第四十八話 リィナの覚醒と、装備の強化
一 ドワルフへの依頼
封印石の移送準備をしながら、アルクはドワルフに使者を送った。
数日後、ドワルフが自らルーエに来た。
「お前たちがSランク以上の敵と戦うようになったと聞いた」ドワルフは言った。「前の武具では、追いつかんだろう」
「そうだと思って、呼んだ」アルクは言った。
「見せろ」ドワルフは全員の武具を確認した。「ヴィナの剣は——まだ使えるが、《閃光斬》を何度も使うと、刃に負担がかかってきている。もう一段階、強化できる」
「どうやって」
「刃に魔力の流路を彫り込む」ドワルフは言った。「付与のエネルギーが、刃の内側を通るようになる。そうすれば《閃光斬》の威力が上がり、刃への負担も減る」
「お願いします」ヴィナが言った。
「バルガの盾と鎧は——もう一層、重ね打ちをする。《鉄壁の号令》を使うたびに、盾が少しずつ消耗している。強化すれば、長持ちする」
「ありがたい」バルガが言った。
「リィナ」ドワルフはリィナを見た。「お前の杖は——腕輪との相性がいまいちだ。腕輪の魔力増幅を、完全に活かしきれていない。新しい杖を打つ。腕輪と対になった設計で」
「……そんなことができるんですか?」リィナが目を輝かせた。
「腕輪を詳しく調べさせてくれ」ドワルフは言った。「二百年前の作りだが——素晴らしい技術だ。職人として、この続きを作る義務がある」
「ネッサは?」アルクは言った。
「召喚の補助器具を、さらに強化する。これを使えば、コレンの召喚速度と初期魔力が上がる。今後、もっと強い召喚獣が来たときにも対応できる」
「来るんですか、もっと強い召喚獣が」ネッサが言った。
「準備しておくに越したことはない」ドワルフは言った。
「アルクは——追加で短剣を一本。《賦与撃》と《賦与放》の二つを同時に使えるよう、両手に一本ずつの方がいい」
「考えたことがなかった」アルクは言った。
「俺が考えた」ドワルフは言った。「三日、待て」
二 リィナの壁
その夜、リィナが珍しく暗い顔をしていた。
食堂の隅で、手帳を眺めながら考え込んでいる。
「どうした」アルクは言った。隣に座った。
「……ドルガとの戦いで、気づいたことがあります」リィナは言った。「私の魔法は——範囲か、精度か、どちらかを選ばないといけない。《雷霆網》は範囲が広いが、一点への集中力が低い。だからドルガの鎧の継ぎ目を狙うには、細い雷撃に切り替える必要があった」
「それは、問題なく動いていたと思うが」
「でも——四将の筆頭ヴァルゴや、ライナを相手にしたとき、それが通用するとは限らない」リィナは言った。「もっと強い敵には、一点への超集中が必要になる。でも、それをやると範囲が全くなくなる。一撃で仕留められなかったとき、手詰まりになる」
「範囲と精度を、同時に持てないか?」
「理論的には……一度、雷を超圧縮して、極限まで密度を上げる。その状態で解放すると、当たった瞬間に内側から炸裂する。貫通しながら、当たった部分だけを爆発させる。そういう技が、できるはずなんです」リィナは言った。「でも、圧縮のコントロールが難しくて——今の私には制御できない」
「アルファが、制御を補助できるかもしれない」アルクは言った。
「付与で、圧縮のコントロールを補助する?」リィナは言った。
「アルファは以前、リィナの魔力の制御を手伝った。あれをもっと精密にすれば——」
「試してみたいです」リィナは言った。目が、光り始めていた。
三 嵐の瞬獄雷
翌朝、郊外で特訓をした。
アルクが、リィナに付与をかけながら、アルファに「制御の補助」を集中させた。
「アルファ」アルクは言った。「リィナの魔力が圧縮されていく感覚を、掴んでくれるか。崩れそうになったら、押さえてくれ」
『——わかった!! やってみる!!』
リィナが、杖を構えた。
「やってみます」リィナは言った。「——いきます」
リィナが、雷を手元に集め始めた。青い光が、杖の先端に凝縮していく。通常の《雷霆網》のときとは違う。広げるのではなく——一点に、押し込んでいく。
