第52話 対峙・召喚士VSクロンダイク
――盗賊ギルドの頭領・クロンダイクが、ジン・ラミィのメルド兄妹に衝撃の発言をする15分前。
俺はポーキーやニーナたちスート騎士を頼らず、たった一人で盗賊ギルドのアジトに通ずる砂漠の地下水脈を辿っていた。
アジトを北側とするなら、俺が向かったのは南側の別ルート。幸いにも奴らの同胞である『シャッテン』たちは兄妹への対応に手一杯で、こちらへの警戒は薄い。留守を狙った単独行動だ。
クロンダイクの目的が二人の再スカウトであることは、俺も彼らも見抜いていた。だが、出撃前にジンが漏らした言葉がどうしても引っ掛かっていたんだ。
『――クロンダイクの行動から見て、間違いなく私たちを抱き込み、勢力を拡大しようとしている。だとすれば、奴には後ろ盾となる存在がどこかにあるはずだ』
プレジデント王国の暴挙が始まった途端に解散した盗賊ギルド。その不自然な消滅と、このタイミングでの頭領の復活。裏に何かあると睨んだ俺は、メルド兄妹と別行動を取り、アジトの深部へと潜入した。
「……とは言ったものの、暗いしジメジメするし、ロクな手掛かりがねぇな。ジンたちは大丈夫か?」
カンテラ一つを頼りに、地味な探索にボヤき始めたその時だ。
地下水脈の暗がりに、細い脇道を見つけた。奥を照らすと行き止まりに見えたが、岩壁には奇妙な文字が刻まれていた。直線的で角ばった、独特の形状。俺はこの文字を前世で見たことがある。
(こいつは……ルーン文字か!)
一世紀頃からゲルマン民族の間で「秘密」「神秘」を意味してきた古代文字。異世界で再会するとは思わなかったが、肝心の解読が俺にはできない。まさかこの先に、何かが封印されているのか……?
その時、懐のカードデッキが淡く光り始めた。ジンに預けておいた『クローバー2』が、反応したな。
かつてシルヴィーとの遠隔通信に使ったこのカードは、熟練すれば仲間との通信機代わりになる。俺はあらかじめ、ジンにこのカードを預けておいたのだ。
『ふざけるな! 欲望を満たすためだけに暴を振るうなど、あの腐敗した王国と何ら変わりない!』
カードから響いたのは、ジンの激昂する声だった。
(始まったか。さて、お喋りな頭領からどんな秘密が飛び出すか……)
俺は通信に耳を澄ませる。そして、クロンダイクが盗賊ギルドを復活させた真の理由が明らかになった。
『王国が民から搾り取った税を、俺がさらに搾り取る! 従わぬ者は消すのみだ。俺様はプレジデント王国公認の盗賊ギルドを作り上げたんだよ!』
「やっぱり、そうだったか……!」
クロンダイクは私欲のために、憎き王国の犬に成り下がっていた。奴を叩き潰す理由はこれで十分だが、強欲な頭領はさらに「報酬」となる情報を垂れ流してくれた。
『ジン、ラミィ。お前らには早速やってもらいたいことがある。……ルーン文字の解読だ。この砂漠の地下に隠された、封印の扉にな!』
「――っ!」
俺は思わずカードを耳に押し当てる。
『そんなことをさせて、良からぬものでも呼び出す魂胆かい!?』
『……ったく、察しが良すぎるんだよこの粗暴妹がぁ!』
ラミィの指摘に、クロンダイクが狂ったように声を張り上げる。
『この砂漠に長らく封印されていた魔導兵器を蘇らせる。そのためにお前らには、死ぬ気で文字を解読してもらうぜ!』
――これで全て、繋がった。
♤
『――全部聞かせてもらったぜ。お前らの薄汚い企みはな!』
ジンの胸元のカードから響いた俺の声に、クロンダイクが狼狽える。
「な、誰だ!? どこにいる!」
(じ、ジョー! 声を出して大丈夫なのか?)
焦るジンの問いかけに、俺は不敵に笑って答えた。
『大丈夫だジン。そこの頭領がベラベラ喋ってくれたおかげで、全て把握した!』
「その声、あの召喚士か! 貴様、どこに隠れている!?」
クロンダイクがジンの胸ぐらを掴み、周囲を怒鳴り散らす。リクエストにお応えして、俺の居場所を教えてやるとしよう。
『俺が今いる場所は――』
ドカッッッッ!!
「お前の真後ろだ、この欲張り野郎ッッッ!!」
地下水脈の突き当たりは、偶然にもクロンダイクの部屋の玉座裏へと繋がっていた。隠し扉を蹴破って飛び出した俺は、ふんぞり返っていた奴を玉座ごとドロップキックで叩き落とす!
「飯も女も金も持ってるくせに、その上魔導兵器まで欲しがるだと? 『欲張り』は、栄光を渇望するギャンブラーにとって最大の禁忌なんだよ、クソが!」
博徒として、この男の不条理な強欲さには虫酸が走る。
「お前なんかにジンとラミィを渡してたまるか。こいつらは、俺たちの仲間だ!」
「ジョー……!」
二人の目頭が熱く潤むのが分かった。だが、状況は甘くない。
「ククク……ハハハハ!」
玉座の下敷きになりながら、クロンダイクが不気味に笑い始めた。
「何がおかしい!」
「わざわざ来てくれて感謝するぜ。おかげで手間が省けた……!」
クロンダイクが手元の赤いスイッチを押し込む。
ギュイイイイイイイイッッッ!
鼓膜を突き刺すような機械音が部屋に鳴り響いた。
高速回転するドリル、唸りを上げるチェーンソー、そして標的を逃さない赤いレーダーアイ。
殺戮のために異世界の技術を結集させた数十体の兵器が、壁の格納庫から這い出し、俺を包囲する。
「これぞプレジデント王国の財力が生んだ最先端魔導兵器『デッドエンド』だ! 召喚士ごと、細切れにしてやれッ!」
赤いレーダーアイが俺に集中し、ロックオンを完了する。
手元にスート騎士はいない。あるのは、切り札を秘めたトランプカードのみ。
――さぁ、この窮地。どう乗り越えてやろうかな……!




