第百四十八話 平和の、贈り物
一 もぐ太の、子供
総攻撃を、退け——大同盟が、成って。
アステリアには——久しぶりの、穏やかな、日々が、戻っていた。
ある朝。
バルガが——血相を、変えて、駆けてきた。大盾の、タンクが。あの、無口な、バルガが。
「アルク——! 大変だ——!」バルガが、叫んだ。
「どうした、バルガ!?」アルクは、身構えた。「ヴァルガルドの、残党か!? それとも——ネブロスか!?」
「違う——!」バルガは言った。「もぐ太が——!」
「もぐ太——?」アルクは言った。バルガの、飼っている、角うさぎ。「もぐ太が、どうした!?」
「子供を——産んだ——!」バルガが、言った。感極まった、顔で。「五匹だ——! 五匹も——!」
一同が——脱力した。
「……バルガさん」ネッサが、言った。「そんなに、慌てて——うさぎの、出産、ですか」
「大事件だろう——!」バルガは言った。真剣に。「もぐ太が——母親に、なったんだぞ! こんな、めでたいことが——あるか!」
「ぷっ」ヴィナが、噴き出した。「バルガが——こんなに、取り乱すとは」
「俺は——取り乱して、いない」バルガが、言った。だが——顔は、緩みっぱなしだった。
二 もふもふの、楽園
バルガに、案内されて——一同は、谷へ、向かった。
かつて——アルクが《創生》で、角うさぎたちのために、創った、楽園の、谷。
そこは——今や。
もふもふの——天国に、なっていた。
最初に、共生させた、角うさぎたちが——すっかり、増えて。緑の、谷を、ぴょんぴょんと、跳ね回っている。
「うわあ——!」ネッサが、目を、輝かせた。「いっぱい——!」
そして——その、一角に。
もぐ太と——生まれたばかりの、五匹の、子うさぎ。小さくて。ふわふわで。よちよちと、母親に、寄り添っている。
「可愛い——!!」ネッサが、悶絶した。
「これは——確かに、めでたいな」アルクも、笑った。
ガドルが——子うさぎを、見て。
目を——潤ませていた。
「ガドル?」アルクは言った。
「……いや」ガドルが、言った。「あまりに——可愛くて。木彫りに——したくなった」
「ガドルさん——!」ネッサが、笑った。「また、木彫り!」
「だが——本物の、可愛さには。木彫りも——敵わん」ガドルが、しみじみと、言った。「これは——困った」
「何が、困るんですか——!」
三 守り手たちの、わちゃわちゃ
守り手たちも——子うさぎに、夢中だった。
キラと、シルフィが——子うさぎと、戯れている。
「わぁ——ちっちゃい!」シルフィが、はしゃいだ。「ねえ、キラ! この子——わたしと、同じくらい、ちっちゃい!」
『ほんとだ——!』キラが、言った。『ふわふわで
——気持ちいい!』
手のひらサイズの、守り手二体と。子うさぎたちが——きゃっきゃと、戯れる。もふもふの、かたまりが——転がり回る。
「収拾——つかないな」アルクは、苦笑した。
アルファも——竜化を、解いて、手のひらサイズで。
『うちも——混ぜてや!』アルファが、子うさぎの、群れに、飛び込んだ。
だが——子うさぎたちは。アルファを——温かい、何かと、思ったのか。アルファに、寄り添って——丸くなった。
『……あ』アルファが、固まった。『うち——動かれへん。子うさぎが——くっついてきよる』
「アルファ——大人気ですね」ネッサが、笑った。
『あったかいから——やろなあ』アルファが、嬉しそうに、言った。『……まあ、ええわ。しばらく——このままで』
橙色の、光に、寄り添う、子うさぎたち。なんとも——平和な、光景だった。
四 ルミの、贈り物
「アルク」ルミが——言った。「子うさぎたちに——何か、してあげたい」
「何か?」アルクは言った。
「うん」ルミは言った。「亜空間に——子うさぎたちが、喜びそうなもの。あるか——探してみる」
ルミが——亜空間に、手を、伸ばした。
『……あった』ルミが、言った。『ずっと、昔の——亜空間の、奥に、眠ってた、もの』
ルミが——取り出したのは。
淡く、光る——不思議な、草の、種だった。
「これは——?」アルクは言った。
「《永久草》の、種」ルミは言った。「一度、植えれば——枯れずに、育ち続ける、不思議な草。とても、栄養が、あって。美味しくて。——うさぎたちの、大好物に、なるはず」
「そんなものが——亜空間に」アルクは、感心した。
「あたしも——忘れてた」ルミは言った。「でも——平和な、今だから。こういう、贈り物が——できる」
アルクが——《創生》で、土を、肥やし。ルミの、種を、植えた。
すると——みるみる、うちに。緑の、草が、芽吹き、育った。淡く、光る、美しい、草。
子うさぎたちが——その草に、群がって。美味しそうに、食べ始めた。
「気に入った——みたいだな」アルクは、笑った。
「えへへ」ルミが、嬉しそうに、言った。「……照れてない、けど」
