第47話 砂漠に渦巻くミステリー
――大湿原を超えて、また西へ西へと旅する俺たち。
他の土地と比べて雨が多かった内陸湿地から流れてきた大きな川が、海に到達する前に乾燥した砂漠地帯に流れ込む現象。
即ち『内陸デルタ』という川の行き止まりに差し掛かる。
湿原から砂漠へ。地獄の連鎖のような過酷な環境の中で、俺たちはプレジデント王国の革命の手立てを探し続ける。
「ハァ、ハァ……おい、ポーキー。水あるか?」
「あるにはあるけども、あんまり飲みすぎんなよ、ジョー。一つの水筒で一人分だべ」
「分かってるって。湿原の時よりは乾きはマシだが、こうも暑いとなぁ……!」
幸いにも、俺たちには大湿原の水辺で補給した水が大量にある。俺やポーキー、ニーナたちスート騎士らも充分に補給できる程の量を、ポーキーのリュックサックの中に溜め込んでいた。
「ニーナは大丈夫か? こんな暑いのに真っ赤な鎧を着てちゃ、汗もひどいだろ」
「だからって脱ぐわけにはいきませんよ、ここも魔物が沢山出ますから。大丈夫、私たちは干し肉とか塩を舐めて水分補給出来ます。お水は、ご主人様やポーキーさんたちにお譲りします」
スート騎士団が戦闘のプロフェッショナルなら、休息やサバイバルに於いてもプロだ。これには俺も感心せざるを得ない。
貴重な水を、俺やポーキーに譲るのは申し訳ない気持ちも大きいが、気になっているのは他の面々だ。
「それならジンとラミィにも譲ってやろうぜ。二人とも先行して、俺たち以上に動いてるんだから」
俺は二人を労い、水を分けようと考えたが、心配無用と言わんばかりにシチリア先生とハチマル殿が声を掛ける。
「ノンノン! ジンちゃんもラミィちゃんも、水はノーサンキューだそうよ。召喚士ちゃんの為に先にやる事があるみたい」
「何でも、砂漠の中で『地下水脈』を探しているとの事だ。召喚士殿はよほど彼らに信頼されているようだな」
砂漠の『地下水脈』は、何百キロも離れた雨の多い山脈に降った水が、地中に染み込んで砂漠の地下深くへゆっくり流れていく仕組みだ。
盗賊の性で、地下水脈の場所を直感で探し当てられるというメルド兄妹。そこへ水を補給しようと行動に移したわけだが……やっぱり、俺を買いかぶりすぎじゃないのか? すると、
「ニーナ! 大変だ!!」
「ジョーも、皆も早く来てくれ!!」
ジンとラミィが遠方から、血相を変えて俺たちに呼びかける。
急いで彼らの元へ向かった先には、探し求めていた岩陰の地下水が湧く地下水脈。だが、その周囲に散らばるのは……。
「ひっ……!?」
「…………こりゃ、惨いな」
ニーナも俺も、眼前の惨状から目を背け、絶句する。
――地下水脈の周りに行き倒れた旅人達の屍を目の当たりにしたのだから。
既に死んでから何日も経ったのだろう。服はボロボロに朽ち果て、肉体は雨や陽にさらされて無残な姿になり、骨が露出している。
「きっと何日も砂漠を彷徨って、ようやく見つけた水に辿り着いた安堵から逝っちまったんだろうなぁ。どうか成仏してくんろ……!」
ポーキーは頭に被る兜を脱いで、屍に対して十字に切って祈る。
「―――いや、違うな」
それとは対象的に、ジンが非情な眼を屍に向けて否定した。
「違うって、何がいな?」
「この骸らは行き倒れて死んだんじゃない。―――誰かに、殺されたんだ」
「殺された……!?」
ポーキーを含め、俺たちはこの真相が信じ難かった。するとジンとラミィは、黒い手袋をはめて骸の喉元や鞄と思われる荷物の中身を確認して語る。
「旅人のほとんどの喉に、切り裂かれた跡が残っている。刃物で殺すには一番残酷なやり口だ」
そんなの、想像するだけでも喉が裂けそうだ。
また鞄からも金目の物や貴重品が根こそぎ取られてる事から、強盗目的の殺人と見た。いよいよ事態はミステリーになってきたぞ。
「でも、どうして地下水脈で襲われたんでしょう?」
ニーナが首を傾げると、ラミィがその答えを出した。
「地下水脈は、あたいら盗賊にとっては『アジト』みたいなもんなんだ。水は湧き出るし、逆に水を探し求める旅人をカモにすることもできる。一石二鳥の場所ってわけさ」
成る程、実際に盗賊業を勤しんでた妹が言うから説得力がある。それよりも気になるのは……。
「どうした、ジン。さっきから腕が震えているじゃねぇか」
俺が指摘し、再度彼の表情を確認してみると、タキシードが汚れた時以上に動揺していた。
「似ている……! 奴が、奴が獲物を狙い、襲う時のやり口に似すぎている……!!」
「兄者、まさか……?」
「―――【クロンダイク】が、舞い戻って来たのか……!!?」
兄妹共々顔が青ざめ、絶望に頭を抱える始末。俺がソイツを知ってるわけでは無いが、ラミィが俺に言っていた事を思い出し、尋ねてみる。
「クロンダイクってのは、お前らを顎で使っていた盗賊団の頭領の事か?」
「そうだよ……! 兄者やあたいを、やりたくもない殺しをやらせ続けたクズ野郎だよ!!」
「でも数年前に消息を絶ってるって……」
「あたいだって違うって思いたいよ、ニーナ!」
ラミィにとっても、クロンダイクはこの世で一番会いたくない奴なのだろう。困惑の仕方が尋常じゃない。そしてジンも同様に、
「……ジョー、彼らを殺した奴がクロンダイクだったとしても、手は出さないでくれ。ニーナや他の騎士を出す事も許さない」
「冗談だろ? お前一人で―――」
「これは、我々メルドのケジメだ。親友の君であっても、手出し無用だ…………!!!」
―――親友と思ってくれてるのなら、何で頼ろうとしないんだ。
そこまでジンとラミィを追い込ませた【クロンダイク】って奴は何者なんだ?
俺は屍の方に目を向けるたびに、奴に対する残虐非道なイメージが離れなくなる。
俺は下唇を強く噛み締め、ニーナは手持のレイピアを握り締める。
もしも対峙した時には、俺たちは奴を『糺す』ことになるのか。はたまた『殺す』事になるのか。
―――メルド兄妹の運命と、騎士道の証明。2つの使命が天秤に掛けられたような気がした。
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