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底辺から始める、《与える》だけの無双伝 ~えぇ、与えていただけですよ?でも実は……知らないうちに守られていました!!♪!!?~  作者: わっぱるぅ
第一章

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第三十二話 帝国の影と、武具の刷新

一 ネッサ、財布を握る

 ルーエの王宮で、セラン王はアルクたちに事情を説明した。

「東の国境付近に、黒い鎧の軍勢が現れた」セランは地図を広げた。「まだ侵攻はしていない。だが——明らかに、こちらの様子をうかがっている」


「帝国の正規軍ですか」ヴィナが聞いた。


「旗からすると、そうだ。だが、本隊ではない。偵察部隊だろう」セランは言った。「問題は——その部隊が、魔物を引き連れていることだ」

「魔物を、軍が?」ガドルが眉をひそめた。

「操られた魔物だ」カインが言った。「盟主——いや、帝国は、魔物を兵器として使っている。ヴォルタの異常出没も、その実験だったのかもしれません」

 セランは頷いた。「ルーエは小国だ。正規軍を相手にする力はない。でも——せめて、偵察部隊を退ければ、本格的な侵攻を遅らせられる。皆の力を、貸してほしい」

「引き受けます」アルクは言った。「でも——準備が必要です」

「準備?」

「俺たちの装備は、Sランクの魔物を相手にするには心許ない」アルクは言った。「正規軍と戦うなら、武具を整えたい」

「それなら——」セランは言った。「ルーエには、腕利きの職人がいる。報酬の前金として、武具の新調を支援しよう」

「ありがとうございます」


 王宮を出た後、ネッサが手を挙げた。

「あの、提案があります!」ネッサが言った。「お金の管理、あたしがやってもいいですか?」

「お金の管理?」アルクが言った。

「はい! ギルドで帳簿をつけてたので、お金の計算は得意なんです!」ネッサは胸を張った。「みんな、戦いに集中してください! 報酬とか、装備の予算とか、宿代とか——あたしが全部管理します!」


「助かる」アルクは言った。「正直、俺はその辺りが苦手だ」

「ですよね! アルクさん、お金に無頓着そうですもん!」ネッサが笑った。「任せてください! 少しもも無駄にしません!」

「頼もしいな」ガドルが言った。

「これでも、ギルドの会計を五年やってましたから!」ネッサは得意げだった。「みんなのお金、しっかり守ります!」


『——ネッサ、頼れるな!!』アルファが言った。


「えへへ、アルファに褒められた!!」

 ルミが、アルクの肩で言った。「ネッサは、こういうとき頼りになる」

「ああ」アルクは言った。「適材適所だ」


二 職人ドワルフの工房

 ルーエの職人街に、一軒の工房があった。

 主人は、ドワルフという名のドワーフだった。年は分からないが、白い髭を蓄え、太い腕に火傷の跡が無数にある。一目で、本物の職人だとわかった。


「冒険者か」ドワルフは、アルクたちを見回した。「セラン王から話は聞いている。装備を整えたいんだろう」

「ああ」アルクは言った。

「それぞれの戦い方について教えろ」ドワルフは言った。「武具ってのは、使う者に合わせて作る。お前たちが何を求めてるか、それがわからなきゃ、いい物は作れん」

 ドワルフは、一人ずつ見ていった。


「お前は前衛か」ドワルフがヴィナを見た。

「剣士です」ヴィナが言った。

「速さ重視だな。その身のこなし。なら——軽くて、しなやかな剣がいい。重い剣はお前には向かん」ドワルフは頷いた。「特殊な合金で打とう。軽くて、それでいて折れない。お前の速さを殺さない剣だ」


