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底辺から始める、《与える》だけの無双伝 ~えぇ、与えていただけですよ?でも実は……知らないうちに守られていました!!♪!!?~  作者: わっぱるぅ
第一章

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第二十話 燃える霧牙の森と、仲間の力

一 森からの声

 夜明け前、霧牙の森の方角から音が来た。

 地鳴りではない。魔物の咆哮が重なった、低い共鳴音だった。それが次第に大きくなり、森の霧が渦を巻くように動き始めた。


「……出た」ヴィナが剣を抜いた。

 森の縁から、魔物が溢れ出してきた。霧鬼。

 Cランク、Bランクが入り混じって、数十体。これまでの比ではない数だ。しかも統制が取れている。操られている。


 ヴォルタの街に向かって、一直線に進んでくる。

「街への進路を塞ぐ」ヴィナが言った。「全員、散らばらずにまとまれ」

「了解」ガドルが斧を構えた。

「後方支援します」リィナが杖を構えた。

「コレン、行ける?」ネッサがコレンに言った。コレンがぴょん、と跳ねた。

 カインは「戦闘はできませんが、情報を見ます」と言って高台に上がった。


 アルクは全員を見渡した。

「付与をかける。全員に、一度に」

「自分を信じて」リィナが言った。

「やってみる」


 アルクは目を閉じた。深く息を吸った。全員の気配を感じる。ヴィナの剣士としての集中。ガドルの揺るぎない重心。リィナの魔力の流れ。ネッサとコレンの、繋がった息。


 「強く。速く。正確に」

 光が、全員に広がった。


 ヴィナが駆けた。Bランクの魔物を三体、連続で仕留めた。いつもの倍以上の速さで。ガドルの斧が振られるたびに、Cランクが吹き飛んだ。リィナの雷撃が、複数の魔物をまとめて貫いた。コレンの炎が、群れの中を駆け抜けた。


 でも——数が多すぎた。


「まだ来る!」ネッサが叫んだ。

 森の奥から、さらに魔物が押し出されてくる。無限に出てくるような勢いだった。

「根本を断たないと終わらない」カインが高台から叫んだ。「森の中心に、魔力の源がある! そこに向かわないと!」

「でも、この数を抜けて森の中に入るのは——」ガドルが言った。


 そのとき。


 森の中から、巨大な影が出てきた。


 霧鬼の長だった。


 アルクたちが最初に出会ったあの魔物。ヴィナの目を突いて、一度は退かせた存在。しかし今回は違った。体躯が、あのときより一回り大きい。体中から青白い光が漏れている。魔力を大量に吸収して、限界を超えた状態だ。


「……また来た」ヴィナは剣を構えたまま言った。息が上がっている。すでに数十体の魔物を相手にしてきた体への負担は、付与があっても蓄積している。


「ヴィナ!」アルクが言った。「無理をするな」

「大丈夫だ」

「大丈夫じゃない。顔色が悪い」

「心配するな」


 霧鬼の長が、ヴィナを狙って踏み込んだ。あの夜と同じように、ヴィナを「最も危険な者」と判断したらしい。


 ヴィナが回避した。でも、いつもより動きが重い。疲労が蓄積している。

 二撃目が来た。ヴィナが弾いた。でも腕がしびれた。


 三撃目が来た。


二 ヴィナの決断

 三撃目を、ヴィナは受け止めきれなかった。

 弾き飛ばされた。転がって、岩壁に背をぶつけた。剣が手から離れた。


「ヴィナ!」ネッサが叫んだ。


 ヴィナは立ち上がろうとした。足が震えている。体が限界だった。

 霧鬼の長が、ゆっくりと近づいてくる。仕留める、という動きだ。


 その間、他の魔物が群がってくる。ガドルとリィナが食い止めようとするが、数が多い。アルクはネッサを守りながら付与を維持している。全員が限界に近い。


 ヴィナは、自分の首元に手をやった。


 首飾りに触れた。


 (ここで使うしかない)


