第41話 スペード7の舞踊騎士
――以前、ニーナがこんな事を言っていた。
スペードのカードに宿る召喚騎士の数字には、それぞれの役割と共に『階級』が表されているのだと。
スペード2のニーナは、一番小さな数字ゆえに階級は低く、家族で言えば『末っ子』。
スペード3のサンダーと、スペード4のシルヴィーはニーナとほぼ同年代で、共に若手の騎士として『次男』『次女』に例えられる。
スペード5のゴードン、スペード6のロクサーヌは、ニーナたちの先輩にあたる『長男』と『長女』。
そして今、俺が召喚したスペード7の舞踊騎士・シチリアと、この後明らかになるスペード8は、魔力と剣術の『先生』という立場だ。
スート騎士団の13人は、仲間であり、家族よりも濃い血で繋がれた同胞。他人同士とはいえ、刃を交え、魂を混ぜ合わせた絆は何よりも強い。
だとしたら、スペード9と10、そしてJ・Q・K・Aはどんな立ち位置になるのだろうか? それはまだ、先のお楽しみにしておこう。
「何一人でブツブツ言ってるのよ、召喚士ちゃん★」
「うわぁっ!? いきなり俺の語りに入ってくるな、シチリア!」
「あら、呼び捨てなんて感心しないわねぇ。私、これでもスート騎士団一の魔力の使い手なのよ? せめて『先生』って呼んでちょうだいっ!」
正直、少し抵抗はあった。だが今は藁をも掴む思いで力が欲しい。たとえオネェ……いや、踊り子が先生であろうと、召喚魔力を最大限に引き出す戦術を習得したいんだ。
「……わかった、シチリア先生。俺はこれからの戦いのために、魔力を蓄えたいんだ。どうか、その秘術を伝授してくれ!」
俺はシチリア先生に深々と頭を下げた。だが先生は、俺の頭を優しく押し上げた。
「ノンノン! スート騎士団と共に戦う召喚士たるもの、私や騎士の前で簡単に頭を下げないの! 信頼を得たいなら、常に威厳を高く持ちなさい」
「おっと、それもそうか……!」
一本取られたぜ。ニーナのような誠実な子もいれば、そうでない奴もいる。主としての振る舞いも大事ってことか。
「召喚士ちゃんの求めてるものは『A』様から聞いているわ。魔力の増加だったわね。結論から言うけれど、魔力はカードの使用回数……つまり『熟練度』で自然と増えていくものなのよ」
地道に使い込んで、容量を増やしていくしかないというわけか。
「それじゃ、今の魔力でカードを最大限に活用する技はないか? 例えば、【ペアコンボ】の消費魔力を抑えるとか……」
すると、それまで軽快だったシチリア先生の表情が、一変して真摯なものになった。
「召喚士ちゃん。これだけは覚えておいて。魔法において一番大事な要素……それは【集中力】よ。雑念を消し、勝利のためにカードへ思念を送る。その想いの力こそが、何物にも勝る最大の魔法になるの。……例えば、こんな風にね!」
「!?」
突如、シチリア先生の両手に炎と氷の魔力が渦巻いた。両掌を前に掲げた刹那、それらは一気に解き放たれる。
「―――はぁッッッ!!!!」
左手の炎が巨大な渦を描き、その中心を右手の氷礫が矢のように鋭く貫く。
標的は、荒野に突き出た岩壁。相反する二つのエネルギーが衝突し、相殺し合うことで強大な破壊力を生み出した。
轟音と共に、岩壁に巨大な風穴が開く。
(う、嘘だろ……!? カードを使わず、生身の魔力だけでこれほどの……!!?)
俺はシチリア先生の力を見くびっていた。
ニーナのように全力を振り絞っているようには見えない。最小限の力を一点に凝縮させることで、この威力を生み出したのだ。これこそが【集中力】の成せる業か。
「まだまだ、私の力はこんなものじゃないわよ。これにカードの力と集中のバランスを極めれば、もっと凄い魔法が使えるわ。召喚士ちゃんなら絶対に出来るわよん★」
シチリア先生の言葉が、俺に明るい希望を与えてくれる。鍛えてみる価値は十二分にある。
「ありがたいぜ、シチリア先生! 是非、その集中力を教えてくれ!!」
「オフコ〜ス♪ 召喚士ちゃんがやる気なら私も大歓迎よん★ ニーナちゃんも今頃頑張ってるはずだしね!」
「ニーナ……? そうだ、あいつカードの中で何をしてるんだ?」
「召喚士ちゃんが『魔力』なら、ニーナちゃんは『剣術』。私と同じ『先生』の騎士が、彼女を指南してくれているわ」
シチリア先生と同じ、先生役の騎士……。ということは、【スペード8】がカードの中で……!?
♤
――時を同じくして、舞台はカードの中の世界。
そこには、健康診断があると騙されて連れてこられ、慌てふためくニーナの姿があった。
サンダーに担がれたと気づいたのは、カードに戻されてから五分後。他の騎士たちに笑われてようやく察し、早く召喚してくれと天を仰いでいた時――その師範は現れた。
「済まないな、ニーナ。『A』殿にどうしてもと頼まれたのだ。君を鍛え直せ、とな」
「貴女は…………ハチマルさん!?」
――【スペード8の剣豪騎士・ハチマル】
名前こそ男性的だが、その正体は女性。
異邦の和の国出身で、男として育てられた経緯を持つ彼女は、橙色の袴に黒のポニーテールをなびかせ、腰には日本刀と思しき長い鞘を帯びていた。
―――俺とニーナ。『魔力』と『剣術』。
二つの試練が、別々の世界で幕を開けようとしていた……!!
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