第一話 鑑定不能
《登場人物紹介》
◆主人公
アルク(28歳)
肩書き「鑑定不能」。早い話が、ただの荷物運び。
崖から落ちても魔物に食われかけても、なぜか毎回かすり傷ひとつない。普通は気づく。気づけ。──気づかない。
その「人に親切にするだけ」の体質、実は世界を救えるチート能力なのだが、本人は今日も「いやー運がいいなあ」で生きている。鈍感の頂点。
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◆仲間たち
ヴィナ(20歳・剣士)
銀髪クールな女騎士。三年間ひとりで旅してきた一匹狼……のはずが、最近アルクの前でだけ顔が赤い。本人は認めない。断固として認めない。一人称は「あたし」。
ネッサ(17歳・召喚師)
火の狐コレンを連れた元気娘。パーティの財布の紐を握る現実派。料理は猛特訓中。アルクへの気持ち? ……
「お、応援してるだけです!!」
カイン(30代・研究者)
冷静沈着な頭脳派。みんなが脳筋ムーブをかます中、ひとり真顔でツッコミと作戦を担当。胃が心配。
ガドル(40前後・傭兵)
強面の豪傑。必殺技を出すと未だに目が回る。そして——部屋にこっそりぬいぐるみを並べている。バレた。全員にバレた。
リィナ(17〜18歳・魔術師)
天才肌の毒舌っ子。「べ、別に心配なんてしてません、データのためです」が口癖。はい、ツンデレです。
バルガ(40前後・盾役)
無口でデカい守りの壁。「平和の味だ……」と温かい飯に涙する漢。なぜか竪琴が弾ける。そしてガドルのぬいぐるみを見て「俺も一つ欲しい」と言い出した。
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◆守り手
アルクが気づかないうちに、ずーっと彼を守ってきた、もふもふ可愛い相棒たち。
**ルミ**……白い小鳥の回復係。甘党。「照れてない!」が口癖。※誰も何も言っていない。
**二人目**……橙色に光る、やかましい相棒。アルクの“ある力”の秘密を握っているとかいないとか。スイーツへのダイブ癖だけは隠せていない。
**三人目**……銀の光となって、ひとり健気に戦い続ける守り手。その正体は、終盤まで……内緒!
**四人目**……虹色たてがみの、可愛すぎる麒麟っ子。秘めた力は「○○」。まだ喋れないのが、もどかしくも愛おしい。
**五人目**……? ……いる、らしい。正体は……今は内緒!
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◆立ちはだかる影
**黒鉄の四将**
アルクの命を狙う帝国最強の四人組。冷酷な儀式屋、魔物大好き狂気の研究者、謎の凄腕剣士、脳筋武人。
二百年がかりの壮大な陰謀で、たかが荷物運び一人を全力で消しにかかる。……そんなに怖いか、荷物運び。
一 鑑定不能
十五の春、鑑定の儀で台座が壊れた。
《ヴォルタ》の教会に設置された鑑定台は、白い石でできた台座だ。手を置いた者の魔力を読み取り、天井まで届く光の柱に職業名と数値を浮かびあがらせる。
その年は豊作だった。剣士の青い光が出て広間が沸いた。魔法使いの金色の光が続いて喝采が起きた。召喚師まで出て、これは当たり年だと神官が笑った。子供たちは順に手を置き、順に職業を授かり、順に誰かに祝福された。
アルクの番が来た。
台座に手を置いた瞬間、光の柱が白く染まった。次の瞬間、数値が走り始めた。異様に速い。上限に達した。超えた。桁が、また桁が――
台座が、ぴしりと音を立てた。亀裂が入った。
光が散って、柱に浮かんだ文字はただひとつ。
《鑑定不能》
そのとき、アルクの目に、ほんの一瞬だけ、何かが映った。
台座の亀裂から漏れた光の中に――文字の断片。見たことのない形の、この世界にはない字。読む間もなく、消えた。
「……鑑定不能、です」神官が青い顔で絞り出した。「台座が処理しきれなかった場合、まれにこのような表示に。つまり……職業の適性がない、と判断されます」
「台座にない職業、という可能性は?」
アルクは静かに聞いた。神官は困った顔で首を振った。
「この世界に存在するすべての職業は、鑑定台に登録されています。登録にないものは……存在しない、とみなされます」
広間が静まった。やがて誰かが笑った。笑いが波のように広がった。
「無能だ」「職業なし」「台座まで壊した役立たず」
アルクは、ただ立っていた。
――おかしいな、と内心で思いながら。力は、ある気がする。でも台座が示したのだ。なら自分の感覚の方が間違っているに決まっている。
前世から染みついた癖だった。自分よりも、目の前の現実を信じてしまう。