 ヴィナは静かに考えた。感情ではなく、冷静な判断として。この首飾りを使えば、全員を守る結界が展開する。霧鬼の長も、他の魔物も、一時的に押しとどめられる。その隙に全員が森の中心へ向かえる。


 でも、使った者の魔力を根こそぎ持っていく。命まで、かもしれない。


 (それでいい)

 ヴィナは首飾りを握った。


 三年前の記憶が浮かんだ。仲間の顔。あの日、何かをしようとして、うまくいかなかった記憶。でも今度は——今度こそ。


「ヴィナ!」アルクの声が聞こえた。「待て!」

「待てない」ヴィナは首飾りを首から外した。「これを使えば全員が——」

「使わせない」


 アルクが、ヴィナの前に立った。


 霧鬼の長が迫っている。アルクは武器を持っていない。でも、立っていた。

「どけ、アルク」

「嫌だ」

「死ぬぞ」

「ヴィナが使ったら、ヴィナが死ぬかもしれない」

「それでいい」

「よくない」アルクは言った。振り返らずに、霧鬼の長を見ながら言った。「ヴィナの命は、ヴィナだけのものじゃない」


「……何が言いたい」

「仲間全員のものだ。俺も含めて」

 ヴィナは、息を呑んだ。


 霧鬼の長が、振り上げた。


三 融合の力

「ネッサ!」アルクが叫んだ。

「はい!」

「コレンを——全力で出してくれ!」

「でも、アルクさんはもう消耗して——」

「俺も全力を出す。同時に」


 ネッサは一瞬だけ躊躇した。それから、コレンを見た。コレンが、ぴょん、と跳ねた。


「……コレン、行くよ」

 コレンが、光を強めた。

 アルクはネッサとコレンに向けて——今まで出したことのない強さで、付与をかけた。


 「与えろ。全部」


 光が、爆発するように広がった。


 コレンの体が、三倍、五倍と大きくなった。炎の色が金から白へ変わった。体の形が変わった。狐ではなく——翼を持つ炎の獣の形へ。

 ネッサが息を呑んだ。「コレン……?」

 コレンが、ネッサを見た。黄金色の目が、静かに輝いていた。「任せて」と言っているような目だった。


 コレンが、霧鬼の長に向かって飛んだ。


 白い炎が、霧鬼の長を包んだ。


 霧鬼の長が、初めて——怯んだ。


 青白い光が、乱れた。操られていた魔力の糸が、白い炎に焼かれていく。

「今だ!」ヴィナが叫んだ。拾い直した剣を構えて、霧鬼の長の隙に踏み込んだ。


 しかし。


 霧鬼の長が、最後の力を振り絞った。コレンの炎の中から腕を伸ばして——ヴィナではなく、アルクを狙った。


 アルクは動けなかった。


 付与を全力で出している。体が、石のように重い。足が動かない。


 腕が振り下ろされる。


 その瞬間。


 アルクの周りで、光が弾けた。


 でも、今回は違う光だった。いつもの銀色ではない。金色と白が混じった、温かくて強い光だった。


 腕が、見えない壁に弾かれた。

 弾かれた衝撃で、霧鬼の長の体勢が崩れた。

 ヴィナの剣が、入った。

 深く、確かに。霧鬼の長の核心を貫いた。

 光が、散った。


 霧鬼の長が、静かに崩れ落ちた。


四 ルミの声と、覚醒の始まり

 霧鬼の長が倒れた瞬間、森の中心から轟音がした。

 魔力の源が、断ち切られた。操られていた魔物たちが、一斉に動きを止めた。そして、霧の中に消えていった。


 広場が、静かになった。


 アルクは膝をついた。今まで経験したことのない消耗だった。視界が揺れる。

「アルク!」ネッサが駆け寄った。「大丈夫ですか!!」

「……大丈夫だ。ちょっと消耗した」

「ちょっとじゃないです!! 顔が真っ白ですよ!!」

 ヴィナが剣を鞘に収めて、アルクの前に膝をついた。普段はしない動作だった。


「……馬鹿なことをした」ヴィナは言った。

「どちらが」

「あなたが」


「ヴィナが首飾りを使おうとしたから止めた」

「だからってあの位置に立つことはない」

