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底辺から始める、《与える》だけの無双伝 ~えぇ、与えていただけですよ?でも実は……知らないうちに守られていました!!♪!!?~  作者: わっぱるぅ
第一章

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第四十二話 王都クロシアと、病床の王

一 王都への道、グルメの夜

 翌日の夜営。

 激しい戦いの後だった。全員、疲れていた。

「今夜は、俺が出す」アルクは言った。

「やった!!」ネッサが言った。「何が出るかな!!」

「今日は——温かくて、滋養のあるものにしよう」

 ルミの力で亜空間の扉を開けた。


 まず出てきたのは、大きな鉄鍋に入った豚の角煮だった。箸で触れただけでとろけるほど柔らかく煮込まれた豚肉。表面が飴色に輝いている。周りに、ゆで卵と大根が添えられていた。


 次に、白米のおにぎりが全員分。梅干し、鮭、昆布——三種類。


 そして、豚汁。根菜がごろごろ入った、濃いめの味噌汁。湯気と一緒に、体が温まる香りが漂った。


 デザートに、みたらし団子。醤油と砂糖のたれが絡んだ、串に刺さった白い団子が五本。


 飲み物は、生姜湯。体の芯から温まる、甘辛い飲み物。


「……角煮というものだ」アルクは言った。「前世では、疲れたときに食べたかった料理だ」

「角煮?」バルガが聞いた。

「豚肉をじっくり煮込んだものだ。食べてみてくれ」

 バルガが箸で角煮をつついた。するっと崩れた。「……信じられない柔らかさだ」バルガは口に入れた。「っ——甘い。なのに、肉の旨味が濃くて——なんだこれは」

「長時間煮込むことで、肉の繊維がほぐれて——」

「理論はいい」バルガが言った。「うまい。それだけだ」

「バルガさん、潔い!!」ネッサが笑った。


 ガドルが豚汁を一口飲んだ。「……体に染みる。根菜の甘さと、味噌の塩味が——戦いの後には、これだな」

「そのために作った」アルクは言った。

「心が読めるのか」

「前世で医師……治癒師をしていたから、疲れたときに何が食べたいかはわかる」

「治癒師の感覚が、料理に活きてるんですね!!」ネッサが言った。

「そういうことだな」


 ヴィナが、おにぎりを手に取った。一口食べた。「酸っぱい。でも——疲れが取れる気がする」

「この紅色のものは梅干しという。梅には、疲労を回復する成分がある」

「なるほど」ヴィナはもう一口食べた。「お前は、料理でも回復させるのか」

「賦活師らしいだろ」

「……そうだな」ヴィナは、珍しく声を出して笑った。


 ルミが、みたらし団子の横にちょこんと座った。一串分けてもらって、一口かじった。「……甘い。でも、別の塩気の風味もある。不思議な組み合わせ」

「みたらし団子だ。甘塩っぱいのが特徴だ」

「甘塩っぱい……」ルミはもう一口食べた。「……これ、好きかもしれない」


『——先輩、うちにも!!』アルファが言った。

「飛び込む前に言いなさい」ルミが言った。

『わかった!! 先輩、うちに分けてくれ!!』

「……どうぞ」ルミが少し分けてやった。

 アルファが、たれをなめた。

『——あまっ!! しょっぱい!! でもうまい!! なんやこれ!!』

「甘塩っぱいと言っただろう」アルクは言った。

『甘塩っぱいって最高やな!!』

 コレンが、角煮の欠片をもらって幸せそうに食べていた。


 リィナが、生姜湯を飲みながら手帳に書き込んでいた。「……体が、内側から温まります。これは、生姜の成分が血行を——」

「リィナさん、分析しながら食べるのやめてください!! それより、みたらし団子おいしいですよ!!」ネッサが言った。

「……後でまとめます」リィナは手帳を閉じた。団子を一口食べた。「……これは確かに、美味しい。分析したくなります」

「食べてから分析してください!!」


二 王都クロシアへ

 四日後、王都クロシアに入った。

 ヴォルタから最初に旅した頃以来だ。相変わらず、人が多い。

「懐かしいですね!!」ネッサが言った。「確か、東区で火事があって——」

「あったな」アルクは言った。「あのときの警告文も、帝国の仕業だったかもしれない」

「そう思うと、怖いですね……!!」

 王宮の前に着くと、イリアの使者が待っていた。

「お待ちしていました。父が、お会いになりたいと申しております」


三 病床の王との対話

 王の私室は、静かだった。

 アルクとヴィナ、カインの三人だけが通された。他は控えの間で待つ。

 ベッドに横たわっていた王が、アルクたちが入ると、ゆっくりと上半身を起こした。


 五十代の男性。以前は立派な体格だったのだろうが、長い病で痩せていた。でも——目が、鋭かった。

「来てくれたか」王は言った。「私がセレナ・クロシア王だ。娘から、話は聞いている」

「お体の具合はいかがですか」アルクは言った。

「良くなってきている」セレナは言った。「二年間、ほとんど意識がなかった。でも——一週間前から、目が覚めてきた」

「なぜ、急に」

「わからない」セレナは言った。「でも——娘から、賦活師が現れたと聞いたとき、なぜか体が軽くなった気がした」


 アルクは、ルミを見た。ルミが翼をぱたぱたさせた。

「手を貸してもらえるか」アルクは言った。

 セレナが手を差し出した。アルクが、その手に触れた。

 ルミの力が、じわりと流れた。

 セレナが、目を閉じた。少し間があった。

「……温かい」セレナは言った。「これが、賦活師の力か。二百年ぶりに、この世界に戻ってきたのだな」

「そうかもしれません」

「少し、良くなった気がする」セレナは言った。「驚いた。薬でも、治癒師の魔法でも動かなかった体が——」

