第三十四話 東の村の攻防
一 戦場へ
ルーエ東の村に着くと、すでに魔物の群れが村の手前まで迫っていた。
黒い鎧の兵士が、十数人。その後ろに、操られた魔物が二十体以上。Cランク、Bランクが入り混じっている。
「数が多い」ガドルが言った。
「でも、村人を逃がす時間を稼げれば、勝ちだ」ヴィナが言った。「全滅させる必要はない。村を守ればいい」
「作戦を立てる」アルクは言った。
全員が、アルクを見た。いつの間にか、アルクが作戦の中心になっていた。
「バルガ、前線で盾を構えてくれ。敵の攻撃を受け止めて、壁になる」アルクは言った。「ヴィナとガドルは、バルガの後ろから攻撃。リィナは中距離から魔法で牽制。ネッサはコレンで村人の避難路を確保。カインは全体を見て指示」
「お前は?」ヴィナが言った。
「俺は、全員に付与を回す」アルクは言った。「そして——いざとなったら、俺も前に出る」
「無理はするなよ」ガドルが言った。
「わかってる」
「バルガ」アルクは言った。「お前の盾に、ルミの防御の光を重ねたい。試したいことがある」
「防御の光を?」バルガが言った。
「ルミ」アルクは言った。「バルガの盾と鎧に、回復の光を纏わせられるか。バジリスク戦のときみたいに」
「やってみる」ルミは言った。
ルミが、バルガに向かって光を放った。バルガの大盾と鎧が、白く光った。
「これは……」バルガが盾を見た。「温かい」
「その光があれば、敵の攻撃を受けても、ダメージが減る」ルミは言った。「それに——傷ついても、少しずつ回復する」
「動く要塞に、回復機能がついた、ということか」バルガが言った。
「そういうことだ」アルクは言った。
「面白い」バルガが、大盾を構えた。「——来い」
二 バルガの壁
魔物の群れが、突進してきた。
バルガが、前線で大盾を構えた。
Bランクの魔物が、バルガに突進する。バルガは、盾でそれを受け止めた。
衝撃。でも——バルガは、一歩も下がらなかった。ルミの光が、衝撃を和らげた。
「来い!」バルガが叫んだ。「全部、俺が受け止める!」
次々と魔物が、バルガに襲いかかった。バルガは、その全てを盾で受け止めた。彼の後ろにいる仲間には、一体も通さない。
「すごい……」ネッサが言った。「バルガさん、びくともしない……!」
「アルク、付与を!」バルガが叫んだ。「盾を構える力を、強化してくれ!」
「わかった」アルクが、バルガに付与をかけた。「頑丈に、揺るがず」——アルファの力が、バルガの体を支えた。
バルガの足が、地面に根を張ったように動かなくなった。どんな突進も、受け止める。
「これだ!」バルガが叫んだ。「これなら、何体来ても止められる!」
バルガが壁になっている間に、ヴィナとガドルが攻撃した。バルガが受け止めた魔物の隙を突いて、確実に仕留めていく。
「《閃光斬》!」ヴィナが、必殺技を放った。一瞬の光とともに、Bランクの魔物を両断した。
「いい技だ!」ガドルが、斧を振るう。アルクの付与で、攻撃力が跳ね上がっている。
三 リィナの攻撃魔法、開花
後方で、リィナが魔法を放っていた。
でも——敵の数が多すぎた。一体ずつ倒していては、追いつかない。
「リィナ!」アルクが叫んだ。「お前に、最大の付与をかける! 範囲魔法は使えるか!」
「範囲魔法!?」リィナが言った。「威力を上げれば——でも、制御が——」
「アルファが、制御を補助する!」アルクは言った。「やってみてくれ!」
『——リィナ、任しとき!!』アルファが言った。『うちが、魔力の制御を手伝う!! 威力も、範囲も、両方上げたる!!』
アルクとアルファが、リィナに付与をかけた。
リィナの杖が、青く激しく輝いた。魔力が、溢れ出す。
「……すごい魔力……!」リィナが言った。「これなら——いける!」
リィナが、杖を高く掲げた。
「《雷霆網》!」
空から、無数の雷が降り注いだ。網のように広がった雷撃が、魔物の群れを一気に薙ぎ払った。
十体以上のCランク魔物が、同時に倒れた。
「……範囲魔法を、使えた」リィナが、自分の杖を見た。「アルクさんの付与と、アルファの制御で——攻撃魔法が、ここまで——」
「リィナさん、すごい!!」ネッサが叫んだ。
「これが——賦活師の力を借りた、私の魔法」リィナが言った。少し、声が震えていた。「一人では、できなかった。でも、今は——できる」
