第三十三話 完成した武具と、自己付与の試練
一 武具の完成
三日後、ドワルフの工房に全員が集まった。
ドワルフが、できあがった武具を並べた。
ヴィナの剣は、細身で美しかった。刃が青みを帯びた銀色で、軽く振っただけで風を切る音がした。「霜の合金で打った」とドワルフは言った。「軽くて、折れん。お前の速さに応える」
バルガの装備は、圧巻だった。巨大な大盾と、全身を覆う鎧。黒い金属でできていて、見るからに頑丈だ。「鋼鉄の三倍の硬度だ」とドワルフは言った。「これを構えれば、Sランクの突進も受け止められる。お前は、動く城壁になる」
バルガが、大盾を構えた。重いはずだが、彼の体格なら問題なく扱えた。
「……いい」バルガが言った。「これなら、仲間を守れる」
リィナの杖は、先端に青い宝石がついていた。「魔導金属の杖だ。魔力の通りが段違いだ」とドワルフは言った。リィナが軽く魔力を流すと、宝石が青く輝いた。「……素晴らしい。魔力の増幅率が、今までの倍以上です」
ガドルの斧は、刃が大きく、重厚だった。「お前の膂力なら、これくらい重い方が威力が出る」
そして、ネッサには——武器ではなく、手のひらに収まる小さな補助具が用意されていた。琥珀色の石が嵌められている。
「嬢ちゃんは、前に出て斬り合うわけじゃないだろう」ドワルフは言った。「これは、召喚石を組み込んだ補助具だ。これを持っていれば、召喚獣を呼ぶときの負担が、いくらか軽くなる。長く呼んでいられるはずだ」
ネッサが、補助具を受け取った。そっと魔力を通すと、琥珀色の石が、ほのかに灯った。
その光に応えて、コレンが、ぴょんと現れた。いつもより、すっと軽やかに。
「わあ……!」ネッサが声をあげた。「コレン、いつもより出やすくなった?」
コレンが、嬉しそうに鳴いて、ネッサの足元にすり寄った。
「すごい……!」ネッサが言った。「これがあれば、コレンと、もっと長く一緒にいられます!」
「気に入ったか」ドワルフが笑った。「斬った張ったの武器より地味かと思ったがな」
「武器より、ずっと嬉しいです!」ネッサが、補助具を両手で包んだ。「ありがとうございます!」
そして、アルクの短剣。シンプルだが、美しい作りだった。「特別な細工はしてない。だが、いい鋼で打った。いざというときの備えだ」
「ありがとう」アルクは短剣を受け取った。
「金は——」ドワルフが言いかけると、ネッサが前に出た。
「お支払いします!」ネッサが、きっちり計算した金額を出した。「セラン王の支援金と、これまでの報酬で、ちょうど足ります! 明細はこちらです!」
ドワルフが、目を丸くした。「……几帳面だな、嬢ちゃん」
「会計は得意なんです!」ネッサが胸を張った。
「いいパーティだ」ドワルフが笑った。「武具を大切にしろよ」
二 自己付与の特訓
武具が揃った後、アルクは自己付与の特訓を始めた。
郊外の広場で、アルファの力を借りて、自分自身に付与をかけてみる。
「速く」——アルクの体が、わずかに光った。
アルクは、走ってみた。確かに、いつもより速い。でも——体がついていかない。バランスを崩して、転んだ。
「いてっ」
『——せやから言うたやろ!!』アルファが言った。『力が上がっても、体が慣れてへんねん!!』
「もう一度だ」アルクは立ち上がった。
何度も繰り返した。少しずつ、感覚を掴んでいく。付与で上がった力を、どう使うか。体をどう動かすか。
ヴィナが、稽古を手伝った。
「攻撃の基本を教える」ヴィナが言った。「お前は、戦い方を知らない。付与で力が上がっても、技術がなければ意味がない」
「頼む」アルクは言った。
ヴィナが、短剣の使い方を教えた。構え、踏み込み、突き、引き。アルクは、医師だった前世の器用さもあって、覚えは悪くなかった。
「筋はいい」ヴィナが言った。「でも、実戦経験がない。それは、積むしかない」
「ああ」
数日後、アルクは少しずつ、自己付与で動けるようになってきた。
「アルファ」アルクは言った。「攻撃の技も、作れないか。ヴィナの閃光斬みたいに」
『——アルクの攻撃技か!!』アルファが嬉しそうに言った。『ええな!! でも、アルクは攻撃が本職ちゃうから——付与を活かした技がええと思う』
「付与を活かした技?」
『そうや』アルファは言った。『アルクの強みは、付与や。攻撃力だけで勝負しても、ヴィナやガドルには敵わへん。でも——付与を、攻撃に変える技なら、アルクにしかできへん』
「付与を、攻撃に変える……」
『たとえば——付与の力を、拳や短剣に込めて、一気に放出する。そしたら、付与のエネルギーが、攻撃になる』アルファは言った。『うちの力を、武器を通して叩き込む感じや』
「やってみる」アルクは言った。
アルクは、短剣に意識を集中した。アルファの力を、刃に込める。付与のエネルギーが、短剣に流れ込んだ。刃が、橙色に光った。
アルクは、岩に向かって短剣を突き込んだ。
付与のエネルギーが、刃から放出された。
岩に、ひびが入った。
「……効いた」アルクは言った。