「完治ではありません」アルクは言った。「でも、少しずつ、回復に向かえると思います。定期的に、力を届けます」

「ありがとう」セレナは言った。それから、真剣な目になった。「本題に入ろう。お前たちに、伝えなければならないことがある」


四 王の告白

「二百年前の賦活師が、王家に残した伝言がある」セレナは言った。「イリアから箱は受け取ったか」

「受け取りました」アルクは言った。「指輪と、手紙が」

「では、手紙には書かれていなかったことを、伝える」セレナは言った。「代々、口伝で伝えてきた話だ」


 全員が、静まった。


「二百年前の賦活師——名をロスと言った。ロスは、守り手を全員目覚めさせる直前まで来ていた。でも、帝国に消された。——消される直前、ロスは王家に二つのことを頼んだ」

「一つは、箱を次の賦活師に渡すこと」アルクは言った。

「そうだ。もう一つは——」セレナは息を吸った。「帝国が恐れている本当の理由を、次の賦活師に伝えること、だった」


「本当の理由?」


「帝国は、全ての守り手が目覚めると世界を作り変えるほどの力を得ると、賦活師を恐れている」セレナは言った。「それは、お前たちも知っているはずだ」

「はい」

「でも」セレナは言った。「ロスは言い残した。『世界を作り変える力など、嘘だ』と」

 アルクは、驚いた。「嘘?」

「帝国が作り上げた嘘だ」セレナは言った。「賦活師が全守り手を覚醒させたとき、得る力は——世界を作り変えるものではない。与えた全てが、返ってくる力だ」

「与えた全てが、返ってくる……?」

「賦活師がこれまで仲間に与えてきた力——回復、強化、守り——その全てが、賦活師自身に返ってくる。自分自身を、全力で守れるようになる。自分自身を、全力で回復できるようになる。自分自身を、全力で強化できるようになる」セレナは言った。「つまり——完全に、死なない体に近づく」


「帝国は、それを恐れた?」ヴィナが言った。


「そうだ。消せなくなる」セレナは言った。「賦活師が完成すれば、帝国は二度と賦活師を消せない。だから——完成する前に、消そうとした。そして今も、消そうとしている」

 アルクは、しばらく黙っていた。


「ロスは、完成できなかった」アルクは言った。


「できなかった」セレナは言った。「一人だったから、ではない。仲間がいたが——最後の守り手が目覚める前に、消された。守り手が全員目覚めれば、消せなかったのに」

「最後の守り手——防御の守り手が、目覚めれば」

「そうだ」セレナは言った。「だから——帝国は、防御の守り手が目覚める前に、お前を消そうとする。今、お前に与えられた全守り手が覚醒すれば——帝国は、二度と賦活師を消せなくなる」


 カインが、震える声で言った。「……それが、大消去の真実だったんですか」


「そうだ」セレナは言った。「帝国の恐怖は、力そのものではない。消せなくなること——それが、帝国が最も恐れていることだ」

 アルクは、自分の手のひらを見た。

 ルミが、アルクの肩でぱたぱたと翼を揺らした。アルファが、静かに光っていた。

「……教えてくれて、ありがとうございます」アルクは言った。

「礼はいい」セレナは言った。「ただ——一つだけ頼みがある」

「なんでしょう」

「生き残ってくれ」セレナは言った。「ロスが果たせなかったことを、お前が果たしてくれ。それだけだ」


五 部屋を出た後

 王の部屋を出ると、イリアが廊下で待っていた。

「父の話を、聞けましたか」

「聞きました」アルクは言った。「大切な話でした」

「そうですか」イリアは少し安堵した顔をした。

「父は——久しぶりにあれほど話したと思います。あなたが来てよかった」

「回復の力を届けました。少しずつ、良くなると思います」

「……本当に、ありがとうございます」イリアは頭を下げた。

 アルクは控えの間に戻った。全員が待っていた。


「どうだった?」ヴィナが言った。

 アルクは、セレナから聞いた話を全員に伝えた。

 しばらく、誰も言葉が出なかった。

「……与えた全てが返ってくる」ネッサが言った。「それが、賦活師の完成なんですね」

「そうらしい」

「じゃあ——今まで、ルミやアルファや仲間たちに与えてきた全部が、最終的にアルクさんを守るものになる?」

「そういうことになる」

「なんか……」ネッサが目を潤ませた。「すごいですね。与えることが、めぐりめぐって自分を守る力になるなんて」

「賦活師らしいな」ガドルが言った。「与え続けてきた人間が、最後に守られる」

「それで帝国が恐れるのか」バルガが言った。「消せなくなることを」

「ああ」アルクは言った。

「なら——防御の守り手が目覚めるまでが、一番危険な時期だ」ヴィナが言った。「帝国は、必ずその前に動く」

「わかってる」アルクは言った。

「でも」ヴィナは言った。「今のお前には、俺たちがいる。ロスは一人で戦っていたかもしれないが——お前は違う」

「そうです!!」ネッサが言った。

「俺たちが、守る」バルガが言った。「帝国が動くまでに、もっと強くなる。それだけだ」

 アルクは、全員を見渡した。


「ありがとう」アルクは言った。「みんなが、いてくれて——本当によかった」


『——当たり前やろ!!』アルファが言った。『アルクのそばにおるのが、うちらの仕事やで!!』

「仕事、とは少し違う気がするが」アルクは言った。

『仕事以上や!! でも言葉が見つからんかった!!』

 ルミが、アルクの肩で、静かに光った。「……ずっと、そばにいる」ルミは言った。「あたしは、ずっと」

「ああ」アルクは言った。「わかってる」

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