「何も、言ってないぞ」
「うう——!」
五 もぐ太の、お返し
その時。
もぐ太が——とことこと。バルガの、もとへ、歩いてきた。
そして——子うさぎを、一匹。バルガの、足元に、そっと、置いた。
「……もぐ太?」バルガが、言った。
もぐ太が——バルガを、見上げて。鼻を、ひくひく、させた。まるで——「この子を、あなたに」と、言うように。
「俺に——この子を、託すのか?」バルガが、言った。
もぐ太が——こくり、と。頷くように、鼻を、動かした。
「……」バルガが——子うさぎを、そっと、両手で、抱き上げた。あの、ごつい、タンクの、手で。壊れ物を、扱うように。
「ありがとう、もぐ太」バルガが、言った。声が——少し、震えていた。「大切に——育てる」
無口で。屈強で。いつも——皆を、守ってきた、バルガ。
その、目に——涙が、滲んでいた。
「俺は——昔」バルガが、ぽつりと、言った。「帝国の、孤児に、似た、過去を、持つ。一人で——生きてきた。家族なんて——いなかった。でも——」
バルガが——子うさぎを、見つめた。
「アステリアに、来て」バルガは言った。「仲間が、できた。もぐ太が、いて。子供まで——託された。俺にも——守るべき、小さな、命が、できた。——平和って。こういう、ことなんだな」
「バルガ——」アルクは言った。
「『平和の、味だ』」バルガが——いつもの、口癖を、つぶやいた。だが——いつもより、ずっと、温かく。「本当に——平和の、味が、する」
六 名前
「名前——つけないと、ですね!」ネッサが、言った。「バルガさんの、子うさぎ!」
「名前——」バルガが、考え込んだ。「もぐ太の、子だから——もぐ次郎」
「安直!」ヴィナが、笑った。
「では——もぐ美?」
「メスか、オスかも——わからないのに?」リィナが、冷静に、指摘した。
「むぅ」バルガが、唸った。
「バルガさんらしく——強そうな、名前は?」ガレオが、言った。「『鉄壁』とか」
「うさぎに——鉄壁?」
「平和な、名前が、いいです!」ネッサが、言った。「えーと——『もち』! お餅みたいに、ふわふわだから!」
「もち——」バルガが、子うさぎを、見た。「……いいな。もち。平和で——温かい」
こうして——子うさぎは、「もち」と、名付けられた。
残りの、四匹は——他の、仲間たちが、引き取ることに、なった。
ガドルが、一匹(さっそく木彫りのモデルにすると宣言)。ネッサが、一匹。コダマ族の、子供たちが、一匹。そして——アルクが、一匹。
「俺が——飼うのか」アルクは言った。少し、戸惑って。
「アルクさん——意外と、動物、苦手?」ネッサが、言った。
「いや」アルクは——子うさぎを、抱き上げた。子うさぎが——アルクの、手の中で、丸くなった。「……可愛いな」
「ふふ」ネッサが、笑った。「アルクさんも、メロメロです」
七 穏やかな、午後
谷で——みんなで、過ごした、午後。
子うさぎたちと、戯れ。永久草の、世話を、し。守り手たちと、わちゃわちゃと。
ヴィナが——アルクの、隣に、座った。アルクの、抱く、子うさぎを、見て。
「お前——子うさぎ、抱いてると」ヴィナが、言った。「なんか——お父さんみたいだな」
「お父さん?」アルクは言った。
「ああ」ヴィナが、言った。少し、頬を、染めて。
「優しくて——大切に、抱いてて。——いい、お父さんに、なりそうだ」
「ヴィナさん——!?」ネッサが、反対側から、身を、乗り出した。「それ——どういう、意味ですか!?」
「ど、どういう、意味も——!」ヴィナが、慌てた。
「ただ——子うさぎを、抱く、姿が。優しいって——言っただけだ!」
「お父さんって——言いました!」ネッサが、言った。「それって——つまり——!」
「言ってない——! いや、言ったが——! そういう、意味じゃ——!」ヴィナが、真っ赤に、なった。
「ふふ」アルクは——子うさぎを、抱いたまま、笑った。「二人とも——相変わらず、仲が、いいな」
「「仲良くない——!」」二人が、同時に、言った。
子うさぎが——驚いて、ぴょこんと、跳ねた。
「あ——ごめん」二人が、慌てて、子うさぎを、なだめた。
穏やかな——午後の、陽射し。
もふもふの、谷で。
仲間たちと、守り手と、子うさぎたちと。
笑い声が——絶えなかった。
「平和——だな」アルクは、つぶやいた。
「ああ」ヴィナが、言った。
「ずっと——こんな日が、続けば、いいですね」ネッサが、言った。
「続けるさ」アルクは言った。「俺たちが——守る。この、平和を。みんなで」
大同盟が、成り。
国は、豊かに。同盟は、強く。
そして——こんな、ほっこりした、日常が。
アステリアには——満ちていた。
地底の、古き王の、影は——まだ、遠く。
今は——ただ。
この、温かい、平和を。
みんなで——噛みしめていた。




