第四十話 霧の回廊再突入、装置破壊大作戦!
一 作戦の最終確認
翌朝、全員で最終確認をした。
「今日の作戦を整理する」アルクは言った。
「目的は、施設の奥にある魔物培養装置の破壊。一つ壊せれば、霧の生成も止まる可能性がある」
「施設の構造はわかっているのですか?」イリアが言った。
「昨日、ドルフさんから詳しく聞きました」カインは言った。「施設は、入口から真っ直ぐ進んで、中央の広間に出る。そこから地下に降りる階段があって——地下に装置がある、と」
「中央の広間まで、どのくらいの警備がいる」ヴィナが言った。
「兵士が三十人以上。操られたBランク魔物が十体以上」カインは言った。
「それと——昨日の脱出を受けて、警備が増えている可能性がある」
「増えていても、問題ない」バルガが言った。
「むしろ、集まってくれた方がいい」
「バルガの《鉄壁の号令》で全員を引きつけて、ガドルの《豪風斬》で薙ぎ払う」アルクは言った。
「その間に、ヴィナとリィナが地下へ降りる。俺は、全員に付与を回しながら後方から援護」
「ネッサとコレンは?」ヴィナが言った。
「コレンで避難路を確保してもらう。施設に捕まっている者がいる可能性がある」アルクは言った。「カインとイリア殿下は——」
「私も戦います」イリアが言った。
「殿下が?」ネッサが言った。
「護衛の騎士を二人連れています。後方での援護は任せてください。——それに、私も戦えます。剣の心得はあります」
「では、後方をお願いします」アルクは言った。「カインは情報管理と指示を」
「わかりました」
「ルミ、今日も頼むよ」アルクは言った。
「うん」ルミは言った。「昨日、休んだから——今日は動ける。みんなを守る」
『——うちも全力出すで!!』アルファが言った。
「頼りにしてる」
二 霧の回廊、再突入
霧の回廊に入った。
昨日と同じ霧だ。でも——全員に知覚の付与がかかっているので、昨日より少しだけ見やすい。
「昨日の印をたどれます」カインが言った。
印を確認しながら進んだ。今日は、昨日より速く進めた。
施設の前に出た。
昨日より、兵士の数が増えていた。正門に八人。周囲を巡回している兵士も見える。
「増えてる」ヴィナが低く言った。
「予想通りだ」バルガは言った。「——行く」
バルガが、大盾を構えて前に出た。
アルクが付与をかけた。「響け、広く、強く」——ルミの光が盾に纏わりついた。バルガがアルクを見た。
「ルミの光も一緒か」バルガは言った。
「盾がさらに頑丈になる。今日は長持ちさせる」アルクは言った。
「ありがたい」
バルガが、大盾の縁を拳で叩いた。
ゴォォォン——!!
昨日の比ではない音が、霧の回廊に響き渡った。地面が、びりびりと震えた。
施設の中から、兵士たちが飛び出してきた。操られた魔物も、こちらに向かってくる。
「全員、こっちだ!!」バルガが叫んだ。「お前たちの相手は俺だ!!」
再び、盾の底を地面に叩きつけた。ドゥゥゥン——!!振動が広がり、魔物たちが一斉にバルガに向かって来た。
三十人以上の兵士と、十体以上の魔物が、バルガに集中した。
「来い!!」バルガが叫んだ。
三 バルガとガドルの連携
バルガが盾を構えた瞬間、全員が動いた。
兵士たちの攻撃が、バルガに集中する。剣、槍、魔法——全てが、大盾に当たった。
バルガは、一歩も下がらなかった。
アルクの付与で、盾がさらに頑丈になっている。ルミの回復の光で、ダメージが和らいでいる。バルガは、まさに動く要塞だった。
「ガドル!!」バルガが叫んだ。「後ろから来い!!」
「わかった!!」ガドルが動いた。
バルガの背後に入ったガドルが、低い体勢を取った。斧を両手で握り、体を回し始める。アルクが付与をかけた。「速く、力強く」——ガドルの回転が、みるみる速くなる。
「離れろ、バルガ!!」
「今だ!!」
バルガが盾ごと横に飛んだ。
ガドルの《豪風斬》が解放された。
横に広がった斧が、バルガに集中していた兵士と魔物を、まとめて薙ぎ払った。
十体以上が、同時に吹き飛んだ。
「……うおっ」ガドルが目を回しながら立った。「慣れてきた」
