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底辺から始める、《与える》だけの無双伝 ~えぇ、与えていただけですよ?でも実は……知らないうちに守られていました!!♪!!?~  作者: わっぱるぅ
第一章

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第三十九話 二百年前の箱と、新技能

一 箱の中身

その夜、イリアから父王の話を聞いた。

「父が回復した日、最初にした話は——二百年前の賦活師のことでした」イリアは言った。「父は、代々王家に伝わる秘密を知っていた。それは——賦活師が消えた本当の理由」


全員が、息を呑んだ。


「二百年前の賦活師は——守り手を目覚めさせていた。でも、その瞬間に帝国が動いた。賦活師は、力の完成の直前で、消えた。——でも」

イリアは、一つの小さな箱を取り出した。

「二百年前の賦活師が、王家に預けていったものがあります。もし次の賦活師が現れたら、渡してほしいと」

箱の中に、何が入っているのか。

 手のひらに乗るくらいの木箱で、蓋に古い文字が刻まれていた。カインが覗き込んだ。


「……賦活師へ、と書かれています」カインは言った。「古い言語ですが、読めます」


「開けてみてくれ」アルクは言った。

 イリアが、蓋を開けた。

 中には、二つのものが入っていた。

 一つは、指輪。シンプルな銀色の指輪で、内側に細かい文字が刻まれている。

 もう一つは、薄い革に書かれた手紙だった。

「読んでもいいですか」カインが言った。

「どうぞ」イリアは言った。

 カインが、手紙を広げた。古い文字を、ゆっくりと読み始めた。


「『次に現れる賦活師へ。あなたがこれを読んでいるなら、私は消えてしまったということだ。でも、諦めないでほしい。私は、守り手を全員目覚めさせるまで、あと一歩のところだった。帝国に消される直前、最後の力で、この指輪を作った』」


 全員が、静まった。


「『この指輪は——魔力を全回復する力を持つ。一日に一度、使える。あなたの守り手たちに、限界が来たとき——これを使ってくれ。私があなたに渡せる、最後の贈り物だ。どうか、守り手を全員目覚めさせて。その力を——悪いことには、使わないと信じている』」


 カインが、手紙を置いた。


 アルクは、指輪を手に取った。シンプルで、でも確かな温もりがある。

「二百年前の賦活師が、作った」アルクは言った。

「はい」イリアは静かに言った。「父から受け継いで、ずっと保管していました。本物の賦活師に渡すまでは、開けてはいけない、と言われていて」

「……ありがとう」アルクは言った。「大切にする」

 ルミが、アルクの肩でぱたぱたと翼を揺らした。「……その人も、守り手と一緒に戦っていたんだね」ルミは言った。「あたしたちと、同じように」

「そうだな」

「……最後まで、頑張ったんだね」ルミは言った。少し、声が揺れていた。

『——先輩、泣きそうや』アルファが言った。

「泣いてない」ルミはきっぱりと言った。「……でも、その人のこと、ちゃんと覚えていたい」

「俺も」アルクは言った。「その人の思いを、継ぐためにも——守り手を全員目覚めさせる。帝国に消される前に」


二 帝国の装置をどうするか

 翌朝、全員で会議を開いた。イリアも同席した。

「霧の回廊の装置は、一ヶ月以内に数百体の魔物を生成する」アルクは言った。「このままにはできない」

「壊すしかない」ヴィナが言った。

「でも、施設の奥深くにある」カインが言った。「昨日の潜入でも、奥まで入れなかった。警備も厚い」

「今度は、正面から行く」バルガが言った。

「正面から?」ネッサが言った。

「俺が正面で全員を引きつける」バルガは言った。

「お前たちが奥へ進む間、俺が全部受け止める。昨日より、もっと大規模に」

「無理だ」ヴィナが言った。「昨日は十人程度だった。施設の全兵士が相手になれば、三十人以上になる」

「わかってる」バルガは言った。「でも——試したいことがある」

「試したいこと?」

「アルクの付与を受けながら、俺が新しい使い方をしてみたい」バルガは言った。「昨日、盾を使いながら、気づいたことがある」

「聞かせてくれ」アルクは言った。


「俺の盾は、大きい。重い」バルガは言った。「盾を叩く音は、すごく大きく響く。それを利用できないかと思った。盾を叩いて、音で相手の注意を引く。さらに——アルクの付与で、その音を増幅できないか」

