第45話 おかえり、ニーナ! ただいま、御主人様!
――しかしまぁ、改めてスート騎士団長である『スペードA』も変わった御方だと思う。
俺が初めてニーナを召喚したとき、スート騎士団全員に自己紹介させようと『スペードA』に誘われ、カードの世界『スート・レルム』へ思念を送られた。
その時に初めて『スペードA』の姿を目の当たりにして以来、一度も彼の姿を見たことがない。
―――いや、俺だけではない。俺が召喚士として転生してからは、ニーナも、他の仲間も、シチリア先生でさえも、彼の姿を見ていないというのだ。
ニーナが言うには、本来のスペードAは『ある力』によって封印されており、精神応対を通じて騎士たちに語りかけることしかできなくなっているらしい。本当に、スート騎士団は不思議な奴らばかりだ。
まぁトランプのスートから考えても、上級騎士である『スペードJ』『スペードQ』『スペードK』よりも格上。王や女王よりも頂点に立つ『A』の騎士だもんな。
俺とニーナを引き離して、一週間も修行させたりして。結果的には強くなったけれど、彼は何を考えているのか分かったものじゃ……。
「お待ちなさい、召喚士ちゃん。今ここでA様への小言を言うのは不敬というものよ」
「何でだよ、シチリア先生? 何か聞かれちゃ不味い状況なのか?」
「今私の頭の中で、A様がテレパシーを送っているところよ。殿が仰るには、召喚士ちゃんとニーナちゃんの修行が丁度終わったから、直ちにニーナちゃんを召喚しなさいとのことよ」
「何!?」
これを聞いた俺は、目を輝かせて歓喜に震えた。そして俺以上に飛び上がって喜んでいたのは、ニーナ大好きっ娘のラミィだった。
「なぁなぁなぁ! ニーナが帰ってくるって本当か!? それなら早く召喚させてくれよぉ!!」
まるで遊園地に行きたがる子供のように、はしゃぎ回るラミィ。
すると、シチリア先生がまた頭の中でスペードAと対話を始めた。
「ふんふん、なになに……。『さっきの召喚士ちゃんの小言が癪に障ったから召喚許可を取り消そう』、ですって」
「ふぁっ!?」
「てめぇぇぇぇッ、騎士団長の御前で文句言える面か!? 速攻で謝れッッ!!」
ラミィさん。すぐ謝るから、八つ当たりで俺に喉輪を食らわすのは止めてくれ。
「――『冗談だ』、ですって」
何で召喚士がカードの騎士におちょくられてんだ……? 解せぬわ。
「……あ、でも。ニーナだけじゃなくて、もう一人騎士を召喚してほしいってA様が仰ってるわ」
「もう一人?」
「ニーナちゃんを指導したスペード8の剣豪騎士、ハチマルちゃんよ」
そうか、ニーナは『剣術』を鍛えるために剣の先生と修行していたんだった。
そっちの修行も終わったから、改めて召喚士の前で挨拶させようというAの計らいかもしれない。
「それじゃ、召喚してちょうだい! スペード2とスペード8よ!」
「よっしゃ!」
俺は矢も盾もたまらない思いで、カードデッキから2枚のカードを取り出し、天に掲げて詠唱する。
「【アップカード】! スペード2、スペード8!!」
天より噴き上がる二色の光柱。
一つはスペード2の赤い光、もう一つはスペード8の橙色の光だ。
ハチマルという剣豪騎士の姿も気になるが、それよりも、何よりも……!!
『御主人様――――――ッッ!!!!』
――俺は、ニーナにもう一度会いたかった!!
赤い光柱が晴れて、烈火の鎧と金髪のツインテールが見えた瞬間、俺は彼女の元に駆け寄る。
ニーナもまた、姿が見えた瞬間から有無を言わさず俺に抱きついてきた。そして……。
「おかえり、ニーナ」
「ただいま……! 御主人様……!!」
俺の心臓が高鳴り、息遣いも荒くなってくる。こんなに胸が苦しくなったことは今までになかった。
……心なしか、俺の肩にポタリと生暖かい水滴が落ちる。空から雨は降っていない。降っているとするならば―――
「うえええぇえぇえぇえええ〜〜〜〜〜〜〜ん!!!!!」
ニーナの目から、滝のように流れ落ちる涙だった。
強くなりたいと思う反面、俺に会えない辛さを堪えて、一週間の修行に耐え抜いた女の子の純情だった。
「…………大丈夫、大丈夫だから。そんなに泣くなよ。ニーナ、俺を驚かせるほど強くなったんだろ? そうだよな、ハチマルさんよ?」
俺は泣きじゃくるニーナを抱きしめながら、傍らに召喚されたスペード8の剣豪騎士・ハチマルに呼びかける。
「如何にも。彼女は某の問いに、強い意志をレイピアで応えてくれた。それもこれも、召喚士殿との絆が成せた賜物。今は主として、苦難を乗り越えた彼女の涙を受け止めてくだされ」
ハチマルは凛とした佇まいで、修行を成し遂げたニーナを労い、笑顔で応える。
そうだよな、今は思う存分泣いたっていいんだ。これからも俺と共に、信念を貫く覚悟を持って戦っていくんだ。
少しくらい、騎士であることを忘れて、ただの女の子に戻ったっていい……!
――その後しばらく、ニーナは泣き止まず嗚咽を繰り返すばかりだった。
ラミィは彼女におんぶするし、ポーキーやジンが声をかければまた泣き出しちゃうし。戦いでなければ、末っ子のような甘えん坊な一面をここぞとばかりに見せていた。
……でも、それがニーナだもんな。
戦いは嫌いだけれど、誰よりも優しい心を持った烈火の女騎士。
やっぱり―――お前がいないと、【革命】は起こせない。
ニーナと一緒に、前へ踏み出そう。身も心も、さらに強くあるために……!!
「……ハチマルちゃん。やっぱりあの二人に託して、正解だったかしら?」
「それを判断するのは、A様の仕事だ。我らはただ、彼らの進むべき道を示すのみ。
―――そろそろ、【スペード9】と【スペード10】を解き放つ時が来たようだ……!!」
……えっ? 今、なんて言ったんだ……!?
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