「慣れてきただけでまだ目は回るのですね!!」ネッサが言った。
「慣れれば目も回らなくなる」ガドルは言った。「今は、慣れ中だ」
「そういうものですか!!」
残った兵士たちが、動揺していた。その隙に——
四 地下への突入とリィナの活躍
「今だ!!」ヴィナが叫んだ。
ヴィナとリィナが、施設の正面から駆け込んだ。アルクがヴィナに付与をかける。「速く、正確に」——ヴィナが廊下を駆ける。残っていた兵士が二人、行く手を塞ごうとした。
ヴィナが《閃光斬》を放った。一瞬の光とともに、二人を無力化した。
階段を降りる。地下は、薄暗かった。機械的な音が聞こえる。
「あれだ」リィナが言った。
部屋の中央に、巨大な装置があった。黒い金属でできた、複雑な構造物。表面に魔法陣が刻まれていて、青白い光を放っている。その周囲を、霧が生成されていた。
「これが、装置か」ヴィナは言った。
「どこを壊せばいい?」
「中央の魔法陣です」リィナが言った。「魔力の核心部分を壊せば、全体が停止します。でも——防御魔法がかかっています。物理攻撃は弾かれる」
「魔法で壊せるか?」
「アルクさんの付与があれば」リィナは言った。「アルクさん!」
アルクは後方から付与を送っていた。「今、全力でかける!」
アルクがアルファの力を借りて、リィナに最大の付与をかけた。「増幅、貫通、破壊」——リィナの魔力が、激しく溢れ出した。
「《雷霆網》——最大出力!!」
リィナが、杖を装置に向けて雷を解放した。
轟音が、地下に響いた。
装置の魔法陣が、雷に貫かれた。青白い光が、散った。装置が、激しく揺れた。
「もう一度!!」
「わかりました!!」
二度目の雷霆網が放たれた。
装置が、爆発した。
地下から、青白い光が吹き上がった。
五 霧が晴れる
地上に出ると——霧が、薄くなっていた。
少しずつ、回廊の霧が消えていく。青空が、見え始めた。
「霧が晴れてる……!!」ネッサが言った。
「装置を破壊したから」リィナは言った。息が上がっていた。「魔力が止まれば、人工の霧も消える」
「全員、無事か」アルクは言った。
確認すると——全員、無事だった。軽傷者はいたが、ルミがすぐに手当てをした。
施設に残っていた捕虜も、二人救出できた。
バルガが、大盾を地面に置いた。「……疲れた」バルガは言った。
「お前が一番頑張った」アルクは言った。「ありがとう」
「礼はいらない」バルガは言った。「でも——《鉄壁の号令》、なかなかいい技だ。気に入った」
「次も使うか?」ガドルが笑った。
「使う」バルガは言った。「お前の《豪風斬》との相性がいい」
「俺もそう思う」ガドルは言った。「いいコンビだな、俺たちは」
「……そうだな」バルガは、珍しく笑った。
霧の回廊に、初めて陽の光が差し込んだ。
六 四番目の守り手の片鱗
施設から引き上げる途中、アルクは体の奥に意識を向けた。
今日の戦いで、四番目の守り手の気配が、また少し変わった気がした。
「ルミ」アルクは言った。「四番目の子、今日また動いたか」
「うん」ルミは言った。「リィナさんの魔法が装置を壊したとき——少し、反応していた気がした」
「なぜ、そのとき?」
「……わからない」ルミは言った。「でも、創り出す、壊す、作り直す——そういうことに関係した場面で、反応している気がする。前から思っていたけど、今日、確信に近くなった」
「創造の力か」アルクは言った。
「たぶん」ルミは言った。「でも、まだはっきりしない。あの子は——あたしやアルファより、時間がかかる気がする。じっくり、ゆっくり、目覚める感じ」
「どんな姿になるんだろう」
「……職人みたいな感じがする」ルミは言った。「こだわりが強くて、黙ってる。でも、一度始めたら最後まで丁寧にやる」
『——うちとは真逆やな!!』アルファが言った。
「そうかもしれない」ルミは言った。
「楽しみだな」アルクは言った。
「うん」ルミは言った。「でも——もうしばらく、かかると思う。焦らないで」
「わかった」
霧の晴れた回廊に、全員の足音が響いていた。




