第十四話 遺跡への道と、パーティの始まり
一 朝のギルドと、ガドルの提案
翌朝、灰爪亭にガドルとリィナが来た。
昨日と同じように依頼の確認をして、同じように帰ろうとしたとき——ガドルが、カウンターのアルクに声をかけた。
「昨日の遺跡の件、俺たちも同行していいか」
アルクは顔を上げた。「なぜ」
「面白そうだから」ガドルはあっさりと言った。「俺は長い間、依頼をこなすだけの生活をしていた。これというものに出会えずにな。でも昨日、お前の付与を受けて——久しぶりに、何かに向かって動いている気がした」
リィナが横で腕を組んだ。「私は、賦活師と召喚師の融合技に興味があります。研究的な意味で。一度しか見ていないので、もっとデータが欲しい」
ネッサがやや複雑な顔をした。「コレンは実験台じゃないんですが……」
「もちろん。コレンの同意があってこそです」リィナはコレンを見た。「コレン、いいですか」
コレンがぴょん、と跳ねた。
「ほら」
「こういうところが油断ならない」ネッサが言った。でも、嫌いじゃなさそうな顔だった。
アルクはガドルとリィナを見た。それからヴィナを見た。ヴィナは壁際で腕を組んでいたが、少しだけ頷いた。
「ただ、言っておくが」アルクは言った。「俺たちは正式なパーティを組んでいるわけじゃない。ヴィナとは一緒に動いているが——組織だった話は何もしていない。お互いに、縛るつもりもない」
「知ってる」ガドルは言った。「だから『同行させてくれ』と言っている。命令されたいわけでも、縛られたいわけでもない。ただ、一緒に動きたい」
「リィナも同じ気持ちです」リィナは言った。「正式な契約より、気が合う仲間の方が長続きする。私はそう思っています」
カインが、椅子から静かに言った。「私も——できれば、一緒に動かせてもらえますか。父のことを調べたいという理由もありますが……昨日、あなたたちに助けてもらって。一人で動くより、一緒にいたいと思いました」
全員の視線が、アルクに集まった。
アルクはしばらく黙っていた。
十三年間、一人で荷運びをしていた。誰かと組んだこともない。パーティというものを、考えたこともなかった。でも——今、ここにいる人たちを見ていると。
「……わかった」アルクは言った。「一緒に動こう。ただし、無理はしない。危なくなったら逃げる。それだけ約束してくれ」
「合点だ」ガドルが言った。
「了解です」リィナが言った。
「はい」ネッサが言った。コレンがぴょん、と跳ねた。
「わかった」カインが言った。
ヴィナは何も言わなかった。ただ、口の端を少し上げた。
それが、始まりだった。
正式な名前も、契約書も、印もない。でも、そのとき確かに——六人と二体の、最初の《仮》のパーティが生まれた。
二 遺跡へ
カインが地図を広げた。霧牙の森の中心から少し外れた場所に、小さな印がある。
「ここです。地下に入り口があって、石造りの小部屋がいくつか続いています。中に文字の刻まれた石板がありました——捕まる前に、一つだけ読んだ」
「何が書いてあった」アルクは言った。
「賦活師の誓いの言葉、でした。『我は与える者なり。力を持つ者が持たぬ者に与え、傷を負った者を癒し、倒れた者を立たせる。これが我らの道なり』と」
テーブルが静かになった。
アルクは自分の手のひらを見た。与える者。十三年間、荷運びをしながら、困った人を見つけたら手を伸ばしてきた。それが自分の中の当たり前だった。でもそれは——二百年前に消えた人たちも、同じ言葉を胸に持っていたのかもしれない。
「行こう」アルクは言った。
三 遺跡の中で
森の中を進むこと一時間。カインが示した場所に、苔むした石の扉があった。重い扉を、ガドルが力任せに押し開けた。
中は暗かった。リィナが杖先に光を灯す。石の通路が続いている。
「……ここに、賦活師がいたのか」ネッサが小声で言った。
「二百年前には」カインが言った。「今は廃墟です」
進んでいくと、石板が並んだ小部屋に出た。壁一面に文字が刻まれている。リィナが灯りを近づけた。
「読めるか」アルクはカインに聞いた。
「少し。古い言語ですが——」カインは石板を見た。「……これは、記録です。賦活師たちが残した記録。人を癒した記録、強化した記録、守った記録……そして」
カインの声が、少し止まった。
「どうした」
「……最後のページに相当する部分です。『我らはやがて消えるだろう。力を恐れた者たちによって。だが必ず、次の時代に賦活師は現れる。女神の加護は、一度消えることなく続く。次に現れる者よ——恐れるな。お前は一人ではない』」
誰も、しばらく何も言わなかった。
ルミが、アルクの肩でふわりと揺れた。その光が、石板の文字を照らした。
アルクは石板に手を当てた。冷たい石の感触。でも——触れた瞬間、何かが伝わってくる気がした。二百年前に同じ場所に立った人たちの、かすかな残滓のような。
「……女神の加護」アルクは呟いた。
「賦活師は、女神に選ばれた者だ、という記録が父の文献にもありました」カインは静かに言った。「だから女神が、この世界に必要だと判断したときにだけにしか現れない」
「必要なとき」
「はい。この世界が——何か大きな危機に直面しているとき、賦活師は現れる。そういう伝承が残っています」
アルクはルミを見た。ルミが、ふわりと揺れた。
「今度こそ」と言っていた、あの声。
今度こそ。前回は消えてしまったから、今度こそ。そしてこの世界に、また何かが迫っているから。
「……わかった気がする」アルクは言った。「なぜ俺がここにいるのか」
ヴィナが隣に立った。「答えが出たか」
「出たというより——出発点がわかった」アルクは言った。「俺がここにいる理由は、まだ全部はわからない。でも、誰かが消えてほしくないと思って、ここへ送った。それだけは確かだ」
「女神様が……」ネッサが静かに言った。
「そうかもしれない。それとも——単純に、俺が向いているだけかもしれない。どちらでもいい」アルクは石板から手を離した。「向いているなら、やる。それだけだ」
ガドルが腕を組んだ。「……単純な男だな」
「そうか?」
「褒めてる」
リィナが石板の写しを取り始めた。「後で分析します。父上に送ることもできそうですね、カインさん」
「ありがとうございます」
一通り確認を終えて、全員が遺跡を出た。
外の空気が、少し冷たくなっていた。日が傾いている。
ヴォルタへの帰り道、ネッサがアルクの隣に並んだ。
「あの……アルクさん」
「なに」
「さっきの石板の言葉——『お前は一人ではない』って言葉、なんか、胸に来ました」
「そうだな」
「……私も、一緒にいますから。役に立てるかどうかわかりませんけど」
「役に立ってる」アルクは言った。「今回だって、コレンがいなかったら救出はもっと難しかった」
「そう……ですか」ネッサは少し嬉しそうに俯いた。「じゃあ、これからも、一緒に」
「ああ」
ネッサが顔を上げた。その目が、夕日を受けて少し輝いていた。
少し後ろを歩いていたヴィナが、二人のやりとりを見ていた。何も言わなかった。ただ、前を向いて歩き続けた。
ガドルがヴィナの隣に並んだ。「……ヴィナ」
「なんだ」
「いい仲間ができたな」
「……そうだな」ヴィナは静かに言った。「悪くない」
ルミが、アルクの肩でぴょん、と跳ねた。コレンも、ネッサの肩でぴょん、と跳ねた。
二体のぴょこんが、夕暮れの道に重なった。




