第十二話 コレンと、賦活師の融合の予感
一 コレンという召喚獣
ネッサは荷物の中から、一枚の召喚札を取り出した。光が広がった。ネッサの前に、小さな炎の獣が現れた。
狐の形をした、手のひら大の火の召喚獣。体は炎でできているはずなのに、触れても熱くない。橙色と赤の炎が毛並みのように揺れていて、目は黄金色に光っている。尻尾が一本、ふさふさと揺れていた。
「コレン。火の属性を持つ召喚獣です。……弱いですけど」
コレンは、アルクを見て——ルミを見た瞬間に、ぴょこん、と跳ねた。全員が、その動きを見た。
「この子はルミ……守り手だ」アレンが言った。
「ルミとコレン。同じ動き方だ」ガドルが言った。
ルミが、ネッサとコレンを見ていた。ネッサとコレンもルミを見ていた。しばらく見つめ合った後、コレンがルミに向かって近づいた。ルミが少し後ずさって——それからコレンの鼻先を受け入れた。挨拶だ。
「仲良くなってる」ネッサが言った。
ネッサが申し訳なさそうに言った。「召喚できるのが今はこの子だけで、弱くて——」
「弱くはないと思う」アルクはコレンを見た。「ネッサ、コレンに付与をかけたら、どうなると思う?」
「え?」
「ヴィナやガドルに付与をかけると能力が上がった。コレンに付与をかけたら——」
「そんなこと、考えたことなかった。」
「やってみよう」
「今から!?」
「今から」
ヴィナがため息をついた。「……相変わらず、動くのが早い男だ」
二 初めての融合の予感
アルクはコレンの前にしゃがんだ。コレンがアルクを見上げた。怖がっていない。むしろ、興味深そうだ。
「コレン、少しだけ力を貸してくれ」
コレンがぴょこん、と跳ねた。「わかった」というように。
アルクは手のひらをコレンに向けた。「強くなれ」と思った。ただそれだけ。
次の瞬間、コレンの体から出る炎が、大きくなった。
全員が息を呑んだ。
「コレン?」ネッサが声を震わせた。「体が大きくなってる……いつもの三倍くらい」
コレンは、今や猫ほどの大きさになっていた。炎の密度が上がり、色が深くなった。橙色から、より深い金色へ。
「コレン自身は落ち着いてます」ネッサは驚いた顔でコレンを見た。「いつもなら限界以上の力を出そうとすると制御を失うんですが……今は、ちゃんと私の命令を聞いてる」
「付与は、力を増やすだけじゃないのかもしれない」アルクは言った。「制御を助ける何かもある気がする」
「付与の力が、召喚獣の限界を拡張している」リィナが静かに言った。「——記録の上ではそういう技があったはずですが、現存する術師がいないから確認されていなかった」
「でも今、目の前で起きてる」ガドルが言った。
ネッサがアルクを見た。目が潤んでいた。「……ずっと、コレンが弱いのを申し訳ないと思ってた。でも——こんなに強くなれるなら」
「今はまだ試験段階だ」アルクは言った。「でも、可能性はある」
「……はい」ネッサは頷いた。それから、背筋を伸ばした。「やります。コレン、行けるか」
コレンがぴょん、と跳ねた。
三 救出戦
コレンが駆けた。強化された炎の狐が広場の中央へ突進する。
魔物たちが反応した——その瞬間を、ヴィナが見逃さなかった。
「今だ!」
ヴィナが左から踏み込む。アルクが付与をかける。ヴィナの速度が上がる。Bランクの魔物が反応しきれずに斬られた。
ガドルが右から動く。付与の力で斧の軌道が鋭くなる。Cランク二体が同時に吹き飛んだ。
「これは楽しくなってきた!」ガドルが叫んだ。
「楽しむな!」ヴィナが叫んだ。
「楽しんだ方が強いんだ俺は!」
リィナの雷が横から来た魔物を弾き、雷撃が走った。Cランク魔物が痺れて倒れた。
「リィナも楽しめ!」ガドルが言った。
「少しだけですよ」
コレンが炎を吐きながら魔物の注意を引きつけていた。強化されたコレンの炎は、Cランク魔物に有効なダメージを与えていた。
五分ほどで魔物の数が大幅に減った。残り三体をガドルとヴィナが処理し、コレンが最後の一体を仕留めた。
アルクは中央の人物に駆け寄った。銀色の鎖に手を当てる。「届け」と思った。光が鎖を包んだ。鎖の魔力が薄れていき、やがて地面に落ちた。
男が崩れ落ちた。アルクが受け止める。三十代半ば、やせ細っている。回復の力を送り込んだ。呼吸が、少しずつ安定していく。
「……助かったのか」男がかすかに目を開けた。「お前たちは……賦活師?」
アルクは驚いた。「なぜ、それを」
「お前の光が……俺が知っている光と、同じだから」男はまた目を閉じた。「……話が、したい。目が覚めたら」
それだけ言って、男は気を失った。
四 帰り道のわちゃわちゃ
森を出る帰り道、ヴィナとネッサが並んで歩いた。
後でリィナが教えてくれた内容によると——
「ヴィナさんがネッサさんに言ったんです。『さっきの、よかったぞ』って」
「そうか」
「ネッサさんが嬉しそうにしてたら、ヴィナさんが『ただし次は勝手に来るな。死ぬ前に死ぬ』って言って」
「……そういう言い方なんだな」
「ネッサさんは笑ってました。『ヴィナさんって、素直じゃないですね』って言ったら、ヴィナさんが耳を赤くしてた」
アルクは笑った。
「アルクさんは笑うんですね」リィナが言った。
「そういう話は笑う」
「ヴィナさんのこと、どう思ってますか」
「……仲間だ」
「それだけですか」
「それだけだ」
「鈍いですね」
「ルミにも言われた」
「守り手にまで言われるなら、本当に鈍い」
ルミがぴょん、と跳ねた。同意しているらしい。
ガドルが振り返らずに言った。「俺も同意するぞ」
「お前まで」
「コレンも同意してる気がする」ネッサが後ろから言った。
コレンがぴょん、と跳ねた。
「全員か」アルクは空を見上げた。「……多勢に無勢だな」
誰かが笑い出した。それが伝染して、全員が笑った。男を担ぎながら、森の出口へ向かって、五人と二体が歩いていった。




