第53話 欺き、欺かれ、決闘の衝撃!
――『前門の虎、後門の狼』。
一つの災いを逃れても、すぐに別の災厄が立ち塞がる。今の俺は、まさにその袋小路にいた。
ジンとラミィの協力を得て、クロンダイクの悪行を暴いたまでは良かった。だが、周囲を囲むのは殺意に満ちた戦闘盗賊集団と、無機質な魔導兵器の銃口だ。下手な動きをすれば、一瞬で塵にされるだろう。
「…………」
「どうした? その物騒な機械で、俺を細切れにするんじゃなかったのか?」
筋書き通りなら、クロンダイクは真っ先に魔導兵器『デッドエンド』で俺を始末するはずだ。だが、この男は慎重だった。指一つ動かさず、俺を射抜くような視線で問いかける。
「……テメェ、何者だ? 騎士の援護もなしに丸腰で乗り込んでくるとは。何を企んでいる」
「さあな。それを見抜く知恵があるかどうか、お前のオツムに任せるぜ。それとも、ハッタリすら見抜けないほど焼きが回ったか?」
俺はポーカーフェイスを貫き、クロンダイクを煽る。血の気の多い奴なら、これで冷静さを失うはずだが……。
「……フン、バカはテメェだ。召喚士に従う騎士どもが、既にアジト内に潜んでいることくらいお見通しなんだよ」
(……チッ、流石に頭領を張っているだけはあるか)
この男、想像以上に切れる。
「ここは俺様の縄張りだ。テメェは俺様の言う通りに動けばいい。さもなくば……」
「特急券付きであの世行き、だろ? それで、頭領様は何がお望みなんだ?」
「簡単な話だ。俺様はテメェが従えている騎士に用がある。王国の脅威は早いうちに摘み取っておかねばならんからな。――さあ、早く騎士を呼べ。そして俺様と戦え!」
「気が合うな、クロンダイク。俺もお前と同じことを考えてた。早いうちに、お前を叩き潰しておくのが利口だってな!」
俺はカードデッキから、『スペード2』『スペード7』『スペード8』の3枚を抜き放った。
「ニーナ! シチリア先生! ハチマル殿! こいつらを成敗してやれ!」
刹那、アジトの四方から三人の騎士が躍り出た。
「待ってたぜ、ニーナ! こいつらをボコボコのグチャグチャにしてやれー!」
歓喜の声を上げるラミィと、対照的に無言で武器を構えるジン。仲間の想いを背負い、スート騎士たちが地を蹴る。
「怯むな、全員掛かれッ!」
行動隊長のページワンが怒号を飛ばす。
ジンとラミィを拘束する数名を除き、残りのシャッテンたちが一斉に襲いかかった。ニーナのレイピアが閃き、シチリアのナイフが舞い、ハチマルの長刀が空を裂く。
戦闘のプロを相手に互角以上の立ち回りを見せる三人。だが、彼女たちの背後では、不気味な魔導兵器がその銃口を赤く光らせていた。
「馬鹿め、自慢の魔導兵器を忘れたか! ロックオンだ、デッドエンド!!」
クロンダイクが手元の端末を操作する。レーダーアイが非情にも三人の姿を捉えた。
「はっ、まずい! みんな逃げろ――!」
「遅い! レーザー照射!!」
ボタンが押し込まれた瞬間。
デッドエンドから放たれた白光の熱線が、三人の騎士の胴体を無残に貫通した。
「―――ッ!!!」
光に焼かれ、崩れ落ちるニーナの姿。それを目の当たりにしたラミィが絶叫した。
「いやあああああああ!!! ニーナああああああああ!!!」
絶望に狂乱するラミィを、ジンとシャッテンたちが必死に取り押さえる。……その時だった。
『ラミィ、泣かないで。私ならここよ』
「――え?」
自分を背後から羽交い締めにしているシャッテンの口から、聞き覚えのある凛とした声が響いた。
恐る恐る仮面の奥の瞳を覗き込んだラミィの顔に、衝撃が走る。
「ハハハハハ! 見たか、デッドエンドの威力を! テメェの騎士なんざ、紙屑も同然だ!」
一方で、勝利を確信したクロンダイクが勝ち誇った声を上げる。
「――紙屑? そりゃそうだろ。紙切れ相手に全力でレーザーを撃ち込むバカがどこにいる?」
「…………何だと?」
クロンダイクが眉をひそめる。
改めて、デッドエンドが仕留めたはずの「骸」を確認すると――そこには、人間どころか肉片一つ落ちていなかった。転がっていたのは、焦げ付いた三枚の大きな「トランプ」だ。
「これは…………偽物!?」
「気に入ってくれたか? 俺のトランプ手品。お前らと鉢合わせる前に仕込んでおいた『身代わり人形』だ」
俺が指先で弄んだのは【ハート7】のカード。
物質を対象に、スート騎士の姿と能力を一時的に写し取る身代わり魔法『サクリファイス』。先ほど俺が「抜き放った」のは、この魔法を発動させるための合図に過ぎない。
「クソがっ! 本物はどこだ!? さもなきゃテメェの首を今すぐ――」
――キィンッ!!
鋭い金属音と共に、クロンダイクが持っていたリモコンが弾き飛ばされた。
「そんなこと、私たちがさせません!」
レイピアを突き出したのは、先ほどまでラミィを拘束していたはずのシャッテンだ。
「だ、誰だ貴様……!!」
狼狽える盗賊たちの前で、黒装束が鮮やかに翻る。現れたのは、紅蓮の鎧と黄金のツインテール。
「私は――スート騎士団スペード2、女剣士ニーナ!」
真打ちの登場に、アジトの空気が一変した。
ラミィはニーナに抱きついて嬉し泣きし、ジンを囲んでいた他のシャッテン二人もその正体を現す。
「同じく、スペード7の舞踊騎士・シチリア!」
「スペード8の剣豪騎士・ハチマル、推参!」
三人は、ジンたちがアジトへ向かう前から既に潜入していたのだ。
姿を変える魔法【クローバー7―イリュージョン―】で敵の構成員に化け、逆転の機会をじっと待っていた。
俺は混乱に乗じてニーナたちの側へ飛び込み、不敵に笑う。
「化かし合いは、俺たちの勝ちだな。クロンダイク!」
後はシャッテンと、デッドエンドを倒して、クロンダイクに降伏させるのみ。
(ククククク……!!)
しかしクロンダイクは、俺たちに鋭い目を向けながら、不気味に笑みを浮かべるのだった。