 次に、ドワルフはガドルに目を留めた。

「お前は……豪快なやつだな」ドワルフはガドルの体格と、背負った斧を見比べた。「その斧、使い込んでるが——もう、お前の力に追いついてないな」

「わかるか」ガドルが、にやりと笑った。「最近、振るたびに刃がしなる感じがしてな。俺の一撃に、得物が耐えきれてない」

「だろうな」ドワルフは斧を受け取って、刃を指で弾いた。鈍い音がした。「お前みたいなのは、遠心力で薙ぎ払う戦い方だろう。一撃の重さで勝負するタイプだ」

「《豪風斬》ってのを使う」ガドルが言った。「体ごと回転して、まとめて薙ぎ払う。……まあ、まだ目が回るんだがな」

「はっはっは! 正直なやつだ」ドワルフは豪快に笑った。「なら、重心を少し手元寄りにした斧を打ってやる。回転の軸がぶれにくくなる。目が回るのも、少しはマシになるだろうよ。刃は——分厚く、重く。お前の馬鹿力に耐える一振りだ」

「ありがたい」ガドルが頷いた。「頼りにしてるぞ、爺さん」

「爺さんとは何だ。まだ二百は若いわ」ドワルフは鼻を鳴らした。


 次に、バルガを見た。

「お前は……でかいな」ドワルフはバルガを見上げた。「前衛か」

「ああ」バルガが言った。「だが——俺は、攻撃役じゃない」

 全員が、バルガを見た。

「どういう意味だ」アルクが言った。

「ヴリトラ戦と、バジリスク戦で、わかった」バルガは言った。「俺は、攻撃で目立つより——仲間を守る方が、性に合ってる。前に立って、敵の攻撃を受け止める。仲間が攻撃に専念できるように」

「盾役、ということか」ヴィナが言った。

「ああ」バルガは頷いた。「俺の体は、頑丈だ。攻撃を受け止めるなら、誰よりも向いてる。仲間を死なせないために——俺が、壁になる」


 ドワルフが、にやりと笑った。

「いい心構えだ」ドワルフは言った。「なら、お前には大盾を打ってやる。重くて、頑丈で、どんな攻撃も受け止める盾だ。それと——全身鎧。お前を、動く要塞にしてやる」

「頼む」バルガが言った。


 ドワルフは、リィナを見た。「お前は魔術師だな。武器より——魔力を増幅する杖が要るか」

「はい」リィナが言った。「できれば、雷の威力を高めるものを」

「魔導金属を使った杖を作ろう。魔力の通りがいい」ドワルフは言った。「それと、ローブにも魔力防御の刺繍を入れる」


「召喚師か。久しぶりに見たな」ドワルフは興味深そうに顎を撫でた。「だが——召喚師の装備は、正直、俺の専門じゃない。魔力で異界と繋ぐ技術は、鍛冶とは別の領域だからな」

「そうなんですね……」ネッサが、少ししゅんとした。

「だが、一つだけ作れるものがある」ドワルフは言った。「召喚の補助器具——召喚符を一時的に強化する。それを使えば、コレンの能力が上がるし、お前の魔力の負担も減る。長く戦えるようになるぞ」