その日から十三年。二十八歳になったアルクは、《ヴォルタ》の冒険者ギルド支部「灰爪亭」で、今日も雑用をこなしていた。
二 灰爪亭
「おい無能、港の荷降ろしな! 今日は五十箱!」
灰爪亭の朝。受付台の奥から助手のタークが大声を上げる。こちらを見ずに書類を捲りながら言う。
「わかった」
アルクは静かに答えて立ち上がった。その背中に、冒険者たちの笑いが刺さる。
「あいつ今日も来てるのか」「鑑定不能のくせに」「Fランクにもなれない道具だな」
アルクは振り返らない。腹も立たない。十三年も言われ続ければ、景色になる。
受付の端で帳簿をつけていた少女が、ちらりと顔を上げた。ネッサ、十七歳。灰爪亭の事務を一手に引き受ける、この街で最も頭の回る人間だとアルクは思っている。
「アルクさん、今日は港のあと薬師ガンドさんへの配達もあります」
「南の坂下の青い扉の家だろ。何度も行ってる」
「……いつも面倒な仕事ばかりお願いして、すみません」
「気にしないで。誰かがやらなきゃいけない仕事だから」
アルクは穏やかに笑って出ていった。ネッサはその背中が扉の向こうに消えるまで、目を離せなかった。
なんで、あの人はあんなに穏やかなんだろう。笑われて、こき使われて、それでも――。
それに。ギルドに来る冒険者の中で、アルクに手当てをしてもらった者は、なぜかいつも治りが早い。先週、深手を負って戻ってきたCランクの剣士が、アルクに少し手を当ててもらっただけで翌日には動けるようになっていた。本人は「俺の回復力が高いだけだ」と笑っていたけれど。
気のせいだろうか。ネッサは首を傾けた。
三 小さな輝き
港は朝の匂いがした。潮と魚と、火を起こしたばかりの煙。
アルクは黙々と荷箱を運んだ。大人二人がかりの重さだったが、片腕で軽々と持ち上げた。
「おい、それ二人がかりで運ぶもんだぞ」と荷役の男が目を丸くした。
「力だけはあるんですよ、俺」
アルクは特に自慢でもなさそうに言って、次の箱を取りに行った。
この十三年、アルクは不思議なほど頑丈だった。怪我をしても翌朝には消えている。一度、酔った冒険者に絡まれて剣で斬りかかられたことがあった。刃がアルクの首に届く直前――何かが、きらりと光った。ほんの一瞬。星のかけらのような、小さな輝き。そして気づけば、刃は見えない何かに弾かれて、あらぬ方に飛んでいた。
冒険者は「滑った」と言った。アルクも「そうですね」と言った。
でも、あの光は何だったのだろう、と、今でも時々思う。
荷運びを終え、薬師の家へ向かう途中。西区の路地でアルクは立ち止まった。
地面に、小さな子供が座り込んでいた。七歳か八歳か。足を抱えて泣いている。転んで割れた壺の欠片が足首に刺さっていた。
アルクは迷わずしゃがんだ。
「見せて」
傷を確認する。深くはない。骨は無事。欠片を慎重に取り除いて、傷口に手を当てた。
目を閉じて、集中する。
こういうときだけ、アルクには何かが感じられた。自分の手のひらの奥に、小さな温もりがある。引き出そうとすると、うまくいかない。でも「届け」と思うと、ほんの少しだけ、光が滲む。
指先に、薄く光が灯った。
「……あったかい」
子供が泣き止んで、自分の足首を見た。傷が塞がっている。痛みも、ない。
「大丈夫。もう走れる」
アルクが立ち上がろうとすると、子供がその袖を掴んだ。
「……おじさん、なんで泣いてるの?」
アルクは自分の目元に触れて、少し驚いた。
「……そうか、泣いてるか。なんでだろうな」
子供は「バイバイ」と言って走っていった。アルクはまたひとり、路地に立った。
これが、俺の一日だ。荷運びして、配達して、たまに誰かの傷に手を当てる。うまくいくときもあれば、何も起きないときもある。対価はない。感謝されることも少ない。
なのに、なぜか満足だった。
――ただ。
心のどこかに、ずっと引っかかりがある。あの光は、何なのか。集中すると感じる、手のひらの奥の温もりは。鑑定台が壊れたとき一瞬だけ見えた、あの文字の断片は。
誰かに聞けるわけもなく。アルクは空を見上げた。夕焼けが、橙色に滲んでいた。
第二話予告
街最強の《赤牙隊》、まさかの未帰還。Aランク全滅の報にギルドは凍りつき、誰ひとり救援に手を挙げない。そんな中、荷物袋を静かに置いて立つ男がひとり――武器なし、防具なし、ランク外。「誰かが行かないと、でしょ」。アルクさん、正気か。
止める声も聞かず、彼は霧の森へ消えていく。その奥で待っていたのは、Aランク六人を屠った伝説級の異形と、折れた剣で仲間を守り立つ満身創痍の銀髪の剣士だった。
絶望的な状況の中、アルク自身も知らない“見えない力”が、静かに目を覚まそうとしていた――。
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