「立てた。守り手が守ってくれると思っていたから」

「……」ヴィナは黙った。首飾りを、まだ手に持っていた。「今の光は、いつもと違った」


「そうだな」

「あの金色は——」


 そのとき。


 ルミが、アルクの肩から離れた。


 宙に浮かんだ。


 そして——形が、変わった。


 いつもより、はっきりと。白くて小さな鳥の形が、くっきりと見えた。目がある。羽がある。尻尾がある。


 それは今まで見た中で、一番はっきりとした姿だった。


 ルミが、全員を見渡した。そして——アルクを見た。


「……アルク」


 声が、前よりずっとはっきり聞こえた。


「聞こえてる」


「……すごく、頑張った」


「お前もだ」


「……うん」ルミは言った。それから、少し間を置いた。「……あのね」


「なに」


「……もう一人、起きようとしてる」


 全員が、息を呑んだ。


「……誰だ」


「……まだ、名前はわからない。でも——確かに、目を覚まそうとしてる」


 ルミが、また光を強めた。


 その光の中に——かすかに、別の色が混じり始めていた。


 赤みを帯びた、温かい色。


 その日の夜、全員がギルドの食堂に集まった。

 誰も多くは話さなかった。疲れていた。でも——悪い静けさではなかった。

 アルクは風呂敷を広げた。今夜は何も考えずに、ルミに任せた。


 現れたのは、温かいスープだった。コーンポタージュ。黄色い、甘くて滑らかなスープ。全員分。

「……きれいな色」ネッサが言った。

「あったかそう」リィナが言った。

 全員が一口飲んだ。


「……甘い」ヴィナが言った。静かな声だった。「こういうのも、あるのか」

「ある。寒い夜に飲みたくなる」

「……確かに」

 コレンが、小さな器に顔を突っ込んでいた。ルミも隣で同じようにしていた。二体が仲良く並んでいる。


「今日のコレン、すごかったですね!」ネッサが言った。目がまだ興奮している。「あんな姿、初めて見ました! 翼が生えて!」


「付与との融合で、本来の姿が引き出されたのかもしれません」リィナが手帳に書き込みながら言った。「コレンの本当の力は、まだあの上にある可能性がある」


「上!?」ネッサがコレンを見た。「コレン、もっと強くなれるの!?」


 コレンがぴょん、と跳ねた。


「すごい!!」

「お前が一番驚いてどうする」ガドルが笑った。

「だって! ずっと一緒にいたのに知らなかったんですよ!?」

「仲間って、そういうものだ」カインが言った。穏やかな声で。「一緒にいるうちに、知らなかった面が見えてくる」


 テーブルが、少しだけ温かくなった。

 ヴィナが、首飾りを机の上に置いた。全員が見た。

「……今日は、使わなかった」ヴィナは言った。「使わずに済んだ」


「そうだ」アルクは言った。

「次も、使わずに済むようにしたい」

「する」アルクは言った。「みんなで」

 ヴィナは首飾りを、また手に取った。でも今回は、ぎゅっと握るのではなく——そっと持った。少しだけ、握り方が変わっていた。


 ルミが、ぴょん、と跳ねた。


 コレンが、ぴょん、と跳ねた。


 ネッサが「なんかルミとコレン、今日すごくシンクロしてますよね!」と言った。


「そうか?」


「ね、ヴィナさん!」

「……そうだな」ヴィナは、珍しくそのままネッサの言葉に乗った。


「しかもかわいい」


 ネッサが目を丸くした。「ヴィナさんが『かわいい』って言った!! 初めて聞いた!!」


「一度言ったら二度と言わないぞ」

「言質取りました!!」

「取るな」


 ガドルが豪快に笑った。リィナが「記録します」と手帳を開いた。カインが静かに微笑んだ。


 アルクは、そのやりとりを見ながら、スープを飲んだ。

 甘くて、温かかった。

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