「音を増幅……」リィナが言った。目が光った。「理論的には、可能です。付与で音の伝わり方を強化すれば、広範囲に届く。それが脅威と感じれば、敵が集まってくる」

「さらに」バルガは続けた。「盾で地面を叩けば、振動が広がる。操られた魔物は、振動に敏感だという話をリィナから聞いた。振動で、魔物を引きつけることもできるかもしれない」

「——面白い」ヴィナが言った。「大盾を武器として使う、新しい発想だ」

「名前をつけるなら」ガドルが言った。「《鉄壁の号令》とでも言うか。盾一枚で、全軍の注意を引きつける」

「気に入った」バルガは言った。「アルク、付与をくれるか」

「もちろんだ」アルクは言った。「試してみよう」


三 バルガの新技能

 郊外で、試験的に動かしてみた。

 バルガが、大盾を構えた。アルクがアルファの力を借りてバルガに付与をかけた。「響け、広く、強く」——音と振動の増幅。

 バルガが、大盾の縁を拳で叩いた。

 ゴォォォン——!

 普通の金属音ではなかった。地の底から湧き上がるような、重く、広く、遠くまで響く音が広がった。半径百メートルは届いたはずだ。

「すごい音……!!」ネッサが耳を押さえた。

「次、地面だ」バルガが盾の底を地面に叩きつけた。

 ドゥゥゥン——!