光が、どんどん小さくなっていく。でも密度が上がって——青から白へ、さらに輝きが強くなった。
「崩れそう……!!」リィナが言った。
『——うちが押さえる!! もう少し!!』
アルファの制御が入った。崩れかけた圧縮が、安定した。
「……いける!!」
リィナが、杖を前方の岩に向けた。
「《嵐の瞬獄雷》!!」
白い閃光が走った。
岩に当たった瞬間——内側から、爆発した。
岩が、外側ではなく内側から崩れた。表面は一点しか傷がないのに、内部が完全に砕けていた。
全員が、しばらく沈黙した。
「……貫通してから、内側で炸裂した」カインが言った。「外から壊すのではなく——内部破壊だ」
「どんな鎧も、外側が硬くても——中に入ってから炸裂すれば、防ぎようがない」ヴィナが言った。
「鎧の継ぎ目すら必要ない」バルガが言った。「この技なら、ドルガの全身鎧を着ていても——」
「貫通します」リィナは言った。息が上がっていた。「でも——消耗が激しい。今の私では、一戦闘に一発か、二発が限界です。乱発はできない」
「切り札だ」アルクは言った。「ここぞというときに使ってくれ」
「わかりました」リィナは杖を下ろした。それから——珍しく、満足そうな笑顔を見せた。「……できた。ずっと、できないと思っていたことが」
「アルファと、お前のおかげだ」アルクは言った。
「アルクさんの付与があってこそです」リィナは言った。「私一人では、できなかった」
『——うちも頑張ったで!!』アルファが言った。
「あなたの制御なしには、崩れていました」リィナは言った。「ありがとう、アルファ」
『えへへ!! 褒められた!!』
「珍しい」ルミが言った。「リィナに褒められるのは、なかなかないよ」
「そんなことはありません」リィナが言った。少し照れていた。
四 移送の夜と、ライナの再出現
封印石容器の王都への移送は、三日後に決まった。
イリアからの返信が来て、王都の最も厳重な場所
——王宮の地下金庫——に保管することが決まった。護衛の騎士団も出してもらえる。
でも移送の前夜、見張りをしていたバルガが戻ってきた。
「アルク、来てくれ」バルガは言った。「誰かいる。ルーエの東の丘の上に」
全員で向かった。
丘の上に、一人の人物が立っていた。
青いマントのライナだった。
でも、兵士は連れていない。一人だった。
「なんのつもりだ」ヴィナが剣に手をかけた。
「戦いに来たのではない」ライナは言った。
「——また、忠告だ」
「なぜ、お前が俺たちに忠告する?」アルクは言った。
「……知る必要はない」ライナは言った。「ただ
——移送の際、街道に罠が仕掛けられている。北の迂回路を使え」
「それだけか?」
「それだけだ」ライナは言った。踵を返した。
「ライナ」アルクは声をかけた。
ライナが、立ち止まった。振り返らない。
「次に会うとき——あなたに聞きたいことがある。あなた自身の話を」
ライナは、しばらく動かなかった。
「……生き残ったら、聞け」ライナは言った。
そのまま、夜の闇に消えた。
「……また、忠告した」カインが言った。「二度目だ」
「敵が、二度も味方に情報を流す」ガドルが言った。「意味がわからない」
「意味がある」ルミが言った。「でも——まだ、わからない。あたしにも」
「アルファは?」アルクは言った。
『——うちも、なんか引っかかる』アルファは言った。珍しく、ゆっくりとした口調だった。『あの人、帝国の人やけど——うちらを消したいとは、思ってへん気がする。なんか別のこと、考えてる気がして』
「今は、判断できない」アルクは言った。 「でも——北の迂回路を使う。それは正しい選択だと思う」
「罠に引っかかって、石を奪われた後に悔やむより、忠告を信じた方がいい」ヴィナは言った。「ただし ——油断はしない。ライナ自身が罠かもしれない」
「そうだな」アルクは言った。「全員、最大の警戒で移送する」