『リィナ、かっこよかったで!!』アルファが言った。
「ありがとう、アルファ」リィナが言った。「あなたのおかげです」
四 召喚獣と守り手の合体技、昇格
残るは、黒い鎧の兵士たちと、数体のBランク魔物だった。
兵士たちが、隊列を組んで前進してきた。統制が取れている。正規兵だ。
「ネッサ!」アルクが言った。「コレンを出してくれ! 村人の避難は終わったか!」
「終わりました!」ネッサが言った。「コレン、お願い!」
コレンが、炎の姿で現れた。
「アルク、コレンを強化して!」ネッサが言った。「あの、合体技を——もう一度!」
「やろう」アルクは言った。「ルミ、アルファ、コレン——三人の力を、合わせる」
アルクは、深く集中した。
ルミの回復の光。アルファの付与の力。そして、ネッサのコレン。三つの力を、一つに繋ぐ。
コレンが、燃え上がった。猫サイズから、巨大な炎の獣へ。翼が広がる。炎の色が、金から白へ、そして青白い炎へと変わった。
でも——今回は、その上があった。
コレンの体に、ルミの回復の光が纏わりついた。青白い炎と、白い回復の光が混ざり合う。コレンの姿が、さらに変わった。神々しいほどの、白銀の炎の獣。
「……コレンが」ネッサが息を呑んだ。「もっと、きれいに……!」
「回復の光と、炎が融合した」ルミが言った。「コレンが、攻撃しながら——自分を回復できる。倒れない炎の獣だ」
「《白銀の守炎》!」ネッサが叫んだ。「コレン、行って!」
白銀の炎の獣が、兵士たちに向かって突進した。
兵士たちが、武器を構えた。でも——コレンの炎は、止まらなかった。攻撃を受けても、回復の光ですぐに癒える。倒れない。
コレンが、兵士たちの隊列を、一気に突き崩した。
兵士たちが、浮き足立った。
「退け!」黒い鎧の隊長らしき男が叫んだ。「相手が悪い! 一旦、退却だ!」
兵士たちが、後退し始めた。残った魔物も、操る者が退いたことで、統制を失った。
戦いは——アルクたちの勝利だった。
五 戦いの後と、新たな謎
兵士たちが退却した後、村は静けさを取り戻した。
村人たちが、避難先から戻ってきた。誰も死ななかった。怪我人はいたが、ルミの回復で、すぐに手当てができた。
「全員、無事か」アルクは言った。
「はい」リィナが確認した。「村人に死者なし。私たちも、軽傷のみです」
バルガが、大盾を背負い直した。「いい戦いだった」バルガは言った。「俺は、一人も通さなかった。仲間を、守れた」
「お前の壁が、戦いの要だった」アルクは言った。「ありがとう、バルガ」
「礼はいらない」バルガは少し照れた。「これが、俺の役目だ」
ヴィナが、剣を鞘に収めた。「《閃光斬》、実戦で使えた」ヴィナは言った。「付与のおかげだ」
リィナが、杖を見つめていた。「《雷霆網》……範囲魔法を、制御できた」リィナは言った。「私の魔法が、進化した」
ネッサが、コレンを撫でた。コレンは元のサイズに戻っている。「コレン、新しい姿、かっこよかったよ!」ネッサが言った。コレンが、嬉しそうに尻尾を揺らした。
みんなが、それぞれの成長を実感していた。
でも——カインが、退却した兵士たちが残した旗を拾って、難しい顔をしていた。
「アルクさん」カインが言った。「この旗——」
旗には、黒い鉄をかたどった紋章があった。
「帝国……黒鉄帝国の紋章です」カインは言った。「父が言っていた、二百年前に賦活師を消した組織の——末裔」
全員が、静まった。
「やはり、帝国が動いている」ヴィナが言った。
「これは、偵察部隊に過ぎません」カインは言った。「本隊は、もっと大きい。もし、本格的に侵攻してきたら——ルーエだけでは、防ぎきれません」
アルクは、旗を見つめた。
黒鉄帝国。二百年前、賦活師を消した者たち。そして今、また賦活師——アルクを、消そうとしている。
「……情報が要る」アルクは言った。「帝国が、なぜ賦活師を恐れるのか。二百年前に、何が起きたのか。全ての答えを、知る必要がある」
「カインのお父さんが、調べている」ルミが言った。
「ああ」アルクは言った。「でも——いつか、俺たち自身が、帝国と向き合うことになる」
ルミが、アルクの肩で、静かに光った。アルファが、くるくると回るのをやめて、じっとしていた。
そして——アルクの体の奥で、防御の守り手の気配が、いつもより強く脈打った。
まるで、来るべき戦いを、予感しているように。




