第十一話 新たな仲間と、ネッサの秘密
一 見知らぬ旅人たち
翌朝、灰爪亭の扉が開いた。
アルクはカウンター横の椅子に座って、昨夜の付与の感覚を手帳に書き留めていた。どれくらいの集中でどれくらい相手が強化されるか。消耗の度合いと持続時間の関係。まだわからないことだらけだが、書き留めておくことで少しずつ掴めてくる気がした。
扉が開いた音に顔を上げて、アルクは足を止めた。
入ってきたのは二人だった。
一人目は大柄な男だ。身長は二メートル近く、肩幅がとにかく広い。背中に巨大な両手斧を背負い、首に獣の牙のネックレスをしている。年は三十前後か。顔立ちは粗削りだが、目に知性がある。傭兵か、元騎士のような佇まいだ。
二人目は小柄だった。フードを目深に被っており、顔がよく見えない。体格から十代後半か。背負っている荷物が大きく、旅慣れた様子がある。歩き方が静かで、足音がほとんどしない。
大柄な男がギルド内を見渡し、アルクと目が合った。
「冒険者の依頼があると聞いた」男は言った。声が低く、よく通る。「俺たちに、やらせてくれないか」
タークが受付から顔を出した。「依頼はあるが……お前たち、このギルドの登録は」
「ない。だが腕はある」男は静かに言った。「証明する機会を与えてほしい」
タークは値踏みするように二人を見た。それからアルクを見た。
「俺は何も言える立場じゃないが」アルクは言った。「今すぐ動ける人手が必要なのは確かだ」
男がアルクを見た。「お前が、昨日の怪我人を治した鑑定不能の男か」
「そうだが」
「俺はガドル。Aランク相当の傭兵だ」
フードの人物がひょい、と顔を上げた。フードの陰から覗く顔は予想より幼かった。十七、八歳か。目が大きくて、少し不服そうな顔をしている。
「あたしはリィナ。魔術師。ガドルのお目付け役」
「お目付け役とは失礼な」
「事実でしょ」
二人が軽く言い合った。ヴィナがカウンター横で腕を組みながら言った。「……息が合ってるのか合ってないのか、わからない二人だな」
「長い付き合いだからな」ガドルは苦笑した。
ルミがぴょん、と跳ねた。嬉しそうだった。
二 森の調査
その日の午後、四人で霧牙の森に向かった。アルク、ヴィナ、ガドル、リィナの四人だ。
森の入口でリィナが杖を取り出した。細い木製の杖で、先端に青い石がついている。
「今回の目的は調査です」リィナは言った。「魔物の巣の場所の特定と、操っている者がいるなら、その確認。戦闘は最小限に」
「あなたは魔術師なのか。どの系統だ」ヴィナが聞いた。
「雷。近接は苦手です」
「後方で頼む」
「頼りにしてもらえる分には構いませんが、過信しないでください。まだ修行中なので」
「謙虚なのか強がりなのかわからない」
「両方です」
ガドルが前を歩きながら言った。「リィナは強いぞ。ただ、本気を出すと周囲が巻き込まれる」
「ガドル、余計なことを言わないで」
「事実だ」
アルクはルミに小声で言った。「……にぎやかになってきたな」
ルミがぴょん、と跳ねた。嬉しそうだった。
森に入ると、すぐに空気が変わった。霧が濃い。魔力を帯びた霧だ。
「……魔力反応があります」リィナが杖を構えた。「前方五十メートルほど先に複数体。ただ——行動パターンがおかしい。通常の魔物は分散するはずなのに、群れとして統制が取れている」
「操られてる証拠だ」ヴィナが言った。
そのとき。霧の中から、低い唸り声が一斉に上がった。魔物が、こちらの位置を把握した。
三 チームの息合わせ
五体の魔物が現れた。Cランクが四体、Bランクの大型が一体。包囲するように動いている。
「散らばるな。固まって動く」ヴィナが即座に言った。
ガドルが斧を抜いた。「左の二体はもらう」
「右はあたしが」ヴィナが踏み込んだ。
リィナの杖から風刃が走り、ガドルに向かっていた魔物を横から弾いた。ガドルが弾かれた魔物に斧を叩き込む。一撃。
アルクは後方から全員を視野に入れた。ヴィナに付与をかける。「速く」と思う。ヴィナの動きが一段上がり、右の二体を次々と仕留めた。
ガドルにも付与をかける。「力強く」と思う。斧の一振りが、Bランクの大型魔物を正面から押した。
「……なんだ、これ」ガドルが振り返った。「急に力が倍になった気がするんだが」
「気にするな、続けてくれ」
「気になるが、続ける!」
五分もかからず、五体が片付いた。
ガドルがアルクを振り返った。「……付与をかけたのか。限界が消えた感じがした」
「少しだけです」
「少しどころじゃなかった」リィナが言った。「雷の制御がいつもより精密でした。……無意識にあたしにもかけてましたか」
「そうかもしれない」
ヴィナが呆れたような顔をした。「いつの間に無意識でできるようになったんだ」
「わからない」
「鈍い」ルミがかすかな声で言った。
「お前まで言うか」
ガドルとリィナが顔を見合わせた。「今、何かしゃべったか?」
「ルミだ。俺の守り手みたいなものだ」
ルミがふわりと浮いて、リィナの目の前に出てきた。ぴょこん、と跳ねた。
リィナが固まった。「……なにこれ、かわいい」
ガドルが唸った。「小さいな。豆粒みたいだ」
ルミがガドルに向かってぴょん、と跳ねた。怒ったように。
「すまない、かわいいな」ガドルが苦笑した。
ぴょん。それでいい、という感じ。
リィナが笑い出した。「初めて見た。後でもっと詳しく聞かせてください」
「構わない」
「行くぞ」ヴィナが先頭に立って歩き始めた。「立ち止まるな」
四 巣の発見とネッサの告白
森の奥で、開けた場所に出たとき、全員が息を呑んだ。
巨大な円形の広場に、銀色の鎖に縛られた人物がいた。宙に浮かされ、意識がない。体から青白い光が漏れ出して、周囲の魔物たちの目を光らせていた。
「魔力を吸われてる」リィナが低く言った。「あの人の魔力を抜き取って、魔物に与えている。……それに、操られているのは魔物だけじゃなく、あの人自身も何かに強制されている気がします」
広場の周囲に、十体以上の魔物が待機していた。Bランクが複数、Cランクが群れている。
「数が多い」ガドルが言った。「全部相手にしながら助けるのは——」
「できます」
後ろから声がした。
ネッサが立っていた。息を切らして、でも目が据わっていた。
「ネッサ!?」アルクが言った。「なんでここに」
「タークさんが止めるのを振り切ってきました。みんながどこにいるか、わかったんです。この感じ、ずっと前からあったんですけど……来てみたら、本当にここに」
「どういうことだ」ヴィナが言った。
「あの——私」ネッサは小さく息を吸った。「召喚師なんです」




