第51話 メルド兄妹VSクロンダイク・危険な真実
――再び、砂漠地帯に夜がやってくる。
舞台は砂丘の奥に隠された、ゴーストタウンと化した貧民街。
ここに、盗賊ギルドの頭領『クロンダイク』が、俺たちを待ち構えている。
静まり返った廃墟に、二つの影が侵入した。
「…………兄者」
「分かっている。客人のお出迎えという訳だ」
ジンとラミィのメルド兄妹だ。彼らはスート騎士である俺やニーナたちに助けを求めず、たった二人で敵地へ乗り込んだ。
――何故、彼らは独断で仇討ちに向かったのか。その理由はまだ、伏せておこう。
二人が携えているのは、使い古されたジャックナイフと一輪の薔薇のみ。
重武装の盗賊団を相手に、最低限の装備で立ち向かうのは自殺行為に等しい。
不意に、建物の影や地下道、礼拝堂の扉から、音もなく黒ずくめの男たちが現れた。
黒の鎧に銀の鉤爪。クロンダイク直属の戦闘盗賊軍『シャッテン』だ。あっという間に兄妹は包囲される。
(……分かってるな、ラミィ。雑魚は眼中にない。標的はあくまでクロンダイクだ)
(…………分かってる)
ラミィは懐のナイフに指をかけるが、ジンの視線に制され、辛うじてその手を緩めた。礼拝堂の重い扉が開き、一人の男が歩み寄る。
『シャッテン』を束ねる指揮官であり、ギルドの副官ページワンだ。
「……久しいな、ジン、ラミィ」
「今宵は満月。闇夜に盛大なお出迎え、痛み入りますよ。ページワンさん」
喉元に鉤爪を突きつけられながらも、ジンは不敵な笑みで皮肉を返す。
「わざわざ無防備に現れるとはな。……例の召喚士と騎士どもはどうした? 隠れているつもりか」
「わたしたち二人だけだ。これは我々兄妹のケジメなんでね」
「その割には昨夜、彼らと結託して我らと一戦交えたようだが?」
「アイツらが勝手に首を突っ込んできただけだ、クソジジイ。余計な詮索すんな」
ラミィが吐き捨てるように言った。
兄妹が俺たちと繋がっていることは百も承知のはずだが、ジンはあえて「独断」を強調し、ブラフを重ねる。
「我々はクロンダイクに会いに来た。解散したはずのギルドが何故戻り、何を企んでいるのか。……返答次第では、貴様らの頭領に刃を向ける!」
その瞬間、シャッテンたちの殺気が膨れ上がり、鉤爪が肉に食い込む。ジンは首筋を伝う熱い感触に奥歯を噛み締めた。
「待て、まだ殺すな」
ページワンが制止した。彼は冷徹な眼差しで兄妹の覚悟を値踏みする。
沈黙が場を支配し、二人の首が飛ぶかどうかの瀬戸際――ページワンは口角を上げた。
「良いだろう。クロンダイク様に刃を向ける度脳があるのなら、拝謁を許そう。だが、相応の命を賭けていることを忘れるな」
「……覚悟の上だ!」
ジンの額を汗が伝う。しかし、その眼は怒りで赤く燃えていた。
「……ならば、ついて参れ」
♧
ページワンに導かれるまま、メルド兄妹はクロンダイクの元へと誘われる。
彼の待つ扉が開いた瞬間、彼らを待ち受けていたのは三つの風景だった。
左には――強奪した金品財宝の山。
右には――かつての同胞である『ダウトの使者』たちが無残に拘束された姿。
そして中央には――酒と女を侍らせ、乾いた欲望を撒き散らす男、クロンダイクが鎮座していた。数年ぶりの邂逅。
その場に満ちる殺意が、空気を重く歪ませる。
「…………随分と綺麗な眼になったじゃねぇか、ジン、ラミィ。召喚士とつるんで、真っ当な人間にでもなれたつもりか? 反吐が出る」
「黙れ。相変わらず酒と金でしか己を満たせない、貪欲の化身が……!」
「あたいらの仲間まで人質にするなんて、外道の極みだね!」
兄妹は苦虫を噛み潰したような表情で、かつての主君を睨みつける。
「その通りだ。俺様は獣だ。この手は血で汚れきっている。だが……お前らも同類だろう?」
「何だと!?」
「腐った国を怨み、理不尽な世を呪い、奪うことでしか生を実感できなかった。お前らもその運命に抗えず、俺の傘下で手を汚し続けてきたはずだ。その過去は、一生拭えねぇぞ」
ジンの心に鋭い棘が刺さる。それは否定できない事実だった。
「無かったことにはさせねぇ。お前らのナイフにも服にも、こびりついた血の臭いは消えちゃいねぇんだよ」
「や、やめろ……っ!!」
威圧感に圧され、ラミィが耳を塞ぐ。
だが、ジンは震える足を叱咤し、一歩踏み出した。
「クロンダイク……わざわざわたしたちをここに招き入れたのは、昔話を語るためじゃないはずだ。――何を隠している?」
ジンの鋭い問いに、クロンダイクの眼が怪しく光った。
「物分かりが良くて助かる。ジン、ラミィ。もう一度、俺の下へ来い。今なら莫大な富も名声も思いのままだ。いずれはこの国最大の盗賊マフィアとして君臨させてやる!」
(やはり、勧誘か……!)
兄妹の予想通りだった。己の欲のために他者を駒として使い潰す、それがこの男のやり方だ。
「ふざけるな。欲望を満たすためだけに暴を振るうなど、あの腐敗した王国と何ら変わりない!」
「そうだ! あの忌々しい『プレジデント王国』みたいな真似しやがって……っ!?」
叫びの途中で、ラミィが何かに気づき、顔を蒼白にさせた。
「お、お前……数年前にギルドを解散したのは、プレジデント国王の暗殺に失敗した直後だったよな? あの後、お前は何をしていた……!?」
クロンダイクの口角が、不気味につり上がる。
「ククク……! どうして貴様らはこうも察しが良いんだろうな。昔からそうだ」
ジンの脳裏にも、最悪の仮説が浮かび上がる。
「まさか……お前、プレジデント王国と手を組んだのか!?」
「あぁ、その通りだ! 俺様の欲を満たすには、腐りきった巨富を持つ国と組むのが一番手っ取り早い! 王国が民から搾り取った税を俺がさらに搾り取り、従わぬ者は消す! 俺様は『王国公認』の盗賊ギルドを作り上げたんだよ!!」
((この……クズ野郎がぁ……ッッ!!!))
守るべき民を食い物にする王国と、その手先となったクロンダイク。
兄妹の怒りは沸点に達した。そして――。
『―――やっぱり、そうだったか……!』
この俺、ジョー・カーティスもその真実を聞いていた。
どこからかって? それは次回までのお楽しみだ!




