第43話 石に立つ矢
――召喚士である俺は、スペード7の舞踊騎士・シチリア先生と共に、カード召喚や発動に携わる魔力強化の修行を始めて1週間が経った。
シチリア先生によれば、カードの使用に伴う魔力消費を繰り返すことで、自然と魔力の容量が増えていくという。つまり、俺に必要なのは『熟練度』だった。
『【ダイヤ2―ファイア・ショット―】!!』
――バシュッ!!
シチリア先生を対象に俺が放つ炎魔法は、修行前より威力もキレも増している。
俺の放つそれは矢の如く鋭く、弾丸の如く速く空気を貫く。
「ん〜♪ まだまだ炎の温度がヌルいわねぇ。召喚士ちゃん、カードに込める思念が足りないわ。もっと精進なさいな」
「分かったぜ、先生!」
俺たちが今いる荒野地帯は、特に魔物が群れている無法の地。修行するにはお誂え向きな場所だ。
そこには飛竜『ワイバーン』や巨大ムカデ、オークといった強力な魔物が多く生息しており、俺やシチリア先生だけでなく、盗賊兄妹であるジンとラミィの修行にもなった。
「オイラも討伐した魔物で料理が作れて、腕が鳴るどー! さっきの巨大サソリを剥き身にした『サソしゃぶ』ができたけど食うか?」
……サソリって、カニみたいに食えるのか? 意外と美味そうじゃねえか。
とにかく俺に課せられた日課は、40枚以上の魔法・特殊技カードを1枚ずつ使い切り、ひたすら熟練度を上げることだ。カードは一度消費すると翌日まで復活しないため、使っては休み、休んでは使うという単調な反復を繰り返す。
シチリア先生が助言として仰るには、
「【集中力】だけは意識して使いなさい。雑念のない思念は、紙のカードすら鋭い刃に変えるのよ。アンダースタ〜ンド?」
この【集中力】だけは何度も何度も、耳にタコが出来るほど諭された。
そう言われて俺もカードに強く念を送って発動させるが、いまいち実感が湧かなかった。
◇
その夜。俺たちの修行に痺れを切らせたか、焚き火の前で休んでいる俺に、珍しくラミィが言い寄ってきた。
「オイ、ジョー。一体いつまで同じ修行ばっかり続ける気だよ!」
「いつまでって、先生の合格が出るまでだ。今の魔力じゃ満足できねぇし、途中で止めるわけにはいかないだろ」
「よくもまぁ……毎日毎日、同じ事を繰り返して飽きねぇよな。アンタ、そんなに強くなりたいのかよ」
いつもはニーナと兄のジン以外には素っ気ないラミィも、今回ばかりは純粋な疑問を抱いたのか、俺の隣に腰を下ろした。
「元々俺は負けず嫌いなんだ。前世でギャンブルに狂ってた時も、借金を背負ってでも勝ちたいって意地になってたしな。……ドクター・クラウンに鉢合わせてから、その性分が呼び覚まされたよ」
強敵との邂逅が、前世から続く負けず嫌いの闘志に火をつけた。剣の如く折れぬ信念が、過酷な修行の原動力となっていく。
「あの、命を塵芥とも思わない奴を、俺たちは命を懸けて止めなきゃいけない。それは単なる暴力への屈服じゃない。理不尽を覆していく、人間の『本当の強さ』ってやつを……俺は確かめたいんだ」
「!!」
俺の熱い信念が、ラミィの心を動かしていく。それは建前の綺麗事ではない。本音が人々を寄せて、堅い絆を結んでいくのだ。
「あたい、アンタのこと見直したよ。そりゃニーナが忠誠を誓うわけだ。その負けず嫌いこそが、お前の強さの根源なんだな。
だったらあたいも…………強くなってやる。お前も、ニーナも、あたいが守ってやれるくらいに……!」
「…………そりゃ、どうも」
既にラミィからは、俺に対する刺々しい感情が抜けていた。
俺の事を信頼してくれたのだろうか。
陰で見守っていたジンとポーキー、そしてシチリア先生も、彼女の改心を分かっていたようだ。
そして俺は、ラミィに胸ぐらを掴まれて、ナイフを突きつけられて…………あれ、何でまた俺彼女に脅されてるの?
「修行が終わったら、今すぐニーナを召喚しろよ!? 絶ッッッ対に!! ニーナがいねぇと眠れねぇんだよおおおおおおおッッッッ」
…………まぁ、どうしてもそうなっちゃうよな。
◇
――翌日。
「ゴォォォオオオオオオオッッッ」
何の因果か、いきなり荒野の岩石や土から作られた魔法生物『ゴーレム』に鉢合わせた俺たち。ジンやラミィも戦闘態勢に入るが、シチリア先生が冷静に指示を促す。
「召喚士ちゃん! ダイヤの2・3・4、カード3枚を発動よ!」
「3枚って……【シークエンス】か!」
「今の召喚士ちゃんならいけるわ! 急いで!!」
一週間におよぶ修行の成果を見せる時が来た。ニーナ、サンダー、シルヴィーの三人技以来となるシークエンス・コンボを、シチリア先生と共に放つのだ。
俺はデッキから3枚のカードを取り出して、強く思念を送り、天に掲げる!
(俺は、負けねぇ! 理不尽なんか怖くねぇ!! くそったれな運命を覆すのは…………俺たちだッッ!!!)
『ダイヤ2・3・4! ―――【SEQUENCE】発動!!』
炎と雷と水。三つの属性が交わり、シチリア先生に膨大な魔力が伝達される。彼女は両手で三角形を作り、ゴーレムの核を見据えて構えた。
「―――シークエンス奥義! トライフォース・ビーム!!」
三つの属性が螺旋を描いて収束し、極太の破壊光線となって放たれた! それはゴーレムの強固な岩躯を、紙細工のように容易く貫通する!
核を撃ち抜かれたゴーレムは、断末魔の地響きを上げながら、瞬時に岩の残骸へと崩れ去った。
3枚のカードを消費した事で、俺の魔力もかなり消費されて体力が…………ん?
「あれ、嘘だろ? 俺、大技を発動しても疲れてない……!!」
「イエ〜〜ス☆ 召喚士ちゃんの魔力が増えた証拠ね! 良く頑張ったわ!!」
シチリア先生は、俺が修行の成果を出したことに拍手で労ってくれた。
強い精神を持って一途に取り組めば、難しいことでも成し遂げられる。
――まさに、【石に立つ矢】。
岩の巨人ゴーレムに放った光線は、立つどころかその身を貫き、俺の成長を証明してみせた。
勝利への執念が生んだ【集中力】が、不可能を可能に変えたのだ。
「―――ニーナ、お前も強くなってくれるよな? 俺、お前を召喚するのが待ち遠しいぜ……!」
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