『できたで!!』アルファが喜んだ。『付与のエネルギーを、攻撃に変えた!! これがアルクのオリジナルや!!』
「名前を決めよう」アルクは言った。「付与の力を込めた一撃——《賦与撃》」
「シンプルですね!」ネッサが言った。
「俺らしい」アルクは言った。
『アルクの初めての攻撃技や!! 記念や!!』
ルミが、アルクの肩で言った。「アルクが、自分で戦えるようになるの、嬉しい。でも——無理はしないで」
「わかってる」アルクは言った。「これは、いざというときの手段だ。基本は、みんなを支える」
「うん」ルミは言った。「それでいい」
三 束の間の休息——グルメと団らん
特訓の合間、ルーエの宿で、夕食の時間になった。
「今日は、特訓を頑張ったから——」アルクは言った。「リクエストを受けようか」
「いいんですか!?」ネッサが目を輝かせた。「じゃあ、じゃあ——お肉がいいです! がっつりしたやつ!」
「あたしは——」ヴィナが少し考えた。「温かい麺類が食べたい」
「俺は、肉と酒に合うものがいいな」ガドルが言った。
「私は、甘いものを」リィナが言った。
「俺は、何でもいい」バルガが言った。「お前たちが選んだものを」
アルクは、亜空間の扉を開いた。ルミの力で。
いくつものリクエストに応えて——次々と料理が現れた。
まず、ガドルとネッサのために、分厚いステーキ。鉄板の上でジュージューと音を立て、肉汁が滴っている。表面はこんがり、中はほどよい赤み。
ヴィナのために、温かいラーメン。醤油色のスープに、ちぢれ麺、チャーシュー、煮卵、ネギ。湯気が立ち上る。
ガドルの酒に合うように、唐揚げと、枝豆の塩茹で。
リィナのために、抹茶のパフェ。緑色のアイスと、白玉、あんこ、生クリームが層になっている。
そして、バルガのために——様々な料理を少しずつ盛り合わせた皿。
「うわあ!!」ネッサがステーキを見た。「すごい! お肉が、こんなに分厚い!!」
「食べてくれ」アルクは言った。
ネッサがステーキを一口食べた。「……っ、やわらかい!! ジューシー!! なんですかこれ、お肉がとろける!!」
ガドルもステーキにかぶりついた。「……うまい!! 肉の味が濃い!! これは、酒が進むな!!」
ヴィナが、ラーメンを一口すすった。少し間があった。
「……あったかい」ヴィナが言った。「麺と、スープが——絡んで。体に染みる」
「ラーメンは、疲れたときに食べたくなる」アルクは言った。
「わかる気がする」ヴィナは、珍しく次々と麺をすすった。「……うまい」
リィナが、抹茶パフェを一口食べた。「……苦味と甘味の、絶妙なバランス。この緑のアイスは——」
「抹茶だ。お茶を粉にしたもの」
「お茶を、デザートに……」リィナが目を見開いた。「面白い。とても、面白い」
バルガは、盛り合わせを少しずつ食べて、静かに頷いていた。「……どれも、うまい。お前の料理は、心が和む」
ルミ、アルファ、コレンにも、それぞれの好物が用意された。
ルミは、ラーメンのスープを少し。「……あったかくて、好き」
アルファは、抹茶パフェの生クリームに飛び込んだ。
『——あまっ!!! でも、ちょっと苦いのもある!! なんやこれ、不思議な味や!!』
「飛び込むなと言ってるだろ」アルクが言った。
『これは飛び込まな損や!!』
コレンは、ステーキの欠片を嬉しそうに食べた。ネッサが「コレン、お肉好きだもんね!」と撫でた。
「みんなで食べると、おいしいですね!!」ネッサが言った。
「ああ」アルクは言った。
ヴィナが、ラーメンを食べ終えて、ぽつりと言った。
「……こういう時間が、続けばいいと思う」
全員が、ヴィナを見た。
「珍しいですね、ヴィナさんがそういうこと言うの」ネッサが言った。
「……たまには、言う」ヴィナは少し照れた。「三年間、一人だった。こういう時間は、もう二度とないと思っていた。でも——今は、ある」
テーブルが、少し静かになった。
「ヴィナさん——」ネッサが言った。
「だから」ヴィナは続けた。「守りたい。この時間を。みんなを」
アルクは、ヴィナを見た。その横顔が、いつもより柔らかかった。
「守ろう」アルクは言った。「みんなで」
ヴィナが、アルクを見た。少しだけ、微笑んだ。
その様子を、ネッサがちらりと見ていた。何か言いたそうな顔をして——でも、笑顔で「あたしも頑張ります!!」と言った。
恋の行方は、まだ誰にもわからない。でも、その食卓は、温かかった。
四 帝国、動く
翌朝、セラン王から緊急の知らせが届いた。
「東の偵察部隊が、動き始めた」使者は言った。「魔物の群れを率いて、ルーエの東の村に向かっています」
全員が、立ち上がった。
「行くぞ」アルクは言った。
新しい武具を身につけ、特訓で力をつけた仲間たち。そして、自己付与とオリジナルスキルを手にしたアルク。
「初めての——軍勢との戦いだ」ヴィナが言った。
「ああ」アルクは頷いた。「でも、俺たちは一人じゃない。全員でやる」
ルミが、アルクの肩で光った。アルファが、くるくると回った。そして——アルクの体の奥で、まだ眠る防御の守り手の気配が、かすかに脈打った。




