、守り手を全員目覚めさせることが、最終的な答えか」
「そうだと思う」ルミは言った。「そのために、帝国は守り手の覚醒を阻もうとしている」
四 夜、静かな焚き火
その夜の野営。
風呂敷から、今夜はシンプルなものを出した。
温かい豚汁と、おにぎり。それだけ。
「今日は、少ないですね」ネッサが言った。
「疲れた日は、シンプルなものがいい」アルクは言った。「前の世界の記憶で、そう学んだ」
「確かに」ヴィナは言った。豚汁を両手で持って、一口飲んだ。「……これが、一番落ち着く」
「同意する」バルガが言った。「派手な料理も好きだが——こういうのが、体に染みる」
しばらく、静かに食べた。
ガドルが言った。「今日、リィナの技が決まったな」
「追い詰められて、やっとできた気がします」リィナは言った。「あの局面がなければ、まだ習得できていなかったかもしれない」
「逆境が、引き出した」カインは言った。
「そうですね」リィナは言った。「でも——あの黒鉄蠍戦で、私が毒をかすったとき。皆さんが——」リィナは少し間を置いた。「皆さんが、すごく心配してくれたのがわかって。それが——覚悟を決める力になりました」
「リィナが珍しいことを言っている」ガドルが言った。
「……黙ってください」リィナは言った。顔が少し赤い。
「素直じゃないですよ!」ネッサが言った。
「素直ですよ!! ただ、言い慣れていないだけで!!」
全員が笑った。
ルミが、アルクの肩でぱたぱたと翼を揺らした。「今日、みんな頑張った」ルミは言った。
「そうだな」アルクは言った。
「——アルクも、頑張った」ルミは言った。「自分の短剣、使えた。怖くなかった?」
「怖かった」アルクは正直に言った。「でも——みんながいたから、動けた」
「それでいい」ルミは言った。「あたしも、一緒にいる。ずっと」
アルファが、豚汁の香りに引き寄せられてきた。
『——なあ、うちも豚汁飲みたい!!』
「飛び込むなよ」アルクは言った。
『わかっとる!! 飛び込まんわ!! ……今日は』
「今日は、っていう限定が怖い」
『!!』
夜が、静かに続いた。




