第40話 ニーナがいない日
―――やっぱり、何か不自然だ。ニーナをカードに戻してから10分も経っていないのに、何処か心に穴が開いたようで、どうも感覚が狂う。
「なぁ、ニーナ……あ、居ないんだった」
「ニーナ、あのさ……あ、ポーキーだったわ」
「何を間違えとるだか!?」
「あれ、何でニーナ、赤い鎧から白タキシードに着替えてんだ? イメチェンか?」
「……わたし、ジンなんですけど」
ダメだ。転生してからずっとニーナと一緒にいたせいか、幻覚まで見えてくる始末だ。
それに、旅の道中で話のきっかけを作るのは決まって彼女だったため、話し相手がいないと足取りまで重くなる。
「ジョーさん、やはりニーナさんの事が……」
「んだ。オイラよりも長く旅した仲間だ。召喚騎士とはいえ、愛着も湧くだべ」これにはポーキーもジンも、呆れるというより同情の域に達している。
だが、もっと酷かったのはラミィの方だ。
「テメェェェェェ、何でニーナをカードに戻しやがった!? 刻み倒すぞこの野郎!!」
「だから健康診断だっつってるだろ!!」
「んな言い訳が通用するか!!」
ニーナを慕っている彼女は、怒り狂って俺に刃物を突き立て、八つ当たりを繰り返している。この修行で忙しい時に健康診断なんて……。
……元はといえば、サンダーとシルヴィーがそれを言い出したんだよな。
コイツら、ニーナの代わりに召喚されて、俺が混乱してるのを笑いながら眺めてやがる。なんか少し腹が立ってきたぞ。
「オイ、サンダー! シルヴィー! どういう事だよ、こんな忙しい時にニーナを戻すような真似させやがって!」
「仕方ねーだろ旦那、丁度時期と場合が重なったんだから」
「召喚騎士だって生き物ですわ。身体の不備があっては、戦いに備えられませんもの」
サンダーもシルヴィーも、どこか鼻に付くような素振りで癪に障るが、理屈は通っているから言い返せなかった……とでも俺が思ったか?
「……お前ら、一体何を隠してるんだ?」
「隠すって、何のことだい?」
「健康診断の話は本当だとしても、ギリギリまでニーナに言わないのは性格が悪すぎる。仲間同士でそんな意地悪い事をするような二人とは、俺は到底思えないがな」
「あら、随分と高く評価してくださるのね。それで、何を隠していると仰いますの?」
「口実を付けて、ニーナを焦らせて、無理やりカードの中に戻させる『理由』があると思ったからだ。あっちの世界で彼女をパワーアップさせるのか、それとも俺の魔力を高める為……とかか?」
「「っ……!」」
やっぱり図星か。俺は伊達にギャンブルで戦線を生き抜いてないぞ。
視線が妙に泳ぎ、俺の目を真っ直ぐ見ていない。隠し事があるのは明白だ。コイツら、ポーカーには向いてないな。
「……負けたよ、旦那! やっぱりアンタに隠し事は出来ねぇな」
「我らスート騎士団に『健康診断』はありますが、明日が期限というのは嘘ですわ」
健康診断があるのはマジなのかよ。
「やいやいやい! お前らどういう事だ、何を理由にニーナを引き離した!?」
ほら、十分な説明をしないからラミィがサンダーに突っかかってきたぞ。
「ま、待て待て、落ち着けお嬢ちゃん! 旦那とニーナを引き離したのは、『A』様に考えがあったからだ!」
「え、A!?」
スート騎士団の長と言われる『スペードのA』が、俺とニーナを離した? 益々目的が分からなくなる俺に、今度はシルヴィーが説明を継いだ。
「引き離した理由は、偶然にも御主人が予想した通りですわ。
ニーナはカードの力に頼りすぎぬよう、カードの世界で剣術を鍛え直すため。そして御主人は、カードを使う魔力を最大限に引き出すためですわ」
そのために二人が口八丁を使って、俺たちを引き離したというのか。
スペードのAの真意は読めないが、俺たちのことを買い被り過ぎてはいないだろうか。
「その為にも、ジョーの旦那にはもう一人、スート騎士を召喚させなきゃならねぇ。今のアンタなら、『先生』を召喚出来るはずだ」
「……先生? そりゃ何のカードだ?」
「【スペード7】、舞踊騎士のシチリア先生ですわ」
スペードの7か……! 実は、このカードより上の数字は、なぜか召喚できなかったんだ。
数字が大きくなればなるほど、魔法の出力が増えて身体に負担が掛かる。前に【スペード6】のロクサーヌを出した時も、反動でギリギリだった。
「だが、これまでの戦いで召喚士としての熟練度は上がってるはずだ。今こそシチリア先生を呼んでくれ、旦那!」
サンダーは今か今かと、スペード7の召喚を俺に懇願する。ここで成功すれば、俺のスキルが向上した証明にもなる。
ジョー・カーティス、限界を超える時。俺は懐からカードを引き出し、【スペード7】を天に掲げて詠唱した……!
「シチリア先生よ、俺はアンタに魔力のレッスンを受講するぜ! 【アップカード】!!」
『―――レディース、アンド、ジェントルメン! そして良い子の皆さん! スート騎士団随一の魔力を持つ舞踊騎士の登場を、盛大な拍手で迎えて頂戴ねぇ〜ん★』
な、なんだ? 何かステージでも始まるのか!?
俺が狼狽えている間に、【スペード7】のカードから紫色の光柱が噴き上がった。
紫の光から浮かび上がるシルエットは、アラビアンナイトを彷彿とさせる踊り子のスタイル。肌の露出が多く、しなやかな筋肉美が目を引く。
絶望の地に舞い降りしエキゾチック・ダンシングブレード。その名は――。
「我が名は『スペード7の舞踊騎士・シチリア』よ! 美しく、軽やかに、私のパフォーマンスを心ゆくまで楽しんでねぇ〜ん!★」
……これが、スート騎士団が誇る魔力の先生か。胸は平らだし、筋肉は俺以上に隆々な癖して、女言葉がやけに耳に残る。思わず俺は本心を吐露した。
「………………何で、オネェなんだよ」
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