第二十四話 西へ、そして夢の続き
一 出発の朝
翌朝、灰爪亭の前に全員が集まった。
アルク、ヴィナ、ネッサ、カイン。
ガドルとリィナは今回は別行動だ。二人は北の港町の異常出没調査に向かう。
「西の情報が入ったら、すぐ連絡する」
「俺たちも、動きがあれば合流する」ガドルが言った。
「頼む」アルクは言った。
「アルク」ガドルは少し声を低くした。「——また、あの付与をかけてもらいたい。俺が限界を超えた先を、見てみたい」
「消耗が激しくなる」
「わかってる。でも、戦いはいつも消耗する。限界の先を知っておきたいんだ」
アルクはガドルを見た。傭兵として長く生きてきた男の、真剣な目だった。
「……わかった。次に会ったとき、試そう」
「ありがとう」
リィナがネッサに近づいた。「コレンの召喚データ、引き続き記録しておいてください」
「はい!!」
「あと、ヴィナさんの短剣稽古も続けて。あなたの成長は、今後のパーティの戦術に直結する」
「データ目的ですか!!」
「それだけじゃないです。心配もしてますよ」リィナは真顔で言った。「……少しだけ」
「リィナさんにも少しって言われた!! みんな少しって言う!!」
「少しで十分でしょ」リィナは歩き出した。「行ってらっしゃい」
ガドルが大きく手を振った。リィナが小さく手を振った。
二人の背中が、北の街道に消えていった。
二 旅の道中
ヴォルタから西へ向かう道は、なだらかな丘陵地帯を抜けていく。
空が広い。緑が多い。霧牙の森とは全然違う景色だ。
「きれいですね!!」ネッサが歩きながら言った。「ヴォルタから出たの、実は先日が初めてだったんですけど、こんなに世界って広いんですね!!」
「初めてだったのか」アルクが言った。
「ずっとギルドにいたので!! 旅の冒険者さんたちの話を聞くのが好きで、自分で行くとは思ってなかったです!」
「怖くないか」
「怖いです!! でも、楽しいが上回ってます!!」
ヴィナが隣を歩きながら言った。「……声が大きい」
「あ、ごめんなさい!!」
「謝るなら小さくしろ」
「はい!!」
「まだ大きい」
「すみません……!」
カインが苦笑した。「ネッサさんは、元気でいいですね」
「ありがとうございます!!」
「それも大きい」ヴィナが言った。
「ごめんなさい……!」
ルミが、アルクの肩の上から光の粒になって、ネッサの周りをふわふわと飛んだ。ネッサが「ルミ〜!!」と言って腕を伸ばした。ルミが腕に止まって、小鳥の姿になった。
「ルミ、外で飛ぶの、楽しい?」ネッサが聞いた。
「楽しい」ルミは言った。
「姿が変わって、まだ慣れてない」
「じゃあ練習してください!! ルミが自由に飛び回れるようになったら、もっとかっこいいですよ!!」
「かっこいい……そうなれるか、わからないけど」
「なれます!! 絶対!!」
ルミがぱたぱたと翼を揺らした。少し嬉しそうだった。
三 夜営の火と、ルミの話
その夜、街道沿いの広場で野営した。
焚き火を囲んで四人と一羽。ネッサがコレンを召喚した。コレンが焚き火の近くで丸まっている。
「ルミ」アルクが言った。「西のことをもう少し聞かせてくれ」
ルミは焚き火の端に止まって、翼をたたんだ。
「ルーエの近くにある遺跡が重要だと思う」
「なぜわかる」
「賦活師の記録に、ルーエの近くに古い祭壇があると残ってる。亜空間の中にあった断片から読んだ」
「亜空間の中に、記録が?」
「少しだけ」ルミは言った。「まだ全部は読めてない。でも——祭壇は、賦活師と守り手の繋がりを強める場所だったらしい」
「繋がりを強める」
「守り手が覚醒していくとき、その場所を訪れていると——うまくいく、みたいな意味だと思う。正確にはわからないけど」
ネッサが言った。「どんなキャラクターなんですかね、次の子!!」
「……うるさい、と思う」ルミは言った。
「ルミが言うんですね!!」
「事実だよ」ルミは言った。「でも、悪い子じゃない。あたしは、はっきり感じてる。——いい子だよ」
「楽しみですね!!」ネッサが言った。
「楽しみ……あたしも、楽しみではある」ルミは少し間を置いた。「ただ、先輩としてちゃんとしなきゃいけない。それが、少し緊張する」
「ルミが緊張してるの、かわいいです!!」
「かわいくない!!」
「かわいいです!!」
「もう!!」
ヴィナが静かに笑った。珍しく、声を出して笑った。
全員がヴィナを見た。
「……なんだ」ヴィナは視線を戻した。
「ヴィナさんが笑った!!」ネッサが言った。
「笑ってない」
「笑ったよ!! みんな見てた!!」
「カイン、見てたか」
「……見ていました」カインが静かに言った。
「アルクは」
「見てた」
「ルミは」
「見てた」ルミは言った。「かわいかった」
「かわいくない!!」
「ヴィナさんに『かわいくない!!』って言われた!! ルミの台詞みたい!!」
「もう全員黙れ!!」
焚き火の周りで、笑いが広がった。
四 翌朝の予感
翌朝、アルクは夢を見た。
石の祭壇がある広場。その中央に、何かが眠っていた。形はまだぼんやりとしている。でも——その何かが、こちらを見た気がした。
そして、声が聞こえた。
関西弁だった。
『——おい、やっと来てくれんの? めちゃくちゃ待ったで? どんだけかかっとんねん』
目が覚めた。
ルミが枕元にいた。小鳥の姿で、じっとアルクを見ていた。
「聞こえた?」ルミが言った。
「聞こえた」アルクは言った。「……関西弁だった」
「うん」
「そういう子なのか」
「そういう子だよ」ルミは少し笑った。「言ったでしょ。うるさい子だって」
「うるさいとは思ってなかった。元気な、という意味だと思ってた」
「両方だよ」
アルクは起き上がった。窓の外、西の方角に目を向けた。丘陵の先に、さらに広い平原が続いているはずだ。
「……どんな力を持ってるんだ、あの子は」
「付与だよ」ルミははっきりと言った。「でも——アルクが今使ってる付与とは、少し違う」
「どう違う」
「アルクの付与は——与える、という性質が強い。対象を強くする。でも、次の子の付与は——もっと直接的だ。速さを与える、力を与える、それに加えて」ルミは少し間を置いた。「火力を与える、というのが一番近い。攻撃そのものを強める」
「攻撃強化の付与か」
「うん。それと——自分にもかけられる。自分にかけることが得意」
「自己強化特化か」
「そう」ルミは言った。「あの子が目覚めたら——アルクの付与と合わさって、全体強化と個別強化の両方ができるようになる。パーティとしての戦い方が、大きく変わる」
アルクは手のひらを見た。今の自分の付与は、まだ消耗が激しい。でも、確実に成長している。そこに——もう一枚、付与の力が加わる。
「楽しみだな」
「うん」ルミは言った。「でも——」
「でも?」
「あの子、かなり主張が強い。最初、ちょっと圧倒されると思うよ」
「ルミが言うなら相当だな」
「失礼だよ!!」
「事実だ」
「もう!!」
アルクは笑って立ち上がった。
付与の守り手が、西で待っている。