「ほんとですか!」ネッサの顔が、ぱあっと明るくなった。「コレンと、もっと長く一緒にいられるんですね!」

「ああ。それと、お前は前に出ないとはいえ流れ弾はある。動きを邪魔しない、軽い守りの外套も付けてやる。召喚師が倒れたら、召喚獣も維持できんからな」

「ありがとうございます! 大事にします!」ネッサが、深々と頭を下げた。


 最後に、ドワルフはアルクを見た。

「お前は……何者だ」ドワルフは首を傾けた。「武器を持ってないな」

「俺は、付与をする」アルクは言った。「攻撃は、しない」

「ふむ」ドワルフは顎を撫でた。「だが——お前も、いつか前に出ることがあるかもしれん。一応、軽い武器を一つ持っておけ。短剣でいい。いざというときの備えだ」

 アルクは少し考えた。「……そうだな。一本、頼む」

「わかった」ドワルフは頷いた。「全員分、最高の物を打ってやる。三日待て」


三 待つ間の特訓

 武具ができるまでの三日間、アルクたちは特訓をした。

 ルーエ郊外の広場で、それぞれが自分の課題に取り組んだ。

 バルガは、ガドルと組んで、盾の使い方を練習した。「攻撃を受け止めて、仲間に隙を作る」という動きを、何度も繰り返した。

「もっと低く構えろ」ガドルが言った。「重心が高いと、押し負ける」

「こうか」バルガが腰を落とした。

「そうだ。それなら、Sランクの突進も受け止められる」


 ヴィナは、剣の素振りをしながら、アルクに相談した。

「アルク」ヴィナが言った。「付与を受けたとき——あたしは、いつもより速く動ける。でも、それを『技』として固定できないか考えてる」

「技?」

「付与の力で、一瞬だけ爆発的に動く。その動きを、必殺技として完成させたい」ヴィナは言った。「あの感覚を、自分のものにしたい」

「やってみよう」アルクは言った。「付与をかける。お前は、その感覚を覚えてくれ」

 アルクが、アルファの力を借りてヴィナに付与をかけた。

「速く、鋭く」——ヴィナの体が、光をまとった。

 ヴィナが、剣を振った。今までで一番速い、鋭い一撃。

「これだ」ヴィナが言った。「この感覚。付与で加速して、一点に全てを込める——」

『——ヴィナさん、それ、技にできるで!!』アルファが言った。『うちが付与の力を、一瞬だけ凝縮したる!! そしたら、もっと鋭くなる!!』


「凝縮?」


『付与を、ずっとかけ続けるんやなくて——一瞬だけ、全部を込める!! そしたら、爆発的な一撃になる!!』

「やってみる」ヴィナが構えた。

 アルクとアルファが、タイミングを合わせた。ヴィナが踏み込む瞬間に——付与を、一気に凝縮して放った。


 ヴィナの体が、一瞬だけ、まばゆく光った。


 ヴィナの剣が、空気を切り裂いた。目にも止まらぬ速さ。岩に向かって振られたその一撃は——岩を、両断した。

「……これは」ヴィナが、自分の剣を見た。「すごい威力だ」

「技の名前、決めますか?」ネッサが言った。「必殺技には名前が要りますよ!」

「名前か」ヴィナは少し考えた。「……閃光。一瞬の、光の一撃。——《閃光斬せんこうざん》」


「かっこいい!!」ネッサが言った。

「大げさな名前だが」ヴィナは少し照れた。

「必殺技は大げさなくらいがいいんです!!」

『ヴィナさんの必殺技、完成や!!』アルファが喜んだ。

 ヴィナが、初めての必殺技を手にした瞬間だった。


四 アルクの気づき

 その夜、アルクは一人で広場に残って、考えていた。

 仲間たちは、それぞれ成長している。ヴィナは必殺技を手にした。バルガは盾役としての道を見つけた。リィナは魔法を磨いている。

 でも、自分は——付与をするだけだ。攻撃ができない。守り手の力を借りて、仲間を底上げする。それが役目だ。

 でも、ふと思った。

「アルファ」アルクは言った。「一つ、聞いていいか」

『なんや』

「付与を……自分にかけたら、どうなる」

『アルクが、強くなる』アルファは言った。『力も、速さも上がる。——でも』

「でも?」

『アルクの体は、戦いに慣れてへん』アルファは言った。『付与で力が上がっても、それを使いこなせるか、わからん。下手したら、体が壊れる』

「リスクがあるのか」

『ある』アルファははっきりと言った。『でも——いざというとき、アルクが自分を守れる手段があった方がええ。今は、防御の守り手に頼りきりやろ。でも、あの子も無限やない』

 アルクは、自分の手のひらを見た。

「練習してみたい」アルクは言った。「少しずつ。自分に付与をかけて、戦えるように」

『——ええと思う』アルファは言った。『でも、無理はせんといて。アルクが壊れたら、うちらも悲しいから』

「わかった」アルクは言った。「少しずつだ」


 ルミが、アルクの肩に降りた。

「アルクが、自分のために力を使うのは——いいことだと思う」ルミは言った。「アルクは、いつも他人のためばっかりだから」

「そうか?」

「そうだよ」ルミは言った。「たまには、自分のことも考えて」

「……前世でも、同じことを言われた気がする」アルクは言った。

「じゃあ、今度こそ、聞いて」ルミは言った。

 アルクは少し笑った。「ああ。聞くよ」

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