第49話 砂漠より来たれし影
――異世界の砂漠の夜。静寂が、かえって俺たちの神経を尖らせる。
湿り気を失った空気に乾いた風が吹き抜け、砂を巻き上げては俺やニーナ、そしてメルド兄妹の身体にまとわりつく。
吹きすさぶ風と、肌を叩く砂の音。それだけが支配する世界。
…………いや、もう一つ聞こえる。
俺たちが立つ砂丘の下から、無数の足音が群れをなして迫る音が……!
「ジョー、ニーナ。臨戦態勢だ。武器とカードを構えろ!」
ジンの鋭い声に、俺はまだ見ぬ敵の正体を問おうとした。だが、遮るようにラミィが吐き捨てる。
「魔物の方がまだ可愛げがあるよ。闘争本能だけのバケモノならな。だけど今来る連中は訳が違う。純粋な悪意で、あたい達を殺しにくる。命がいくつあっても足りないよ……!」
ニーナが唾を飲み込む。額から滲んだ冷や汗の一滴が、レイピアの柄に零れ落ちた。
ジンとラミィはナイフを逆手に構える。俺は懐からカードケースを取り出し、脳内でイメージを高速回転させた。
相手は魔物じゃない。メルド兄妹の仇敵『クロンダイク』率いる盗賊ギルドの刺客だ。
多勢に無勢。他のスート騎士を召喚する余裕も、別行動中のシチリア先生やハチマル殿を頼る暇もない。
今ここにいるニーナ、ジン、ラミィ。この四人で切り抜けるしかない。ならば、選ぶべきカードは――。
「ジョー、危ないっ!!」
デッキから数枚を引き出した、その刹那。
ジンの絶叫と同時に、背後の砂煙を割って黒い影が飛び出した。
ヒュッ――ブンッ!
「うおっ!?」
眼前で黒ずくめの男が躍動する。覆面の隙間から鋭い眼光を覗かせ、両手の黒鉄の鉤爪で俺の喉笛を狙う。
「御主人様!」
ニーナがその間に割り込んだ。鍛え上げられたレイピア捌きで鉤爪を弾き返し、そのまま胸元へ鋭い刺突を繰り出す。だが――。
――キンッ!!
(か、硬い……!)
手応えは岩を突いたかのようだった。鉄の弾ける音と共にニーナが仰け反る。その隙を逃さず、彼女の背後からもう一つの影が襲いかかった。
「はぅっ……!?」
「ニーナ!」
背後から首を羽交い締めにされ、ニーナが苦悶の声を漏らす。即座に動いたのはラミィだった。
「テメェッ、あたいのニーナに何しやがる!!」
鈍い音を立て、ラミィのナイフが男の喉元を深々と貫いた。
「ハァ、ハァ……助かったわ、ラミィ。ありがとう」
拘束が解け、ニーナが激しく咳き込みながら酸素を求める。まさに九死に一生だった。
「ジン、何なんだ今の連中は……!?」
「あれがクロンダイクの戦闘盗賊軍『シャッテン』だ」
略奪と殺戮を専門とする、エリート盗賊集団。情け容赦のない、悪の軍隊の尖兵。
「悠長に話してる暇はないぞ。団体様のお出ましだ」
仲間の死を察したのか、砂の下から次々とシャッテンが這い出してきた。音もなく俺たちを包囲していく。
掛け声一つない不気味な集団。その殺意の矛先は――。
「…………ッ!!」
全員が、この俺を狙っている!
「まずい、丸腰のジョーから消すつもりだ!」
「とにかく逃げろ! まともにやり合っても返り討ちにされる。こいつらは暗殺のプロだ!」
ジンとラミィの援護があっても、多勢の波を避けるのが精一杯だった。指先に力を込め、手持ちのカードを握りしめる。賭けに出るしかない。
(あの鎧がミスリル製なら……魔法でいけるか!?)
俺は敵の攻撃を紙一重で掻い潜り、温存していた一枚を発動させた。
『【ダイヤ3―スパーキング・シュート―】!!』
ニーナのレイピアに電気エネルギーが収束する。彼女がバットスイングの要領で振り抜くと、扇状に広がる電撃がシャッテンの集団を飲み込んだ。
敵全体が感電し、動きが止まるはずだった。だが――。
「――魔法が、効かない……!?」
ザシュッ!!
「痛あぁぁっ……!!」
衝撃に目を見開いた隙を突かれ、右肩を黒鉄の鉤爪が引き裂いた。
(絶体絶命か……!?)
死の予感が脳裏をよぎる。だが、諦めるわけにはいかない。砂丘の向こうから、俺たちを探す声が聞こえてきた。
「ジョー! どこにいるだー!」
「召喚士ちゃーん!」
「ニーナ殿ー!」
ポーキー、シチリア先生、ハチマル殿だ。窮地を知らせる方法は、これしかない!
「皆、目を閉じろ――っ!!」
俺は痛みに耐えながら、もう一枚のカードを叩きつけた。
『【ダイヤ10―シャイニング・フラッシュ―】!!』
刹那、ニーナの身体が爆発的な光を放ち、シャッテンたちの視界を奪う。
その隙にジンとラミィが俺とニーナを抱え、砂丘を駆け下りた。
まさに紙一重の撤退。光に気づいたポーキーたちと合流し、どうにか包囲網を脱した。
「ジョー、どうしただか!? 怪我してるでねぇか!」
「……クロンダイクだ。盗賊ギルドに、俺たちの居場所が割れた……!」
「それじゃ、オイラ達も既に標的ってことか……!?」
俺は負傷した肩を押さえ、闇に沈む砂漠を睨みつけた。
「今度ばかりは後戻りできない。本気で戦わないと、俺たちに明日はない――!!」
どこで俺たちを嗅ぎつけ、どこから見下ろしていやがる。盗賊ギルド頭領・クロンダイク。
俺たちをカモにするつもりなら、やってみるがいい。
食うか食われるか。メルド兄妹の仇を討つため、俺たちは戦う。
スート騎士団と盗賊ギルドの決戦。
この世界に【革命】を起こす俺たちの前に、最初の巨大な壁が立ちはだかろうとしていた。
小説を読んで『面白かったぁ!』と思った皆様、是非とも『★★★★★』の評価、「ブックマーク追加」や感想・レビュー等を付けて、応援してください!