 地面が振動した。全員の足元がびりびりした。遠くの木々が揺れた。

「……これは」リィナが手帳を出した。「魔物を引きつけるだけでなく、物理的な圧力にもなります。弱い魔物なら、この振動だけで怯む可能性がある」

「それだけじゃない」バルガは言った。「盾を前に向けて、音を一方向に集中させたらどうなる」

「やってみてください」リィナが言った。

 バルガが、盾を前に向けて、縁を連続で叩いた。音が、一方向に集中して飛んでいった。


 前方五メートル先の石が、ひびを入れた。


「音が、攻撃になった……!!」ネッサが言った。

「《鉄壁の号令》」バルガは低く言った。「盾一枚で、全軍の注意を引きつける。そして、音で圧力をかける。これが、俺の戦い方だ」

「付与の力で、体の強化だけでなく——技の性質そのものが変わった」アルクは言った。「これは、ヴィナの《閃光斬》と同じ原理だ。付与が、技のヒントになる」

「なるほど」ガドルが腕を組んだ。「では——俺も、何か思いついた」


四 ガドルの新技能

「俺の斧は重い」ガドルは言った。「普通に振れば、威力はあるが、範囲が狭い。でも——遠心力を使えば、話が変わる」

「回転技か」ヴィナが言った。

「そうだ」ガドルは斧を持った。「アルク、力と速度の付与をくれ。同時に」

「わかった」アルクがアルファの力でガドルに付与をかけた。「速く、力強く」——ガドルの体が光をまとった。


 ガドルが、斧を持ったまま回り始めた。低い体勢で、左右に重心を移しながら、徐々に速度を上げる。斧が、遠心力で横に広がっていく。


「これは——」カインが後退した。「危ない、離れてください!」

 全員が後退した瞬間、ガドルが回転を解放した。斧が弧を描いて振られ、周囲三百六十度を薙ぎ払った。

 ガドルを中心に、半径四メートルの範囲の草と土が、吹き飛んだ。

「……うおっ」ガドルが、目を回しながら立ち止まった。「少し、目が回った」

ネッサが言った。「すごい技ですけど、目が回りますよ!!」

「慣れれば大丈夫だ」ガドルは言った。

「《豪風斬ごうふうざん》。周囲全てを薙ぎ払う」

「大人数の魔物の群れに有効だな」ヴィナが言った。「でも、仲間も巻き込むから使い所を選ぶ」

「それが課題だ」ガドルは言った。「バルガが敵を引きつけた後、バルガの後ろで使えば——仲間を巻き込まずに、引きつけた敵を一掃できる」


「バルガとガドルの連携技か」リィナが言った。

「《鉄壁の号令》で引きつけて、《豪風斬》で薙ぎ払う。——理想的な前衛の組み合わせだ」

「実戦で試したいな」ガドルが笑った。

「明日、施設で試せる」バルガが言った。

「そうだな」ガドルも笑った。


五 イリアとの夕食

 その夜、宿でイリアも交えて夕食を取ることになった。

「今夜は、俺が出す」アルクは言った。

「えっ、いいんですか!!」ネッサが言った。

「皆に頑張ってもらった。それと——殿下への礼にもなる」

「料理でお礼ができるんですか!! いいですね!!」

 アルクが、亜空間の扉を開いた。ルミの力で。

 今夜は、何にしようか。イリアは王女だ。普段は上品な料理を食べているはずだ。あえて——庶民的で、でもこの世界にない美味しいものを出そう。

 意識を向ける。


 まず現れたのは、大きな土鍋だった。

 寄せ鍋だ。鶏肉、豚肉、白菜、春菊、豆腐、しいたけ、えのき、ねぎ。澄んだ出汁に、全ての旨味が溶け込んでいる。湯気と香りが、部屋を包んだ。


 次に、厚揚げの甘辛煮。醤油と砂糖で煮込まれた、深い味わいのもの。


 それから、炊き込みご飯。鶏と野菜の旨味が染み込んだ、黄金色のご飯。


 デザートに、わらび餅。きな粉をたっぷりかけた、ぷるぷるの甘いもの。


 飲み物は、ほうじ茶。香ばしい香りの、温かいお茶。


「……これは」イリアが、テーブルを見渡した。「すごい量だ。それに、見たことのない料理ばかり」

「前世の世界の料理です」アルクは言った。「庶民の食事ですが——」

「前世……庶民が、こんなものを食べているんですか」イリアは言った。

「はい。日常の料理です」

「……信じられない」イリアは鍋を覗き込んだ。「この、白い四角いものは」

「豆腐といいます。大豆……豆を固めたものです」

「豆を?」イリアが一口食べた。「……やわらかい。でも、お汁を全部吸っていて——」

「豆腐は、汁……出汁を吸うのが特徴です」

「食べ物に、こんな性質があるとは……」イリアは目を細めた。「美味しい。本当に美味しいです」

「イリア様、鍋ってみんなで突くのが楽しいんですよ!!」ネッサが言った。「こうやって、好きなものを取って——」

「好きなものを?」イリアが少し戸惑った。

「そうです!! 王女様だからって遠慮しないでください!!」

「……では」イリアが、鶏肉を取った。

「いただきます!!」ネッサが真似した。

「『いただきます』とは?」イリアが聞いた。

「食事の前の挨拶です。前世の世界では、みんなが言っていました」アルクは言った。

「素敵な言葉ですね」イリアは言った。「命をいただく感謝、という意味でしょうか」

「そうです」

「では——いただきます」イリアが、静かに言った。

『——うちも!! いただきます!!』アルファがわらび餅に飛び込んだ。

「飛び込むな」アルクが言った。

『これは飛び込まなあかん!! ぷるぷるや!!』

「また飛び込んでる……!!」ネッサが笑った。

 イリアが、その様子を見て、小さく笑った。

「……王宮では、こういう食事はできません」イリアは言った。「みんなでわいわいと」

「楽しいでしょう?!」ネッサが言った。

「はい」イリアは言った。素直に。「楽しいです」


 バルガがわらび餅を一口食べた。「……甘い。でも、不思議な食感だ」

「きな粉という粉をかけています。大豆を炒って粉にしたものです」

「大豆を固めたり、炒って粉にしたり——前の世界の人は、大豆が好きだな」バルガが言った。

「よく言われます」アルクは言った。

 ヴィナが、ほうじ茶を両手で持って飲んだ。

「……落ち着く。カフェオレよりも、すっきりしてる」

「疲れているときに合う」アルクは言った。

「よくわかってる」ヴィナは言った。少し、アルクを見た。

 ネッサが、そのやりとりをこっそり見ていた。イリアも、見ていた。


 二人の視線が、一瞬交わった。


 イリアが、かすかに微笑んだ。ネッサが、少し照れた顔をした。

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