第二十八話 ルーエの王宮と、新しい出会い
一 ルーエの都
ルーエの王都は、小さかった。
でも、美しかった。石畳の通りに花が咲いていて、噴水の音が聞こえる。人々の顔が穏やかで、子供たちが広場で笑いながら遊んでいた。
「素敵ですね……!」ネッサが言った。「なんか、のんびりしてて——ヴォルタと全然違う雰囲気!」
「ヴォルタは港町だからな」カインが言った。「ルーエは農業国で、争いが少ない。文化が育ちやすい環境だ」
「だから魔物の異常出没が起きると、対応が難しい」ヴィナが言った。
「そうですね」
王宮に向かうと、衛兵に止められた。アルクたちが事情を話すと、「少し待ってくれ」と言われた。
しばらくして、若い文官が走って来た。
「オークキングを、倒したというのは本当ですか」文官が息を切らして言った。
「倒した」アルクは言った。
「素材も、持ってきていただけますか」
「持っている」
「……では、ぜひ謁見を。陛下が直々にお礼を申し上げたいと」
二 ルーエ王との謁見
ルーエの王は、五十代の穏やかな男性だった。
王の名はセラン。質素な服装で、飾り気がない。でも目が温かく、見る者に安心感を与える顔立ちだ。
「ありがとう、旅の方々」セランは言った。「オークキングは、先週から我が国の北部を荒らしていた。騎士団が手を焼いていたところだった」
「たまたま通りかかっただけです」アルクは言った。
「たまたまでも、助けていただいた。礼を言う」セランは頷いた。それからアルクをじっと見た。「……不躾な問いだが、あなたは賦活師ではないか」
アルクは少し驚いた。「なぜ、そう思われますか」
「この国に、古い伝承がある。賦活師は光を持つ、と。あなたの周りに、二つの光がある」セランは言った。「一つは白く、穏やか。もう一つは橙色で、落ち着きがない」
『落ち着きがないとはなんや!!』アルファが言った。アルクにしか聞こえない声で。
「……お恥ずかしながら」アルクは言った。「賦活師かどうかは、まだはっきりしていませんが、その光については否定できません」
「正直に言ってくれてありがとう」セランは微笑んだ。「この国は、賦活師と縁がある。二百年前、最後の賦活師がこの地で力を蓄えたという記録が残っている」
「その賦活師は——どうなりましたか」
セランの顔が、少し曇った。「記録では、突然姿を消したと。理由はわからない。でも——この国の人々は、賦活師が必ずまた現れると信じ続けてきた」
「それが、あたしかどうかはわかりませんが」
「そうかもしれないし、そうでないかもしれない」セランは言った。「でも——もし、あなたが旅の途中でこの国に困ったことがあれば、ルーエの門はいつでも開いている。覚えておいてくれ」
三 夜、ルーエの宿で
王宮から宿を手配してもらった。立派な部屋だ。ヴォルタの宿とは全然違う。
夜、全員が一室に集まった。
「セラン王は、信頼できる人だと思った」カインが言った。「賦活師の記録を持っていて、かつ隠そうとしていない」
「ルーエが、盟主に狙われているとしたら——ここに賦活師の痕跡があるからかもしれない」ヴィナが言った。
「祭壇もここにあった」アルクは言った。「盟主は、賦活師の力の源を消したがっている。この国が持つ記録も、その対象かもしれない」
「守る必要がありますね」ネッサが言った。「セラン王を、ルーエを」
「まだ決めていない」アルクは言った。「でも——」
「でも?」
「ここは、悪くない場所だ」
ネッサが笑った。「アルクさんらしい言い方ですね」
「そうか?」
「そうです! 好きとか守りたいとか言わないで、悪くないって言う!!」
「事実だ」
「でも、意味は同じですよね?」
アルクは少し間を置いた。「……そうかもしれない」
ルミが、アルクの肩でぱたぱたと翼を揺らした。
「ルミ、何か感じるか」アルクが言った。
「ここは——安全だと思う。今のところ」ルミは言った。「でも、長くはいられない気がする。盟主が動く前に、もっと情報が必要だ」
「何の情報が」
「賦活師が二百年前に消えた、本当の理由」ルミは言った。「カインのお父さんも調べていた。それが——全部の答えに繋がってる気がする」
テーブルが静かになった。
「一つずつだ」アルクは言った。「焦らない」
「そうですね!」ネッサが言った。「今夜はゆっくり休みましょう!!」
「お前は、切り替えが早いな」ヴィナが言った。
「だって! 悩んでも夜は進まないじゃないですか!! 寝れば少し気持ちが楽になりますよ!!」
「……そうだな」ヴィナは珍しく素直に言った。「それは、そうだ」
「ヴィナさんが素直に同意した!!」ネッサが目を丸くした。
「たまにはする」
「記録します!!」
「するな」
「しちゃいます!!」
アルファが、くるくると回った。
『——なあ、明日は何か食べさせてもらえる? 今日の甘いやつ、またほしい』
「メープルシロップか」
『それ!! また飛び込みたい!!』
「飛び込むな。食べろ」
『飛び込むのが一番うまいんや!!』
「食べ方が特殊すぎる」
ルミが「同意する」と言った。
『先輩まで!!』
笑い声が、部屋に広がった。




